第7話 孤独な玉座、小さな王の四年
俺が自らの手で魔物を生み出し、そして破壊する日々を始めてから、四年という歳月が流れた。
二歳になる頃には、俺は流暢に言葉を操り、両親を驚かせた。
三歳になる頃には、父の書斎にある全ての蔵書を読破し、この世界の歴史、魔法理論、政治体系を知識として吸収していた。
四歳になる頃には、俺のステータスは、もはや自分でも正確な数値を把握するのが億劫になるほど、天文学的な領域に達していた。
だが、その成長は、輝かしい栄光とは程遠い、孤独で、ひたすらに地道な作業の賜物だった。
庭の片隅、両親の目から隠れた秘密の場所。そこが俺の玉座であり、修練場だった。
『クリエイト』
呪文を唱えると、足元の土が意思を持ったように盛り上がり、俺と同じ背丈のゴーレムを形成する。それは、もはやただの人形ではなかった。四年の歳月は俺の魔法を洗練させ、生み出される魔物は、まるで本物の生命のように滑らかな動きと、硬質な輝きを宿していた。
そして、俺はその「作品」に向かい、ただ拳を振るう。
ゴッ!
硬質なゴーレムの胴体に、赤子のものとは思えぬ拳がめり込む。衝撃はない。ただ、俺のフィックストアタックが、その存在を内側から崩壊させる。ゴーレムは悲鳴を上げることもなく、砂の城のように静かに崩れ落ち、土へと還っていく。
これを、来る日も来る日も繰り返した。
最初のうちは、数体壊せばレベルが上がった。ステータスが「+1」されるたびに、確かな成長を実感できた。だが、レベルが10を超えたあたりから、その道は茨の道へと変わった。
レベルアップに必要な経験値は、指数関数的に跳ね上がっていく。一体倒して得られるステータス上昇は、焼け石に水。千体を壊しても、一万体を壊しても、見える景色は変わらない。それは、魂をすり減らすような、狂気の沙汰にも等しい作業だった。
時折、ひいおじいちゃんが訪ねてきては、俺の魔法の進境に驚愕し、そして心配そうな顔をした。
「スタンよ……お主は、何をそんなに急いでおるのじゃ?」
俺は、ただ笑って「強くなりたいんだ」と答えるだけだった。愛する家族に、この世界の歪んだ真実を話すわけにはいかない。呪いに蝕まれ、人間に虐げられる魔族の未来。それを知っているのは、この世界で俺だけなのだから。
そして、俺は五歳になった。
鏡の前に立つと、そこにいるのは、まだあどけなさの残る小さな子供だ。だが、その瞳の奥には、年齢不相応の覚悟と、途方もない力が揺らめいているのが自分でも分かった。
今日は、五歳になった魔族の子供が、公式な能力鑑定を受ける日。
この四年間の成果が、白日の下に晒される。俺の孤独な戦いが、果たして無駄ではなかったのか。その答えが出る日だった。