諍いと町の整備
大変お待たせしました。
海から帰ってきた翌日も朝一の予定は湯浴みだ。
今日まではゆっくりと身体を休めつつ、溜まった書類の読み込みやチェックを行ったり、留守中に魔術師や錬金術師が開発したもののチェックや報告を受けるなど、ある意味舞台の練習や学園での生活以上に忙しい。
湯船に浸かっている間も、女性の魔術師や錬金術師は報告にやってくる。
身体を石鹸で洗ったり流されたり、長く繊細な銀髪を洗ったりという作業は全て側仕えたちが傅いて行ってくれるため、飛鳥が直接手を出すことはほとんどない――というよりも出来ないと言った方が良いだろう。
駄目な生活とも言えるが、他人に傅かれて仕事を与え、養うのが王侯貴族の仕事でもある。生まれた国や王妃である母を失ったとはいえ、アスカ姫は今もれっきとしたリージュール魔法王国の王族なのだ。
前日まであれほど長時間陽の光を浴び、午前と午後の二回海水に浸かっていたにもかかわらずアスカ姫の肌は白いままで、髪も綺麗な銀糸の輝きを保っている。
夏の間、温めに温度を調整した湯船での十五分ほどの沐浴は、報告を受け一日の予定を話している間に過ぎていく。
ユリアナやレーア、エルサのように日焼けで湯が染みることもなく、留守番組だったライラやセリアが飛鳥の肌をタオルで丁寧に拭き取っていく。
日焼けとは詰まるところ軽度の火傷だ。重篤なものになると真っ赤になって腫れ上がり、水脹れになったり激しい痛みを発することもある。
ここまで行くと治癒魔術のお世話になるか、薬効が定かならぬ高価な薬を塗布しなければならなくなるのだ。
それを避けるには地球にあったようなUV対策を念入りにするか、日焼け後の早めの手当て、普段からの肌ケアのいずれか、もしくは複数を同時に採用して行かなければならない。
帰着した昨晩は、寝る前に二つだけ研究室で作ったものがある。
一つが微かに酸味のある夏が旬の果物を絞って、果汁を魔術により出した純水で薄め、瓜のような野菜から抽出した水と蒸留済みのアルコールを希釈したものを錬金術で混ぜた化粧水。
もう一つは海産物のサンプルの搬入後に一部の野菜と果物から抽出した精油と果実の種から分離した乳化剤、魔術で出した純水とを混ぜ、さらに季節の花から錬金術で分離した精油を数種類混ぜた、単純な構成の保湿乳液というものだ。
日焼けを経験した遠征組と留守番組の三人ずつを被験者として選んで一晩様子を見たが、アレルギーやかぶれといった目立った症状は見られないようだ。
海藻からの抽出物を試すのはこれからの作業なので、そちらも楽しみではある。
ユリアナが現在日焼けに苦戦しながら沐浴しているので、側に仕えて予定を読み上げるのは留守番組をまとめていたライラの仕事だ。
「本日は食事を済ませた後、留守中の報告の続きを。その後は執務室で書類の仕分けを手伝い、昼食後は夕方まで姫様の研究時間とさせて頂いています。
納品されるものは午前中に農産物が荷車二台分、研究室の蒸留用ヴィダ酒が三樽と服飾倉庫に入るジェルベリアが五十ヘルカト、シェランが八十ヘルカトです。
食材は女子棟地下の冷温室にまとめて保管していますが、新館地下の保冷庫は温度が基準に達していないようで、昼前に一度相談させて頂きたいとのことです」
「分かりました、新館の保冷庫の件は最優先にしましょう。皆さんの食事に直結してしまいますし、面会順を仮に組んであるのであれば最初に持って来て下さい。
品物の納品については農産物関連と温度変化に注意しなければならないものを優先して下さい。布は事前にティーナが品質を確認し、数量と質を報告して下さいね。研究成果の報告はアニエラとユリアナにも一緒にいて欲しいです」
湯上がり直後に化粧水と保湿乳液を塗られ、まさしく「珠の肌」となったアスカは服を着せられながら矢継ぎ早に指示を出していく。
さすがに二月半以上も「姫」としての扱いを受け、その身分に相応しい待遇を、と言われ続けてきたため、毎日朝晩の湯浴みで素肌を見られたり、着替えの世話をされることには慣れてしまった。
それを当然と思ってはいけない、と強く自覚しながらも。
「研究成果の報告は、まず結論を話すようにお願いします。成功でも失敗でも同じです。経過と理由は順序良く、簡潔にまとめて欲しいです。何が成功や失敗の原因と考えられるのか、どれくらい試してみて結果どうなったか、条件を変えた時にどう変化したかも分かると嬉しいですね。
それと必ず報告者の印象や感想をまとめてもらって下さい。応用が効きそうなものがあれば、その方に引き続き研究してもらった方が良いかと思いますし」
「承知しました。それと会計長経由ですが、新しい素材や食材を扱っている配下の商会から本日午後に面会希望が来ています。外部の商人も一緒らしいので、団長と会計長の同席の下でご臨席賜りたい、とのことですが」
「本日ですか?」
珍しい、と思いながら、乾かされた髪が整えられていくのを鏡越しに見遣る。
普通は面会の依頼が来てから予定の調整を取り、間に数日挟むのが一般的な王族・貴族の対応だ。これまでは団長や会計長もそうした貴族的な対応を取って来た。
厨房や食堂、執務室などで顔を合わせた時にユリアナが同席し、その場で予定が変更になった場合でも、少女特有の体調の確認や身だしなみを整える時間など多少の余裕があったはず。
急な面会依頼が何に起因するのか分からないが、飛鳥は考えつつセリヤとルースラに整えられていく髪を見つめた。
鏡に映るのは、最近のお気に入りである編み上げた髪をティアラに見立てた、清楚でありながら華やかさをも見せる髪型だ。
そこにヘアピンのような小さな髪飾りを一つだけ着ける。
花の大きさが三テセほどと主張し過ぎない、飛鳥自身が精錬した純度の高い銀と鉱山から採掘された宝石の欠片を使い、町の細工師に木で原型を作ってもらった百合に似たリリヤゥの花の一品物だ。
宝石は透明度の高いサファイアとルビー、淡いアメジストの三種類が上品に配され使われている。
鉱山で見つかったのはサファイアとアメジストだけだが、サファイアとルビーの違いは不純物――金属イオンの違いだけと地学の授業で習った覚えがあったため、錬金術で不純物の入れ替えが出来るかどうか試してみた。
サファイアをベースにして、鉄と思しき不純物を取り除くと同時にわずかなクロムの微細な粒を溶かし込んで行くと徐々に赤っぽく変わる。アスカ姫の魔力に染められたサファイアから目的の物だけを置き換えるのは造作も無かった。
そうして出来たのが透明度の高く鮮やかな紅色の宝石だ。
不純物のクロムは鉄を分離させていく過程で不純物として弾かれたらしく、粒を集めて加熱して行くと鉄よりはるかに高い温度でようやく融解したのだ。
三百ヘルカトほどの鉄を分離してようやくスプーン一杯ほどの量しか確保出来ていないが、宝石の錬金術加工には十分過ぎるほどの量である。
被服担当のルースラが鏡を見ながらヘアピンの位置を調整している間、答えをどうしようか考え込んでいた飛鳥は、鏡越しに湯浴みを終えて上がって来たユリアナへ視線を向けた。
「ユリアナ、相談があります。団長と会計長が同席しますが、本日午後に面会依頼が来ています。外部の商人も部屋に入るようなのですが、貴女からも確認を取ってもらって良いですか?」
「――ライラ、どういうことですか?」
長い紅の混じった金髪を巻いていたタオルを外しながら、ユリアナがこちらへ近づいてくる。整った容姿がわずかに険を帯びているのが怖い。
亡国の姫であるアスカに対しての面会は、基本的に全て団長とユリアナのところで止められるようになっている。先日のレシピ公開の時のように、基本は団の幹部が対応・折衝し、最終的な場面にだけ姿を見せることはある。
自発的にアスカ姫として姿を見せるのは、市場での素材探しや食材購入、上下水道の工事など、限られた機会しかない。
外部の人間との面会は全てユリアナが可否を判断していた。
未婚の王族や貴族子女が肉親や保護者、庇護者の立ち合いもなく平民と会うことなど、絶対に考えられないからだ。ユリアナが幼い頃に友人・知人宅へ行く時だって、側仕えや護衛を筆頭に最低でも五人程度は訪問先に着いて来ている。
まして、アスカ姫は王族だ。
「ユリアナ、ライラを責めてはいけませんよ。ライラがユリアナと同じように経験を積むにはもう少しかかるでしょう。ライラは側仕えとして、貴女に追いつこうと必死に頑張っています。
私が側に仕えることを認めたのですから、じっくり育てるつもりで接して下さい。叱るだけが育てる方法ではありませんよ。時に正し、時に褒め、時に叱り、良い所は認めて伸ばすことが大事です。私は亡きレニエとレーゼにそう教わりました」
鏡越しにユリアナへ話しかけた飛鳥に、ユリアナが表情を和らげて頭を下げた。
それを見たルースラがわずかに怯えながらも、きちんとヘアピンが留まったのを見て一瞬安堵の表情を浮かべている。
筆頭側仕えとして、また嫁いでから貴族家に数年仕えてきたユリアナは、ライラ以下十代半ばから後半くらいの彼女たちにとっては現場経験の豊富な先輩だ。
生まれてからの家庭でのマナー教育や貴族が通うという学院での教育も、全てを十全に身に着けていられるわけではない。欠けているもの、足りないものは、これから時間をかけて身に着けても構わないのである。
飛鳥自身、マナーは紫と一緒に習った男女別の立ち居振る舞いと、舞台に合わせて稽古場で習った役柄における所作の知識だけだ。和式や西洋式のテーブルマナーも含むが、それはごくわずかな違いでしかない。
もちろん、アスカ姫として故国からの旅の途中で教育された内容もある。
王族の一員として恥ずかしくないよう幼い頃から厳しく躾けられたため、歳相応の少女らしさを意識することで自然と身体が動いていることも多い。
既に二月以上をアスカの身体で過ごしている間に、そうした所作の一つ一つは飛鳥自身にも馴染み始めている。
「ライラの手元に依頼が来たのは昨晩か今朝なのでしょう? まだ陽が昇ってわずかな時間しか経っていませんし、本館の方々も起き始めた頃だと思います。
団長の起床を待って伺うか、私たちが朝食を向こうの食堂で摂るのであれば直接お話しを聞けますが」
「それは――女子棟の厨房で準備しているミルヤとリューリが泣きますね」
納得顔のユリアナは、同じく鏡の前に座って化粧水の小瓶を手にしたまま眉根を寄せた。二人とも昨晩寝る前に仕込みを終え、今朝も陽が昇る前から起きて厨房に入っているはずだ。
視察の留守中に試作したものを出すと張り切っていたから、その機会がずれるとなったら可哀想ではある。
「それでは仕方ありませんね。ユリアナ、朝食の後で構いませんから、会計長か団長に内容の確認をお願いします。私がどうしても出席しなければならないものでしたらお受けして下さい。判断は貴女に一任します」
「承知しました、姫様。お言葉の通りに」
「それと――化粧水をつけるのは洗顔してすぐか、お風呂から上がってすぐにした方が良いですよ。ユリアナ、座ったままで構わないのでタオルを取って下さい」
着替えと身支度が済んだ飛鳥は、ユリアナのタオルの結び目を解くと日焼けでわずかに赤い肌を露わにした。
女性しかいない脱衣所で恥ずかしがる者は誰もいない。
蓋を外した飛鳥は、わずかに汗の浮いた彼女の肌を魔術でミスト状にした水で包み、頭皮から髪の先へ、額から肩を経由して脚の先まで丁寧に洗い流していく。
その直後、化粧水を同じくミスト状にして顔や耳の後ろ、首筋から胸元まで包み込み、肌に浸透させていった。肌の上で吸収しきれずに残った一部が肌を伝い、胸の谷間や背骨に沿って流れている。
「貴女たちも霧の魔術は練習しているでしょうから、このくらいはすぐに出来るようになると思います。化粧水は肌の乾燥を抑えるために使うものですから、きちんと肌に染み込むまで待たないといけません。
昨晩作った保湿乳液は、化粧水が肌に染み込んでから使います。洗って流れた肌の脂分を補って、保湿して必要以上の乾燥を防ぐためです」
指先に取った乳液を手で温め、額や鼻筋などを薄めに、頬や顎、目の周りや口元などに手早くしっかりと塗り広げる。
二度塗りして軽く表面を冷風で乾かせば完成だ。
飛鳥として生きていた時、紫に何度も教え込まれた知識がこんなところで役に立つとは思わなかったが、今となっては感謝する他無い。
「必要以上の脂も水分も、共に肌にはよろしくありません。それと化粧水や乳液を使う時は肌を強く擦らないように。化粧水は肌にきちんと染み込ませて下さいね。乳液は染み込んだ化粧水と肌の乾燥を防ぐためのものです。
美容周りはいずれ思い出した順に作って行きますが、使い過ぎにも注意して下さい。化粧水も乳液も、基本は一日二回――朝晩の入浴の時で大丈夫だと思います。
肌に合わないとか異常を感じた時はすぐに教えて下さい。治癒魔術もそうですが、原因となった成分をきちんと把握しておきたいですから」
飛鳥はユリアナの肩に手を添えると、目の前でちょうど良い高さにある首筋に抱きついた。しっとりと湿った髪が肌に触れ、冷たく心地良い。
「ユリアナ、ライラは頑張っていますよ。マイサもユリアナの補佐として一生懸命仕事を覚えていっています。貴女は側仕えの中で一番経験を持っていて、皆を教え導く立場でもありますから、思い通りに行かなくて焦る部分もあると思います。
ただ、彼女たちの良い所もきちんと認めてあげて、直すべき所や『こうした方がもっと良くなる』という点を体系立てて教えてあげて下さい。そうした積み重ねが貴女の経験になり、後に続く者の経験になりますから。
それはきっと、私の筆頭側仕えであるユリアナにしか出来ません。
気負わずに『自分も周囲に育ててもらっている』と思えば、気は楽になると思いますよ? ここは貴女が育った王都ではなく、これから大きくなろうとしているロヴァーニなのですから」
細い腕にきゅっと力を込めてから身体を放すと、飛鳥は先に着替え終えているライラとルースラを連れ、脱衣所を後にした。
湯殿の入口には夜勤明けの護衛たちが既に待っており、今夜まで護衛を担当する者たちと交代していそいそと脱衣所に入って行く。
湯船で寝ると危険だからお酒は駄目ですよ、と声をかけると、『シュレの果汁の水割りだから大丈夫です』とテンションの高い声が返ってくる。
隣でライラが頷いているなら大丈夫なのだろう。
飛鳥は彼女に頷き返すと、生成りのワンピースの裾を揺らしながら、微かにパンの匂いと賑やかさが伝わってくる食堂へと降りて行った。
午前中の執務室は冷たい空気が漂い、しんと静まり返っている。
普段なら板に署名をしていく音や捺印済みの板を重ねる音が聞こえるはずの室内では、団長と副長、会計長が床に膝を揃えて座らせられ、群青色のメイド服を着たユリアナの前で蒼白い顔をしていた。
飛鳥が書類の整理を始めて間もなくこの状態になったので、かれこれ十分ほどは経っているだろうか。今日の分の書類整理が終わりに近づき、仕分け用のラベルを全てに挟み込んで、側仕えや手伝いの文官たちに運んでもらう。
机に報告書を運び終えると側仕えは休憩のお茶の用意を始め、文官たちは数名を残して逃げるように部屋を出て行った。
「黙っていられても仕方がないので理由を話して頂けませんか、ランヴァルド様?
私が側仕えになった時のお話では、姫様への面会は私に判断を一任されておられましたよね? 頼りになる護衛もいますし、アニエラさんや私たちも魔術でお守りしますけど、平民出身の商人がいる席に同席させるなど、成人前の姫様に何かあったらどうされるおつもりですか?
ランヴァルド様が責任を取って姫様を娶られるのですか?」
静かに切れて怒っているユリアナが怖い。
だがそれは言ってはいけないセリフだと分かっているため、飛鳥はネリアの袖を引いて唇を耳元に寄せ、女子棟の厨房に作り置きしていたカスタードタルトを取ってくるように頼んでみる。
ネリアは一時的に逃げられる口実を得て喜んだが、同時にこの場に残る主に対して申し訳なく心配そうな表情も浮かべている。
「承知しました――ここを離れられるのが私だけで、少々心苦しいですが」
「仕方ありません。面会の件は私にも関わることですから、私が今ここから離れるわけにはいきませんし。ではネリア、お願いしますね」
小さく手を振って送り出すと、彼女はドアの前で小さく一礼し部屋を出ていく。
床に座らせられているスヴェンが羨ましそうに縋る視線を見せていたが、ネリアは綺麗に無視してドアを閉めていた。
「それで? 王国の貴族領の商人が何故こちらに、しかも団直営の商会を仲介役にしてまで姫様への面会を求めるのですか?
先日の報告会で方針を確認した際、姫様の存在は可能な限り秘匿することになっていたはずですわよね?」
「それについてはその通り、なんですが……ハンネたちの荷車の設備を実際に見たらしくて、製作依頼が来たのです。作った職人に直接依頼したいと」
「姫様は職人ではございません。確かに様々な知識をお持ちで、道具や魔術具を始めとしたリージュールの智の遺産を一身に引き継いではおられますが。
それに先日『外部からの依頼は受けない』と言われたではありませんか。団の冷蔵輸送車の計画も提出されていませんよね? 試算の提出は来週だったはずですが、もう計算が終わっているのですか?」
つっかえつっかえ答えた会計長に、ユリアナはにべもない言葉で返す。
普段は温厚で淑女然としているだけに、表情と視線の冷たさが際立っている。加えて日々の鍛錬で基礎魔力量が増えたのか、無自覚に放出して威圧が加わっているらしい。
ある種の特別な性癖を持つ人間にとってはこの上ないご褒美でも、ごく一般的な性癖しか持たない者には十分過ぎる恐怖だろう。
アスカ姫はユリアナよりも保有魔力が桁違いに多いため威圧にすらなっていないが、執務室に残る面々にとっては十分な圧力を保持しているようだ。
「どうせあの馬鹿子爵の御用商人辺りが商会の者にごり押ししてきたのでしょう。
我々の方が圧倒的に優位にあるのに、外部からの圧力に屈するなど情けないにもほどがあります。知識と実物を持つこちらの方が強気に出て良いのですから、主導権はこちらが握るべきでしょう。直営商会の試食権を向こう二年ほど差し止めた方が余程効果があるのではありませんか? それとも、今回の件で団長以下幹部の試食も半年ほど差し止めましょうか?
姫様の筆頭側仕えとしては、此度の失態にそれくらいの代償は求めたいですわ」
無言で俯く会計長と団長の横で、何か言いかけたスヴェンがユリアナを見上げて口を噤む。目を吊り上げているわけでもないのに怖いのは、怒りが限界を超えて内側に貯め込まれているからこそだろう。
「大体ランヴァルド様もハンネの荷車が魔術具の塊で、簡単に作れるようなものではないことくらいご存じでしょう。材料や魔術具を姫様が加工してしまったから半月ほどで出来てしまいましたが、普通に作るなら材料集めだけで半年、荷車の部品と魔術具の準備で一年、組み立てと調整で半年くらいが妥当ではありませんか?
荷車の車輪と台車に取り付けられた振動を抑える魔術具に、車輪の回転を滑らかにするための魔術具。飲料水を供給する魔術具、調理用の加熱魔術具、冷蔵保存の魔術具、用を足すための魔術具一式と沐浴用の魔術具まで含めたら、どれくらいの金額になるか分かるでしょう、会計長?」
矛先が項垂れている会計長に向かう。
だが、金が関わることについては彼の嗅覚は正しいし、費用の見積りも妥当な金額で回答されることが多かった。情報を集め相場を知り、適正価格を知るのであれば正しい価格も知っているのだろう。
飛鳥自身は『知識として知っている中から作れそうな、生活や行動に便利そうなものを作った』程度の認識しかなかったから、市場価値など意識したことがない。
鏡も紙も女子棟も水道も、食事に関連する様々なことも、全て自分の生活が不自由なく整えられるよう動いただけだ。
故にネリアが戻って来るまで余計な口出しをせず、ソファに座って大人しくしていようという程度の保身は弁えている。
「……マイニオ殿、お返事は?」
側仕えらしく楚々としたユリアナの立ち姿ではあるが、反面表情は怖いくらいに清々しい笑みを見せていた。
そして飛鳥はその問いで初めて会計長の名前を知ることになった。
「ええと、金貨で……ゆうに七千枚は越えるかと」
「内訳は?」
「基になる荷車と台車の整備が五百枚、各種魔術具が材料込みで五千枚、内装が最低でも一千枚――技術料と利益で一千枚程度でしょうか。あくまでも、先日のハンネのものを見積もっただけですが。
現在姫様がお作りになられているものなら、材料と魔術具の加工費用だけで金貨一万枚を超えるでしょう。外部の工房に作らせれば、初期費用だけでその倍から三倍程度はかかるはずです」
苦々しく金額を漏らした会計長は、頭を掻きむしる副長と頭を抱えた団長の隣で深く重い溜め息を吐く。
以前ハンネが想定していた金額は、製作に使用する材料費や市場で求められる魔術具の需要と供給を考慮したものではない。実際に市場に出れば、希少性や需要の高さから数倍の値が付くのは当然である。
飛鳥自身はそこまで魔術具や荷車の改良が評価されるものとは思っていなかったし、金貨一枚でどれほどのものが買えるか理解出来ていなかったこともあり、わずかに首を傾げて見せるだけだった。
街での買い物も大半は団へ請求書を出してもらい決済していたし、その資金の元になった鏡作りも自前の魔力と魔術、それに二束三文で買えた材料である。
水道の敷設と利用料、新しい食材や素材、それらの研究費用の提供と、売却して市場の取引に乗せることで生まれる利益。全てを合わせれば一月に金貨数百枚ずつの利益がロヴァーニの内外からアスカ姫や団の名の下に集まって来るのだ。
女子棟の新築や本館移設の工事費用に関しても、アスカ姫の魔術による貢献が非常に大きく、節約出来た金額は金貨数万枚に上るはず。
詳しく自分の収支を見て来なかったし、女子棟や水道を始め自身の住む環境を整えることだけに集中していた飛鳥は、巨大な経済活動を生み出しながらその価値を認識していなかったようだ。
舞台でもそうだったが、収支などの部分は門外漢であるので担当者や得意な人間に丸投げしていたきらいがある。
アスカ姫として生活する中で団の収支報告は目にしてきたが、自身の保有財産がどれくらいあるのかを確認していなかった部分は否めない。
「さて、それを踏まえてお聞きしますね。商会に来たお話、リージュール魔法王国の王女がお時間を取って立ち合う必要があるとお考えですか?
それも当日の朝に話を持って来て、その日の午後に謁見が可能だと?」
「…………」
「王国でも貴族家の面会は数日前に、王族なら国防や外交の緊急事態でも無い限りは五日ほど前に申請を出して、上位者の都合に合わせて日程が組まれるものです。
今回の場合は姫様の方が圧倒的な上位者なのですから、いくら団に保護されているとはいえ姫様の都合に合わせるのが当然です。違いますか?」
「…………いや、違わない、です」
「王国の正式な外交使節でも無いのですから、この件は即お断りして下さい。不敬にもほどがあります。このようなことを許せば、ひいてはランヴァルド様が平民から軽く見られているということでもあるのですよ?」
「気をつけます……」
呻くように答えた団長を見て満足したのか、ユリアナは元の優しい笑顔を浮かべて飛鳥を振り返った。柳眉を逆立てた怖さも威圧感も、そこには欠片も無い。
「お聞きの通りです、姫様。直営商会への罰則は後程決めるとして、午後の面会はお断りいたしました。対外的には『昨日帰還した調査旅行の疲れから寝所で伏せっている』とでも言えばよろしいでしょう。
幸い姫様は月のものも来ている年頃ですし、遠出から帰った直後に体調を崩されてもおかしくはありません。ご不便をかけてしまい申し訳ないのですが、団の敷地の外に出なければそれと分かるはずもございませんし……」
頬に手を当ててアスカ姫を見る視線には、先程まで男三人を見ていた険は一切無く、むしろ労りと気遣いに溢れている。
飛鳥としても海産物など持ち帰った素材が多く、再出発までの間はそれらの調査が優先するため、今すぐ市場に出かける必要性はない。
必要なものは毎朝市場に出かけるダニエやイェンナに言付けるなり、錬金術師や文官に頼んでおいて女子棟まで届けてもらうという方法もあるのだ。
留守の間進んでいただろう工事の様子を確認する必要もあるので、数日程度ならわざわざ自分で外出することに拘らなくても良い。
考えをまとめた飛鳥は、自分専用となっているティーカップをテーブルへ静かに置きながら、答えを待っているユリアナに向き直った。
「外出については問題ありませんよ、ユリアナ。元々再出発までに予定が詰まっているのですから、私の行動予定は筆頭側仕えである貴女に一任します。
普段から側仕えたちと護衛にも調整を取り、私の身の安全や体調にも気を配って頂いているのですもの。多少行動の不便があっても構いません」
「――ありがとうございます、姫様。ということでマイニオ殿、直営商会が出してきた面会依頼は一旦却下です。外部商人にも筆頭側仕えの私の名と幹部の連名で厳重注意して下さい。団に悪影響が出ないなら実質的な出入り禁止にしても構いませんわ。
それと今回の処分については夕食後の報告会で、お酒抜きでゆっくりと話し合いをして決めましょうか。よろしいですわね、スヴェン副長、マイニオ殿?」
飛鳥に背を向けて床の上の三人を振り返ったユリアナから、殺気とも怒りの発露とも取れる冷たい空気が漏れる。おそらく飛鳥が直接見てはいけないものだ。
酒抜き、の下りで副長の顔が絶望に染まり、ただでさえ青白かった顔色がさらに白くなっている。会計長は既に燃え尽きて灰のようになっていた。
「団の幹部連名で書面が来たのですから、傭兵団の団長としての責任も当然ございますよね、ランヴァルド様? 優しい姫様が気遣って言われない部分は、私が憎まれ役となってでも申し上げます。
大体、学院時代に私の家の窮地を救って下さった時は――」
「ユリアナ、その話は今は駄目だ」
低く、それでも鋭い声がユリアナの言葉を止める。
座ったまま下から見上げる団長と、上から見下ろす形になっているユリアナとの間で視線が交錯する。応接用のソファからはユリアナの横顔しか見えないが、唇が何かを言い掛け、目元が悲しげに震えているのだけは見て取れた。
「いつか話せる日は来ると思う。けれど、今は駄目だ」
「――今は、でございますね。では、いつかきちんとお聞かせ下さい。私にはその権利があると思います。あの件の当事者の一人なのですから」
微かに震える声で口にした言葉は、団長とユリアナ自身、そして魔術で聴力を強化し聞き耳を立てていた飛鳥自身にしか聞こえない。
それほど小さな声だったのだ。
身近な人間の過去の出来事は気にならない訳がない。
けれど二人がここで口にしない、出来ないことを根掘り葉掘り聞き出そうとするのは、前世で蛇蝎のごとく嫌われゴミや腐肉を漁るハイエナにも喩えられた『知る権利の代弁者』を僭称する社会のクズどもと変わらなくなってしまう。
いくら無垢な少女の姿であっても、それだけは決して行ってはならない、と飛鳥の心がブレーキをかけたのである。
「それではお仕事にお戻りいただきましょうか。留守中に決裁が滞って溜まっていた書類もたくさんあるようですし、既に姫様の仕分けもほぼ終わっているようです。一山分の処理を終えるごとに休憩を取るようにしましょう。昼の食事は二山を終えてから手配します。
文官の方は二名ずつ交代で見張りと立ち合いをお願いします。特に副長が仕事を放棄して逃げ出さないよう、いざとなったら護衛を呼んでも構いません。今日中に終わらせなければいけない分が終わるまで、お酒も訓練も禁止です」
掠れた静止の声も聞き届けられないまま、副長が床に沈んだ。
執務室に夕方まで監禁され、見張り付きで書類仕事をすることが決められたようなものだ。苦手意識を持っているなら苦行でしかない。
「姫様はお茶の時間が終わりましたら一度女子棟にお戻りくださいませ。直営商会との面会時間が過ぎるまでは、安全のために姫様のお部屋か研究室、厨房に籠られていた方がよろしいかと思われます。
新館の工事に立ち合われるのでしたら、念のため護衛の数を増やす必要がございます。女子棟の中にいれば魔術具で防げる部分も多いと思いますが」
「大丈夫ですよ、ユリアナ。昼まではアニエラと一緒に研究室に行きますから。お昼を頂いた後は――そうですね、新館の状況を簡単に確認してから海の食材でお料理の続きでもしましょうか。
いくつか試したいこともありますので、試食は女子棟の中だけでお願いします」
「承知しました、姫様。必要なものがあれば側仕えにお命じ下さいませ」
良い笑顔のユリアナが恭しく頭を下げる。
試食が本館に回って来ないことを目の前で決定された団長と会計長も、床に沈んだ副長と同様にがっくりと項垂れ、低い呻き声を上げている。
「ランヴァルド様はきちんと不敬な商人を退けて下さいませ。今の団と直営商会の力関係なら、一部の商人を退けたところで影響は出ないでしょう。
むしろ他のまともな商会が挙って競い、今回のような横暴を未然に防いでくれるはずです。販路の選択肢はこちらにあるのですから、有効にお使い下さい」
かくん、と小さく頷いた団長の姿を見て満足した笑みを浮かべた彼女は、戻って来たネリアにお茶の準備をさせると、自らは側仕えとしての定位置――飛鳥の斜め背後に立った。
部屋にカスタードタルトとカットフルーツの甘い匂いが漂う中、飛鳥は居心地が悪そうにしながらも綺麗に平らげ、床に座る三人に優雅に一礼して席を立つ。
「それでは、また明日こちらに参りますね。お先に失礼します」
三人の周りだけ重くどんよりとした空気が漂う中、飛鳥はユリアナたち側仕えと護衛を連れ、夏の暑さが充満する廊下を女子棟へと急いだ。
「砦の計画は姫様にご提案いただいた案の通り、丘の隘路を塞ぐ形で工事を進めています。魔術師が赤獅子の槍から五名、他の傭兵団から五名、町の魔術師から二名。街道整備と並行で進めさせています。
魔術を使わない作業には町の移住者や王国の貴族領から避難してきた農民を多く雇い入れ、二交代七百名体制で行っています。石切り場からの運搬と加工には鉱夫たちの協力も得られました。
第一次の計画は秋の終わりまでに、街道は冬の初めに下地が完成し、次の春には石畳の敷設が完了する見込みです。第二次計画は来春開始になるでしょう」
夏の終わりが近づいたある日の夕方、二階までの工事が完了した新館の会議室でコの字型に配されたテーブルを囲んでいる男たちがいる。
中には薄手のローブに膝丈のスカートを穿いた女性も数人混じって入るが、比率は九対一で男性の方が多い。
横五テメル、縦七テメルほどの小会議室には涼しげな風が常時流れており、明るいガラス窓の外に連なる家々の屋根が夕陽を浴びて暑そうに光っているのとは対照的だ。
手元の資料を見ながら発表していたのは文官の一人であるが、暑さを和らげるためかかなりの軽装だ。
発表を終えて席に着く彼に、団長とアニエラが頷いて見せる。
続いて立ち上がったのは会計長だが、外に比べて圧倒的に涼しいというのに額に汗を浮かべ、それを手拭のようなもので頻りに拭っていた。
「費用に関しても現在のところ問題ないようです。団の負担が三割、町の税として二割、商人たちからの徴収が五割ですが、現時点では団からの持ち出しでも回収が可能な範囲で動いています。
街道整備と砦の機能が効果を見せれば、五年から七年程度で投資分を回収し、以降は利益になって行く見込みです。あくまで人口流入と商取引の規模が現在の水準で維持出来れば、という目算ではありますが」
氷の浮いた水を飲み干しながら答えた会計長は、部屋の片側に嵌められた大きな板の上に畳一枚ほどの巨大な紙を張り、そこに描かれた帯グラフと折れ線グラフ、この半年ほどの人口推移から予測される収支についての表を見せる。
飛鳥が文官や魔術師・錬金術師たちに教えていた基礎的な数学や理科の実験などで使い、その便利さに着目した会計長が講座に通い詰めた成果だ。
執務を放り出しておらず、さらに教わった内容が団の経営や直営商会の指導・運営にも役立っているから問題ないが、成果が無ければ未成年の美しい少女が教える教室に足繁く通う怪しい中年でしかない。
幸いにも一月半ほどで各種グラフと比例・反比例など、中学一、二年までに学ぶ程度の算数・数学知識は教えられた。基礎学院や貴族学院、平民が通うという中等学院での教育基礎がなければ厳しかったかも知れないが。
「来年になりますが、街道整備と砦の完成に合わせてロヴァーニの市場の整備を行う予定です。先日姫様が二度目の海の調査にお出かけになられた際、候補地の調査と杭打ち・縄張りは済ませてきました。
前々から商人たちの陳情も上がっていたので、商取引の拡大が望めるこの機に整備を進めるのがよろしいかと」
「基本は拡大と整備で問題無かろう。だがロヴァーニの地図と市場の計画図面は商人たちには絶対に見せるな。姫が以前言われていた、荷車を停める区画の拡充も図面に盛り込んでくれ。それと食料関連の保管倉庫の計画はどうなっている?」
「魔術具自体は姫様の指導のおかげで作れると思います。材料がある前提ですが、団所属の中堅錬金術師と魔術師が四日から五日かければ問題ありませんね。
製作費用が金貨二千枚とおそらく個人や中規模の商会では支払いきれないので、倉庫の内部を区画で区切って、区画数と利用日数に応じて使用料をもらう形にするのが公平で分かりやすいと思います」
張り出された図面を見ながら淡々とアニエラが答える。
アスカ姫の専属護衛になって約三月、研究室や私室でもほぼ付きっきりで教えを請える立場にあった彼女は、既に王都の魔術学院で教鞭を取る教授陣より知識面や魔力の運用面でも数段上を行っているはずだ。
来月には王都の魔術学院へスカウトに行っていたハンネも戻ってくる。
そうなれば赤獅子の槍は戦力だけでなく技術力でも周囲から頭抜けた存在になって行くだろう。
「最近合流してきた団員たちは魔力運用の基礎を教えている段階ですから、冷蔵の魔術具は当分作れません。姫様に直接教わって来た私たちの『現在の水準』まで育つには、少なくとも一年半から二年程度かかると思います。
元から団にいて、既に本館や女子棟に研究室を持っている魔術師や錬金術師は、技術面については問題ありませんね。
姫様は料理と新館工事の合間に車輪とガラスの改良に取り掛かられていますから、街道や市場周りの整備は我々が進めるべきことだと思います」
「分かった。会計長、予算と資材の計画書を来週の会議に出してくれ。出資を希望する商会も一覧にして、どの程度の金額を出すのか見積もりを。
例の商会は出入り禁止にしたから大丈夫とは思うが、もう一度直営商会に念押ししておいてくれ。一応ロヴァーニの各商会の本部にも」
団長が苦い顔を浮かべると、会計長も重々しく頷いた。
あの日ユリアナから色々と禁止を食らった身としては反省しきりの事件である。
仲介の話を受け面会依頼を出した担当者は窓口担当から倉庫担当に更迭され、試食禁止一年を言い渡されている。直属の上司と直営商会の幹部は減給一月と試食禁止半年、団の幹部は減給一月と試食禁止三月に決まった。
各部隊の部隊長クラスまでは巻き込まれなかったが、現在も試食禁止が解かれていないため、幹部三人の顔色は暗い。
「そっちの心配はもう要らないと思います。先日の姫様襲撃の一部始終と失態が知れ渡って、子爵領にあった商会は潰されて既に人手に渡ったようです。
吸収した商会は奴より多少マシ程度なだけですが、今後こちらに接触してくるにしてもかなり慎重になるでしょう」
苦々しく顔を歪めた会計長は、手元の報告書を数枚ひらひらと振って見せながら答えた。
海産物と防壁などの調査行から戻って来た翌日、直営商会を通じて面会を強引に捻じ込もうとした商人は、結局アスカ姫に目通りすることは叶わなかった。
辺境の傭兵団に身を寄せているとはいえ、王国から最恵国待遇を受ける大国の、しかも未成年の王女に対する礼儀ではない。
当日はユリアナとアニエラ、エルサとレーアが本館のホールに赴き、商談の場で団長に姫の臨席が無いことを改めて告げている。
それでもしつこく子爵の後ろ盾を振りかざそうとした件の商人は、同格の子爵家の出身で代々外務参事を務めるヒューティア家令嬢ユリアナの舌鋒鋭い言葉と、団長が懐から見せた家紋付きの短剣を見て強制的に口を噤ませられた。
国を守り民を安んじ、魔力と魔術で国を支える貴族に対して平民の権利は路傍の石ほどに省みられることはない。
もしそれ以上言葉を続けていたら、副長の腰に差された鉈のような剣が首と胴の間を一瞬で薙いでいただろう。
午前中ユリアナの『お仕置き』で鬱屈した思いを抱いていた副長は、団長の隣で終始剣呑な雰囲気をホール中に撒き散らし、昼の一番賑やかな時間にもかかわらず受付やホールは閑散としていたらしい。
結局アスカ姫との面会のみならず、団本部との直接取引の申し出も素気無く却下されて逆上したらしい商人は、帰り際に新館の工事現場から休憩で女子棟に戻る途中のアスカ姫の姿を見つけて近寄ろうとした。
直営商会の者も特別な許可がない限り立ち入りを禁じられているのが女子棟だ。
王都で言えば離宮に匹敵し、女性団員や職員は住人として通行が認められているものの、男性の通行には団長への事前の申請と筆頭側仕えであるユリアナの許可を経て、魔術具である通行証を胸に着けなければならない。
強く止めようとしても言うことを聞かない商人に、直営商会の若者は大きな声を上げて近くにいる団員を呼んだ。
当然、手練の護衛たちも不審者の接近に反応する。
護衛対象は未成年の王女だ。保護者や婚約者でもない異性、それも平民を容易に近づけさせるはずがない。
「その敷石の前で止まりなさい。そこから先は男子禁制です。指一本でも越えれば容赦なく斬り捨てますよ」
視察に着き従っていたライラが警告を飛ばし、腰の短剣の柄に手を添える。
護衛たちも剣を抜き放ち、アスカ姫を取り囲んで護るように距離を取って、敷石のラインを越えさせないよう防衛線を敷いた。
エルサたち護衛が手にした剣は飛鳥の錬金術で精錬され、鍛冶工房の親方が張り切って鍛え上げた逸品だ。
粗悪な鍛え方しか出来ていなかった従来の炉から更新され、二名ずつの交代制とはいえ魔術師と錬金術師も派遣されている団の鍛冶工房は、王国や近隣の国と比較しても技術レベルが突出している。
そんな鋭利な剣が八本、魔術師の杖や指輪、側仕えたちの短剣を合わせれば十五もの切っ先が殺気と共に己へ向けられれば足を止めるしかない。
それでもしつこくその場で自分の主張と要求を繰り返す男に、飛鳥は眉を顰めたまま黙って左手を上げ、麻痺の魔術を発動させた。
直後、商人がどさりと重そうな音を立てて倒れ痙攣し、開いた口からは意味の取れない低い呻きが漏れる。
「命を取るまではないでしょうが、聞き苦しいです。自分の都合ばかり主張して、私にも団にも利益がありません。筆頭側仕えであるユリアナを通じて面会を断っているのに、強引に会おうとするのはどうかと思いますよ?
ライヒアラの平民というのはこれほどまでに礼儀も恥も知らないのですか?」
男の表情には『大国の姫とはいえ、小娘を言い包めて言うことを聞かせるくらいは簡単だろう』という侮りがありありと見て取れる。
もっとも桁違いの魔力を持たず、外交や交渉の経験が皆無という深窓の姫なら可能だったかもしれない。
けれどもここにいるのは生まれてから十数年を旅して過ごす中、王族としての教育を受けたアスカ姫の記憶を持ち、さらに現代日本で中等教育の半ばまでを終えてきた飛鳥の意識を持った少女だ。
「ヘルガ、貴女は急ぎ本館に向かって、団長たちに連絡を。あなたは直営商会の者ですか? 早くこの不敬な者を敷地から摘み出して下さい。目障りです」
ユリアナが容赦ない一言で切り捨て邪魔者扱いした商人が、駆けつけた団員たちの手で引き摺られていく。
服だけでなく顔や髪まで土塗れになった商人は、文字通り団の敷地の外に放り捨てられ、待っていた御者や商会の者に引き渡された。
男はその日のうちに自身の商会の者に連れられて七日ばかり離れた子爵領へと連れ帰られたらしいが、警備体制の不備と管理の甘さをユリアナに指摘された団長以下幹部たちは、それはそれは辛いお説教の時間を過ごしたらしい。
それから半月余り、当の商会はロヴァーニで商売をしている中小の商会からも取り引きを断られ、子爵領に本拠を置く他の商会との取引も少々割高に行われているらしい。
また過去の違法取引や子爵家家臣が絡んだ不正も同業によって暴かれ、先週末ロヴァーニにやって来た行商人の話では、既に商会自体が人手に渡ったそうだ。
商人の末路は自業自得だから飛鳥も何も言わないが、この辺りの割り切り方はアスカ姫の影響が大きいのだろう。
飛鳥が高等部の生徒であった頃は、外部とのやり取りの経験と言えば舞台関係者が中心を占め、金額や取引内容、進退に関わるような事柄とは縁が無かった。
生まれた国を離れ旅をしていたとはいえ、王族であったアスカ姫は多少なりとも相手の出処進退に関わる決断の場に居合わせている。
不敬を理由に王族として処断を下した貴族や平民もいたし、供をしていた侍女が現地の男性を結ばれて離れていく際にも立ち合った。利き腕を失うほどの怪我を理由に剣を置き、その地で出会った女性と生活を共にしていくことを決意した護衛を送り出してもいる。
だから、商人の末路を聞いた時も飛鳥はそれほどの衝撃を受けなかったのだ。
魔術で麻痺した男は解呪のため魔術に長けた者を探したようだが、悪い噂というのは思った以上に早く伝わるものである。
言い方は悪いが一国の王女にしつこく言い寄ろうとして拒まれ、不敬の廉で厳罰を食らったとみるのがこの世界での一般的な考え方だ。
故に、王国の魔術師は誰も取り合わない。
王族の魔力や魔術に対抗しようなど、正式に魔術学院を出た者なら誰も考えないだろう。まして相手は超大国と謳われたリージュール魔法王国の王女らしいという話も一緒に伝わっている。
世話をする者がいれば当面の生命維持に問題はないらしいが、魔術に込められた魔力が自然に拡散し、麻痺が完全に抜けるまで最短でも五年程度はかかる。
相応の報いを受けた相手に対して、飛鳥としてもアスカ姫としても、それ以上の感慨はもう無かった。
もっとも、団としてはそれだけでは済まない。
賓客であり、最重要人物の一人となっているアスカ姫に外部の者を用意に近づけてしまった対策として、団本部の半要塞化がそれまで以上に急ピッチで進められ、敷地内と女子棟へ続く道は厳重な警備と管理下に置かれることになった。
本館と建築途中の新館への立ち入りも当面は許可証を持った人間だけが許され、入口に立てられた警備付きの小屋で登録と審査を行い、部隊長もしくは班の隊長以上が常駐するようになっている。
いずれ新館が完成すれば、高さ二テメル半の耐火煉瓦と岩で構築された防壁で囲まれた敷地と、二重の鉄柵で敷地に入る者を制限する詰所付きの門が前方の守りを固めてくれる。
今回の件は、商人の暴走に加えて建設途中の警備の甘さも露呈した形だ。
「ロヴァーニに本拠を置く商会からは、多少入場の手続きが面倒になっても反応は概ね好意的です。直営商会を含め、現在のロヴァーニの経済を支えている姫様の安全確保は最優先事項になっています。
防壁と砦、街道整備の出資に関しては農産物による収入が確定する秋以降が中心となりますが、初年度目標の金貨五千枚は問題ないでしょう。この新館の三階以上の工事が秋の終わり頃に完了しますので、団本部の資金状況も問題ありません」
「海産物の運搬に関しては来月から試験的に冷蔵車を走らせます。姫様に試作して頂いた荷車が完成していますが、重量がそれなりにあるため、角犀馬でなければ牽くことが出来ない状態です。
それでも片道にかかる時間が従来の四分の一程度、積み込める荷物の重量も手で持つより三十倍程度まで増えるので、集落の収入も増えると思われます。防壁の基礎工事も予定通り着手できる見込みです」
直営商会の幹部らしい男が薄板を手に報告している。会計長は試作品の植物紙を使い始めたが、まだ団内の需要を完全に満たしているとは言えず、直営商会まで品物が回り切っていないようだ。
「鍛冶工房と煉瓦工房は、炉の更新状況はどうなっている?」
「団の鍛冶工房は完了していますね。次回更新は来年の夏頃になる予定です。煉瓦工房は先日姫様から粘土の配合を教わって、錬金術師と共に試作に入っています。
郊外の窯で量産を開始するのが来月半ば頃で、雪が降り始めるまでに中規模の窯が二基作れるくらいでしょうか。女子棟の窯は当分更新しないで済むとのことなので、新館の厨房が年内に更新するかどうかでしょう」
「年内の更新は厳しいでしょうね。姫様のレシピを一部公開して町の食堂の状況は少々改善したものの、やはり食事の大半は団の食堂で行われています。窯の更新で休みにするのは厳しいでしょう。
深夜までの営業は控えさせていますが、日没から蝋燭二本程度は飲み食いしている連中も多いです。それ以上はダニエ以下料理人たちの翌日の負担にもなるため、既に団長名で通達を出して終了時間を守らせています」
「蝋燭の話が出たが、そちらの生産は?」
「廃油による蝋燭製作は順調で、単価は高くありませんが数で補い、ロヴァーニの各施設でも使い始めている所が多いです。長さや太さがほぼ同じで、煙と煤が出にくいのも人気の一因のようです。
使っているのを見た外部の商人からの問い合わせが多くなっているようですね。現在は住民登録と開業登録をして税を納めている町の商会と宿、工房だけに数量を管理した上で卸しています。
工房の負担が大きくなってきたので、農村で蝋作りに関わっていたという者を来月から新たに五名雇い、交代制にして現在の負荷を分散させる予定です。詳細はお配りした薄板の資料をご覧ください――会計長、早く植物紙の量産をお願いしますよ。薄板は量があると重いし嵩張るし大変です」
思わず出た文官の言葉に、会計長が苦々しい表情を浮かべる。
研究結果の一部はヒントとしてアスカ姫から提示されているものの、検証と試作、量産体制の確立まではなかなか追いつかないのが現状だ。
「――善処する。これでも二交代で試作しながらやってるんだ。需要が多いのは分かるが、魔術師や錬金術師にこれ以上仕事を振ることも出来ん。
ハンネがスカウトしてきた卒業生や院生を再教育後に一人か二人回してもらえれば、少しは状況が改善するかも知れんが」
「ハンネが連れてくる人数が分からんし、教育を姫にお願いしてお任せするにしても一年程度は見るべきだろうな……別口で王国の貴族領に派遣している部隊からの連絡は?」
「芳しくありませんね。姫様の側仕えからの紹介状を持たせた班の一つは、魔術学院を出て貴族家の経営を手伝わされている魔術師と連絡が取れたようですが。
その魔術師の実家が貴族家に多額の借金をしているようで、借金の問題が解決すれば引き抜きも可能かと思われます」
「どのくらいある? 金額次第だが、可能な額ならこの場で決済するぞ。内容次第では団長承認もすぐに下りるだろう」
「午前中届いた手紙では、金貨で五十枚から六十枚程度のようですね。東部のヤルヴァ士爵家の寄親に当たる家に仕えている若い女性の魔術師で、借金の問題さえなければ家を出ても問題無さそうです。
借金を作った親は数年前の流行病で病死しており、弟妹は幼いうちに亡くなったとのことで身寄りはありません。学院での成績は優秀だったようです」
内容を確認して顔を向ける会計長に、団長が小さく頷く。
「よし、ここで書類を書いていけ。支度金と合わせて七十枚までは即金で出そう。
王都で金を引き出すなら、使い魔に引換証を持たせる。半月後に子爵領の先へハンネたちの迎えの部隊を出すから、それに合流できるように動いてくれ。ああ、文官を一人乗せて身上書を書かせておけよ」
その会計長の一言で、女性魔術師の雇用が決まった。
現在の赤獅子の槍はある種の軍産複合体だ。
傭兵業という武力や町の防衛が主体となる事業を持ちながら、民生品や魔術具の生産販売、素材や食料品の研究開発、建築やインフラなどの設備構築にも関わっている。
町への人の出入りについても調査を行っていることから、政治面でも大きな影響力を持っていると言えるだろう。
団の下部組織の一部は直営商会を置いて管理しているものの、他の小規模な傭兵団を直近の二ヵ月で三つ吸収しており、団本部だけ見ても職員・構成員は二百五十名を超えている。
水道の組合や傘下の商会、提携している農家や畜産委託の家など末端まで含めれば、四百人を超える巨大な組織となっていた。
人口二千人に届かんとする辺境の町の約五分の一だ。
組織が大きくなったことに付随する問題もある。
建築途中の新館に収容しきれない団員の住居は従来の宿や住処に分散させ、新館へ設備を移設後に本館を取り壊し、その場所を再整備して来年の春以降新たな建屋を建設する予定だ。
女性の傭兵や魔術師も六人ほど増えているが、こちらは一時的に一階の部屋を使わせており、ハンネの帰還に合わせて女子棟の増築を予定している。
既にロヴァーニの町に住居を持っている者はそちらに住み続けても問題ない。
高台にある本部まで歩いて通えば良いだけだから、別の傭兵団に移ってルールが多少変わっても、生活そのものが激変することはないのだ。
「組織自体が大きくなっているから、その分散と管理、権限移譲も考えて行かなければならない。団本部と水道組合、直営商会、町の管理を行う部門、農業や畜産を主体とする部門、素材採集と研究を行う部門、道具の製作工房、蝋燭の工房、魔術具の研究と製作を行う部門――それぞれの責任者と意見を擦り合わせたいな」
「本部は団長が今まで通り管轄して問題ないでしょうが、他は大変ですな。職人の他に文官か、官吏志望の者を宛がって組織を作る必要があるでしょう。
ロヴァーニの町の治安維持や政治にも関わりがあるなら、いずれは外交に関する部門も置かねばなりますまい。
これだけ組織が大規模になってくれば任される予算と権限も大きくなるし、責任も伴う。どこかに良い知恵が転がっていませんかな?」
王国の他領から辺境へと隠棲してきた文官が溜め息交じりに零す。
簡単に解決の糸口が見つかるのであればこうして苦労はしていない。
解決策として、アスカ姫の持つリージュール魔法王国の知識や知恵に頼ることも選択肢の一つとして確かに存在する。
しかしこれまで食糧事情の改善や商品の開発、水道敷設や地図の作成、魔術師の再教育などで、団の運営や彼女の庇護に掛かる費用以上の収入を得られるようにしてもらった上、町の体制作りにも関わってもらうのは大人として情けない。
せめて大まかな方針を決め、しっかりとした素案を作った上で姫の意見を伺うのが大人としての責任だろう。
「知恵は我々がまず絞り出す。姫にご相談するのはその後だ。金を出せば解決するものか、人間を引き抜いて宛がえば解決するものか、組織として団から独立させた方が良いかも考えなければならん。
本格的に実行して行くのは雪に閉ざされる冬になってからだろうが、現在の部門の責任者は週に一度くらい集まって、この話を詰めて行こう。秋の終わりまでに姫の意見を伺えるよう、各自素案を考えておいてくれ」
今日はこれで解散、と短く宣言して会議を締めくくった団長は、立ち上がって部屋を出て行く面々を見送りながら、深く長い溜め息と共に椅子の背にもたれた。
従来の王国産の椅子のような直線的な作りではない、骨格や身体の線に沿って作られた柔らかなライン。
背もたれの角度、座面の曲線、長時間座って同じ姿勢でいたとしても腰や腿に負担のかかりにくい傾斜が複雑に絡み合った構造は素晴らしいの一言だ。
先週、新館の会議室や執務室、受付のために用意された新しい形の椅子である。
女子棟では既にこのタイプの椅子に全て置き換えられているが、本館や新館で商人との商談に使う応接室などは旧来の椅子のままだ。
商人たちとの下らぬ駆け引きや交渉に無駄な時間を費やすよりも、本来取り組むべき仕事にこそ時間をかけて集中すべし、ということなのだろう。
「あのスヴェンが大人しく会議に出て座っているくらいだからな……対外的な価値がどれほどのものか、全く想像もつかん」
長い溜め息の後、背筋をぐっと伸ばした団長は、明るく大きなガラス窓の傍に立って中庭を見下ろす。眼下に見える植物紙の工房からは盛んに白い煙が立ち上り、運ばれた木を手斧で細かく割る若者の姿が見える。
訓練場では非番の者や最近入団した者を中心に素振りや模擬戦が繰り広げられ、背丈ほどの鏡の前で型を直されている者も多い。
中庭の向こう、少し高台になった辺りにある女子棟へ続く道の脇では、厩舎前でパウラと名付けられた角犀馬と戯れ、キールピーダやルーヴィウスと一緒に水浸しになっているアスカ姫の姿も見えた。
海に行った時のように水に濡れても良い衣装を着て、石鹸の泡に塗れたパウラをブラシで洗っているらしい。
護衛や側仕えたちは厩舎の側に立てられた腰の高さほどの氷柱を前に涼んでいるのか、同じように洗われた角犀馬を前に談笑している。
時々甲高くも楽しそうな声が響いてくるから、危険はないのだろう。
大人びた姿や未成年とは思えない賢さが目立つアスカ姫の、歳相応の少女らしい姿に思わず頬が緩む。
傭兵団の団長とは思えない金髪碧眼で整った容姿の青年でなければ、後ろ手に縛られて衛兵に連れて行かれそうな光景だ。
「さて……少々怪しい動きもあるようだ。砦と防壁の整備は急がせないとな」
呟きながら先程の会議では伏せていた報告書を一枚取り上げる。
王国東部と北東部を中心に夏の旱魃を原因とした大不作が確定したという知らせは、会議の直前に王都から齎された。使い魔による速報だが、貴族学院時代の友人からの連絡なので間違いはないだろう。
一方、辺境にありながら徐々に豊かな土地となりつつあるロヴァーニは、どこの国家の版図でもなく、独立して在り続けている。
実際に何かが起こるとすれば、収穫が確定する秋以降か、食糧の決定的な不足が顕在化する来年の春先だろう。雪に埋もれる冬に行動を起こすのは自殺行為だ。
春先に邪教の信奉者から救出したアスカ姫は至宝として守り抜かねばならない。
多くの従者を一度に喪いながらも気丈に振る舞い続け、新しい文物を齎し、団員や町の者たちに笑顔を齎し続けている少女を、彼自身も好ましく思っている。
周囲に危険が迫っているならば、それを取り除くのは彼らの仕事だ。
団長は会議室の後片付けをする文官たちの姿を視界の端に収めながら、パウラに頭を擦り寄せられて黄色い声を上げているアスカ姫の姿を見つめ、右の拳を硬く握り締めた。
会計長 マイニオ・レフトラ
役職名は長く出ていたけれど、ようやく名前が初登場。一応三十代前半で、固太りの濃い茶髪がふさふさな男性です。最近は抜け毛が気になるけれどふさふさです。意外にも弓が得意だったりします。
会議中に名前が上がったヤルヴァ士爵家は、後から合流した料理担当の側仕え・リスティナとリューリ姉妹の実家です。寄親は比較的まともでも、中には碌でもない者も紛れています。
作中の金貨一枚での生活感覚は第4話終盤でも一部言及しています。独身なら一月(四十八日)で金貨一枚から一枚半、家族持ち(五人くらい)なら金貨二枚半もあればかなり裕福な暮らしが出来ます。農村部や平民なら月収が小銀貨~大銀貨数枚という家庭も。
魔術具は知識・技術・素材とも高価な代物です。




