召喚状と拉致(2)
無駄にでかい扉と最奥の玉座を結んで敷かれる金糸で縁取られた赤い絨毯。これを境にして左右で並ぶ国の重鎮たち。満ちる空気には、けして浅くはない歴史の重みが感じられる。
その中心を歩かされ、指定された場所で跪く。それまでに見た者は、一様に難しい顔をしていた。
しかし、言わせて欲しい。私が一番、この状況に困惑している。
玉座の間の前まで引きずって連れてきてくれたウィリアム副団長は、国王陛下に粗相をするなとだけ言って居なくなってしまった。可愛い部下を実にあっさりと、飢えた獣の群れの中に放り込んでくれたのである。
だから結局、なぜ呼ばれたのか不明なままだ。そんな状態で数え切れない視線に値踏みされているのだから、謁見の緊張はどこかに消えてしまった。むしろ尋問でもされるのではないかと、戦々恐々としている。
心当たりがあるから困った。それはもちろん、イースもしくはルードヴィヒ殿下に関することだ。それ以外はない……はず。
そうこうしている内に、国王陛下の登場が声高らかに宣言された。
慌てて深く頭を垂れれば、布の擦れる音が聞こえてくる。冷静でいなければと思わず左手が腰に伸びたが、普段あるべき物がそこにはなく、自力で心を落ち着けるしかなかった。
そういえば、入口で預けるよう指示されたんだった。すっかり忘れていた。
やばいな、ボロが出る気しかしない。喋らずに終われないものか。
そうして謁見は、静まり返った室内で響いた鋭い声を合図に始まった。
「面を上げよ」
言われるがまま、ゆっくりと頭を上げる。その動きに合わせ、視界へ入る物が移っていった。
赤い絨毯から床を二段上がって乳白色の大理石、人の足が見え、一目で高位だと分かる正装に重そうだなと感想を持ち、口元まで来たところで動きを止める。目を合わせることは許されない。
とりあえず、ここまででヘマはしていないだろう。
「お主は、黒騎士団征伐部隊所属、第八小隊長レオに相違ないか」
すると真正面ではなく、横へ僅かに逸れた場所から先程と同じ声がした。
どうやら謁見は、別の誰かを間に挟んで進行するようだ。
「相違ございません」
「では、これよりお主に国王陛下がお言葉を下さる。光栄に思え」
心臓は破裂せんばかりに脈打っているが、焦りや苛立ちが生まれれば生まれるほど、もはやそういう生態だと豪語できるほど私の口角は上がってしまう。
そして、とうとう真正面から新たな声が放たれた。
「直答を許す。怪我はもう問題ないか?」
心地良い低さのとても聞きやすい音が、視線の先より生まれる。
反面、持つ意味はひどく厄介だ。いきなりの直接対決、しかも私を案じてくる。
なんて答えれば良いんだ?! 謁見の作法すら知らないっていうのに、普通に返して良いんだろうか。
最も難儀なのは、悩む時間を持てないことだ。そのせいで、直観に頼るしかない。
「お心遣い、痛み入ります。つい先日より、本来の任務に戻ることが叶いました」
「そうか。それはなによりだ」
どうやら、外れたりはしなかったようだ。
しかし、苦行はこれから。周囲から視線という名の針で刺されまくりながら、さらに国王陛下はとんでもないことを仰ってくれる。
「さて。儂は、相手の人となりを図るに当たって、目を合わせて語ることを好む。そなたにもそれを望むが、どうだろうか?」
密やかなざわめきが広がった。
どうだろうって……。選択権など、あるように見せかけてどこにも無い気がする。
だというのに周囲の反応で、これが十二分に異例なことだと分かり冷や汗が止まらない。
それでも従わざるを得ず、泣く泣く視線を上げた。
その瞬間、鮮やかな翡翠とぶつかる。良く知るその色を見たことで、わずかながら肩の力が抜けてしまった私は、肝が据わっているというよりも単純なだけだろう。
しかし、目尻の皺を濃くしながら微笑む目の前の御方へ、確かな血の繋がりを感じてしまったのだ。これまで散々振り回されているイースと、とんでもない称号をくれたルードヴィヒ殿下の父親でもあるのだと認識させた。
それでいて王としては、あまりに印象が朗らかすぎる。歳は総騎士団長よりいくらか下だろうか。息子たちに比べれば劣るが、それでも十分整った顔をしているも、かなり薄い茶色の髪と翡翠の組み合わせは、たれ目なことも相まって優しさと同時に頼りなさを作り出していた。
「うむ、良い目をしておるな。広く爽やかな空、穏やかな風が吹くに相応しい。しかしその奥には、暑く照りつける陽や深い闇を誘う月もある。立ち込めた暗雲が晴れたからこそ、どちらの光も放つことが可能となったか」
「もったいなきお言葉です」
とりあえず返事をしながら、国王語なんてあっただろうかと思うほど理解不能だ。
なんとなく分かるような、分からないような。たぶん、褒めてくれているのだろう。
首を捻りたい衝動を堪えていると、そこで初めて国王陛下の隣に立つ存在に気付く。そっと視界を広げれば胡散臭い無表情の仮面があり、今し方見たのと同じ翡翠と黒が映った。
しかも王太子殿下は、器用なことに眼差しだけイースである。内心でニヤついているのが丸分かりだ。私の狼狽をここぞとばかりに楽しんでくれている。
この一瞬のチラ見が、どうやら微笑みに変化をもたらしてしまったらしく、国王陛下が目を細められた。
笑いを噛み殺しきれず、わずかに声を弾ませながらさらなるお言葉を下さった。
「エイルーシズとルードヴィヒが世話になったそうだな」
「とんでもございません」
「謙遜するでない。そなたのおかげで民の不安が悪影響を及ぼさず、コレはすぐさま復興に動けた。ルードヴィヒも多くを学び、なにより少なくない命が儂の不甲斐なさの犠牲にならずに済んだだろう」
その裏で、少なくない命が犠牲になりましたね、と言ったら即首が飛ぶだろうな。
国王陛下も当然、分かっているだろう。それでもこう言うしかないのだ。
というかこの謁見って、もしかしなくとも半年前の件についてなのか。しかし、すでに決着がつき後処理も終わっているはずで、いまさら蒸し返して何になる。
半年の減給では足りないと? いやいや……。罰するのなら、もっと早くに呼ばれていた気がする。駄目だ、さっぱり分からない。
すると国王陛下は、今までの朗らかさから一転、真面目な表情となって私を見据えた。
「そなたの療養を言い訳に遅くなってしまったが、礼を言う」
「どうかそのお言葉は、より相応しき方へとお贈り頂きたく存じます」
口元が引きつり、思わず返していた。
褒められるのはまだ、形式的なものとして受け取れただろう。しかし、それ以上となれば話は別だ。
それにほら、周りの視線がさらに鋭くなっている。国王陛下の覚えがめでたくなったところで、私はこれっぽっちも嬉しくない。
けれど、目の前の御方は首を傾げて顎を撫で、探るような目で私を見た。
「参考までに聞くが、そなたの言う相応しき者とは誰だ?」
しまった、失敗した。大人しく受け取っておけば良かった。
唸りたくなる気持ちを我慢して返す。
「私は、真の忠誠心を持って職務をまっとうした騎士たちと同じことをしたまでと考えております」
これ、完璧に口ごたえになってるよなぁ……。
どうして私は、こうも喧嘩腰になるんだろう。王太子殿下の肩が地味に震えている。
すると、国王陛下も目の前で激しくせき込み始めた。どう見ても、息子とは違って笑いを堪えるのに失敗した様子だ。
その姿に、内心で呟く。これはもう、なるようになれと潔く開き直ろう。
そして、向こうもまた諦めたのか、厳粛であるべきこの場にて盛大な笑い声を響かせた。
「へ、陛下……!」
「くはっ! しばし……、しばし待て」
なぜ笑われたのか不明だが、焦る周囲に比べ私は、どうぞ好きなだけと思いながら待機する。
それにしても、笑い方がイースそっくりで豪快である。やはり親子だなと、少し感動した。
そして、これでも反省しているので、どなたか分かりませんが、本来ならば進行役であっただろう方はそんなに睨まないで下さい。宰相様とそっくりな気がするが、深く考えるのは控えよう。
「……はあ。こんなにも笑ったのは久し振りだ」
しばらくして、国王陛下は落ち着かれた。
それは良かったです。ついでに私も、不敬だなんだとお怒りを買わずに済んで助かった。
本人がそう言うのだから、これはきっと粗相にはあたらないはずだ。たぶん、大丈夫。
理性が飛んでいる時の方が、慇懃な態度を取れる自分が憎らしい。
「どうやら知らなかったようだな。そなた以外は、既に褒美を与え終わっておる」
そして、あまりに予想外な言葉を聞かされ、とうとう首を傾げてしまった。
もしかしなくとも、今、褒美って言ったよな。
……あー、そういうことか。
私としては数々の身勝手さに対して、西街の件と減給でなんとか退団を許してもらえたと思っていたのだが、どうやらそれでは建前が成り立たなかったようだ。それで終わらせるには、きっとあまりに目立ちすぎた。
よって、何も無い状態では、民衆が納得しないと判断したのだろう。いくら私が否定しようとも〝微笑みの悪魔〟は、名に違って良い意味で広まってしまっている。
「儂としては、そなたを中級騎士へと昇格させようと思うのだが、不都合はあるか?」
「ありがたき幸せ」
本当は遠慮したかったが、大人しく頭を下げた。これが上級だったら、断固拒否したかもしれないが。
しかし、気になる点が一つ。この為に呼ばれたとは、どうも考えられないのだ。それこそ書状一つで事足りる。
かといって、国王陛下が私に興味を持ったにしては、どこか仰々しさがありすぎる。
その懸念は、最悪なことに正解だった。
手を叩く乾いた音が一度鳴り、国王陛下がこの場の全員へ声をかけられる。
「では、本題に移るとするか。皆も、ある程度は判断がついたであろう」
その瞬間、首の角度がさらに下がった。
本題ってなんだよ。それは私が居なければ出来ない話なんでしょうか。
まさか国王陛下に対して、この人は国王陛下だと必死に自分へ言い聞かせるはめになるとは思いもしなかった。
次にイースと会った時は、絶対に言ってやる。たとえあいつの入れ知恵なのだとしても、たしかにお前の親父だと。
そうこうしている内に、なぜか私は国王陛下の真正面ではなく宰相っぽい方の隣に立つよう命じられた。
そして、玉座の間にて、良く分からないが会議のようなものが始まってしまう。
「意見がある者は、遠慮せずに申せ。この場が最後の機会となる。その結果、儂も判断を下そう」
すると、次々に手が挙がり、指名されて何かを主張していく。不可解なのは、全員が一々私に視線を投げてくるところだ。
それにしても、こうして観察できるようになれば、とんでもない面子ばかりが揃っている。ゼクス団長を抜いた白、緑、青の団長はもちろん、城で要職に付いてる者だけでなく主要な貴族も全員いるようだ。
もちろん、ぽいってだけで記憶違いかもしれないが。というか、切実にそうであって欲しい。
ちなみに、アシル様から送られてきた意味深な笑みは、全力で見なかったことにした。
「――しかし、あまりに荷が重すぎるのではありませんか」
そして、他人事にしたくて遠い目をしていれば、今し方意見を述べた方と目がばっちりと合う。
それを皮切りとして、一気に流れが怪しくなる。
「素行も悪いと聞いておりますが」
「西街のよからぬ相手と取引をしていたという情報もあるの」
「そもそもとして、力量すら誇張ではないのか」
四方から声が飛んでいた。
とりあえず分かるのは、ぼろくそに言われ放題な人物が私だということだ。
国家一丸となってのイジメとはこれいかに。思わず私の思考もぶっ飛びかける。
すると国王陛下が、意地の悪い笑みと共にこちらを見た。
「レオよ」
「はっ」
「状況の把握すらままならぬであろうが、そなたに試練を与えよう」
「仰せのままに」
「この場の全員を相手取り、己の名誉を己で守れ。出来なくば、黒騎士の評価も下がると心せよ」
その言葉により、一歩前へ出て一礼しながら内心でぼやいた。
――この親子、ほんっとどうしようもねーな!
剣を取り上げて正解だ。さすがの私も、忠誠心を越える腹立たしさを持ちたくなってくる。せめて説明ぐらいして欲しい。
でもって的確な方法で私を扱ってくるところから、この茶番がイースの手によって作られていることが決定した。
さきほどのお言葉は、影響するのが私一人なら、平然と酷評を受け流すと知っているからこそ出るものだ。
自然と笑みが深まってしまい、目の前のお歴々が一斉に静まり返る。
「私への苦言は、どうぞ私自身にお願い致します」
「……ふむ。説明は求めんのか?」
「それが必要な事ならば、既にお話し頂けているのではと愚考致します」
横から国王陛下に問われ答えるが、様は面倒くさくなってきただけだ。
口火を切ったのは、どこかアシル様に似ている御仁だった。
「お主は、女性騎士の価値はどこにあると思うかね」
「私自身は、男性では補えない面に於いての役割の代替であると考えております」
「例えば?」
「護衛対象が女性である場合が最も分かりやすいかと」
あっさりと答えれば、逆に相手が難しい顔をした。
さらに、至極尤もな意見を返してくる。
「今の言葉では、お主に価値が無いことになるな」
「はい」
だから、素直に同意した。
そうすると、場がどよめく。横目に窺った国王陛下も、隠すことなく期待外れだという視線をくれた。
私としては、このまま興味を失ってくれて大歓迎なのだが、あいにくと黒騎士の評価が関わってくるのでそれは出来ない。
なので、すぐさま説明する。
「貴方様が問われたのは、真価ではなく価値です。ですから私は、先程の言葉をお返し致しした次第であります」
「では、それを詳しく」
「価値とは、時と場合によりいくらでも変動が可能です。故に、女性騎士という存在は、現在に於いて仕方なく使われている程度の価値しか無いかと」
すると、別の方向から追及された。
「ならば、お主には何の価値があると思っておるのだ。女性騎士の真価とは」
「私自身の価値については、〝使いものになる〟という点でしょうか。そして、女性騎士の真価は、男性ではない点にあるかと」
「ええい、まどろっこしい! もっとはっきり答えんか!」
でもって怒られた。
どうやら丁寧さを心掛けすぎて、表現が曖昧になってしまったようだ。
とりあえず謝罪を込めて頭を下げながら、ひっそりと舌打ちをする。高貴な方に対する加減が分からない。
「黒騎士の、特に征伐部隊で必要なのは戦闘力です。少なくとも基準を越えているおかげで、私は今の職務に就くことが適っております」
「ならば価値があるではないか」
「しかし皆様は、女性騎士に対して盾以上の役割を求めておられないではありませんか。無礼を承知の上で申し上げれば、本音としては御命を預けられないのでは?」
私の問いに、誰もが口を噤んだ。
屁理屈なのは分かっている。しかし私は、女性騎士としてではなく黒騎士としてこれまでを過ごしてきた。その時点で、この方々の基準とはかけ離れている。
だから、求めていない働きをして、予想外の状況を作りだしてしまう可能性がある以上は、結果によって幸運にはなれど価値があることにはならない。少なくとも私はそう思う。
「お主は、我が国の女性騎士をどう見る」
すると、アシル様似の紳士が再び尋ねてきた。
こればっかりは、本音を語ろう。
「騎士と名乗ることすらおこがましく思います。正直申し上げれば、侍女が控えた方がよほど便利かと」
その方は、私の答えでほのかに頬を緩めてくれた。
しかし別の所から、苛立ちのこもった指摘が飛んでくる。
「そうは言うも、お主は白騎士との決闘で負けているではないか! 礼儀もなっとらん!」
「その通りだ。〝使いものになる〟と言いたければ、最低でも勝利してからにするべきだろう」
「まさしく」
それに同意する声を聞きながら出処を探ったが、奥の方にいるのか見つけられず、方向だけ大体の見当を付け視線を移す。
そして、鼻で笑う代わりにうっかり嫌味がこぼれてしまった。
「酷な事を仰いますね」
「当然の指摘であろうよ」
「よろしいのですか? 私ではなく、相手の方について申し上げたのですが」
「何?」
「お相手して頂いたのは、皆様が稀代の天才と評される方です。しかし先程、どなたかはその方に対して最弱であれと仰った。才ある方にとって、それはあまりに酷ではありませんか」
「なぜそうなる!」
「最低の基準になされておりましたから」
おまけとばかりに首を傾ければ、呻き声しか聞こえなくなる。
口喧嘩なら負けないっての。生意気は私の代名詞だ。
「礼儀については至らぬ部分も確かに多く、申し訳ない次第であります」
国王陛下がまたもや笑っているのを気付きつつ、痛む頭に眉間を揉みたくなった。
いくら黒騎士の評価を守るためとは言え、これでは玉座の間を出た途端に暗殺される気がする。
この人たちにとっては、私がこの謁見を直前に知ったことなど関係ないのだ。それを言ったところで、素行が悪い証拠だと嬉々として指摘するだけだろう。
にしても、いつまで茶番は続くのか。
今度は西街での行動に説明を求められたので、今回の恨みを晴らすべくゼクス団長とウィリアム副団長へ、適当に責任転嫁しておいた。さすがに黙認していたとは言わなかったが。
すると、どうやら攻め方を変えたらしく、私が総騎士団長の孫であることが槍玉に挙げられる。
どう答えて欲しいのだろう。私がどうこうできる問題ではないと、貴族である相手の方が分かっているはずだ。
なのでそのまま返せば、とうとう誰かがそれを口にする。
「ならば、王太子殿下とただらぬ関係である噂について説明せよ!」
すると、よくぞ言ったと思っていることをありありと感じさせる顔を多くが見せつつも、同時に青い顔をして王太子殿下へ注目した。
私に質問したんじゃないのかよ。まあ、答えは先程と一緒で、肯定も否定もできないのだが。
しかし、それでは納得しないだろう。仕方なく、論点を変えて返す。
「私は、性別を言い訳にすることを自身に許しませんが、否定も致しません。故に、だからこそ可能な役割に就くことに戸惑いを抱きません」
「慎みを忘れて良い理由にはなるまい」
「ならば規則に、その旨を書き加えて頂きたい。女であれ、武人としての悩みがございます」
少し下世話になりつつも、思惑は成功したかにみえた。
それを壊してくれたのが、ここまで傍観に徹していた御方である。
抑揚のない淡々とした声が、突如として私を追い込む。
「それで、答えはどちらなのだ。私とお前は、ただならぬ関係であったか否か」
驚きながらも視線をずらせば、王太子殿下はまっすぐにこちらを射抜いていた。
合わさっていた唇に隙間が生まれ、舌が動いたにもかかわらず、よくぞ打ち鳴らさずにいられた。とりあえず自分を褒める。
そして、降参して一言――
「否であると」
「だそうだ。これでこの件も仕舞いだな。他にあるか」
ただれた関係ではあったけどな!
そんな心の呟きは、幸いにして誰にも察せられることがなかった。
でもって、もう誰も喋るなと必死に念じる。そろそろ私は、城から無事に生還する方法と、ほとぼりが冷めるまでの潜伏先を考えなければならないのだから。
すると、よほど威圧的に笑っていたのか、いくつか怯えているような視線をもらいつつも願いが通じたようだ。
これまで黙って成り行きを見守っていた国王陛下が、私の名を呼びこれが最後だと仰った。
「儂からも一つ問う。そなたはどのような女性騎士を目指すか」
騎士ではなく、女として。それはひどく簡単なものだった。
なので、胸に手を置いて即答する。
「他と違わず、劣りもしない誇りを抱きたく」
「その心は?」
「いくら努力しようとも、性別による壁は超えられません。しかし、それはどちらも同じ。泣く子供の前に揃って立てば、よほどの強面でなければ女性を選ぶでしょうし、囮役もどちらが警戒心を弱めるかなど明白です。ならば私は、それを武器として磨きます。そうすれば、自ずと立ち位置は同じになり、騎士としてご期待に添う働きが可能となるかと」
「適材適所か」
「はい。女性騎士はサポート役である、ということを認めた上で、その存在なくして勝利はあり得ないと言わせたく存じます」
国王陛下は、そうして満足そうに数回ばかり頷かれた。
もちろん、強くなれるに越したことはないが、剣一本で渡り歩けるなど幻想も良いところだ。
私を知る者からすれば、理想と現実の行動が真逆だと主張する奴もいるだろう。
だがそれは、サポートだけでは不十分だと判断させ、出しゃばらせる方が悪い。
「それでは、判断を下す。エイルーシズの立案を認め、推薦者を適材とする」
しかし、これでやっと解放されると油断している間で、何かとんでもないことが決まっていた。
右手を肩の位置まで挙げて宣言された国王陛下は、そしてなぜか私を見る。思わず一歩下がりかけ、宰相っぽい方にひっそりと制された。背中に添えられた手が、心なしか抓み気味だ。
「それに伴い、黒騎士レオに命ずる」
「はっ!」
さらにはいきなりのお言葉に、慌てて膝をつく。
その先に待っていたのは、とんでもない衝撃を及ぼす内容であった。
「これより二年以内で上級騎士となり、必ずや二年後、新たに発足する騎士団の団長という地位を新王より授かることを命ずる」
耳を疑った。
というか、意味をすぐには理解できない。
「なお、新たな騎士団は女性騎士のみで構成され、名を紅騎士団。儂は、この試みがエイルーシズを王としての、最初にして代表すべき功績となることを望む。心して修行するのだな」
「――黒剣に誓い、しかとご期待に添うてみせます」
儀礼的に返答しつつも、頭の中は真っ白だ。
しかし、心がこもっていないであろう割れんばかりの拍手が、次第に現実であることを認識さていき、言葉を呑み込むと同時に血の気を引かせた。
――この馬鹿親子が!
そう絶叫しなかった自分を褒めてくれる人は誰もいない。
ていうか周りも、手ぇ叩いてないで止めろって! あんたらさっきまで、私のことを散々扱き下ろしてただろうが!




