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黒の令嬢 ケース:メスライオン

作者: 背兎

 二本同時投稿です。

 私がこの世界が前世で遊んだ女性向け恋愛ゲーム、通称乙女ゲームの世界だと気付いたのは物心つく三歳の頃。お母さんに名前を呼ばれながら鏡に映った自分の顔を見て全てを思い出したの。

 名前はマリー、ドット侯爵家の次女で、ヒックス第二王子の婚約者。ゲームでの役割は悪役。ヒロインの邪魔をし、いじめ、最後には断罪されてステージを下りる、そんな役目。

 冗談じゃないわ。これでも前世ではメスライオン(男を狩る様から)と呼ばれていたのよ。そんな私が男を寝取られて泣き寝入りなんてありえない!!

 だから私は私なりのやり方でヒロインを潰す事にした。




 時は流れて十七歳の冬。この国の全ての貴族が通う学校の卒業式で、ヒロインであるフィアが攻略対象の男たちを連れて私の前に現れたわ。私を断罪するために。

 卒業式に参加した生徒、教職員、保護者、来賓が観客として私たちを遠巻きに見ているわ。


「以上だ。何か申し開きはあるか!」


 私の正面に立っているのはヒックス王子。短い金髪が正に王子様って感じの男ね。

そして、彼の右腕にしがみついている小動物みたいなピンクのロングの女が、ヒロインのアンナよ。人畜無害そうな顔をしているけど、間違いなく私と同じ肉食獣タイプ。


「ほんと、おっそろしい女だなー」


 この品の無い口調の男はグレン。騎士団のエースの片割れで健康的な容姿と人懐っこい性格が人気があるの。まだ新人なのに騎士団長も夢ではない実力、なんて言われていてゲームのエンディングでは立派な騎士団長姿が見られるわ。


「こんな娘を育てたとあっては侯爵の株も地に落ちましたね」


 そういって眼鏡の位置を直す彼はエドモンね。この学校で三年間主席をキープし続けている秀才君。普段は冷たい言動を取るけど、一度仲良くなった相手には弱い部分を見せてくれるようになるわ。


「アンナをいじめないで」


 最後となる四人目、ブルーク。まるで小学生のような見た目だけど歴とした十七歳。学校で魔法を研究していて、将来は王宮勤めが約束されているわ。まあ、魔法って言ってもこの世界のは火を起こしたり、風を吹かせたりするのが精一杯で他のゲームみたいに火の玉を飛ばすとかは難しいみたいね。


「もう一度聞こう、申し開きはあるか!」

「わたくしは……その……」


 もう、私ったら演技が巧いんだから。これなら女優も目指せるんじゃないかしら。

 そろそろクライマックス。ヒックス王子から婚約破棄が言い渡されるはず。


「もういい。私はマリー、君との婚約を破棄してアンナを妻に迎える。私のプロポーズ、受けてくれるかい」

「ヒックス王子……もちろんです!」


 嬉しそうに目尻なんか拭っちゃって。あの子もなかなか演技派ね。でも、それでこそ私の敵にふさわしいわ。


「そ、そんな……」


 私も負けじと、目から涙を一筋零しながら、膝を地面につく。これで舞台は整ったわ。


「そこまでだ!!」


 制止の声を上げ現れたのはこちらも4人の男性。先頭を歩く長い金髪のキラキラフェイスが私の手を取る。


「マリー、一人で何とかしたいと言うから手は出さなかったが頑張りすぎだ」

「兄上!?」「フランツ!?」「先輩!?」「先生!?」


 さあ、逆転劇の始まりよ。


 現れたのはまずヒックス王子のお兄さん、つまり第一王子ね。続いて騎士団のもう一人のエースのフランツ君、グレンとは凸凹コンビとして有名よ。そして二年前に卒業したエドモンの憧れの先輩に、ブルークの幼い頃に魔法を教えてあげた先生。詳しい名前は覚えてないから省略するわ。あっ、もちろん全員独身よ。

 彼らを見てアンナの取り巻きは顔を青くさせている。なのにアンナは何が起こっているのか分らないって顔をしているわ。


「兄上……なぜここに? 今日は政務でここには来られないと言っていたのに」

「お前が何やらよくないことを企んでいると耳にしたのでな。今度はこちらが聞かせてもらうぞ。ヒックス、卒業式の場でいったい何をしている?」

「マリーがアンナに行った悪事を白日の下にさらしているのです」

「悪事、か。先ほどマリーを問い詰めていたことだな」

「そうです!」


 兄上なら話を聞けば分かってくれるはず。そうヒックス王子の顔に書いてあるわ。兄王子は私の味方だってーの。


「それなら私も調べさせてもらった。だが、私の調べではマリーに怪しい点は見つからなかったそ!」


 私が命じてやらせたんだけど、ねぇ。


「そっ、そんなはずは……」

「なんだ? 私が調査した結果よりもお前たちがやった調査ごっこの結果が正しいとでもいう気か」


 その通りですよぉ。


「……いえ、そのようなことは……」


 はい、ヒックス王子撃沈。他のイケメンたちはどうかしらん。


「一人の女性を寄って集って追い詰めるなど騎士のすることではない。常々お前の言動は騎士団に相応しくないと思っていたが、今回は度を超えている!!団長に報告させてもらうぞ」

「そんなつもりじゃなかったんだって」


「君ならその知識に則った正しい判断ができると思っていたのに。失望したよ」

「僕は間違ったことはしていません」


「ブルーク君、僕は君の教育を失敗してしまったんだね」

「そんなこと言わないで、先生」


 おお、怒られてる怒られてる。あんな女に騙されなきゃこんな目には合わなかっただろうに、自業自得よねー。私が言える立場じゃないけど。


「――の罪でアンナは国外追放、他のものは追って沙汰を出す」


 おっ、アンナの断罪が終わったわね。そろそろ兄王子が告って来るかな?


「マリー、このような目に合わせて本当にすまなかった。君のこれからの人生私に守らせてはもらえないだろうか」


 ふふふ、来た来た来たーーー。やっぱりイケメンからの告白はたまらないわね。

 ……でーもー。


「すみません。お断りさせていただきます」


 もっと面白いこと見つけちゃったのよね。


「なぜだ!? 私はこんなにも君を愛しているというのに」

「今回、確かにヒックス王子たちがやったことですが、その原因は私にもあると思うのです。私がもし、王子と結ばれても、いずれは同じような事件を起こしてしまうことでしょう」

「そんなことはっ……」

「ですからっ!! ですから私もこの国を出て行こうと思います。私とアンナ様は同罪なのですから」

「マリー……」


 なんつってね。貴族の嫁になって窮屈な思いはしたくないってのが本音。この国を出たら、イケメン狩りの旅のスタートよ。




 というわけで、国境を越えて隣の国へ。ライバルだったアンナも一緒よ。


「なんでマリー様まで……」


 気の毒そうにしてるけど、本心では邪魔だとか思ってそうよね。


「芝居はもう結構よ。素で行きましょう」

「そう? わかったわ。それじゃあ……なんてことしてくれたのよ!! 折角後ちょっとでお妃様になれたのに!!」

「あら? そんな退屈な生活で満足できるの?」


 アンナはいまいち理解できてなさそうね。少し説明してあげましょうか。


「いい。王妃や貴族の妻になったって毎日お茶を飲んで、奥様仲間とお喋りして、旦那と寝ての繰り返しよ。そんな生活するくらいだったら平民になって自由気ままに遊んだほうが楽しいと思わない?」

「……それは……確かに」

「でしょ。それに、私とあなたって割と似てると思うのよ。どう? 一緒にイケメン狩りに行かない?」


 アンナはほんとに少しだけ考えてから、私に笑顔を向けてきた。ふふふ、聞くまでもなさそうね。


「それじゃあ行きましょうか!」

「うん、楽しくなりそう! そうだ、何か目的決めない?」

「それなら、平民から貴族の愛人でも狙ってみましょうか」

「あえてそこ狙う? でも、それも面白いかも!」


 世界中のイケメン達よ、今から行くから男を磨いて待ってなさーい!!

 こっちのコンセプトは正に”悪”です。

 楽しんで頂けたでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 異世界の叶姉妹、爆誕! …ですか?
[良い点] こざっぱりした悪党で善いですね どっちも悪女というのが面白い [一言] いい加減悪役令嬢とヒロインが対立するのにも飽きてた所なのですかっとしました
[一言] 根本がクズな所がいいですね。 快楽主義者な主人公は結構好きです。
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