日向に兆す
どこからか聞こえてくる軽快で賑やかな鳥のさえずりが、心地良い眠りの底から呼び覚ます。
覚醒した時に私が横たわっていたのは、炎と煙の中でも、ましてや薬草が所狭しと吊るされた傾いだ家でもなく、消毒液の臭いで満ちる国立医院の一室だった。汚職にまみれた医務局長がすげ替えられたばかりで心象は悪いが、設備は国内随一であり、個室ともなれば下手な宿より快適だ。
最初に顔を合わせた人物は、付きっきりで看病してくれていたらしいカティアさんだった。
彼女が涙目になりながら語ってくれた話によると、なんでも私は赤子を抱えた状態で、いつの間にか黒騎士団本部の前に倒れていたそうだ。発見した黒騎士によってここへと担ぎ込まれ、一時は危ない状態だったとか。
日付を確認した時には驚いた。一週間も暢気に寝ていたという。
どうりで身体がおかしいわけだ。そう苦笑すれば、重傷なのだから当然だと呆れられてしまった。
それでも不思議なことに、おぼろげながら記憶があったりする。とはいっても、覚えているのは二つだけ。
一つは、誰かが冷たい手を額に乗せ、何かを囁いていたこと。わざわざ確認はしないが、たぶんカティアさんだろう。
もう一つは、穏やかで優しい香りだ。これは、病室を見渡せばすぐに判明した。
窓辺に置かれたたった一輪のカンパニュラの花。カティアさんは、けして誰からなのか明かさなかったが、こんな気障なことをする知人など私には一人しか思い浮かばない。
その花言葉は――――感謝。まったく、どんな気まぐれを起こしたのやら。そう思いながらも、黙ってその花は飾っておくことにした。
しかし、和めたのはその一瞬だけで、私が意識を取り戻したことを他方へ知らせに戻るというカティアさんの背中を見送ってからは、動かない身体への苛立ちと顛末を知りたい心が暴れてどうしようもなかった。彼女から教わることができたのは、自分がここにいる理由と、総騎士団長に怪我はないという情報のみ。
国王陛下や殿下、イースは無事なのか。西街はどうなったのか。どこまで情報が開示され、何を秘匿しなければならないのか知らない状態では、私から安易に尋ねるわけにはいかなかった。
その悩みが解決したのは、医者からの診察を受けて容態を説明された後、きつくまぶたを閉じて平常心を取り戻そうとしていた時である。
「よー、起きたって? お、その髪型懐かしいな」
ノックもなくやって来たのはロイドだった。
頬にかさぶたをいくつか作っていたが、私とは違い元気そうで、腰には二本の剣を帯びていた。
「ほらよ。これ、お前の剣だろ」
「ああ、悪いな」
「うっわ、ひっでー声だな。つーか、いつの間に新調したんだよ」
椅子の背を抱えるようにして目の前に座ると、一本をベッドの横に立て掛けてくれる。赤い鞘は少しだけ汚れていたが、それ以外は授けられた時のままで目立った変化はない。
一瞥してから礼を言い、どこまでも普段通りな表情と雰囲気にとりあえずは安堵した。少なくともロイドが来れるぐらいの余裕はあるようだ。
そして、なんとか動かせる首を横へと倒し苦笑する。
「イースにもらった」
「へー、あいつがなぁ」
「正確には王太子殿下からだけどな」
「……そっか。傷の具合はどうだ?」
「一ヶ月は絶対安静だと。復帰も三ヵ月は許可出来ないって言われた。運動量も完全管理するって拷問だろ」
「はは! 医者にまで信用もらえねーでやんの」
「うるせぇ。これじゃあ、元の状態に戻るまで半年はかかる……」
絶望感たっぷりに状態を告げれば、ロイドは腹を抱えて笑いだす。
けれど、ぴたりをそれを止めると、音を拾って周囲の様子を確認してから、急に真面目な顔をした。
「こっちは無事、任務達成。つっても、もう一週間前のことだけどな」
「一晩で済んだのか」
「ゼクス団長が陣頭だぞ? 時間がかかるわけがねーって」
「それもそうか」
「国王陛下はもちろん、王太子殿下もルードヴィヒ殿下も傷一つねーってさ」
それを聞き、視線を天井に移して深く息を吐いた。
――良かった。本当に良かった。
緊張が解け、手術で出来た傷と背中が痛んで苦い表情になる。
しかしロイドなら、私が安堵しているとお見通しだろう。
「西街も全壊はしたが、逃げ場を封じるえげつねー火の放たれ方をした割には、半分以上が生き残ってる」
「半分も死んだのか」
「その三割は相手側に加担した連中で、一週間掛けて俺らが討ったんだけどな。ただでさえそれで忙しいってのに、白騎士団が壊滅状態だろ? おかげで所属関係なく、色んな場所に出張るはめになって、もうてんてこ舞い。連携は中々取れないし、技術の差もひどくてなー。三徹、四轍当たり前だぜ」
たしかにロイドの目の下には、隠しきれない疲労が隈として浮かんでいる。こいつの場合は、地味なだけで凶悪な顔ではないので良いとしても、おそらく今の征伐部隊は幽鬼のようで普段以上に恐ろしく見えるだろう。
想像して、別の意味で心配になってしまった。
「でもって、反逆の中心に居た連中は、三日前に処刑されてる。王妃と第二王子、後は……。有名どころでいけばブラウン辺境伯か」
「……辺境伯だけか?」
「んや、あそこは一族郎党だな。粛清の対象は、他も軒並み処罰済みだとよ。さすが王太子殿下、仕事がはえーわ」
そして、復讐心は殺せても一生憎み続けたであろう連中が、今度こそ絶対に手の届かない場所へ送られたことを、ひどくあっさりと知ってしまった。
いきなり溢れた言い表せない感情の波をゆっくりと目を閉じて耐え、少しずつ噛み締める。喜びや喪失感、矛盾した様々な想いがない交ぜとなり、けして晴れやかとは言えなかった。
「忙しいのに、ここに来て良かったのか?」
危うく泣きそうになったところでロイドが居ることを思い出し、慌てて話題を変えた。
知りたかった情報はもらえた。これでしばらくは、大人しく寝ていられるだろう。
違和感を覚えただろうに、それでもロイドは何も言わず話しに乗ってくれる。
「教えとかねーと、抜け出しかねないと思ってな。無理言って……と言いたいところだけど、満場一致で時間もらえたわ」
「私のことは、全員がお見通しってわけか」
「そりゃあ、なあ? あ、そうだ。お前が助けた赤ん坊、ちゃんと孤児院見つけといたから」
「そうか、悪いな」
けれど、その知らせに安心していれば、めずらしく沈黙が落ちた。
任務中やこの間のような状況ならまだしも、こんなことは滅多にない。ロイドが常に喋っているからだ。
不思議に思い視線を向ければ、ロイドは躊躇を見せながらも口を開いた。
「……なあ。結局さ、お前は何と戦ってたんだよ」
椅子の背の上に腕を置き、顎を乗せた状態で注がれる灰色の視線は、どんなことでも受け止めると伝えてくる。
答えようとして、唇どころか喉が乾きすぎ、声が出なかった。水を頼めば枕もとの水差しを取ってくれて、ついでだからと身体も起こしてもらう。
「いきなり二週間も居なくなって、帰ってきたと思えば貴族に狙われ、また消えるしよ。挙句には、自力で動けないほどの重傷で。さすがの俺でも、今回の無茶は無視できねーって」
「……悪い」
「まあ、今更聞いたところでだろうけど。終わったんだろ?」
「一応は、な」
「だったら聞かせろよ、お前の武勇伝」
掠れた声での反論に、ロイドは笑って顎をしゃくった。
そんな大層なものではない、むしろ失敗談だと言えば、それならそれで思う存分笑ってやると、十年の付き合いで初めて強引さを見せてくる。
たしかに、巻き込んでおいて何でも無かったなど虫が良いだけだ。こいつには、かなり迷惑をかけてきた。
自分でも驚くほど、すんなり態度が決まる。それでも気まずさはあったので、陽が高く昇る外へと視線を流し、つまらない話だと前置きしてから潤した喉を使った。
「私の髪色、珍しいだろ?」
「まあ、そうだな」
「これのせいで、私の両親は殺されたんだ」
横目に様子を窺えば、ロイドは始め、驚きながらも意味が分からないと首を捻っていた。
これが普通の反応だ。私も変わらずそう思いながら、話しを続けた。
「初代国王や金獅子、有名どころの偉人の多くが金髪だったのは知ってるか?」
「言われてみればそうだな」
「それを理由に貴族の間では、金髪至上主義って思想があったんだよ。といっても昔は、そこまで危険視はされてなかったし、信じる奴もほとんどいなかった」
「昔は、ってことは、何かあったのか」
「ほら、今の王子の中だと、一人だけ黒だろ? ほとんどの貴族にとって、王太子殿下は優秀すぎて脅威だったが、かといって堂々と反対できる理由もなかったからな」
「口実で広がったってことか」
「そんなところだ。中でも性質が悪いのは、特別な力が宿ってると本気で思ってた奴だな。今回の反乱は、そういった連中が中心になって起こってる」
簡単に分かりやすく説明していけば、次第にロイドの表情が不機嫌になっていく。
話しの流れを察しているのだろう、静かに続きを促してきた。
だから私は、自嘲を浮かべながら再び口を開いた。
「そんな信奉者が、金髪の平民を見つけて放置するわけがない。私の場合は色々な事情が絡んでたが、簡潔に言えばさらおうとして失敗して、両親が犠牲になった」
「意味分からねーが、とりあえず分かった。で?」
微妙な理解は仕方がないとして、ロイドも私もここからが本題だと目を合わせた。
といっても、薬物パーティーの件は〝忘れてしまって〟いるし、独断で語れるものは多くない。
ただ、ロイドが知りたいのは何が起こっていたのかではなく、私が長年にかけて何をしようとしていたのかだろう。
それならば、隠さず話すことができる。
「実行犯は捕まって獄死。でも、その後に母さんの墓が荒らされて髪を奪われてさ。黒幕がいるのを知ったんだ」
「ちょっと待て。母親も金髪だったのか?」
頷けば、唸られる。
ロイドは額に人差し指を押し当て、何やら考え込んでいた。
理由が分からないので、とりあえず私は話しを進める。
「騎士を目指したのは、その黒幕を見つける為だ。結局、向こうから現れてくれるまで、手掛かりすら掴めなかったけどな。それがほら、お前が脅された時のあれだ」
「わざわざ十年経って、あんな周りくどい方法でか?」
「あっちは両親の事件が落ち着いたら、改めてさらい直すつもりだったらしいが、私が名前を変えたせいで見失ったようだ。きっかけは、悪いが言えない。別口でちょっと巻き込まれた」
するとロイドが、一旦情報を整理すると言って制止をかけた。
大人しく従い黙っていれば、目の前には地味な顔を精一杯渋くして、独り言を呟く男が一人。真剣に付き合ってくれているところ悪いが、かなり不気味だ。
ひっそりと笑い、そのせいで生じた痛みと戦う。
ロイドは、しばらくして顔を上げ、とある疑問を投げてきた。
「親子だと出やすいのか?」
「遺伝するとすれば、そうなんじゃないか?」
しかし、それほど重要なこととは思えず、ついでに正確なところも分からないので、大した答えは返せなかった。
そうすると、腑に落ちないと言いたそうにぼやいてくる。
「だからって、十年経っても執拗に狙ってくるかぁ?」
「あー……。それはたぶん、他から見たら利用価値がまだあったからだろ」
「お前に? あ、あるな。イースか」
「そうそう。……いや、待て。言われてみれば、簡単に遺伝するならもっと居ても良いはずだな」
そして今度は、私が考え込むことになった。
野心たっぷりだったアークはともかくとして、いくら信奉者だったとしても、昔に捕まえ損ねただけの小娘を、なぜ大切な跡取り息子の妻として迎えようとしたのか。囲えば良いだけだろうに、あの時の言い様を思い出せば、ずっと探していたとも受け取れる。
いや、シール家の血を入れれば、国王陛下に取り入る口実が出来るな。しかしそれは、総騎士団長が認めなければ意味は無い。
そこで何かが引っかかった。
そうだ、総騎士団長といえば――――
「悪い、あった。金髪が珍しいのを考えれば、たぶん私、王子並みに特別だ」
「そういや、その珍しいのが、一人を除いて兄弟で出たことになるんだよな」
「ああ。でもって私の母さんも、父親から継いでる」
つまりは、親子三代で金髪なのだ。信奉者にとって、これは眉唾物だろう。
なんにせよ反王太子派が壊滅した以上は、この思想も再び鳴りを潜めるだろうから、気づいたところで今更だ。気にしないに限る。
けれどロイドは、新たな疑問を持ったようだ。椅子を限界まで前に倒し、バランスを取りながら尋ねてくる。
「なあ。貴族にも珍しい色が、平民で三代続けて出るのっておかしくねーか? 偶然にしちゃ出来すぎてる」
「そりゃあ、な。そもそも母さん、元貴族だし。父さんと駆け落ちして出来た子供が私だ」
「つーことはだ、母親の父親は貴族……。ちなみに誰だよ。お前のことだから、そこまで知ってたら調べてるだろ?」
「レオンハルト・サン=シール」
そして、灰色の瞳が一回り大きくなり、一瞬の沈黙を経て、けたたましい音が病室に響き渡った。
「はあああああ――?!」
ロイドが椅子から転げ落ちたのだ。
そのくせ本人はケロッとしており、床の上で口を無駄に開閉させている。
とりあえず、指差すのだけはやめろ。いつもならその指を掴んで、曲がってはいけない方向に曲げてやるところだ。
「総騎士団長閣下の孫ってことか?!」
「だからって、私には関係ねーよ。つい最近まで、顔合わせたこともなかったし。貴族の間では最近、私が悪女みたいな噂が流れてるらしいけどな」
他人事みたいに言うなと怒鳴られたが、実際に似たようなものだと思っている。
けれど、気持ちとしては肩を竦めてそう伝えれば、火に油を注ぐ形となるだけだった。
「そうか! レオ、お前、今回の騒動に巻き込まれただろ?!」
しかも、バレた。
しまったな。アークの素性を知ってたか。こいつも変なところで頭が回る。
ひっそりと舌打ちするが、もう遅い。ここぞとばかりに捲くし立てられてしまった。
「お前さ、イースとのこともそうだけど、変なところで受け身でいるなっての! そりゃ俺たちは、忠実であるべきだけどな。もうちょい、自分の特異性を意識しろって!」
「何がだよ」
「何がじゃねーよ! この剣だって、王太子殿下から授かるとか普通あり得ないからな!」
「確かにそれは不思議に思ったな。でも、第二王妃にならないかって誘いは断ったし、それ以外に私の使い道なんてあるか?」
するとロイドは、あんぐりと口を開けて固まった後、盛大にため息を吐いてベッドの端で突っ伏してしまう。
懸念は分かるが、幼い頃に引き取られて教育を受けているならまだしも、今更シール家に入って跡取りになるなどあり得ないし、他にどうこう出来る手段があるだろうか。
現状を生き抜くのが精一杯で、ブラウン領に赴いた以外は流されまくったのは認めるしかないけども。
そうしてロイドが立ち直るまでの間、自分でも微妙だと思う反省を余儀なくされた。
「……まあ良い。とにかく、だ」
「ん?」
しばらくして、傍らで哀愁を漂わせていた背中が起き上がる。
それから何故か、遠慮のない力で鼻をつままれ、かなり間近で灰色の瞳が私を射抜いた。
「お前は復讐しようとしてたってことだな。この十年間、ずっと」
「いっ――!」
「で、ブラウン家の連中が黒幕だったってことで間違いねーな?」
「そうだよ! つーか、怪我人に何してくれてんだ!」
地味なくせして強烈な攻撃におもわず身動ぎ、そのせいで傷へと響いて涙目になっていれば、ロイドは静かに怒りの声を発した。
大きくはない。けれど低く、どこまでも本気だった。
呆れるほどのお人好しで、大抵のことを笑って済ますこいつのそんな姿を見たのは初めてだ。
「なんで言わなかった」
「なんで、って……。そりゃ……」
「そんなに俺は頼りないか? 確かに貴族相手じゃ、しかも辺境伯なんて手も足も出ねーだろうよ。でもな、そんな俺でも、お前と一緒に怒って、恨んでやることぐらい出来んだよ」
「んなこと言ったって」
「お前を信じて踏み込まなかった俺も悪い。そんな俺を裏切って、言わなかったお前はもっと悪い。俺ら、親友じゃねーのかよ」
恥ずかしげもなく告げられた言葉に息を呑む。
そして、ロイドはいきなり直立して、私の前に自分の剣を突き出した。
「アークは俺が切った」
「そう……か……」
「お前と一緒に鍛えたこの剣でだ。それで良いな?」
頷くのが精一杯だった私に、ロイドは語る。
城内で索敵中に、偶然遭遇したこと。面識があったから、アークで間違いなかったこと。そして、その最期も。
それが慰めか真実かは、その場に居なかった私には分からないし、アークが張本人ではないので、結局は復讐を果たせなかったことに変わりない。
けれど、終わったのだと、不思議とそう思えた。
その想いを感じ取ったのか、ロイドがゆっくりと歯を見せる。
「っつーわけで、美味いもん奢れよ」
「約束だからな。そういえば、鞄も助かった」
「あれはゼクス団長が持ってけって言ったからで、俺はお前があの家に居るなんて知らなかったっての」
「でも、いつ戻って来ても問題ないよう、用意してくれてたんだろ?」
「一応ながら部下ですからねぇ、小隊長殿」
ロイドは照れたように頬を掻いて笑っていた。
ずっと秘密にしていたことを、こんなにも簡単に片付けてくれるとは。騎士になるまでを近くで見ていたこいつこそ、呆れて当然だろうに。
お人好しめ。私は、もう何度目かも分からないその言葉を内心で呟きながら、可能な限り頭を下げた。
「悪かった、ありがとな」
「俺とお前の仲だろ。気にすんな」
「……そうか」
「ただし、今度からはもっと頼れ。それと、イースが何か企んでないか、少し探ってみるわ。まあ、尻尾すら掴めないだろうけどな」
けれど、やけにロイドがそこに拘るので、そのまま首を傾げることになる。
たしかにイースは、転んでもただでは起きない男だが、私は騎士であることを選び、あいつは嫌味を言いはしても止めなかったのだ。
そうなると、私はただの下っ端でしかないように思う。
「あのなぁ、お前は自分のことを低く見すぎだ」
「実際低いだろ」
「いやいや……。男でも簡単に脱落する環境で、女なくせして生き残ってる時点でおかしいから」
「女として考えたらだろ。後は、戦い方か? これでも一応、器用貧乏だとは思ってる」
「それだよそれ! 弱いからこそ工夫して、でもって型破り。十分、普通じゃねーって」
「プライドだけあったってなぁ。死んだらそれで終わりだし」
というか見舞いなはずなのに、なんでこんな会話をしてるんだろうか。
倒れたままだった椅子を立てて疲れたように座ったロイドは、呆れを多分に含んだため息をあてつけるかのごとく吐いていた。
私が悪いのか? だとしても、残念ながらさっぱりだ。
「……分かった。お前はあれだ、基準が平等なんだな」
お手上げだと考えるのを放棄すれば、そうはさせまいと、すかさずロイドが突っ込んでくる。
しかし、やはり理解不能だった。
「ある意味、理想がたけーんだよ。今の話しでいけば、男も女も関係なく騎士であることが重要で、偏見がねーっていうか。頑固と柔軟性が、良くも悪くも両立してる」
「うーん……、うん? 負けず嫌いなだけだろ」
「あ、もしかして。だからゼクス団長とウィリアム副団長は、無理やり小隊長に抜擢したのか」
「それは絶対、面白がるついでで厄介者を押し付けただけだ。……聞けよ、おい」
そしてロイドは、人の抗議を無視して最終的に一人で納得すると、また来ると言って帰ってしまった。
まるで嵐のようで、起き抜けな身ではひどく疲れた。あいつは結局、何を言いたかったんだろう。
とりあえずは、素直に忠告を受け取り、イースのことを考えるべきなのかもしれない。
「つってもなぁ……。真正面から負けない自信が持てるのは、同じ女を相手にする時だけだし。後は、図太さか。これがどう、あいつの役に立つってんだ」
とはいえそれは、暇な療養生活の丁度良い暇つぶしにはなれど難解すぎて、答えを見つける自信など微塵も持てなかった。




