召喚状と拉致(6)
「お帰りなさいませ、旦那様、エレオノーラ様」
ずらりと並ぶ人たちが一斉に頭を下げる光景を見ながら、ヒクリと頬を引きつらせる。
隣では老いを上回る鋭い気配を纏った御方が、日常的なものとしてそれを受け取り、屋敷内へと歩を進めようとしていた。
ここに来るのは二度目だ。前回と違うのは、もはや私が客ではないということ。
そもそもどうしてこうなったかというと、つまりは……うん。住処を奪われた。
それを知ったのは、ひとまずの話は終わったとアシル様が仰り、大部分は精神的に疲労困憊だった私が、ならばと退去を願い出た際だ。
些細なイタズラをばらすかのように、アシル様とジャンが揃って訪ねてきたのである。どこに向かうつもりか、と。
もちろん私は、黒騎士の宿舎と答えたさ。
すると二人は、とんでもないことを口にしてくれた。〝そろそろ引き払い作業も済んだ頃だ〟という言葉の意味を呑み込むより早く剣を抜いてしまったが、誰が反省などするか。
あの時の楽しそうな表情を思い出すだけで、手配犯の十人や二十人は軽く捕まえられそうな気がする。
そうして私が再び暴れようとして、エドガー様に羽交い絞めにされているところで登場したのが総騎士団長だった。
閣下は一言、私に対して「帰るぞ」と告げ、部屋の状況などお構いなしに背中を向けた。
で、シール家の屋敷に連れてこられたわけだ。さらに言うと、現在私は、それはもう苛立っている。
謁見からずっとそうだと指摘されれば否定はできないが、ともかく。どれだけ質問を投げかけようが、閣下はまったく反応しなかったのである。城の廊下を歩きながら逞しい背中へと説明を乞うた時も、馬車の中でこれでもかと詰め寄った時も、一切私と目を合わせずにだんまりを決め込んでくれた。
私だって初めは、仕方なく認めるだけで、内心では拒絶どころか殺意を抱いていたりしてとか、お互いに被害者だから困惑しているのかもしれないなとか、そんなことを考えていたさ。
けれど、延々と無視されれば、さすがに堪らない。
そもそもとして、説明もアシル様に任せるでなくこの人がすべきだったと思う。私みたいな人間に一族の名前を預けることになってしまったのなら、なおさら図に乗らないよう――乗るつもりも、乗り様もないが――とことん釘を刺すべきだ。
しかし現実は、会話すら成立しない。
そして、決定的な事が起こった。
「カティア。答えられる説明には全て答えてやれ」
「お言葉ですが、旦那様――」
「任せたぞ」
「あっ、お待ちください!」
「旦那様!」
丸投げである。それはもう、見事な丸投げだ。カティアさんだけでなく、家令の方も慌てて追いかけるが見向きもしない。
その背中を眺め、頭の血管が切れる音がした。比喩で済めば良いが、本当にそうなっていそうなぐらい、ブツッという不穏な響きが聞こえた気がする。
いつの間にか駆け出していた。手を伸ばせば捕まえられる距離まで近付くと、鏡の代わりになりそうなほど磨かれた床を蹴る足が自然と上がる。
「ぐっ――?!」
そして、短い呻きが聞こえた後、非常に気まずい沈黙が落ちた。
当然だろう。金獅子の再来と称される総騎士団長であり国王陛下の剣、さらには騎士の中で一目を置かれるほどの家、その当主が背中から飛び蹴りをくらって床に倒れたのだ。
しかし、そんなこと知るか。普段ならば全力で年寄りは労わるが、さすがに限度というものがある。
私は、王太子殿下すら殴れる女だ。本能に従った方がマシだと、この人の愛弟子から保証もされてるしな。
「だ、旦那様?!」
「お怪我はございませんか?!」
真正面ではカティアさんと家令の方が慌てふためき、背後で他の使用人が戦々恐々としながらも、非難の視線を送っているのがはっきりと分かった。
とはいえ、ここで引く私ではない。というか、ここからが本番だ。
「その顔に付いてる口は飾りか、ああ?」
だって、お互いに受け入れ難くたって、祖父と孫ならそりゃ喧嘩ぐらいする。――そうだろ?
関わることを強いられたのなら、衝突してでも距離を測っていかなければ、息を吸うのも難しくなってしまう。
私にとって家とは、飾らない自分を出せる場所のこと。だから今のままでは、この屋敷へは邪魔をしに来ているだけだ。
けれど閣下は、私に対して『帰るぞ』とそう言った。それだけを言ったのだ。
連れていくと表現しなかったのを偶然だとは思わない。それはカティアさんのおかげであり、こうして閣下に危害を加えた私へ怒りを抱く人が多くいるからだ。
ただし、それが限界である。私には、その一言に隠された想いを汲み取る力が無い。私たちには、参考にできるほどの共有した時間など存在しない。
あるのはきっと、多くの誤解と勝手な解釈と、あほらしい遠慮ばかり。
「今までの私は、あんたのことが大嫌いだった。騎士としては尊敬していたが、母さんの父親としては仇の次に憎んでいたぐらいだ」
「エレオノーラ様、お言葉が過ぎます!」
「でもそれは、顔しか知らない、話したことのないあんたに対して持っていた感情であって、これからもそうだとは限らない」
カティアさんの制止を無視して言葉を紡げば、周囲の助けを拒否して閣下が身体を起こし始めていた。
「理解し合わなきゃ生きていけねぇとは言わねーよ。ただな、せめて最低限の意思ぐらい、自分の口で言葉にしろ! 私が望んでここに来ていると本気で思ってんなら、その頭かち割んぞ!」
大きな肉体がのっそりと動き、首を回して派手に骨を鳴らす。
とんでもないことをしている自覚は、微弱ながらある。だから今の内にと、不意に思い出したことも言っておいた。
「それと、言えずじまいだったが、半年前は世話になった。感謝する!」
すると閣下は、背中を向けたままで額に手を置き、天井を仰ぐと、いきなり豪快に笑いだした。
やばい、打ち所が悪かったか? それとも、怒りすぎておかしくなったとか。空気が震えるほどの笑い声とか初めて聞いた。
よほど珍しいことなのか、周囲も目を丸くしている。
「ここまで無様に後ろを取られるなど、新人の頃以来か。くくっ、儂も老いたものだ」
やっと聞こえてきた言葉らしい言葉は、どこか自嘲気味だった。
振り向いて私を見た時の視線があまりに鋭かったせいで、反射的に剣を抜きそうになってしまう。
しかし、閣下は飛び蹴りについて、直接何かを言ってくることはなかった。
「お前の名は、今日より正式にレオとなった。しかし、儂も屋敷の者も、お前のことを一生、エレオノーラと呼ぶ」
さらには怒鳴り声ですらなかったのだ。
拍子抜けというか、逆に自分が物凄く最低なことをした気分になってくる。
「ついて来い」
そんな内心を知ってか知らずか、閣下は何事も無かったかのように告げ、歩き出した。
なんというか、どこまでも自分本位なしゃべり方をする人だ。
でも、この困惑した空気は少しだけ懐かしいかもしれない。母さんの突拍子のない発言に、私と父さんもよく顔を見合せてたっけ。
カティアさんと家令の方がいち早く立ち直り、私を急かしてきた。その表情には、呆れと苦笑が混じり合っている。それが誰に向けられているのかは言わずもがな、もちろん私である。
そして、背中を追って通されたのが、閣下の私室らしきところだった。
「そこへ座れ」
「……失礼します」
上質なソファーに身を沈めながらも、今更になって顔が見れない。
謝るつもりはないけどな!
傍から聞こえる物音に手伝った方が良いのだろうかと思うくせして、口を開くどころか微動だにできない私はどうせ頑固者だ。
すると目の前のローテーブルの上に、酒瓶とグラスが二つ置かれた。
さらには、控えめなノックの音が響く。
「入れ」
「失礼致します」
誰かと思えば、家令の方とカティアさんが揃って現れ、手早くつまみやら水やらが用意される。
なんだこの息ぴったり具合。疎外感が半端ない。
そう思いながらも、視線は酒瓶に釘づけだ。返事もおざなりになってしまう。
「酒が好きらしいな」
「えぇ、まあ……。それなりに」
「マクファーレンが呆れるほどでありながら、それなりと申すか」
おかげで、閣下をまた笑わせてしまった。
でも、だってこれ、めちゃくちゃ珍しくて幻とまで言われてる酒なんだって!
造るのにかなりの手間暇が掛かるらしく、それに加えてどうやっても度数が下げられず飲める者が少ないので、出回る数が本当に限られた代物。もちろんバカ高く、目にするのは初めてだ。
「飲め」
「良いんですか?!」
そんな逸品が今、普通のグラスに半分以上注がれて出された。こういった度数の高いものはショットが当然でありながら、普通のグラス……。この量でたぶん、私の給料に匹敵する。
ゴクリと喉が鳴った。
「旦那様、さすがにそれは……」
「む、何がおかしい」
「弱い方であれば、おそらく倒れるだけでは済まない量です。いくらお強いのだとしても、旦那様を基準にされてはなりません」
すると、カティアさんと家令のお二人が制止をかけてきた。
反射的に顔を上げれば、どちらも私に対して説得は任せろと目で語っている。
しかし、しかしである。
「大丈夫ですから」
「え? しかし、エレオノーラ様。これはかなり度数が高く……」
「大丈夫、ですから」
「あっ――!」
取り上げさせるものか!
カティアさんが手を伸ばしてきたので、急いでグラスを掴んだ。
ワインではないが、まずは目で楽しみ、香りを味わい、戦闘の何倍も緊張しながら一口――
「……ああ、来てよかった」
「くっ、あっはっはっはっは――!」
全身を駆け抜けるあまりの美味さに浸っていた私を呼び戻したのは、再びの豪快な笑い声だった。
それを聞いてからやっと、自分が何を呟いたのか気付く。
――いくら無意識だったからって、どんだけ単純なんだよ!
やばい、穴があったら入りたい。望んで来たわけではないと啖呵を切っておきながら、もうほんと馬鹿すぎる。だからイースにも、とことんしてやられるんだ、私は。
「おやめください!」
こうなりゃ自棄だと、グラスの中身を一気にあおる。カティアさんが悲鳴を上げるがもう遅い。
度数の高い酒独特の喉が焼ける感覚と共に、閣下へ挑戦的に微笑んだ。
すると、相手も同じようにグラスを空にする。
そして私たちは、どちらともなく口を開いた。
「逃げ出すと思っていた」
「申し訳ありませんでした」
それがうまい具合に重なってしまい、沈黙が生まれる。
破るきっかけを作ってくれたのは、家令の方だ。空になったグラスを、自然な動作で満たしてくれる。
だから、この機会を逃さないよう、新たな一杯を手に取り私から動いた。
「言っておきますが、今の謝罪は先程のことではありません。半年前のことについてです」
手元へと落とした視線をわずかに上げれば、獅子の瞳が私を見ていた。
あまりの威圧感に怯みそうになるが、酒を一口含めば自然と肩の力が抜ける。
やはり、最高に美味い。
「私は、自分の未熟さをあなたに押し付けた」
そう思えるようになれただけ、少しはまともな道に近づけたのだろうか。
許せない部分もわだかまりも残っているが、今ならこの人がどうして葬儀に来なかったのかは分かる。
選んだのだ、きっと。かけがえのない物を捨てでも、犠牲にしてでも騎士であることを選んだ。
ならば私は、責められない。責めたくない。その理由は、この先同じような選択を迫られた時、自分が迷って最悪な結果を出したくないからという身勝手なものだけれど。
「……本当なら、今でも逃げ出したくてたまりませんよ」
自分から言い出したことだが、この事についてはあまり掘り下げられたくなかったので、反応がある前に話題を変えた。
「閣下は宜しいのですか。大切な家を、私のような半端者に――」
「我が一族は王家の御為にある。犠牲となることを厭うどころか、それは最大の誉れよ」
迷いない断言だった。
だが、静かにグラスを置いてからの閣下は、いささか歯切れが悪くなる。
「……それに、だ。今回の事、儂らは誰一人犠牲になったと考えておらん。犠牲になるのは……、お前だけだ」
「私が?」
「形だけの跡継ぎになることは聞いたな」
眉間に皺が寄るのを自覚しながら頷く。
憤りが蘇り、不機嫌な反応になってしまった。
手の中に最高の安定剤があるので、すぐに落ち着けたのは幸いだ。
「お前に許されるのは、名乗ることのみ。そしてその力も、事情を知らぬ者にしか発揮されぬ。財を自由に使うこともできず、さらには儂の弟の次男がこちらへ来ることになっている」
「監視ですか」
「……その通りだ。一族の役目として対外的には当主と扱うも、誰一人としてお前の味方はせぬ。助力すら望めぬだろうな。その中には当然、儂も含まれる」
なるほど、と暢気に独り言ちる私とは違い、閣下はひっそりと拳を握っていた。
それに気付いてしまわなくとも、きっと理不尽さを感じることはなかっただろう。むしろ、歓迎されるより余程良い。
「お前にとってシールの名は、檻そのものとなる」
四大侯爵家に並んで国を支える伯爵家が檻で、その当主という肩書が枷……か。
どんな猛獣だよ、まったく。
そう思うと笑えてきてしまった。
しかし閣下は、そんな私とは裏腹で、おかしなことを告げてくる。
「儂を恨め」
「……なぜ?」
「我が子を見捨て、それどころかその娘が命を懸けてまで護った存在を国に捧げるのだ。……迷いもせずにな。お前には、儂を恨む権利がある」
それを受け、私もまたグラスを置いた。
真っ向から対峙しようとも、閣下は視線を微塵も逸らさない。
「だが、詫びはせん」
その言葉に尊敬の念がこみ上げたと言ったら、この人はどんな顔をするだろうか。
迷走してばかりの私には、きっと進めない道だ。失うことを厭う私には、そこまで強い心を持てやしない。
やっと――やっと、母さんの手紙の言葉を受け止められた。確かにこの人は優しい。こうして私に、これからの心の拠り所を用意してくれようとしているのだから。
しかし、今の私にとって、それは大きなお世話でしかなかった。
「私こそいりませんよ、そんなもの」
目を細めれば、少しだけ獅子の眼光が弱まった気がした。
相応しい言葉を探す間、手慰みにグラスを回し、視線を遠くへ移動させる。
「謝られたところで、二人は帰ってきません。何も変わりはしない。それに、二人と過ごした日々とその死がこの身を作ったんです。だから、今の私にとって、それは最大の侮辱にしかならない」
そして、再び目の前の人と向き合い、全力で微笑んだ。
地位や名誉、そういったお飾りになど興味はないし、自分など獅子だとすれば乳離れもできない子供が精々だろう。
だが、それでも牙と爪はあるのだ。柔らかくとも、短くとも、喉元を食い千切るのに十分な威力を持っている。
そのことを、イースも他の人たちも、少し甘く考えているように思う。
私は、いつだって自由にやってきたのだ。どれだけ無謀でも、努力と根性を武器にして。
足と腕を組み、尊大な態度を取れば、閣下が片眉を上げた。ここはもう一つ、ソファーにもたれ掛っておくか。
「安心させてもらいましたので、一つ忠告です」
「今までの会話のどこにその要素がある」
「私、期待されると怖気づくんですよ。しかし、反感ならば常に受けていますし、そいつ等の悔しがる顔を見るのを楽しく思う曲がった性格をしていますから、応援されるより余程――燃える」
そこまで言ってから、三分の一ほど残っていたグラスの中身を飲み干し、遠慮なくおかわりを要求する。
このまま一瓶空けてやろうか。……閣下はすでに、四杯目に突入しているが。
注ぎ足してくれる家令の方からひしひしと、酒に関して呆れた視線をもらいながら、それでも言い放てば、口元にグラスを持っていこうとしていた閣下の動きが止まった。
どういう気の変わり様だ、と訴えられている感じがする。アシル様たちとのやり取りを知っているのだろうか。
まあ、良い。なんにせよ、この人に対してもしっかりと宣戦布告をしておこう。
「サイズが合っていなければ、どれだけ丈夫な枷であろうと容易く抜け出せます。檻もまた、鍵が掛かっていないのなら、呆れるほどの愚鈍でも、警戒心が強くとも、獣であれいずれ気付くでしょう」
「……意味はないと申すか」
「いいえ? 全てを受け入れるということです。つまり、強制力が存在し得ない」
「名を汚すのならば容赦はせぬぞ」
「そんな無粋なことはしませんよ。ただ、いずれあなた方は、私の行動を制御できないことを後悔するでしょう。受け入れ、受けて立つ所存ですから」
すると閣下は、かすかに頬を緩めた。
それは、喜んでいるとも不敵に笑んでいるとも見て取れるもので、どう思ったのかは分からない。
けれど、それで良い。今はまだ、この人は騎士団長閣下であり、私は騎士として取り込まれたに過ぎないのだから。
とはいえ、納得できたことで、枷は緩く長い鎖だけとなり、檻もまた下手な家より広くなった。十分、身軽に動ける。
そして鍵は、いつだって私の心。誰にも、たとえイースが相手ですら、それを持ち出すことなど不可能だ。
「たてがみを持つ雌獅子となるか」
「狩りに関して、雄は雌に敵わない。その点をお忘れなく」
強気に返せば、グラスが突き出された。
高く澄んだ音が開戦の合図となる。やはり、一生に於いてイースに振り回される運命にありそうだが、その勝敗がどうなるかは死ぬ寸前まで分からず、その決定権は私が持った。
後悔するか、しないか。それは、私次第。こう思えるようになれたのは誰のおかげかなど明白だったが、どうしてか私はそれを認めたくなかった。たとえ心の中でですら、口にしたくない。
――何かが芽生えてしまう。そんな気がしたから。
それから私と閣下は、ほろ酔いを越える寸前まで、一言も喋らずに過ごした。その沈黙の時間は、意外にも心地良く感じられたのだから不思議である。
ただ、去り際のこと。閣下はもの凄く言い難そうに、しかし言わずにはいられなかったといった様子で、挨拶も済ませ扉へと向かっていた私の背中に声を掛けてきた。
「あー……、エレオノーラ」
「なんでしょうか」
わざとらしい咳払いに首を傾げながら振り返ろうとしたのだが、それは中途半端で止まることになる。
「その、なんだ。宿舎の荷造りをお前の部下に任せ、儂が監督したのだが――」
まず焦ったのが、散らかった部屋を見られたこと。そして、それを指摘されるのかと思い身構える。
だが、閣下の口から出た言葉は予想外なものすぎた。
「流石に部下とはいえ、身内ではない男に女物まで任せるわけにもいかなかったのでな」
……そんな物など何かあっただろうか。
すぐにはピンと来ないところが、周りから見た目だけと言われる一因なのだろう。
そして、閣下の言葉を聞いてからも、こみ上げてきたのは笑いだけだった。
「儂から言うのもどうかと思うが、もう少し……、なんだ。年寄りからの助言としてだな、もう少し控えめにした方が良いだろう。お前の下着は、些か派手すぎる」
「だ、旦那様! そういうことは、わたくしめに仰って頂ければ、それとなくお伝え致しますから!」
「……ぶっ、あははは――!」
苦言を呈すカティアさんに、私と同じくけれどひっそり笑う家令の方、困惑する閣下と、この面子で作る光景としてはおかしすぎる。
でもこれなら、さほど身構えずともよさそうだ。犠牲だ何だと、そんな物騒な言葉を用いずとも、単純に協力し合う関係から始められる気がする。
そして、いずれ認めてもらいたいと思う。〝微笑みの悪魔〟と呼ばれる騎士の私を。
だから、腹を抱えながらも言ってやる。
「検討はしますが、余計なお節介ですよ」
「お前はレオナ似だと思っていたが、その歯に衣着せぬ物言いはまさしくカルロだな」
これだけ話して最後にもらえた助言が下着に関してなど、閣下も大概、良く分からないお人だ。
ただ、父さんの名を出してくれたこと。そして、それを口にしたときの不器用な笑み。その意味だけは間違わず、素直に受け取りたい。




