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マレーの匣庭  作者: 名取
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二話 会遇

セオドリク・フィリップスは焦っていた。

彼はこの国の騎士見習いである。国の騎士として就労できるのは王に腕前を認められた者か、実技試験を受け正式な騎士になるかのどちらかだ。数ヵ月前、見習いになったばかりのセオドリクは王に声をかけてもらうことを夢見、鍛練していた。


その矢先である。


「___…──、魔術──」

「──闇──……力___、」

「次期王__…奪って───」


己国の王の側近のランドルフ公爵と、その姿を囲むようにして立つ二人の人の怪しい会話を聞いてしまったのだ。セオドリクの耳は特別良いわけでもなかったが、単語だけでもその訝しげな話の全容が推測できた。つまり要約すると、魔術を使い力を得て何らかの方法で次期王の座を奪おうというものだった。


「(っヤバイヤバイヤバイ!)」


足音が段々と近づいてきて、思わず隠れていた物陰から逃げるようにして立ち去った。あの場で足が動いた自分を褒めてやりたいと思ったほどあの状況が怖かったのだ。



「はぁ…」


それが二日ほど前のことである。見習いのなかでも下っ端となったセオドリクは、数人の仲間と共に買い出しとして街に下りた。木とレンガが混ざった街はとても奇妙で、馴染みづらかったのを覚えている。今ではそんな道も楽々と歩けるのだが、気持ち的に楽しくはない。


「あんな会話…やっぱり普通じゃないもんなぁ…あの時いた二人組の奴も消えてるし、申告したほうがいいよなぁ……、いや、こんな下っ端の申言受け入れてもらえるか?もらえねぇよな!」



あぁー!!と叫びながら髪の毛を掻き毟る。一体どうするのが最善か、と悶えたまま角を曲がった。途端に体に襲いかかる衝撃と、顔面を覆った一瞬の柔らかさに驚き、体制を整えられず尻餅をついた。



「痛っで!?」


「あら、ぶつかったの?」

「ちょっ、相手転んでるじゃん!大丈夫?」


頭上に降る声に、釣られるようにしてセオドリクは顔を上げる。


「(う、わ……)」



そこには三人の美女がいた。自分に駆け寄り、桃色の大きな瞳を同じ目線まで下げてくれた巨乳の美女と、上半身が透けて下着が丸見えの服を着て、紙袋に入った荷物を片手に抱く美女、そして日傘を傾け手に持った林檎を袋に入れる黒髪の美女。王城にもこんなレベルの女性はいないぞ、と三人を凝視するセオドリクに、荷物を持った女がポツリと呟いた。



「何、ガキ」



翡翠の瞳がジロ、とセオドリクを睨む。しかしセオドリクは、その目より呟かれた言葉に意表を突かれ、次の瞬間には即座に立ち上がり抗議していた。



「ガキってなんだよ!ぶつかっといて謝罪も…なし……、」



そしてその抗議はすぐに途切れる。セオドリクは真正面の女性と対峙していた。日傘の女は後ろにいるし、巨乳の美女も後ろから出てきたのでセオドリクとぶつかったのは目の前の荷物を持つ女性でいいだろう。

問題は目線だ。セオドリクは女性を見上げていた。その曲げていた首を、一旦真正面に戻す。視界に映るのは、女性の黒い下着。ぶつかったときのあの柔らかさはこの女性の胸だったのだろう。セオドリクは膝から崩れ落ちてしまった。



「俺の頭がその位置……どんだけ低いんだ俺の身長…!」


「何コイツ」

「面白い子ね」

「この子が低いだけじゃなくてカネルヴァも高すぎると思うけど」


そのままセオドリクの横を通り過ぎていくカネルヴァと呼ばれた女性に、焦りながら着いていく巨乳の美女。悲しみに打ちひしがれるセオドリクの肩を、日傘を差した女性が叩く。



「気にしないで、あの子いつもあぁなの」

「俺が気にしてるのは別のことです……」

「大丈夫よ、これから成長していくわ」



これあげるわ。ぶつかってごめんなさいね。

セオドリクの目の前に小さな瓶を置いて、手は離れていく。ハッとして後ろを振り返るも、三人の姿はどこにもなかった。





「なんだろ、これ」


夜、共同部屋のベッドの上で貰った小瓶を転がす。落とさないように注意を払い、まじまじとそれを見た。

普通の容器と違い、全体的に細長いそれは下にいくにつれて少し広がっていき、三角錐の空間が出来ていた。その中に、緑色の液体がトプ、と揺れていた。


「色はちょっと怪しいけど…薬っぽい?匂いするし」


寝返りを打ってサイドテーブルに瓶を置いた。次第に瞼は下がっていき、意識が段々と薄れていく。



「(そういえば……綺麗だったな、あの…いろ……、…)」



意識が完全に落ちる前、セオドリクの脳裏を掠めたのは瓶の中身と同じ色の瞳を持った女性の姿だった。

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