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人魚の幻  作者: 水碧 晶
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第二章:絵2

「人魚の幻」の続きです。

 前回までのあらすじ:不老不死の薬として献上された人魚、シルフィ。彼女はしばらくの間、浴槽で暮らすことに。ある日、シルフィのもとに王子がやってきた。その日からシルフィは女の子の夢に悩まされるようになる。そのうち、シルフィは現実世界ででも女の子の幻影を見るようになる。そんなある日、王子の絵のモデルとなったシルフィ。王子が帰った後、博士に変な薬を飲まされて、出なかった声がでるようになったものの……。


 だいたいそんな話となっております。それではどうぞ、しばしのお付き合いをよろしくお願いします。

 あぁ、女の子が何かを叫んでいる。その眼にあふれんばかりの涙を溜めながら叫んでいる。

 なぜだろう? 周りの景色が赤い。赤くて、オレンジ色に揺れている。

 声が届かない。何を言っているのかわからない。声の限りに叫んでいるのに、こんなにそばでそれを見ているのに、どうして?

 いや、それより、本当に周りは赤い色をしている?

 本当にオレンジ色に揺れている?

 もう、わからない。何が何だかわからない。

 わかることは一つだけ。


 もう、待つ意味はなくなってしまった。


 

 夢が変わる。


 それは幸せな夢。大好きな人たちと一緒に庭を駆け回っている。いとこの少女と少年と、そして彼女たちのもとを訪れた友人と。4人でのどかな一日を過ごしている。

 「今頃、どこにいるのかな」

 女の子の言葉にいとこの二人は笑う。

 「さっきからそればっかりじゃない」

 「今朝出発したからね。どんなに早く進んだとしても国境にまでは到着してないと思うよ」 取り残されたようにキョトンとしているのは友人の男の子。

 「なんかあったの?」

 女の子は男の子の方を向く。

 「私のお父さんがね、き」 

 「なんでもないよ」

 「うん、ちょっとしたこと」

 女の子のセリフをさえぎるようにいとこの二人が言った。二人の様子を見て、何かを思い出したように女の子は口に手をあてた。

 「一体なんなのさ」

 「あ……なんでもない。気にしないで」

 男の子は何やら腑に落ちないような顔をしていたが、「まあいいか」と話題を変えた。

 それはなんでもない一日で、とても穏やかな一日だった。


 

 

 目をあける。視界がぼやけて周りに何があるのかわからない。どうやら周りに誰もいないようだ。どうしてだろう?頭がガンガンしている。

 「   ?」

 博士を呼ぶが、その声は音にさえならない。

 あれ? 何で声を出そうとしたんだろう? 声がでないのはわかりきっているのに。博士がいるとわかりきっているならまだしも、周りに誰もいないのに声をだそうとするなんて。

 そう思ってから、ふと考えなおした。

 いや、確かに声が出た気がする。博士に変な薬を飲まされたら、声が戻ってきた。

 でも、今は出ない。

 夢でもみたんだろうか?

 頭がガンガンする。

 夢? ゆめ? ユメ……?

 なんだろう? 何かを忘れている気がする。何を、忘れ、たんだ、ろ、う……?

 大切な夢を見た気がするのに、思い出せない。

 何か大切なものだったはずなのに、思い出せない。

 思い出そうとすればするほど頭が痛い。

 どこからか足音が聞こえてきたが、それも頭痛を助長する一因だ。

 足音はだんだん近くなる。頭痛もどんどんひどくなる。

 ふいに足音が止まった。

 「シルフィ? 頭が痛いのか?」

 心配そうにのぞく顔は博士ではなく、王子だった。

 

 王子の話によると、私は3日ほどずっと眠り続けていたらしい。

 「行くたびに眠っているから、何かの病気かと思った」

 元気そうでよかったよ、と王子は安堵していた。

 どうやらこの頭痛は単なる寝すぎのようだ。

 「博士も心配していた。今は手が離せないことがあって来られないそうだが」

 「   」

 私が言うと、王子は困ったような顔をした。

 ああ、わからないのか。……伝わらないのか。

 やっぱり私は夢を見ていただけのようだ。忘れよう。

 「   」

 身振り手振りで、なぜ王子がここにいるのかを尋ねてみた。まず、王子を指して、首をかしげて、この場所を指さす。

 「あぁ、なんでここにいるのかって? 少し遊びに来ただけだよ」

 こんな簡単なもので言いたいことがわかったらしい。王子の洞察力に感謝だ。でないと、同じことを何度も繰り返すことになってしまう。

 「   」

 「いや、今日は絵を描きに来たんじゃないんだ」

 なるほど、確かに王子は画材を持っていない。その代りに、少し大きめのカンバスを持っていた。

 「ふと、また絵を描きたくなったんだ。そこで描いてみたんだが、見せる人が誰もいなくてね。見てくれるかい?」

 そう言って王子が広げたカンバスには、大海原が描かれていた。青空の下の美しい海。遠くに行くほど、少しずつ緑色っぽく色が変わっている海。よく見ると、細かな波の下に小さな魚たちが楽しそうに泳いでいる。

 空では、白い鳥が数羽、翼を大きく伸ばしていた。それに、太陽が描かれているわけではないのに、その存在がしっかりと描かれているかのような力強い光が絵全体から感じ取れた。

 見る人を「懐かしい」と思わせるような、そんな郷愁に満ちた絵だった。

 「他にも、こんな絵を描いてみたんだ」

 ほら、と言って王子は私にそのカンバスを手渡した。中を見ていくと、そこにはたくさんの「海」が描かれていた。

 海を泳ぐたくさんの魚たち、深海、海の中から見た空、月明かりが美しい夜の海、早朝の少し霧がかったような幻想的な海……。

 「君がいた海はどんなのだったのか知らないけど……君のいた海に似ているかい?」

 私ははっと王子をみた。何を考えているのかはわからないが、人を安心させるような笑顔がそこにあった。

 あぁ、この人は私のためにこの絵を描いてくれたんだ。

 「   」

 「とても、きれいです。ありがとう」

 急に声がしたので、驚いてその方を向くと、そこには両手いっぱいに本を抱えた博士がいた。本の山で博士の顔が見えなくなっている。

 「シルフィはそう言ったよ、王子。それにしても、目が覚めて本当に良かった! 王子が帰ってすぐに倒れたんだから、心配したよ」

 そう、博士は言った。

 「博士はお忙しいのではなかったのですか?」

 「うん。今もとっても忙しい。君のお父さんに一度言ってくれないかな? 研究者は日まではないんですよって」

 おどけてそういう博士に王子は苦笑した。

 「今度、伝えておきます」

 「よろしくね」

 そう言った拍子に、本が数冊落ちてきた。

 「あわわわわ」

 博士はうろたえていたが、うろたえればうろたえるほど本は落ちてくる。王子が慌てて本を拾い集めた。

 その様子を、半ばあきれながら見ていた私は、自分の近くにも本が一冊落ちているのを見つけた。拾って何気なく表紙を見る。

 「  」

 「ん? 何? シルフィ」

 王子に本を半分持ってもらって、ようやく博士の顔が見えるようになった。

 「    」

 私が差し出した本を見て、博士の目が大きく開いた。

 「     」

 「博士? シルフィは何て言ってるのです?」

 「……いや、大したことは言ってないよ。拾ってくれてありがとうね、シルフィ」

 その本の題名が王子に見えないように、博士はさっと本を受け取った。

 「それじゃぁ、僕は忙しいから行きますね。王子はゆっくりしていってください。シルフィは粗相のないようにね!」

 そして、早々と去っていく博士を見て、王子は首をかしげた。

 「なんだったんだろう?」

 私は動かない。

 「シルフィ?」

 動かない私をどう思ったのだろうか。王子は先ほどのカンバスを手にとって、私がまだ見ていないページを開いた。

 「これは、自分でも自信作なんだ。といっても、ずいぶん昔に行ったきりだから記憶があいまいだったんだけどね」

 見せてくれた絵には先ほどと同じような大海原が描かれていた。違うのは、そこには立派な船が小さく描かれており、海の近くに城のような建物があり、そして絵のすみに地名が書かれていたところである。

 知ってる。この風景を私は知ってる。

 地名を手でなぞりながら自分の顔を見る人魚を見て、王子は察したらしい。

 「そうか、ここが君の」

 そこにあった地名は「カリサル」

 

 そこが、私の故郷だった。

 ご無沙汰しております。皆様、お元気でしょうか。

 今回はものすごく間があいてしまいました。申し訳ありません。今度はもう少し、間が開かないようにしたいのですが、どうでしょう。いろいろ忙しいから無理かも知れない……。

 何気に通しで6回目となる今回ですが、書いている最中に重要なことに気が付いてしまいました。そのため、そう遠くない未来に一話目から微妙に更新する可能性が高いです。そうなってしまったら、読んでくださる皆様に大変なご迷惑をお掛けすることになってしまい、申し訳ありませんが、そうなってしまっても、どうかよろしくお願いします。

 

 今回も読んでいただき、本当にありがとうございます! これからもよろしくお願いします!


 それではまた出会える日まで

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