単発 短編集4
水槽には泳ぐ魚。いや、魚というものだけで分類できるものではないだろう。さらに大きいものも在る。
「すごいな。すごい大きい」
「そうね」
しまった。もう少し勉強してから来るべきだった。この一言で自分に知識がないことが筒抜けだ。
「そうだ、写真撮ろう」
さっと携帯を向ける。
「いや」
一瞬にして顔を背けられた。
君は写真が嫌い。僕は撮るのが好き。話を逸らすためとはいえ、こうも拒否されてしまうと流石に凹んでしまう。
「行こう」
彼女に置いていかれそうになって慌てて追いかける。なぜだろう。距離がある。ここにいるのにここにいない。手を繋いでいないとすぐ行ってしまう。そしてさっき離してしまった。少し進んでから彼女が止まる。
「ねえ、繋いで」
この一言で僕は救われている気がした。少しずつ行こう。だってこの隣から見える景色は、このレンズに写っているのだから。