第6話 血の才能と創造の初産
翌日、ひいおじいちゃん──ジャレアが我が家を訪れた。
「おお、スタン!ワシを呼んでおるのか!ひ孫というものは、孫以上に可愛いものじゃのう!」
「ジイジ!」
俺が片言で呼ぶと、ジャレアは顔をくしゃくしゃにして喜んだ。
一通りの談笑の後、ジャレアは俺に魔法を教えてくれることになった。
「スタンよ、魔法に興味があるのか。よし、このワシが直々に手解きしてやろう!」
隣の部屋に二人きりになると、ジャレアは言った。
「まずは、無属性の魔力コントロールからじゃ」
「それはもう、できます」
俺はそう言う代わりに、念話に近い形でジャレアの頭に直接意思を送り、同時に手のひらに魔力を集めて見せた。
ジャレアは、目玉が飛び出るのではないかというほど驚愕した。
「なっ……!?お主、既に魔力コントロールを会得しておるのか!それどころか、このワシに念話じゃと!?」
俺は畳み掛けるように、机の上の鉛筆を魔力で操り、紙の上に文字を綴った。
『空気中の魔素を、魔力に変換する方法を教えてください』
「……文字まで書けるじゃと……。なんという子じゃ……。この子は、紛れもない天才じゃ!よぉし、分かった!ワシの知る全てを教えてやる!血が騒ぐわい!!」
興奮するジャレアに、俺はもう一つお願いをした。
『あと、土魔法で、動く人形の魔物を作りたいです』
「動く土人形?できんことはないが……何に使うのじゃ?」
『遊びます』
本当は、フィックストグロウの経験値稼ぎのためだが、さすがにそれは言えない。
ジャレアの指導は、的確で分かりやすかった。
「まず、魔力を目に集中させ、空気中に漂う魔素の粒子を知覚するのじゃ」
言われた通りにすると、世界がキラキラと輝く紫色の光の粒で満ちているのが見えた。
「次に、それを呼吸と共に体内に取り込むイメージを持つ。あるいは、皮膚から吸収するイメージでもよい。自分に合った方法を見つけるのじゃ」
俺は、呼吸と皮膚からの吸収、その両方を同時に行うイメージを描いた。すると、体の中が温かいエネルギーで満たされていくのが分かった。
『スキル:魔力感知 LV.1を習得しました』
『スキル:魔力変換 LV.2を習得しました』
「……一度に二つの方法を会得しおったか。やはり、お主は規格外じゃわい」
ジャレアは呆れながらも、嬉しそうに笑った。
翌日、俺はジャレアから上級魔法『クリエイト』を教わった。
「この魔法は、術者の想像力と魔力量が全てじゃ。まず、地面に手を触れ、作り出すものの形、動きを明確にイメージする。そして、魔力を注ぎ込み、形を与えるのじゃ!『クリエイト』!」
ジャレアがそう唱えると、地面が生き物のように蠢き、みるみるうちに人型のゴーレムが立ち上がった。
次は、俺の番だ。
俺は魔力変換でMPを回復させながら、地面に手を置いた。イメージするのは、前世の記憶にある、孤高の獣──狼。鋭い牙、しなやかな体、風を切って走る姿。その全てを、明確に。
「――クリエイト!」
俺の魔力に呼応し、土が盛り上がり、一匹の土の狼を形作った。ジャレアのゴーレムより、遥かに精巧で、生命力に満ち溢れている。
『スキル:土魔法 LV.2を習得しました』
「……一発で、成功させおった……。それも、これほど見事な造形とは。お主の想像力は、どうなっておるのじゃ……」
ジャレアは、もはや驚きを通り越して、畏怖の念すら浮かべていた。
ジャレアが帰った後、俺は一人、庭に残された。目の前には、俺が生み出した土の狼。
俺は、それに歩み寄ると、一言「ごめんな」と呟き、その頭を殴りつけた。
ドカッ!
狼は、粉々に砕け散り、ただの土塊へと還っていった。
胸に、ちくりと小さな痛みが走る。命なき人形とはいえ、自ら生み出したものを壊すのは、気分のいいものではない。だが、これも強くなるためだ。
俺はステータスを確認した。全ての能力値が、確かに「+1」されていた。
ここからだ。俺の本当の戦いは、ここから始まる。
俺は、何度も、何度も、土の魔物を創造し、そして破壊し続けた。愛する家族を守れるだけの、絶対的な力を手に入れる、その日まで。