第一話 風の首巻き
西洋の童話、寓話をベースにした風のストーリーが、絵本世界に変えていく。主役を高齢化させた若者に負けないタフさを表しているストーリー。老若男女が楽しめる工夫がとれているのかは、世界に引き込まれた『あなた』が決めてほしい。
とある小さな町。五十年間古びたアパートで、小さな老婆がひっそり暮らしていた。
独身生活を半世紀も過ごすと、退屈なんてしないものだ。老婆は常日頃からそう思って、所帯を持つことをやめた。
「ごきげんよう、ウインドマフラーさん。ご無沙汰ね」
隣近所の三十代くらいの若奥様……スウイーティアが海外からこの町に帰宅してきたので、土産渡しをしようと、近所の知り合い宅へ廻りに来た。
海外土産の菓子を手渡すと、ウインドマフラーと呼ばれる老婆は、たいそう嬉しそうに受け取った。
「スウイーティアさん、そんなこと良いのに……まあ、ありがたくいただくわ」
「ウインドマフラーさんは、ご家族はどうされました?」
「私を置き去りに遠くの黄金世界へ旅立ち、もうここへは帰ってこないのよ。だから、もう一人で過ごすなんて、慣れましたわ」
訪れてくる者が、たびたび老婆にこう質問すると黄金世界へ旅立った返答ばかり聞かされる。
とうに他界した身内を飛躍的に表現していたのだ。
あの世が黄金世界だなんてファンタジックな思考を発する老婆だろうか。
死の言葉を遠ざけるのに比喩は必要不可欠。
黄金世界に置き換えるのは、まんざらおかしくはない。
スウイーティアは、次の知り合い宅まで移動していった。
「では、またウインドマフラーさん、お邪魔しました」
「いいえ~、お構いなく」
老婆は、冬でもないのに外出時に首巻きをかけて、暴風ではなく、ただの風にあおられそうな身軽な体つきで、町中の住民からは『ウインドマフラー』と呼ばれることになり、まずは本名では呼ばれることはなかった。
ウインドマフラーそっくりのお尋ね者の老婆が存在した。
彼女に似た女はヴァガスという名で、ある日に組織が狙っていた『世界の根っこ』、別名『メガルーツ』を珍しい果実のクォーツベリーと勘違いして持って行ってしまったのだ。
ヴァガスが指名手配されたあと、まさか事件がまるでないウインドマフラーの住む町へと逃げ込んだという。
組織『サムハンターズ』。狙ったハンティングターゲットは逃がさないがモットーの団体。リーダーのホラールド率いる六人組の外回り営業者である。
ウインドマフラーのアパート裏には、広い田畑がある。その畑にヴァガスが逃げ込んだので、偶然、散歩中のウインドマフラーがサムハンターズに目をつけられてしまったのだった。
組織の一人ターハルプは、ホラールドに告知した。
「お頭、ヴァガスらしきババアを見ました。私を単独行動させてください」
「ターハルプ。おめー、でかいことを抜かすが、出来るのか?」
「もちろんですとも!! 私に策があります。ゆえにお任せあれ」
「自信満々だな……ならば、おめーに任せた。行ってこい!!」
一方、ウインドマフラーは、ヴァガスと鉢合わせになった。
「あたしがもう一人?」
「ひええ~、あなた、この町の人かい?」
「そうだけど……あんた、その慌てぶり、追われているのかい?」
「悪いこと言わない。関わり持つとあなたも目標にされる。見なかったことにして、私をこの町から出しておくれ」
「そうは行くものか。関わった以上、あたしに任せな。なんとかするさ」
「あなた、死んじまうよ」
「こう見えても、タフなんだよ。百回倒れようが簡単には死なないよ!!」
ターハルプの対策。このために密かにメガルーツのダミーを本物そっくりに作らせる業者に頼んで用意させたのだった。
そのダミーをアパート裏の田畑に落としたという。わざとらしく大声で叫んでみせた。
「ああ! こんなとこに、メガルーツが転がってるぞ?」
首を突っ込んだ二人の老婆。ウインドマフラーは、ヴァガスになりすまして外出しだした。




