#9 黒帯
――前回のあらすじ
村長の家に謎の『狐獣人』が来る。その人の正体は空手の師範のリキ。リキは昔、村長に空手で負け続いていた。そして今回、再び対戦をするべく、やってきたのだ。しかし村長は……。
――村長の家・居間
「お茶です」
「「…………」」
お互いに一言もしゃべらない状態が続く……。
「おい」と村長がやっと口を開く。
「なんで家に上がらせたんだ?」
「え、いや……」
俺がリキさん家に上がらせた理由を言おうとすると「ジョウジ」とリキさんが口をはさむ。
「なぜ、ワシと戦おうとしない?」
「…………」
「理由があるなら言え」
確かに村長のこの思いつめてる感じは見たことない。よほどこの人と戦いたくない理由があるのだろうか…?
「怒ってるんだろ……あのことで」
「ん?」
村長の言葉にリキさんが首をかしげる
「あの時のことを怒って来たんじゃないのか?」
「あの時……?」
「あの時だよ!最後に戦った時に……あんたが大事にしていた黒帯を持っていってしまったんだよ!」
「……へ?」
思わぬ告白に俺は唖然としてしまった。
「ええい、待ってろ!」
村長は自分の部屋に行ってすぐに戻ってきた、小さな袋をもって。
「これだこれ!」
村長が袋の中を取りだすと、それは黒帯だった。かなり古いやつだ。
「アンタと戦った夜に飲みに行ってな、その時にアンタもいたんだ 挨拶しようと思ったがどこかに行ってていなかった その時にアンタの黒帯が落ちていたんだ、そして拾った時にアンタが戻ってきた ワシはついそれを隠してしまい、自分の席に戻ってしまった……」
「…………」
「すぐに返そうとしたが 気づいたらアンタはとっくに帰ってた まぁ、また会った時に返せばいいかと思っていたんだが…次の日、聞いたのだ その黒帯はアンタの宝だと! なくなって捜索中だと聞いた!」
「…………」
「すぐに返そうと思いアンタの道場まで行ったが…アンタの鬼のような顔をみてこれはダメだと思いその日は諦めた そして次の日、ワシは実家の村に帰ることになり結局黒帯を返すことはできなかった…」
…………えーと、会いたくなかった理由ってこれ? 人の大切なものを怖くて返せずにそのまま持って行ってしまったから……?
(なんじゃそりゃ!!!) 俺は心の中でツッコんだ。
「すまん! あの時に返せばよかったと今でも思っていた! 本当にすまん!」
「……ジョウジ」リキさんが口を開く。
「このくらいで許せないのはわかっている、だが…」
「何を勘違いしているのだ?」
「……ん?」
「それはワシの宝じゃないぞ?」
「「…………え?」」思わず俺も声を漏らす。
「ワシの宝は確かになくなったが次の日に道場内で見つかった」
「じゃ、じゃあこれは」
「練習用のただの帯だ 大体、そんな大事な宝を外に持ち歩くわけないだろう」
「「…………」」
…てことはすべて村長の勘違い?
「なんじゃそりゃ!!!」
今度はしっかりと声に出して叫んだ
「なんだ、そうだったのかー!ワシの勘違いかー……ん、じゃあアンタ何しに来たの?」
「『何しに来たの?』じゃない! お前と勝負しに来たんだろうが!」
「あ、空手? いいよいいよ」
軽っ!さっきまでの緊張感は!?
「じゃあ、夕方にこの村の道場でいいか?」
「わかった…お前との勝負、待っておるぞ」
そして、リキさんは帰っていった…
「別に返しても問題なかったんっだね……でもなんで返せなかったの?」
「…だってあの人、普段も怖ぇんだよホントに いつも怒っている感じがするんだよなぁ…やっぱり苦手だあの人は」
「村長も意外と弱いトコあったんだね」
「まぁとにかくこれで悪夢にうなされることもないだろう……」
「あー、うなされてたね そういえば」
それにしても、村長とリキさんの勝負か……楽しみだな。