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悪魔の微笑を消す呪文  作者: 林 りょう
【王城】編
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召喚状と拉致(5)



 髪を切らずに伸ばしているようで、エドガー様は半年見ない間で随分と柔らかく落ち着いた印象に変わっていた。横に流す髪を結んでいる青いリボンがどこか可愛らしい。

 だが、不機嫌そうな表情は明確な非難を映している。感情的にではなく、しっかりと理由があってそうなのだと否が応にも悟らせた。


「遅かったね」

「王太子殿下に少し、お時間を頂いていたので」


 アシル様はエドガー様の登場により、確実に逃げられなくなったと判断したのか、一気に距離を取って剣を収める。

 そして私は、鈍痛のある額を摩りながら身体を返し、背中を壁にくっつけながらため息を吐いていた。なぜだろう、エドガー様の目を見たくない。


「――おい」

「なんでしょう。今はあなたの嫌味に付き合っている余裕などないのですが」


 けれど、相手はこちらの心情などお構いなしだ。

 仕方なく顔を上げ、すっきりとした輪郭を眺める。

 するとエドガー様は、脈絡もなく不似合なことを言い出す。


「お前がなぜ女として、王太子殿下へ心を許さないのかようやく分かった」

「はあ?」


 そのせいで、うっかり視線を合わせてしまった。

 この人が気を遣って冗談を言ってくれるわけもなく、当然そこには真剣さしかない。

 だからこそ今の発言は痛い。ジャンはもちろんアシル様だって目を丸くしているのに気付けって。


「あの御方は、ルードヴィヒ殿下のみ例外として、けして誰も愛さない。それが持つ弊害を知ったが故にな」

「……いや、はい。それ自体は、たぶん当たってますよ。だからって、私には関係ないですが」

「しかし、失うことを避けようとするのは同じだろう? そういった面で、殿下とお前はそっくりだ。どちらも獣のように臆病で、お前に至っては愚かしくもある」


 よし、理解した。あんたも私と喧嘩したいんだな。

 今日の私は大貴族ともやり合ったし、そうでなくとも国と一戦交えるつもりだから怖いものなんてないんだよ。

 だが、全力で睨んでも、エドガー様はどこ吹く風だ。一歩一歩、確実に近づいてきながら、さらにとんちんかんなことを言ってくる。


「王太子殿下のように、何よりも国を優先し自分をなげうつ覚悟があるのなら、人がどうこう言えるものではない。しかし、お前は違う」

「今日は随分と饒舌ですね。酔っぱらってるんでしょうか」

「はぐらかすな。何をそんなにも恐れることがある」


 そして、指先から肘ぐらいの距離まで迫ると、尊大に腕を組んで対峙してきた。

 カリカリしているのは同じだというのに、なんだか聞き分けの子供扱いされているようで物凄く腹が立つ。


「私は、ただ分不相応だからと、辞退を訴えているだけです。それはおかしいことでしょうか」

「いいや、それはただの建前だ。それに、相応しいかそうでないかを決めるのは、本人ではない」

「だからって、嫌がる相手に任せて良いことでもないだろ」


 エドガー様は、怒りを宿しつつも荒げることなく間髪入れずに返してくる。

 くそっ、ここで舌打ちするなよ私。まるっきり駄々を捏ねている状態ではないか。

 理不尽なのはそっちなはずだ。心の準備もさせずに無理やり巻き込み逃げ道を塞いでおきながら、最後の最後でお前が必要だと言って決定は委ねる。これを卑怯と言わずして何とする。


「嫌がる? 怯え、逃げているだけだろう」


 そう思うのに、エドガー様はあっさりと鼻で笑い吐き捨てた。

 さらに、反論をする暇も与えない。


「期待が重い。幻滅されるのが嫌。他人の命を背負いたくない。面倒な事など他人任せで楽をしたい。わざわざ自分から傷付きに行くなどまっぴらだ。こんなところか」

「っ、好き勝手言いやがって」

「図星か、それに近いから怒るのだろう?」


 しまいには、首を傾ける余裕な仕草を見せるので、自然とその胸倉へ腕が伸びた。

 エドガー様は避けなかった。避けない代わり、私と同じ行動を取る。

 そして、静かに吼えた。


「だが、今の状態の方が、よほど皆を幻滅させる」


 いったい私は、どんな顔をしてそれを受け取ったのだろう。

 目を丸くしていたのか、それとも揺らいでいたのか。言えるのは、危うく口角が下がりかけたということだけだ。

 エドガー様は、それから私の身体を壁に叩き付け、顎を掴んで問答無用で顔を上げさせる。

 いつ見ても美しく、この人以上に似合う者はいないと感じさせる青い瞳が、身震いするぐらいしっかりと私を見ていた。


「なぜ今の今まで、王太子殿下が説明をしてこなかったか。そうすればお前が押しつぶされると、分かっていたからなのだろうな」

「……離せ」

「だが俺は、その弱さを放っておいてやれるほど優しくはない」


 顎を掴む指に力が入る。今の私は、相当に不細工な顔をしていることだろう。

 しかし、エドガー様は笑うことなく、もう一方の腕を伸ばして顔の横で手を付いた。

 振りほどくのも、抜け出すのも、どうやら無理そうだ。それほどに銀雪の騎士様は本気で、一対一の真っ向勝負を仕掛けてきている。

 それは、私が最も苦手とするもの。いつの間にこの人は、こんなにも私を把握していたのだろう。


「良いか? 期待は、応える為にあるのではない。鬱陶しいのは分かる。当たり前のように、応えることを求めてくるからな。しかし、向けられる側からすれば、そこから先が重要なのではなく、それまでに意味がある。期待するのはつまり、そいつを認めていることに他ならないからだ」

「そんなもの、屁理屈以外の何ものでもない」

「そうかもしれない。それでも期待は、応える為だけに存在するわけではない。認め方はそれ一つではない。幻滅する理由もだ」


 言葉が返せず、グッと唇を噛んだ。

 長い指から伝わる冷たさにより、自分の身体がいつになく火照っているのが分かる。

 この温度を知っている気がした。痛いはずなのに、手加減などしていないように思えるのに、そこに慈しみが隠れていることも。

 そんな機会など無かったはずだが、一体どこで経験したのだろう。


「団長という存在がどういうものかも、その下にいるなら知っているはずだ。お前は自分が死んだら、ゼクス団長を責めるのか?」

「そんなわけがないでしょう!」

「ならば、なぜ荷が重いと言った。本人の命は、本人が背負うものだ。責任も、一番に償うべきはやはり本人。それに、誰もお前がそこまで有能だとは思っていない」

「分かってる!」

「はっ、どこが。お前が自覚していると言う弱さは、見当違いにも程がある」


 エドガー様は、意識が別へと向きそうになった私を見逃さなかった。

 蹴らせないよう足の間に膝を入れ、密着してくる。

 その状態で出した声は、怒りをちらつかせながらも柔らかく、それでいて心を深く抉った。


「逃げるなとは言わない。俺には言えない。だが、お前がお前を見限ってどうする。親の死、救った責任、他人の好意、そんなものを理由に誤魔化すな。虚勢を張らずとも、お前はお前が思うよりずっと強い」

「なっ――」

「しっかりと自分の足で立てている」


 おかげで声の出し方を忘れた。

 馬鹿みたいに口を開閉させ、注がれる視線を見つめ返すしかできない。

 けれど、深く澄んだ海に呑まれかけそうになり、慌てて逸らす。混乱するままに両手を突き出した。

 ……びくともしなかった。


「お前の弱さは、他人にしか優しくできないことにある。だから加減を忘れ、無茶をする」

「な、あ、エドガー様に、そんなことを言われる筋合いはない!」


 うっわ、どもった。

 これ以上はやばい。負ける。

 いや、何にだよ。とにかく、好き勝手させるのはまずい。

 だから、心臓の上あたりを小突いて、どうにかこうにか抜け出そうとする。

 しかしそれは、きっぱりとした声に邪魔をされた。


「ある」


 再び、うっかり目を合わせてしまう。

 するとそこには、今の状況ではそれはもうホッとしてしまう見慣れた顔があって、すぐ後に同じことを感じさせる怒鳴り声が響く。


「俺を変えておきながら、腑抜けたことをぬかしているお前を見過ごせるわけがあるか!」

「はあ?!」

「失いたくないなら、そうならないよう守れば良いだけだろ。死なせたくないなら、死なないよう鍛えればそれで問題はないはずだ」

「さっきから偉そうに言ってるが、私はそんなこと一言も口にしてねぇっての!」

「顔にそう書いてある! 分かりやすいんだ、お前は! そもそも、難しいことを考えたところで、その頭が役に立つわけがない。お前の場合、本能の方がよほど良い答えを出す!」


 言わせておけば、この野郎……。

 結局のところ、私が気に入らないだけじゃないか。

 焦って損した。うろたえた自分が恥ずかしい。なにより、図星だったのが一番嫌だ。


「ああ、そうだよ! どうせ私は、器の小さい人間だ。でも、どうしようもねーじゃねぇか! 何かを手にしようとする度、どうしたって血だまりが浮かぶんだ! 怖がって何が悪い!」

「悪いとは言っていない。目を背けるなと言っているんだ。いい加減に気付け! 何も得られずにいることと、何も得ようとしないことは違う。愚かで寂しい人間になるなど、俺は許さんぞ!」

「知ったような口を……!」


 感情のまま、その綺麗な顔に青痣を作ってやろうとして、またしても心地良い冷たさに阻まれる。

 それでもこれ以上、私の中を土足で踏み荒らされるなどたまったものではない。

 しかし、今日はことごとくエドガー様の方が上手だった。


「現にお前は、王太子殿下がなぜ妃の道を用意したのかも気付いていない!」


 そして、隠された真実を知る。


「確かに気持ちもあるのだろう。けれど、好意が愛情へ変化することを厭い、お前がそれを向けることも望んでいない殿下が、それでも用意したその道は、お前を守るためのものだ」

「馬鹿を言うな」

「ああ、殿下は絶対にそれを認めないだろう。しかし、あの方の中で、自分が及ばない部分を任せることは決定していたはずだ。身分や性別関係なく、皆が過ごしやすい社会を作る、その鏡を」

「私は都合が良いからな」

「違う、信用があるからだ。だが、欠点も分かっているからこそ、妃にと考えた。そうすれば、堂々と手を貸せる。誰にも文句は言えない。事実、お前が妃となったら、紅騎士団を直属にして管理を任せるつもりだったと仰っておられた」


 私は何度、唖然とすれば良いのだろう。

 いきなりの謁見から始まり、そろそろ頭がパンクしそうだ。

 だから……。だからイースは、私が断った時に後悔すると言ったのか。全てを自力でやっていかなければならなくなるから。逃げることは――許さないから。


「お前は、家族であるルードヴィヒ殿下と並んで、他人でありながら唯一、王太子殿下から頼ることを許されている。期待をしていないのは、それが必要ないほどに大丈夫だと確信しているからだ」

「その言い方はズルいだろ!」

「だから言った。お前は、信頼を裏切ることと約束を破ることを、死など目ではないほどに拒む」


 それからエドガー様は、ゆっくりと身体を離して最初の位置に戻ると、ことさら柔らかい声で私に言い聞かせた。


「自信を持て。失った物は大きいだろうが、思い出してみろ。全てが消え去ったのか。その手に残っているものは何も無いのか」

「そんな、ことは……」

「ああ、俺もだ。だからなおさら、走るべき道をもう間違うな」


 そして、迫る。明確な言葉を、決意を求めた。

 だが、エドガー様の方が正論でも、無視できない問題はまだある。


「だとしても、女伯爵は容認できない。ゼクス団長のように一代限りの爵位を与えるならまだしも……」


 すると、エドガー様は呆れをたっぷり鼻で笑った。


「馬鹿か、本当にその役割を求めるわけがないだろう。それこそ貴族としての責務ほど、お前に不適切なものもない」


 その通りだが、他人に言われると気に障るのはどうしてか。

 さらにエドガー様は、遠慮なく当然のことを口にする。


「これは、余計な争いを生まない為の措置だ。お前がシール家に連なる者だという事実は、永遠に変わらない。にもかかわらず、お爺様がその存在を認めていると示さなければどうなるか」

「どうもならないだろ」

「あそこは、騎士である事とその功績に重きを置き、そうして歴史を築いてきた家だぞ。そして、現当主であるお爺様は、国王陛下の剣として生きておられる。そんな方と対立していると見られれば、お前を推薦した王太子殿下にもいらぬ影響が及ぶ」


 そして、その地位はただの飾りだとそう言った。


「領地についての権限は全て、跡を継ぐ予定だったお爺様の弟の息子に与えられる。お前が持つのは、一族に相応しくない者を罰せられる最低限の権利だけだ。しかし飾りであれ、表向きは歴史ある家の当主となるのだから、それに見合った義務は果たさなければならない」

「結局はそれも貧乏くじを引くだけじゃねーか!」

「お前自身が直接、社交界で目を光らせられることの何が不満だ」

「いっそのこと、跡取りだった従兄と結婚させられた方がまだマシだ」

「それは、満場一致で真っ先に却下された。その方では、お前を止められない」


 ……うん、突っ込みどころはたくさんある。

 満場一致ってメンバーは誰だったのかとか、婿の条件がなぜ私を止められるか否かなのかとか。

 でも、もう何に憤れば良いのかすら分からない。


「これは枷だ」


 もう一度、床で両手をついて項垂れたくなっていれば、エドガー様が肩を掴んで告げる。


「ここまで言ってまだ駄々を捏ねるというのなら、こう思え。全てはお前の身勝手さが招いたものだと。自分の為に騎士になった、その報いだと」

「あ……」


 声が零れた。危うく指をさしてしまいそうになる。

 その理由だけは受け入れられたのだ。受け入れなければいけないと思うほどに。

 そして、頭に昇っていた血が急降下した。これまでの醜態を思い出し、逆に青ざめそうになるぐらいだ。

 国に帰属している以上、そもそも拒否権などどこにもない。そんな当たり前のことを考えられないくらい、この急展開に混乱していたのだろう。

 口を噤んだ私の次の言葉を、エドガー様が黙って待っていた。

 ひっそりと視線をやれば、急かすでもなく逸らすでもなく、ただただ真摯な眼差しを向けている。どれだけ騒ごうが、私の出す答えが最後には決まっていると、まるで分っているかのように――

 だからこそ、自分に呆れながらも新たな問題が生まれてしまう。

 どうしよう、この人の前では物凄く言いたくない。だってそうすると、まるっきり説得されたみたいではないか。

 それはかなりムカつく。ていうか、この変わり様はなんだってんだ。いつの間に、冷静でまともな話しが出来るようになったのか。

 ズルい、悔しい。――負けたくない。

 そうやって私が、意味不明な感情に地団太踏みたくなっていた時だ。二種類の音が、唐突に響いた。


「ぶっ――!」

「ふはっ――」


 我慢できず笑ってしまった状態だと伝えてくるそれによって、私だけでなくエドガー様も、この場に別の人間が居たことを思い出す。

 二人そろってそちらを向くと、視線の先では童顔親子が仲良さげに並んで身体を折り曲げていた。


「もう、我慢、無理っ」

「二人とも、ようやく私、たちのこと、思い出して、くれた、かい?」


 息も絶え絶えだった。

 どうやったって手遅れだったが、慌てて肩に乗ったままだったエドガー様の手を払いのける。

 よりにもよってこの親子に、今の会話を聞かれたとか。特にジャン、こいつに私の弱さを知られるとか最悪だ。

 だというのに隣では、エドガー様が平然と、さらに首を傾げている。


「笑うところなどあったか?」


 なんという鈍感……。別の意味で唖然と出来る。

 いや、きっとエドガー様にとっては、全てが本心であっただけなのだろう。

 真面目か!


「それで、レオは、答えが、出た、かな?」

「あー、ダメ。腹が限界!」


 依然、笑いの止まらない親子を見ている内、恥ずかしさが頂点に達していく。

 それが怒りへと変化すれば、その矛先をエドガー様へ。私だけが被害を受けるとか納得がいかない。

 不思議がっているその隙を狙い、適当に服を掴んで引き寄せた。


「なっ――」


 そして、勢い任せに唇を重ねる。

 やはり熱い。あの夜の感覚は、錯覚では無かったようだ。

 でもって一度目との違いとして、瞳が驚愕に染まりながら開かれている。

 それを見ながら、ふと思った。空と海が混ざり合う景色は、人の目にはどう映るのだろうか。

 そんな自分に笑いつつ視線を逸らせば、煩かった親子も黙らせられたようだ。

 この絶好のタイミングを失わないようエドガー様から手を離し、ついでに唇による攻撃からも解放してやる。そのまま足早にジャンの所へ向かった。


「えっ、ちょ、うわっ――?!」


 エドガー様より手荒くなってしまったのは仕方がない。ほぼ首を絞める形で胸倉を掴み、時間的にも半分以下。それでも、キスはキスだろう。


「なんで俺まで!」

「これで二人は、間接キスをしたことになる」

「ダメージ、ほぼこっちにあるんだけど! ほんと最悪! レオとキスとか、口が腐る!」


 ジャンはすぐさま唇を拭い、警戒を見せて距離を取る。手遅れだっての。

 随分な物言いをされた為、額には青筋の二本や三本浮かんでいたかもしれないが、それでもいくらか気は晴れた。

 まだだった仕返しについても、これで勘弁してやる。


「……そうでもないのかもしれないね」


 そして、アシル様の意味不明な呟きを聞きつつ、この流れで宣言もしてしまおうと振り返った。


「うっわ」


 どうやらこのイタズラは、思ったよりも効果的だったらしい。

 試合をした日以上にお怒りに見える銀雪の騎士様がいらっしゃった。

 本能が危機を訴えたのですぐに視線を外したが、眉間にくっきりと皺を寄せてこちらを睨み、腕を組んで立つその背中に、吹雪と黒い靄を見た気がする。


「……これは予想外」


 結果オーライだ、うん。仕返しの仕返しは受け付けない。 

 そして、不気味な無言を貫くエドガー様と未だにわめき続けるジャンという、状況的には悪化する中で、相手を変えてアシル様と向き合う。

 この部屋での非礼は謝らない。非難も聞かない。だって、どう考えても人選から間違いだ。そういうことにする。


「――アシル様」

「なんだい?」

「王太子殿下へ伝言をお願いします。〝お前の助けは死んでも借りるか〟と」

「分かったよ」

「どのような立場でも、どのような場所でも、私は私でいるだけです。身勝手で、捻くれていて、可愛げのない私を選ぶ責任が持てるの言うのなら、もう勝手にしてください。全て、受けて立ちましょう」

「だ、そうだけれど、エドガーはどう思うんだい?」


 するとなぜか、アシル様は自分で返事をせずに別の者へ託した。

 さすがだ。あの状態のエドガー様に平然と接している。

 私はと言えば、促されて渋々に首を動かす。何かの本で、目を合わせれば石になる怪物が出てきていたが、この場合は氷像になってしまいそうだ。

 しかし、予想に反してあったのは、平時の仏頂面と嫌味だった。


「それでこそお前だ」

「はっ、偉そうに」


 皮肉げに歪んだ口を見て鼻を鳴らしたのは、絶対に照れ隠しからではない。





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