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悪魔の微笑を消す呪文  作者: 林 りょう
【黒騎士】編
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新たな剣と共に(3)




 びっくりした。本当にびっくりした。まるで引き戸のように壁が開き、ひと一人分ほどの穴が出来上がっている。

 一応ここは三階なはずなのだが、貴族の屋敷はこんなところにまで隠し通路を作っているのか。

 半ば呆然とする私を余所に、エドガー様はこの身の無事を確認すると、制服の埃を払いながら室内へ足を踏み入ている。


「こちらはまだ安全な様だな」


 そして、周囲を警戒し呟かれた言葉に私も我を取り戻し、慌てて説明を求めた。

 すると、とりあえずは無表情に戻りながらも、固い声で驚くべき状況を告げてきた。


「陛下を人質に取られた」

「ルードヴィヒ殿下はご無事ですか?!」


 さすがにそれを聞き、笑ってなどいられない。

 だというのにエドガー様は、私の質問に目を丸くされた後、ともすれば鼻で笑ったとしか思えない反応を見せる。

 そして、今し方通って来られた壁に半身を入れ、心配した存在を腕に抱いて私の前に立つ。


「レオ!」

「良かった。怪我はありませんか?」

「うん。レオも元気そうだな」


 着の身着のままで逃げて来たのか、殿下の格好は就寝前と思われるものだ。しかし、表情はそこまで切羽詰っておらず、ひとまずの安堵を得られた。

 念のためにその上から身体を触って状態を確認する。

 そこで、窓から外を窺っていたエドガー様から意外なことを聞かれた。


「王太子殿下のことは気にならないのか」


 だが、それは愚問だ。肩を竦め、間を一切おかずに息をするかのごとく答える。

 ただし、相手が銀雪の騎士様なので、本心を何重にも包んだ言い方をしなければならなかった。


「私ごときが御身を案じずとも、彼の御方は厳重に護られておいででしょう」

「お前と王太子殿下が親しいことは既に知っている。取り繕う必要は無い」


 しかしそれは、いらぬ気遣いだったらしい。

 一体どこでと怖くなったが、ひとまず置いておく。だったら遠慮なくと、ありのままを口にした。


「あいつはこんなところで死ぬほど、空気が読める男ではありませんから。心配するだけもったいないです」

「ほらね、言っただろ」


 そこで殿下が反応したのは何故なのか。エドガー様も、呆れた視線を隠そうともしない。

 人がせっかく素直に従ったというのに、なんだこいつら。

 ともかく、今は暢気に会話をしている暇などないだろう。いつでも動けるよう、殿下の隣に立ちながらエドガー様へと視線を送る。


「それにしても、なぜ私の所へ?」

「王太子殿下のご指示を受け、ルードヴィヒ殿下の案内でここまで来た」

「今の説明では、私との関連性を把握できないのですが」


 すると、見事に舌打ちをされてしまった。ほんの少し歩み寄れたかと思えば、すぐこれだ。今日はまだ何もやらかしていないはずなのに。

 それでもエドガー様は、より詳しい説明をしてくれる。どうやら質問の答えを先にして、それから全てを教えてくれるつもりだったらしい。


「陛下が襲われたのは、執務を終えて寝室へ入られてからだったようだ。王妃が直接、事を起こした」

「それだけならば、すぐにでも収拾が着いたはずではありませんか?」

「……ああ。逃げなければならないほどになったのは、近衛を除いた殆どの白騎士があちら側へ着いたからだ」


 なるほど、数で押し切られたか。

 だとしてもお飾りが集まっただけでは、近衛の方々ならば何とかできるはずだ。

 そう思ったのだが、どうにもタイミングが悪かったらしい。その半数が現在、ウィリアム副団長を中心としたいくつかの地方勤務の征伐部隊と共に、ブラウン辺境伯の身柄を押さえるため出払っているそうだ。どこかでその情報が漏れたのかもしれない。

 そして、陛下を人質に城が占拠されてしまった。


「しかし陛下は、お命を脅かされた状態でありながら、エイルーシズ王太子殿下にのみ王位をお譲りになると明言された。事前にその御意志を認められていたらしく、それを受けて王太子殿下は書状と共にすぐさま身を隠されている。俺もそれに続き、城から脱出することにした」

「兄上が、もしもの時はレオを頼れって。ここに来たら居るようにしておくからって、前に道を教えてもらったんだ」

「それはいつですか?」

「街で一緒に遊んだ時だな」


 あいつ……! その時にはすでに、こうなることも想定していたというわけか。

 しかし、どうしたものか。今の私は、ただでさえ満足に動けない上、着替えることすら自由にできない状態だ。自分を護るのもままならない。


「そういえば、ジャン様とは別行動なのですか?」

「こういう時こそ、あいつの技術は役に立つ。奪還の方へ回るのは避けられなかった」


 エドガー様に殿下の傍へ来てもらい、話を聞きながら、この屋敷に運ばれる際に持っていた物を広げていく。

 殿下がまた散らかしているとか何とか言っていたが、無視させてもらった。


「あちらはお爺様の指揮の下、ゼクス団長を中心として作戦が進められているところだ」

「ならば陛下は大丈夫ですね」


 それを聞いて安心した。

 そもそもとして、イースが黒騎士を飼い慣らしていたのは、こういった状況になった時のためだ。

 でなくともゼクス団長が出るのなら、何を不安に思う必要があるのだろう。色々と厳しくはあるが、これでも私はあの方のことをこの世で最も尊敬している。

 ブラウン辺境伯の方も、ウィリアム副団長が請け負っているのならきっと問題無い。あの人が本気を出せば、大袈裟ではなく砦の一つや二つ平気で落とせる。もちろん私のような姑息な手ではなく、正面突破のさらに全滅という結果も叩きだせるだろう。

 他にもラルフ部隊長やロイド、テディだっているのだ。失敗などあり得ない。

 むしろ危険なのは、私たちの方かもしれない。ルードヴィヒ殿下は、イースにとって最大の弱点である。

 かといって優先すべきは陛下と王太子殿下だからこそ、増援が望めなかった。こうなることが分かっていたから、イースは私に託したのだろう。


「そうなると、ここで身を潜めるのは些か危険かもしれませんね」

「動く方が危険だろう」

「ではお聞きしますが、開口一番に私の無事を問うたのはなぜですか?」


 無い頭を必死に巡らせ、相手が考えそうなことを思い浮かべた。

 こういう時は無駄に材料を揃えるより、自分ならどうするかという方向から攻めた方が良い。今まで散々、悪人たちの手を見てきているのだ。

 エドガー様も初めはいぶかしんでいたが、そう返したことで少なからず察したのだろう。目くじらを立てることはなかった。


「お前が王太子殿下と深い関係である噂が、ひそかに流れている」

「私が死んだところで、あいつはヘマをしたなと笑うだけだというのに。アーク辺りが獄中から広めたのでしょう」


 城内の牢の見張りは白騎士の仕事だ。ただ呟くだけでも、面白いほど食いついたはず。

 そして、私の姿が宿舎や黒騎士団の本部に無く、城に隠されているわけでもなければ、出自を知る者はおのずと候補を絞るだろう。


「殿下のみでも、城から消えれば行く宛てなど限られます。ここか、アシル様の周囲か、エドガー様のご実家も候補の一つに挙がりますね」

「……そうだな」

「その中で私が居るとすれば、誰だってここを真っ先に浮かべるかと。どうせ向こうは、私のことなどただの女としか見ていません。その上でこちらは数が限られており、別々で護衛する余裕がないのは明白です」

「お前は自分以外の事となれば、途端に頭が回るな」


 褒め言葉として受け取っておこう。

 さて、そうなるとだ。一時的にでも王都から出た方が良いかもしれない。

 しかし、どうするにしても明らかな準備不足だ。


「殿下。他にも何か、事前に言われていたことはありませんか?」


 そこで、あいつのことだと淡い期待を胸に、エドガー様の服をひっそりと掴む殿下へ問いかけてみる。

 すると、いきなり話を振られたことで一瞬呆けてから、小さく声を上げられた。


「そういえば、確かここに……」


 そして、何故かベッドの下を覗き込み、腕を入れて探り始めた。

 望んでいたのは私だし、助かるのも確実だ。だというのになんだ、……この脱力感は。

 普通は隠し通路の途中で備えているものだろう。私はそのベッドで、一週間以上過ごしていたわけなんだが。

 エドガー様も、まさかそんな所にといった様子で驚いており、殿下が目的の物を見つけて突き出してきた時には、揃ってため息を吐いてしまう。


「あった! はい、これ。兄上が、もしもの時は遠慮なく使えって」


 ともかく、目立たない色の袋を受け取り中身を確認すれば、そこには私が期待していた通りの物が最低限揃っていた。

 それなりの金と換金用の小さな宝石がいくつか、質素な服もしっかりとある。殿下の身分を証明できる王家の紋が入った手紙は、他国へ渡った場合に保護を求められるものらしい。


「さすが、王太子殿下は抜かりが無いな」

「これで殿下ご本人は問題ないでしょう。後は私と、エドガー様ですね。さすがに制服のままは目立ちます」


 お互いの格好を見て、殿下の用意をエドガー様が、私は部屋を出て人を探して来ることに決まった。

 だが、誰でも良いわけでもない。できることならカティアさんを見つけたいところだ。まともに交流を持っているのはあの人だけで、出会った相手が必ずしも信用できるとは限らない。

 しかし、それは杞憂に終わる。

 切羽詰った様子で大きく響いたノック音は私たちを激しく警戒させるも、次に聞こえてきた声がまずエドガー様からそれを解かせた。


「エレオノーラ様! お嬢様! ご無事でしたらお返事下さい!」


 私にとっては聞き覚えの無い男の声だったが、総騎士団長の弟子ならば、よっぽどこの屋敷を知っているだろう。

 後、どうでも良い事なのだろうが、私としてはその呼び方を止めて欲しい。一人の時ならまだしも、殿下など不思議そうにこちらを見ていた。


「お嬢様、カティアにございます!」


 そちらに居た堪れなさを覚えている間で、さらにはカティアさんの声まで聞こえてきたので、ひとまずエドガー様に了承を得てから扉を開ける。

 いつでも剣を抜ける状態で、後ろの二人が見えないようにほんの僅かだけ。その隙間から見えたカティアさんと初老の男性の表情は、緊急事態を容易に悟らせるほど青ざめていた。王城のことが伝わったのか、もしくは侵入者が現れたのか。

 二人は私が顔を出したことで安堵を見せ、それから今し方の態度を詫びてくる。

 それに首を振って、何事かを尋ねた。


「旦那様から伝令が参りまして、すぐに屋敷からお逃げになるようにと。どうやら陛下が――」

「失礼ですが、あなたは?」

「申し遅れました。わたくしは、家令として旦那様にお仕えさせて頂いている者です」


 その言葉の真偽を確かめるためエドガー様の方へと振り向けば、頷きで肯定が返ってくる。

 そこである程度、肩の力を抜いた。扉も、私一人が通れるぐらいまで開く。


「さあ、お急ぎこちらにお着替え下さい。馬の用意もすぐに致します」

「それから旦那様は、出来る事ならばルードヴィヒ殿下をお探しして合流されて欲しいと。しかしこれは、あくまでお嬢様のご判断にお任せするそうです」

「その必要はありません」


 この時の気持ちが何だったのか、はっきりとは分からなかった。

 喜びだったのかもしれないし、緊張だったのかもしれない。一つだけ確かなのは、イースが総騎士団長に黙って、逃走の用意を勝手にしていたことだった。

 思わず苦笑してしまいつつ、不思議そうな顔をする二人を室内へと招き入れ、殿下とエドガー様の姿に驚いているところ悪いが急ぎお願いをする。


「エドガー様の着替えを頼みます。出来るだけ質素な物で。多少サイズが違っても構いませんか?」

「ああ。急いで頼む」

「かしこまりました」


 それを受け、家令の方が一旦退出する。

 私はカティアさんから着替えを受け取り、それが状況に合っていることを安堵していた。

 助かった、剣帯まである。しかもしっかりと、左右で装備できる物だ。

 ……私の戦い方を知っていなければ、これは用意できないだろう。


「ルードヴィヒ殿下、ご無事でなによりにございます。緊急時につき、御前にて勝手を働くことをどうかお許し下さいませ」

「良い。エドガーとレオの指示を優先しろ」


 そして、カティアさんは私が着替えることを気遣ってか、殿下とエドガー様を隣りの部屋へ案内しようとした。


「エドガー様」

「……この状況では、致し方ないな。殿下、こちらへ」


 それを止めると、カティアさんが口を開こうとして逡巡する。

 だから、申し訳無さを感じつつも首を振った。

 すると意を決した様子で、せめてこれだけは許して欲しいと、背中を向けたエドガー様たちと私の間に立つ。


「ありがとうございます」

「いえ……。わたくしこそ出すぎた真似をして、申し訳ございません」


 その好意を素直に受け取り、すぐに着替えを始めた。包帯から巻き直し、きつく締める。

 途中で家令の方が戻って来られ、殿下はもちろんのことエドガー様も私と同じようなシャツにズボン、薄手のコートという格好に落ち着く。

 驚いたことに、ここで家令の方から見慣れた鞄を渡された。鍵付きの、隠し武器を持ち込んだ時のアレだ。

 私がエドガー様の着替えを用意するよう急かしてしまったせいで、どうやら先ほど渡しそびれてしまっていたらしい。


「伝令に来られた方が、お渡しになるようにと。それと、エレオノーラ様へのお言葉をお預かり致しております」

「そいつが、私に?」

「はい。〝約束、忘れるなよ。こっちは任せろ〟とのことでした」


 ――――ロイドだ。

 頬が緩むのを自覚しながら、まずは通常の方法で鞄を開ければ、そこには隠し武器用のホルダーと使い捨ての針の束が入っていた。

 そして仕掛けを使った時だ。隣から苦々しい声が聞こえてくる。


「これも遠征道具か」

「これが、ですよ。あの時は、大いに笑わせて頂きました」


 嫌味には反射的に嫌味で答えてしまうも、空気が悪くなることが全くなかった。

 装備している最中に、むしろ質問が飛んできたぐらいだ。


「お爺様は、避難場所など指定はされなかったのだな?」

「はい。殿下がこちらへいらっしゃることも、おそらくは把握されていないかと思われます。お伝え致しましょうか」

「いや、必要ならばこちらで用立てる」


 そうして、後は出発するだけとなる。少し時間が掛かりすぎてしまった。

 本当はどこへ向かうかなど、大まかで良いから決めたかったが、カティアさん達が居る以上は控えなければならない。信用云々の話ではないく、知ってしまえばどちらにとっても危険が生まれるからだ。

 けれど、もし計画を立てていたとしても、全てが無駄になったことだろう。

 使用した隠し通路が別の場所にも繋がっているのかどうか、把握しているのは殿下だけだったので訪ねようとして、さきほどから静か過ぎるのに気付く。

 さすがに緊張しているのだろうと思ったのだが、その視線は窓の外へと釘付けだった。


「殿下?」


 不思議に思い首を傾げながら声をかける。

 しかし、返事をすぐには得られなかった。


「どうされました?」


 二度目の追及で、殿下はやっと反応を見せた。窓を指差し、不安そうな表情で私を見上げる。

 そして、言った。


「レオ……。空が、赤い」


 殿下にばかり集中していたせいで、そもそも用意と音での警戒ばかりをしていたことが仇となり、指摘されるまで気付けなかった。

 慌てて窓へと走り寄る。


「エドガー様、殿下を頼みます!」

「おい!」


 短く告げ、躊躇なく開いて身を乗り出す。

 殿下が言っていた通り、一部の空が赤く変化していた。月明かりの助けもあって、空へと昇る煙も見える。

 それは黒かった。赤く染まった部分を流れ、闇夜に向けて同じ色が溶けている。

 星を頼りにその方角確認し、思わず吐いてしまった悪態は、全員の耳にしっかりと届いていただろう。


「くっそ、やってくれた!」


 北街からではかなりの距離があるので臭いまでは届かないが、それでも原因が分かってしまった。その――目的も。

 腹立たしいままに窓を閉めてしまい、ガラスから悲鳴が上がる。赤い空の下では、この何倍も大きなものが響き渡っているはずだ。


「何が起こっている」


 エドガー様が説明を求めてくる。

 しかし私は、唇を噛むので精一杯だった。


「お前の怒りが静まるのを待っている余裕はない」


 だからといって、言った通りに先延ばしする時間など私たちにはなく、なんとか声を絞り出す。

 そうしなければならなかった。


「たぶん……、ですが」

「構わん。言え」

「西街に火が放たれたかと」


 この場の全員が息を呑んだ。

 けれどそれは、非人道的な行いに対する驚きだったはず。

 私が焦ったのは、それが理由ではない。


「死ぬことすら、まともに出来ないのか」

「どういうことだ」

 

 エドガー様の青い瞳が、殿下の翡翠の瞳が、真意を望んで私を射抜く。発言があまりにも不穏だったからだろう。

 答えを返すためには、腰に下げた剣を一度視界に入れなければならなかった。口にすることで、あるいは現実になってしまうかもしれないなど、愚かなことを考えてしまったせいだ。

 そして、私とて外れていて欲しいと切に願う考えを言葉にする。


「このままでは王妃らの反逆とは別で、民による暴動が起こるかもしれません。……矛先を、王太子殿下へと向けて」

「なっ?! あり得ん!」


 すかさずの反論は、当然のことだった。

 けれどエドガー様は、西街を知らない。あそこはただでさえ、国への不信感が溜まっている場所だ。騎士を殺すことにも躊躇しない。社会から爪弾きにされた者達ばかりだからこそ、たとえどれだけ汚くとも唯一の居場所だと思っている。

 それを奪われただけでも、怒りはとんでもないものになるだろう。

 そしてもし、火を放ったのが王太子殿下の指示によるものだとか、見捨てたといった噂が流れでもしたら――――

 真実である必要はないのだ。噂が生まれるだけで事足りる。それだけで不信感は、西街の住人以外へも伝染していくだろう。新たな火種が作られる。

 西街は裏の世界で満ちているので、余計にそういった操作は容易だろう。やられたらやり返すのが当然で、大人しく泣き寝入りするとも思い難い。

 これが私の勘違いで、ただのあてつけの行動であったとしても、イースは影で自らを責めるだろうから十分な効果がある。


「それでも、直接手を下すことを除き、道連れにするには最も有効な手段だと思われます」


 そう結論付ければ、誰もが困惑していた。

 とはいえ、私たちがすることは変わらず、ただただ殿下の身を護るのみ。それに集中しなければならない。

 だから――そう、だから私は、空が赤いと言われた時、無理やりにでも気のせいだと言い張るべきだった。

 ここには私とエドガー様以外でも、護りたい存在を護ると己に定めた者がいたというのに。

 困ったことにその者は、この場で誰よりも言葉に力を持っている。

 そして、私が失敗を悟ったのは、覚悟を決めた強い眼差しで目の前に立たれた時だった。


 



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