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悪魔の微笑を消す呪文  作者: 林 りょう
【黒騎士】編
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待ちわびた夜明け




 あれからエイルーシズ殿下は、お節介な言葉を残しお爺様と共に去られ、その場は解散となった。


『たしかにレオは、可愛げのねー捻くれた奴だけどな。お前ら三人、もう少し話してみろよ。あいつ、自分に関することなら発散るか謝られれば、大抵のことを忘れる単純な頭してっから。面白いぞー』


 本人が聞けば、人目を憚らずに舌打ちでもしていそうだ。

 思うに、あの女をまともに擁護する台詞を聞いたことがない気がする。ゼクス団長に扱かれた時も煽る目的ありきで、苦労がにじみ出た愚痴の方が印象深い。

 だからこそ反発では無い何かが俺の中にあって、こうも意識を持っていくのだろう。不愉快になると分かっていながら、ふとした瞬間に考えてしまう。

 ともかく城内は、表向き平和な日々が続いている。しかし空気は普段以上に殺伐としており、王妃と第二王子の姿を見なくなった。逆にエイルーシズ殿下は、忙しそうに動き回っておられる。

 本音としてはルードヴィヒ殿下を城から離れさせたいはずだが、戦力を割くのは難しいのが現状だ。

 だから俺とジャンは、時間帯を分けて仕事をするようになった。万一を考え、いくつもの避難ルートや落ち合う場所を何度も話し合い、用意を怠っていない。今のところは、やるべきことをやれているはずだ。

 ルードヴィヒ殿下もまた、詳細は知らずとも感じ取っておられるらしい。以前ならばマセた子供だと思っていた態度も、しっかりと目を向ければそうではないことに多々気付いた。

 殿下は、母君と会われる時間や関わる人間を極端に減らされた。あまり出歩かず、これまでと比べればどこか具合が悪いのかと思うほどで、願い出たわけでもないというのに俺の傍から離れることがない。

 さらには侍女が一人、挨拶も無く消えたことを分かっていながら、何事もなく過ごされている。護られることが役目だと理解しているとしか思えない。

 そして、早くも一週間が過ぎようとしていた頃だった。願われて剣の稽古をつけていた時のこと、休憩中に殿下が唐突に呟かれた。


「レオ、大丈夫かなあ」


 無意識だったのだろう。俺の前では滅多に使われない歳相応の言葉遣いで、木剣を見つめながらの小さな声だった。

 そういえば、殿下が真面目に剣を習うようになったのは、あの女と関わってからだ。まともに助言を聞くことなどなかったというのに、それからというもの真剣に取り組み着実に腕を磨かれている。

 何か答えるべきか、聞き流すべきか迷っている間で、殿下の視線が俺へと向けられた。


「エドガーは知ってるか?」

「…………いえ」

「そうか。昨日の夕食は久しぶりに兄上と取れたから、レオと会えないかお願いしてみたんだけど無理だと言われた。理由をお伺いしたら旅行に出てるらしい」

「ならばご心配される必要などないでしょう」


 そもそもなぜ俺に聞く。

 もしかしなくともエイルーシズ殿下か。仮面を外したあの顔を見てしまえば、全ての理不尽さや厄介事があの方から生まれているように思えてしまう。不幸さえ面白おかしく料理されてしまいそうだ。

 すると殿下は、世話を焼きに来た侍女を遠ざけさせてから、タオルで汗を拭きつつ強張ったお声で言う。


「兄上は大抵のことをはぐらかすけど、嘘を絶対に吐かない。そんな兄上が、どこへと聞いた俺にはっきり危ない場所と仰った。なのに平然とされている」


 こちらを見上げてくる大きな瞳はわずかに潤んでおり、俺はまた失敗を悟った。ある程度の我慢を強いてしまうのは仕方がないとしても、無理をさせてしまうなど仕える上では失格だ。

 そういった気遣いはジャンの方が向いているが、あの女に関連することは気付いていない振りをすることぐらい気付くべきだった。

 しかし、身を案じているにしては、殿下の様子はまるで傷付いているように見える。


「ねえ、エドガー。俺の好きじゃ勝てないのかな」


 思わず首を傾げてしまった。話が見えない。

 とりあえず隣りで立っていたのを正面で跪く体勢へと変えれば、驚くことに勢い良く腕が伸びてきて抱き着かれてしまった。

 俺を怖がってすらいた殿下がだ。それでもなんとか背中を支え抱き上げれば、肩に強く顔を押し付けられる。


「俺はこんなにも心配なのに。兄上は全然平気で、無事を微塵も疑ってない。俺はあんな風に強くなれなくて、悔しい」


 視界の隅で慌てて侍女が駆け寄ってくるのを見つけ、手を払って止めつつ話しを聞く。

 まさかあの女、おこがましくも殿下の恋心を刺激していやしないか。……だめだ、考えたくもない。

 それにどちらかといえば、エイルーシズ殿下へ憧れ指標としていながら、追いつけなさそうなことで苦しんでいる気がする。

 あの本性をご存知かどうかは分からずも、殿下にとってはよほど良き兄上なのだな。完璧に同じ血を継いでいながら分かり合えない兄弟もいるというのに。


「殿下はそのままでよろしいかと思います。むしろ私はあの女……、失礼。彼女と王太子殿下のご関係の方が特異かと」


 上手い具合にお慰めできる自信はなかったが、これまでの様にたかが子供と思わず自分の考えを口にしてみる。

 そもそもエイルーシズ殿下など、才能も中身も目指して近付けるようなお方ではなく、あの女にしても心配すること自体がもったいないだろう。自分勝手に飛び出して行ったのだ。寝覚めは悪くとも、死んだら死んだで自業自得である。

 だから殿下が思い悩む必要などどこにもない。


「次に顔を見た時、心配させるなと怒って困らせてしまえばよろしいでしょう。むしろ殿下の教育に悪いので、そのまま嫌いになって頂いて構いません」

「え……。もしかしてエドガーは、レオのことが嫌いなのか?」

「はっきりと申し上げても構わないのであれば。そもそも殿下は、彼女のことをなぜそこまでお気になさるのでしょうか」


 考えていたら苛立っていき、思わず本音が出てしまった。

 図らずもそれが涙を止めるきっかけになったようだが、今度は俺が大人げないことをしたと落ち込んでしまう。

 すると、顔を上げた殿下がくすくすと笑い始め、落ちきれずにいた最後の涙が目尻から散っていく。


「名前は教えてくれなかったけど、ずっと前からレオのことは兄上から聞いて知っていたんだ。城下にいる面白い者たちの一人として」


 まちがいなくその集団は黒騎士だろう。あれを面白いで済ませられるのが凄い。

 ともかく殿下は、エイルーシズ殿下が城下へ行く度、そこでの出来事を聞いていたそうだ。

 そしていつ頃からか一人だけ、〝あいつ〟として定着した人物がいた。それがあの女だったらしい。


「てっきり男だと思っていたんだけど、兄上に聞いたら女性だって言うからびっくりした」

「まるで淑やかさが欠けているので当然でしょう」

「それ以前に、兄上が特定の女性と仲良くされるのがあり得ないからな」


 言われてみれば、確かにそうだ。エイルーシズ殿下は、夜会でパートナーを選ぶこともダンスを踊ることすらしないと有名なお方。頑なに女性を寄せ付けず、婚約者もおられない状態だ。

 ますます不可解である。例外は特別なはずではないのだろうか。

 かといって、踏み込んで聞く機会も意味だってない。そう思ってると、どうやら続きがあるらしい。温かみのある翡翠が困惑を映した。


「だから俺、恋人なのかって聞いたんだ。そしたら違うって。だったらって食い下がった俺に、兄上は何て答えたと思う?」

「友人、でしょうか」


 というか、それしかないだろう。

 しかし殿下は、俺の考えには同意しつつも首を振る。


「何でもないし、何でも良いんだって」

「何でもない、ですか?」

「うん。兄上にとっては、レオがレオでいてくれればそれで良いらしい。だから別に、どんな関係でも気にしないんだって。エドガーにはその意味分かる?」


 正直、分からなかった。

 そこまでの信頼が生まれる理由も、その感情の正体も。

 深い想いのようで、どこか冷めている。慈しむわけでもなければ、託すわけでもない。

 王族や貴族が、気に入った者を相手の感情を無視して召し上げる話などザラにある。だからこそ、真に想う者を遠ざけることもだ。

 いずれにせよ、美醜に関わらずそれらは愛情と呼べるだろう。

 はたしてそこに、これも当てはまるのかどうか。俺には難しすぎる。


「申し訳ありませんが、私には理解が及びません」

「俺も。だから兄上を取られた気がして、レオに会った時にわがままを言って困らせようとしたんだ」


 そして殿下は、腕を叩いて降りる意志を示してから、今度は楽しそうに表情を綻ばせた。

 逆に俺が気まずさを持つ。その目論見にすっかり嵌った身としては、複雑にならないはずがない。


「そしたら少しだけ、兄上がレオを好きな気持ちが分かった。それだけだけどな」


 どこが、と呟いてしまった。

 他人のことで腹を立てられるのは美点になるだろうが、だとしてもアレは反感を買いやすい性格だろう。

 しかし殿下の目には違って見えたようだ。

 基本に則った素振りをしながら、赤くなった目で遠くを見る姿は、まるで7歳の子供とは感じない。


「レオは人を騙せないから。子供の俺にさえ、馬鹿正直に自分の考えを話すしな。裏切りとか騙まし討ちを心配する方が馬鹿らしく思える」


 これは……、いやこれも褒めているのか? 馬鹿にしている様に聞こえるのは、捻くれた受け止め方をしているからだろうか。

 どちらにせよ、子供が大人に対して持つ評価ではないのは確かである。

 それに、あの女とて誰かを騙すことぐらいあるはずだ。まかり間違っても聖人にはなり得ない。不敵に笑む顔の下で、どれだけの悪態を吐いているか分かったものではないのだから。

 すると殿下は、こちらの考えを読んだかのように振り向き予想外のことを言う。


「信じられない? でもレオは、アシルと違うぞ」

「アシル様、ですか?」

「そうだ。あいつは本心を悟らせない為に笑うけど、レオのは違う」

 

 頭の中で比べてみるも違いは見つからない。

 そもそも何故俺は、気に食わない女について真面目に談義しているのだろう。今は稽古の時間だったはずだ。

 殿下が不安な心を紛らわしたくて語っているのだとすれば、諦めて付き合うしか道はないが。

 そうこうしている内に、答えを見つけられない俺に焦れた殿下が口を開いた。


「レオは自分を守る為にしか笑わない。本心を隠したり、誤魔化したり、奮い立たせたり……。後は怒った時だな。一度気付けば見分けるのは簡単だぞ」


 まるで鎧で剣だと思った。

 結局はだからどうしたという考えに落ち着くも、本当にそうだとすれば確かに分かりやすいだろう。

 なおさら貴族社会で生き抜くなど不可能だ。良い様に使われた挙句、全てを吸い取られるに決まっている。


「……笑えないから、笑うんだ。兄上もそう」


 ともかく、素振りを止めて俯く姿を眺めつつ、これ以上は勘弁してくれと戻ることを薦めようとした。

 うっかりあの女の印象が変わりでもしたら最悪だ。俺にとってアレは、無礼で厚顔無恥な女の皮を被ったただの馬鹿で良い。早々に越えて終わりにする。

 しかし、声を掛けようとした途端、殿下はうって変わって明るく顔を上げた。


「でもな! レオにも一つだけなれないものを見つけた。だから俺は、それを目指す。レオに言ったら、きっとなれるって」

「私がお聞きしてもよろしいのですか?」

「エドガーには協力してもらわなきゃ困るからな」


 俺が出来ることなどあまり無いが、殿下は頷くのを待ってから木剣を掲げると、あまりに眩しすぎる瞳をもって言う。


「俺、兄上の騎士になる。お爺様のような国王陛下の剣。だからエドガー、これからも色々と教えてくれ」


 こういうところを、エイルーシズ殿下は気に入っているのかもしれない。聡明ながらも純粋で、見ていて気持ちが良い。

 ただ、俺には刺激が良すぎて目を細めてしまう。

 それにしても、差別意識を見せたことのなかった殿下が、はっきりとあの女にはなれないと言ったのが不思議だ。

 確かにそうではあるが、俺の知る殿下ならば譲らない、もしくは負けないといった言葉を使うはずである。

 だから、ここまでくればどこまでも付き合うしかないと諦めていたこともあり、それとなく尋ねてみることにした。

 そして答えが返ってくる。


「だってレオは、皆の騎士にしかなれないから。兄上が危険な状況でも、大丈夫って信じて別の人を助けに行くに決まってる」


 妙に納得させられると同時に、殿下はどれだけ人を見ているのだろうかと末恐ろしくなった。

 言葉を探しあぐねてしまう。ここに居られるのは俺が思っていたよりずっと王子なお方で、同じ兄君でよほど敵陣営にいてもおかしくない状態でありながら、第二王子から遠ざかっていたのも偶然ではなかったのかもしれない。

 できることなら――――

 その時俺は、自然と思っていた。身体が勝手に跪き、エイルーシズ殿下の慧眼とは違い、本質を見抜くような澄んだ瞳を視界の正面に置く。

 殿下がこの先どういう道を進まれるのか、できることならそれを背後からで良い、見ていたいと強く思う。


「王太子殿下のお隣に立つには、並大抵の努力では足りないでしょう」

「でも、何もせずに諦めるのと途中で挫折するのは違うだろ? 無駄な努力はないって俺は思うぞ」

「ならば、出来る限りご協力致します」

「よろしくな!」


 嬉しそうな声に、わずかながら自分の頬が緩んだ気がした。

 少しでも油断すればいつエイルーシズ殿下が斃れてしまってもおかしくない状況で未来を語るなど、あまりに暢気なことなのかもしれない。だが、暗い気持ちを引きずるよりよほどマシだ。

 やる気が空回ったり無茶が過ぎれば止めれば良い。道を踏み外しかけた場合も。俺が色々な方にそうしてもらえたように――――

 変われる気がした。その兆しを自ら感じられたように思う。少し前までならば、欠片もこのような事を考えなかったはずだ。

 そして、そろそろ本当に戻らねばと、まだ鍛錬を続けたそうな殿下を宥めて木剣を預かる。

 不要な呟きを聞いてしまったのはその時だった。


「レオがもう一人の兄上だったら、もっと良かったのにな。神様もいじわるだよね」


 なぜなのかは分からない。それでも少し、ほんの少しだけだったが、その言葉は寂しさを俺に抱かせた。

 だからこそ聞き流せば、今度は殿下も先を続けることはなく、静かに自室へと戻ってくれる。

 この日も何事もなく平和にジャンと引き継ぐことができたが、その寂しさの理由を見つけることはできなかった。




 □□□




 ――――そして、事態は急変する。

 警戒を強めて13日目のこと。そろそろ寝ようかと思いながら自室で寛いでいれば、重々しいノック音が響いた。

 ジャンはこの時間、殿下の護衛をしているので剣を片手に覗き穴で確認すれば、相手の身長が高すぎて顔を確認できない。

 しかし、胸の勲章のおかげで正体が分かり慌てて扉を開ける。


「どうなされたのですか」

「今すぐアシルの元へ行け。王太子殿下が訪問されたあの部屋だ。儂はこれからジャンを呼ぶ」

「しかし、それではルードヴィヒ殿下が」


 お爺様だった。普段にも増して厳めしい顔は、どこか不安そうにも受け取れる。

 それでも流れるように出た俺の言葉に対し目尻を下げるのだから、優しさを感じこそすれ恐怖はない。


「ルードヴィヒ殿下は、そのまま儂が陛下の元へお連れする」

「分かりました。すぐに向かいます」


 そうしてお爺様は去り、俺も上着を羽織って部屋を出る。

 道すがら周囲を確認するが、これといって騒がしくは感じないので襲撃などがあったわけではないのだろう。

 それでも何かしら敵側に動きがあったのか。気を引き締め、本部の目的の部屋の扉を叩く。

 しかし応答は無かった。


「エドガー・ヴノア=レヴィです」

「――――入りなさい」


 怪訝に思いながらも声を掛ければ、そこでやっとアシル様から小さく反応があった。

 よほど警戒しているのか、思わず俺も左右の明かりが落ちた暗い廊下を確認してしまう。

 それから身体を通せる最低限だけ扉を開けた。

 その瞬間、鉄臭さが鼻を過ぎる。少なくはない血の臭いが部屋に充満していた。


「何事ですか?!」


 慌てて室内へと滑りこみ、状況を尋ねる。

 だがそれは、答えてもらわずともすぐに把握できた。飛び込んで来た光景によって、扉の内側でたじろぎ動けなくなる。

 目の前には、まるで戦場から逃げ果せてきたような者がいた。

 全身黒尽くめな服は至るところが破れており、その色でもってしても汚れを隠しきれていない。染めているのか茶色になっている髪は、見事に乱れ記憶より僅かに短くなっている。

 左の脇腹を押さえているのは、刺されたか折れているからだろうか。なにより左肩と左足に、計三本の矢が刺さったままだ。青白い顔をしており、いつ倒れてもおかしくはない。


「とりあえず手当てをしよう」

「構い、ません……。アシル、様は、とにかくそれ、を王太子殿下へ」

「報告を聞いてからでなければ、判断するわけにはいかないよ」


 にも関わらず、そいつは頑なに立っており、あまつさえアシル様の肩を押していた。

 本当に二週間以内で帰ってくるなど……。しかもこのような有様で。

 二人の押し問答の原因は、アシル様が握る赤く染まった封筒にあるようだ。

 そうこうしている内に、副団長が呼びに行っていたらしいゼクス団長とウィリアム副団長が駆け込んでくる。


「派手にやられたな」

「これまたひどい無茶をしましたね」


 口調は落ち着いていたが、さすがに笑ってはいない。

 その直後にジャンも合流し、室内の様子に驚いている間で引きずりこんでおく。なぜお爺様が残らず俺たちが呼ばれたのかは分からないが、この場にいるべきだと判断されたのならば従う必要がある。

 そして、ウィリアム副団長により応急処置を施されながらも、けして座ることを受け入れずにレオナの娘は笑った。

 笑ったのだ、この状況で。矢を抜かれても微塵も崩さず、呻くことすらせず、馬鹿げた二つ名のまま微笑んだ。


「申し訳、ありません。のこのこ、と、帰ってきてしまい、ました」


 誰も何も返せない中、自嘲気味に零してから大きく息を吸うと、これまでの弱々しい声から一変して力強く告げる。


「ご報告致します」


 その姿に思い返されたのは、どちらの殿下の言葉だったのだろう。

 空色の瞳には二週間前の際どい鋭さが消え、ジャンを殴った時の様な太太しさのみが存在していた。




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