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転生したら魔族の子  作者: ヤッサン
魔族の息子
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第3話 魔王様は美のライバル

 生まれて十日が過ぎた。俺の鑑定スキルは、身の回りのものを手当たり次第に鑑定していたおかげで、いつの間にかレベル3まで上がっていた。

 そして今日が、魔王様に謁見し、正式な鑑定を受ける日だ。

 母さんのカトレアに抱かれながら、俺は壮麗な城の廊下を進んでいた。磨き上げられた床、壁に飾られた豪奢なタペストリー。何もかもが、俺たちが住む家とは別格だった。

「あら、スタン。起きたのね。もうすぐ謁見の間ですわよ」

 母さんの声は優しいが、その表情は少し緊張しているように見えた。

 道中、すれ違う衛兵や文官たちが、皆一様にこちらに視線を向ける。いや、正確には俺ではなく、俺を抱いている母さん、カトレアに。彼女の美しさは、それほどまでに人の目を引くのだ。腰まで届く滑らかな金髪をポニーテールにし、少し垂れた優しい瞳、通った鼻筋に、艶やかな唇。体にフィットした、東方の民族衣装を思わせるドレスは、彼女のスレンダーながらも出るところは出ている完璧なスタイルを、嫌味なく際立たせていた。

(称号にあった『魔族ビューティーコンテスト1位』は伊達じゃないな……)

 衛兵!見惚れてないで仕事しろ!俺は心の中で喝を入れた。

 やがて、ひときわ巨大な扉の前にたどり着くと、ローブを纏った威厳のある老人が俺たちを迎えた。

「よく来たな、ギタン、カトレア。魔王様がお待ちかねじゃ」

「お久しぶりですわ、おじい様」

「おじい様!?」

 思わず声が出そうになった。この威圧感のある老人が、母さんのおじいちゃん?つまり俺のひいおじいちゃんか!

 すかさず鑑定を発動させる。

 ====================

 名前: ジャレア

 種族: 魔族

 職業: 魔王の右腕

 レベル: 600

 称号: 魔王の側近 苦労人 カトレア溺愛親父

 ====================

 ……レベルもステータスも桁が違う。そして称号。『カトレア溺愛親父』? ああ、カトレアの父親、つまり俺の祖父か。道理で母さんに甘いわけだ。

「この子がスタンか。カトレアによく似て、可愛らしい顔立ちじゃのう」

「俺には似ておらぬか?」

 父さんが口を挟むと、ジャレアは心底嫌そうな顔をした。

「お前に似なくて、心から安堵しておるわい!」

「まあ、お父様。この子の精悍な眉は、あなたにそっくりですわ」

 母さんが取りなすと、ジャレアは「そうか?」と途端に機嫌を直した。単純で助かる。

 重々しい音を立てて扉が開かれる。謁見の間は、途方もなく広かった。その遥か奥、玉座に座る一人の女性を除いては、誰の姿もない。

 長い絨毯の上を歩き、玉座の前に着くと、父さんと母さん、そしてジャレアが深く頭を下げた。

「魔王様、お連れいたしました」

「うむ。久しぶりですね、ギタン、カトレア。そして……」

 玉座から降り立った魔王様は、俺の顔を覗き込むと、ふわりと微笑んだ。息を飲むほどの美人だった。母さんが陽光の下で咲き誇る花なら、魔王様は月光を浴びて輝く夜の花だ。気高く、それでいてどこか儚げな美しさ。

「あなたが、スタンですか。可愛らしい子」

「ご無沙汰しております、魔王様。ビューティーコンテスト以来ですわね」

 空気が変わった。母さんが、完璧な笑顔で宣戦布告とも取れる挨拶をしたからだ。

「ええ、あの時はあと一歩のところで、あなたに栄冠を奪われてしまいましたから。実に悔しかった」

 魔王様も、笑顔で応じる。

「あら、私とはたった一票差でしたのに。もし私の夫が魔王様に入れていたら、結果は逆でしたわ。まあ、その場合は即刻離婚でしたけれど。おほほほほ」

「ふふふ。次は負けませんわよ」

 女同士の間に、見えない火花が散っている。父さんとジャレアは青い顔で俯いていた。怖い。本当に怖い。

「あ、あの、魔王様!本日は息子の鑑定をお願いしたく、参上いたしました!」

 父さんが、場の空気を変えようと必死に声を張り上げた。

「おっと、そうでしたわね。では、始めましょうか。ジャレア、鑑定石を」

「はっ!」

 魔王様が鑑定石に手をかざし、厳かに告げる。

「――鑑定」

 水晶に、俺のステータスが映し出される。だが、魔王様の表情が、わずかに曇った。

「……ふむ。これは……。ステータスはALL3。魔族の赤子としては、あまりにも低い。これでは、城の外のスライムにも勝てないでしょう」

 父さんと母さんの顔に、失望の色が浮かぶ。

「しかし」

 魔王様は続けた。

「スキルは素晴らしいものを持っていますね。『鑑定』レベル3に、『言語翻訳』がレベルMAX。そして……『フィックストアタック』と『フィックストグロウ』。どちらも私が知らないユニークスキルです。ですが……奇妙なことに、この二つのスキルの詳細を鑑定しようとすると、私の力が弾かれてしまう。これほどの鑑定妨害を持つ赤子は、私が魔王になってから初めて見ました」

 その言葉に、場の空気が一変する。

「なんと!魔王様の鑑定を弾くじゃと!?」

 ジャレアが驚きの声を上げる。

「ええ。この子は、ただの落ちこぼれではない。むしろ、底の知れない可能性を秘めた、とてつもない逸材やもしれません。ギタン、カトレア。この子を大切に、そして正しく導きなさい。いずれ、魔族の未来を担う存在になるかもしれませんよ」

 魔王様の言葉に、父さんと母さんは顔を見合わせ、力強く頷いた。

 謁見が終わり、城を後にする。俺の二度目の人生は、どうやら「固定」されたものではなく、波乱に満ちたものになりそうだ。

 面白い。実に、面白いじゃないか。俺は母さんの腕の中で、誰にも気づかれないよう、小さく笑った。

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