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人魚の幻  作者: 水碧 晶
3/6

第一章:過去2

 『人魚の幻』の第一章の過去の2つ目にあたります。王に献上され、ひとまず人魚用の水槽ができるまで浴槽に連れて行かれた人魚。過去1では博士の謝罪でしたが、今回はそれ以降の話となっております。

 王子も出てきますよ♪それではしばしのお付き合いをよろしくお願いします。

 一瞬何をしてしまったのか分からなくなった。

 王子の上半身はびしょびしょで、怒るというよりもむしろ唖然としていた。それはそうだろう。人魚が急にいたずらを仕掛けてきたのだから。しかも博士のアヒルさん水鉄砲はおもちゃのわりに威力抜群だ。当たるとかなり痛いし、アヒルさんの中に入る水の量に反して、結構な量の水が出るからかなりびしょびしょになる。

 私は固まってしまった自分を自力で解凍すると、慌てて布を差し出した。本を読むときに使う、あの布である。

 王子はこれまた目を丸くした。人魚から拭くものを渡してもらえるとは思いも寄らなかったらしい。それでも王子は私の意図をちゃんとくんで、それで濡れた所を拭いてくれた。

 「この布はすごいな。水を吸った直後にはもう乾いている。これも博士の発明?」

 布を私に返しながら、開口一番、王子はそう聞いた。私はコックリと頷く。

 それよりも。

 私は浴槽のふちに手を置いて、腕に力をこめて浴槽から出た。王子はまたもやびっくりしていたけれども、気にはしない。そのまま謝罪の意を込めて、私は床に手をついて、深く頭を垂れた。

 「驚いたな……」

 王子がかがみ込んだ気配がした。

 「顔を挙げて。私は気にしていないから。博士だと思ったんだろう?」

 私は顔を挙げる。そして、さっきよりも近くにある王子の顔を見て、また頷いた。ここには、博士以外は気味悪がって誰も近付かないため、まさか他に人が来ようとは、よもや王子が来ようとは全く思わなかったのである。

 「それにしても驚いた。人魚ってホントにいるんだ。」

 王子はまじまじと私を見つめた。そんなにまじまじと見つめられると恥ずかしくなるのは普通の人も私も同じこと。恥ずかしくなった私はジリジリと後退した。

 で、まぁ私は浴槽のふちにいたわけで、後退すればどうなるかは一目瞭然。

 「危なっ……」

 王子が私をつかもうとするも時すでに遅し。私は派手な音をたてて落っこちた。

 幸いにも浴槽はそこそこ深かったためにどこもぶつけはしなかったが、なんとも情けない醜態をさらしてしまった。

 王子は心配そうにこちらを見ていたが、顔を赤らめている私を見て、ふっと噴き出した。私もつられて笑い出す。

 ほんの少しの間、浴槽には笑い声が響いていた。でもそれは本当にほんの少しだった。

 王子は急に笑うのをやめた。深い緑色の瞳がじっと私を見る。

 「もしかして、君は話せないのか?」

 どうやら笑い声が自分の分しかないことに気付いたようだった。私は頷く。

 「それは知らなかった……すまない」


 どうして王子が謝るのだろう?王子が謝る必要はどこにもないのに。

 「気にするなってかい?」

 私は微笑みを浮かべながら頷く。

 「そうか」

 王子は何を思ったか急に立ち上がった。

 「そう言えば、私の名前をまだ教えてなかったな。私の名前はラシア。ラシア・レアリナだ。よろしく」

 そういって華麗に一礼する。その姿はあまりにも綺麗だったから、思わず見惚れてしまった。顔をあげた王子が私の視線に微笑む。

 それはとても優しい時間に思えた。お互いが微笑みあって、どれくらいの時間が経っただろうか。

 「シルフィ?元気にしてる?……おやぁ?いつもと違うと思えば、ラシア様ではないですか。いかがなされたんです?こんなところに来て」

 優しい時間に終止符を打ったのは博士だった。王子を見た後、私に笑いかけようとした博士は不思議そうな顔をした。どうやらそんなつもりはなかったのに、顔にでていたらしい。

 「シルフィまでどうしたんだい?そんな不機嫌そうな顔をして?」

 聞かれた私はふいと横を向く。ますますわけがわからないといった風に博士は首をかしげた。そんなやりとりを微笑ましげに見ていた王子が言った。

 「私は、たまたま時間が空いたので、人魚に挨拶に来たんですよ」

 「それはそれは」

 博士はそれで何かを察したらしい。ウンウンと頷いて、「シルフィは可愛らしいですからね」と言った。

 「いえ、そういうわけではないのですが」

 「照れなくったっていいんですよ」

 「いえ、だから違いますって」

 「ごまかさなくったっていいんですよ。僕にはわかりますから」

 「だから、違いますって!」

 王子が狼狽しだすにつれ、だんだん博士の笑みがいつもと変わってきた。王子でからかうのが楽しくてたまらないらしい。一方王子はからかわれるのに慣れてないらしく(それはそうだ。王子なのだから)、見るからに可哀そうになってきた。

 あまりに可哀そうだったので、私はアヒルさん水鉄砲を博士に向けて発射した。

 命中。とたんに我に帰る博士。王子はほっとしたように話を再開した。

 「この人魚の名前はシルフィと言うのですか?名前を聞きたかったのですが、聞くに聞けなくて」

 「あ、はい……シルフィ、布貸して……そんないじわるせずに……え?名前ですか?この子の名前はシルフィですよ、いい名前でしょう?……だから貸してって……あぁ、ありがとう」

 「シルフィさんは博士が父のもとに連れてきたんですよね?」

 「そうですよ」

 「以前、どこかで会った気がするのですが……」

 「シルフィに?気のせいでしょう。この子は人魚です。どこかで会えたはずがありません」

 白衣の濡れた部分を拭きながら博士は断言した。

 「一体どこから人魚を連れてきたんですか?」

 「はい、シルフィ、ありがとう……えっと、どこから連れてきたかですね。先日実験のために大きな魚を獲りに出かけたんです。この国は何年か前から海に面するようになったでしょう?だから大変海に行きやすくなって、便利になりました。まぁ、そこで、船を出してもらって自ら魚を獲りに行ったら、たまたまこの子が網にかかったんです」

 ね、というように博士が私に同意を求めたが、私はそっぽを向いた。博士はちょっと気落ちしたようだったが、気を取り直して話を続けた。

 「初めてこの子を見た時は、それはそれは驚きましたよ。この子を見た瞬間、僕の知的好奇心がムラムラと湧いてきて、悩むことなく研究所に連れて帰ったんです。えぇ、これっぽっちも悩みませんでしたとも。そう、思う存分観察・研究したいと思ったのです。もちろん、本当は観察・研究する前に王に報告すべきなのは承知しておりましたが、ワタシは家臣と言う前に研究者でありますゆえ。それに知的好奇心は何よりも優先すべき事項ですから。ホント、知的好奇心の前では何ものもただの虫同然ですよ。知的好奇心、それはワタシの活動源にして、ワタシの存在意義でもあるわけです。世の中、こんなにも謎であふれているのです。ちょっとくらいいじって解明して、観察して、研究して、作って、壊して、解析して、創って、作って、創って……何だいシルフィ?人の話は中断するなと何度言えば……あぁ、王子の前でしたね。すみません」

 博士はポリポリと頭を掻いて「熱が入ってくると、我を忘れてしまうんですよね、僕は」と笑った。王子はただ圧倒されたまま、何も言えなかった。

 「まぁ、そんなこんなで、この子と暮らし始めたのですが、ちょっと人に見つかってしまいまして……」

 その時のことは思い出したくもない。気づけばこんなことになっていて、それだけでもショックだったのに、さんざん検査やら調査やら実験やらいろいろとさせられて精神的に参っていたところだった。私のことを見つけた人は、悲鳴をあげて、そのままパニックに陥った。事態を収拾するに収拾できなくなった博士がやむを得ず王に私を献上したのだ。その人は気がくるってしまい、今なおまともではないらしい。

 「見つかってしまったからには隠し通せなくなってしまって……あ、間違えないでくださいよ。もちろん忠誠心はあります!ですが、知的好奇心が勝ってしまい……」

 「誰も博士の忠誠心を疑ったことはありませんよ」と、博士の言葉を遮って、王子はひとつ苦笑した。

 「初めて会ったときに、どこかで会った気がしたのですけど、気のせいだったのですね」

 「シルフィはまさに『人魚』という容姿をしてますからね。金に波うつ美しい髪、太陽に当たったことがないかのような、すきとおった白い肌。鱗が桃色出ないのが唯一残念ですが、白銀とも呼べるような美しい尾を持っている。シルフィに会った気がするのはきっと何かの文献でみたからだと思いますよ。図書館ででも文献をお探しになったらいかがです?シルフィのような人魚の挿絵が載った文献が見つかりますよ」

 博士の賛美に私が顔を赤らめている間、王子は何かを考えているようだった。

 「わかりました。また時間のある時に探します。そろそろ行かなくてはなりませんし」

 博士はさも残念そうに「そうですか」と言った。

 「少しばかり、ワタシが話し過ぎましたね。他に話したかったことがあったのではありませんか?ラシア様」

 博士はいつもの憂いを帯びたような、それでもって優しい笑みを浮かべた。

「いえ、まだ父に報告すべきことも残っていますから。たまたまできたちょっとした休憩時間にこちらに寄っただけです」

 「しかし……」

 「また来させていただきますよ、いいでしょう?」

 「かまいませんけど、もう少しゆっくりなされたらいかがです?せっかく帰ってきたところなのですから。きっと王からお許しをいただけますよ。この間だって、過労でふらふらだった書記官を無理やり休ませておられたくらいですから。なんでしたっけ?あの」

 「『人が働くことは社会を営むに置いて重要なことである。しかし働き過ぎるとその人物のここぞというときに疲れて働けなくなる。働きすぎは、それはそれで結構なことだが、休養をしっかりとれ。そして、ここぞというときに役立つように』」

 「ああ、それです、それです。その言葉を聞いた、あの会議にいた上司にこき使われている人たちのあの嬉しそうな顔を見ものでした。あれから休暇をとるもの少々増えたとか」

 反省したようにも思えたが、やっぱり博士は博士だった。話し過ぎである。

 「ただ説教じみたものが好きなだけですよ、あの父は。私に言わせてもらえば、なぜそこでそのような台詞が出てくるのかが、謎でしかたありませんでしたよ」

でも、この私の発言はここだけの秘密ですよ、と王子は唇の前に人差し指を立てた。そのしぐさはとてもきれいで、子どもっぽくも見えた。

「それにきちんと報告を終えたらしばらく休暇を得る許可をいただけました」

 だからもう少しの我慢です、と悪戯っぽく笑うと王子は「それでは失礼しました」と一礼して、私たちに背を向けた。

 



 その日からである。私があの夢を、いや、幻を見るようになったのは。


 お久しぶりです。なんとかぎりぎりとはいえ8月中に更新することができてよかったです。今回のお話は王子との人魚の会話です。いや、人魚は会話してないですけどね。

 個人的には博士の一部が出せて、満足でした!


 とりあえず、内容に関してはこの辺で。私はあとがきから読む派なので、あんまりあとがきにネタばれを書きたくないのです。(でも、これってあとがきから読めたっけ……?)

 なので、内容には深く触れません。


 と、言いつつも一つだけ。本文中に出てくるアヒルさん、アヒル隊長をイメージしてます。いつか家のお風呂に浮かべてやろうと、時々たくらんでおりますが、未だ実行しておりません。理由はいろいろあります。一目ぼれするようなアヒルさんに出会えてないのもひとつ。アヒルさんを売ってるようなところに最近行かないものひとつ。アヒルさんを浮かべると、きっといつまでも遊んでしまうであろう、というのも理由のひとつになります(まだまだ子供ですね)。他にも理由はありますが、まぁそのうち浮かべられたらいいなと思います。



と、まぁどうでもいいことを書きましたが、最後に……

 いつもいつも読んでくださるみなさま、本当にありがとうございます!誰かが読んでくれていると思うだけで、大変嬉しいです!次の更新はいつになるかわかりませんが、気長にお待ちください!


 今回も読んでいただき、ありがとうございました!

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