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悪魔の微笑を消す呪文  作者: 林 りょう
【黒騎士】編
42/79

出発の夜(3)




 静かに扉が閉じられるのと同時に、言い知れない腹立たしさを感じた。

 なんなのだ、あの女は。どれほど俺を馬鹿にすれば気が済む。機会を図れず詫びを口に出来なかったこちらを尻目に、顔を合わせて戸惑わないどころかあっさりと礼を言ってくるなど……。あそこまでいけば、図太さも立派な長所だ。

 しかも、引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、不機嫌なゼクス団長とウィリアム副団長、激昂したジャンを残してくれたおかげで、室内はひどい空気だった。容赦なく叩きのめされた後だからこそ、よくもあれほど噛みつけるなと、命知らずな態度に唖然としてしまう。

 とはいえ、一夜にして多くの黒騎士と接しており、あのような濃い集団の中ではそうでなくてはやっていけないだろうと納得もする。

 あそこは魔窟と称してもおかしくはない。仲間の窮地だというのにそれをダシに賭けを始めたり、上司に対して平然と悪態を吐く騎士など、黒騎士以外どこにも存在しないだろう。

 それでも不思議なことに、そこには確かな団結力があった。無事を疑わず、文句を零しだらけた態度ながらも捜索の手は緩めず、あの場では俺が最も有効な手札だと瞬時に判断して渋ることなく受け入れていたのだから驚きだ。

 一小隊でそうなのだ。我が国はひどい化け物を飼っている気がする。彼等がもし敵となった場合、白騎士では対抗できないと断言できる。

 それにしても本当に、とんでもない言い逃げをされてしまったものだ。いくら知らなかったとはいえ親なしと罵った相手に、普通ならば文句の一つや二つあるだろう。それとも、眼中にないと言外に伝えてきているのか。

 なんにせよあの女が現れてからというもの、色々と滅茶苦茶で翻弄され続けているのだ。されっぱなしは癪に障る。

 己の後始末も出来ない者が、王太子殿下の信頼を得るなど到底無理な話だ。その為にはまず、状況を把握する必要があるだろう。

 あの女が消えたとの報告を赤髪の黒騎士が持ってきてから、着替えてすぐさま捜索に加わったせいで、未だに何が起こりどのような思惑が動き始めたのか分からない。まずはそれを解決しなければ。

 敵としてブラウン家が関わっているのは確か。ならば、あの女は放っておいても問題はない。どうせ何も出来やしないだろう。意気込むのは結構だが、一個人がどうこうできる相手ではないのだから。

 ……そのはずなのだが、あの女が関わるだけで自信がなくなるのは何故なのか。

 ともかく、北の辺境に到着するまで、馬を潰し寝ずに走ったところで一週間近くかかる。いくら平民の中では高給といえど個人の資産で賄えるはずがないのだから、二週間で何とかなるなど計算が甘い。

 その間で必ずや、王太子殿下が動かれるだろう。相手が誰であれ国と獲物を争奪し合う時点で、あの女の望みは断たれている。せいぜい無駄な足掻きをすれば良い。


「さて。ここまで来れば、公然の秘密にしておく意味も無くなったわけだからね。といっても、これはエドガーにしか意味のない暴露だけれど」


 そうして、この空気の中でどう切り出したものかと悩んでいれば、アシル様が平然とそれを破って俺の名を口にした。

 僅かに動揺しながらも目を合わすと、未だに副団長から口を塞がれ睨みつけているジャンを覗き見てから、秘密とやらを明かすため近付いてくる。

 滅多になく、その瞳は切なげだと思った。


「ある意味、エドガーが一番賢い選択をしたと思ってしまうよ。彼女の、レオの母親の名はレオナ。父親はカルロ。正真正銘、ハルト様のお孫さんだよ」

「っ――――?! ま、さか」

「思い出したかい?」


 だが、余裕でいられたのはそこまでだった。

 驚きで言葉を失い、溢れ出る記憶に頭を押さえる。

 脳裏に蘇った人物が二人、笑って手を振っていた。それが俺の見た最後の姿で、始まりへと遡っていく。

 俺が彼等と出会ったのは、ジャンと揃ってお爺様――シール卿の下で修行をするようになってから幾許かしてのこと。ルードヴィヒ殿下と同じぐらいの歳の頃だった。

 シール家が武を担っているとすれば、レヴィ家は智によって国に仕え、両家は真逆な性質と同じ伯爵であることからお互いに一線を引いている。それでも俺がお爺様から師事を受けられたのは、どちらとも交流を持つアシル様が間に立ってくれたからに他ならない。

 父上には、先見の明がある。だからこそ、金髪至上主義が広まっていない時期に産まれたにも関わらず、後に要らぬ面倒をかけるだろうとあの人は俺を拒絶してきた。しかも、文官の血筋でありながら一欠けらもその才を持たず、あろうことか剣にそれが向いていたことが、疎ましさを嫌悪にまで膨れ上がらせた。

 家族にも使用人にも空気として扱われていた当時、俺はあまりにも気弱で、最悪なことにジャンの後ろをついて歩くような子供だったのだ。

 否定ばかりの環境で、自信を持つなど出来なかった。それは剣の腕を褒められようとも、どれだけお爺様に扱かれようともどうしようもなかった。

 変化が訪れたのは、お爺様がある日とつぜん外を見て来いと告げたからだ。

 そして、ジョゼット様に連れられて行ったのが、南街にあった小さな宿屋だった。そこで一組の夫婦と出会う。

 カルロは全体的に線が細く、穏やかな雰囲気を纏っており、眼鏡の奥の空色の瞳がとても柔らかで、形だけの主人だと自ら平然と言うような人だった。レオナは女性にしては高い身長で、長い金髪を陽の下で水面のように美しく反射させ、いつだって笑顔を絶やさない明るい人だった。

 俺たちは外を見るというよりも、彼等と会う為に月一回必ず、長い間その外出を続けた。

 始めは連れられるがまま、いつしか楽しみに思うようになり、俺はその時間の中で二人の手により愛情というものを知ることが出来たのだ。レオナと共に悪戯をしてカルロから叱られ、カルロの天然さに皆で笑い転げ、いつしか真っ当な感情を持つようになった。

 二人は娘のことをよく語り、そのくせ絶対に会わせようとはせず、ジャンと影でやっかんだものである。

 そうして、あの約束を交わした。


『ならエドは、うんと強くなって、色んな人を護れる立派な騎士様になること。約束よ』


 きっかけは、お爺様の修行が楽しいだとか、そんな些細な話だった気がする。

 初めて護りたいと感じた相手だった。彼等の子供として生まれたかったと思いながら、その幸せが壊れないよう人知れず祈ったこともある。

 それほどの人物との思い出をどうして忘れていたのか。

 それは、だからこそだ。だからこそ俺は、二人が死んだ事を、ましてや殺されたなど受け入れられなかった。

 その報せを真っ青な顔をされたジョゼット様から伝えられると、それからしばらく家に引きこもり、ただただ嘆いた。そうして、しまい込んだ。

 忘れてしまえば、苦しまなくて済む。それは、家族から唯一与えられた教えだった。

 娘のことなどまったく考えが及ばなかったが、会ってもいない相手へ配る心などあるわけがない。周囲で二人と関係があった者も悲しみに暮れ話題にせず、その時には騎士学校へ入学も決まっておりすぐに寮での生活が始まったので、閉じた蓋を破られないままでやってこれた。

 けれど、一度こうして思い出せば、あの女は瞳の色が違うだけでレオナの生き写し。皆が呆れていたのも頷ける。中身はどちらも混ざっているだろうか。片付け下手なところなど、まるっきりカルロだ。

 まったく……。よほど俺は自分が可愛いらしい。ここまで自分に都合の良い頭をしていたとは。

 ただそれは、俺だけの話だ。なのになぜ、あの女は寄る辺がない身と言っていた? しかも、二人から聞いていた名と違う。

 疑問は自然と口から零れた。


「お爺様は何故…………?」

「それは――――」

「決まってるだろ!」


 しかし、答えを得る前にジャンの怒鳴り声が響き渡った。とうとう副団長の拘束から逃げ果せたらしい。

 思わず邪魔をするなと苛立ったが、あまりの剣幕で引かざるを得なかった。


「いくらお爺様でも、二人が殺された原因を引き取るはずがないだろ。エドガーって、ほんと幸せな頭してるよね」

「は? しかしジョゼット様は、確か人攫いから娘を護ったと」

「何もかも教えてもらわなきゃ分からないわけ? どっちにしても、俺もほとんど知らなかったみたいだけどさぁ」


 ジャンは副団長の手を乱暴に払うと、アシル様の前まで来て躊躇なく胸倉を掴んだ。

 それでもアシル様はいつもの笑みを浮かべ、されるがまま抵抗をしない。ただし、瞳の奥はとてつもなく冷えていた。


「犯人は捕まったはずなのに、なんでレオは復讐なんて言ってんのさ」

「それはもちろん、背後で糸を引いている者が居たからだろう?」

「なんでそれを黙ってたんだよ!」

「聞かれなかったからね」


 期待した答えが得られないと分かると、怒りの矛先はさらにゼクス団長たちへも向かう。

 というより、ジャンはそちらの方が責めやすいと思ったのだろう。

 しかし、それはどう考えても誤った判断だ。俺でも分かる上、そもそもこの場で敵う相手など一人もいない。


「偉そうに説教垂れておきながら、あんた等は仕事を疎かにしてたってわけだ。そうなると犯人の病死も怪しいね。それって立派な隠蔽じゃん。黒騎士も偉くなったものだよね」

「あなたのように、そうして上辺だけを取り繕い権力をちらつかせる輩が多いもので。なにより被害者が貴族の関係者であった時点で、我々の領域からは外れています。寝言は寝てから言いなさい」


 案の定、辛辣に返される。

 それでもジャンは、冷静さを失ったままだった。


「良いから、全てを教えろ!」

「それをお前が邪魔しているのだけれどね」

「父さんはいつもそうだ! はぐらかすだけはぐらかして、そのまま放置してばっかりで」

「それは、自分の未熟さを主張しているだけではないのかい?」


 手を出そうとしたところでさすがに止めに入り、振り上げられた拳を掴む。でなければ、話しが進まない。

 ジャンには悪いが、俺はもう役立たずではありたくないのだ。


「今がどのような状況なのか、お教え頂けますか」

「おや? レオのことは良いのかい?」

「関連があるのであれば、是非。なければ別に構いません」


 もちろん今まで忘れていたことについては、落ち着いてから墓前へ詫びに行こう。

 けれど、あくまで俺はレオナとカルロに想いがあるだけで、あの女はまた別である。ジャンは原因だと言ったが、二人はもう死んでいるのだ。

 恨んで彼等が戻ってくるのならばそうしよう。しかし、どれほど願ったところで死者が生き還ることなどあり得ない。

 それに、ジョゼット様は護ったと言っていた。俺は、その行動こそ彼等らしく、正しいのだと思う。


「エドガーは本当に素直だね。けれど、自分が良ければそれで全てがまかり通るわけではない。この状況で説明せず、ジャンの収まりが着くはずがないだろう? だからまずは、レオの事を片付けてしまおうか」


 アシル様はあっさりとジャンの腕を取って身体を反転させ拘束し、それから言った。


「レオナとカルロの事件の首謀者は、報告通り前ブラウン辺境伯でまず間違いがないだろう。レオはその正体を、十年間ずっと追っていた。その為に黒騎士となったんだよ」

「だから! なんでレオは黒幕の存在を知っていたか聞いてんだよ!」


 不毛だと思ってしまう。その物言いでは、ほぼ手掛かりがない状態で探し続けていたのだろう。

 そんなことに時間を費やすぐらいならば、自身の幸せを優先するべきだった。そうしたところで、あの二人ならば責めるどころか喜ぶはずだ。


「犯人が言ったからだ。お前のせいだ、とな」


 そして、アシル様の言葉を引き継ぎジャンの疑問に答えたのが、ゼクス団長だった。

 心なしか肩を落としたように、頭を掻きながら渋い顔をして語ったのはあまりにも不運な出来事で、相手があの女であれ同情してしまう。


「ただでさえレオは、現場を見ちまっていた。当時の俺等でさえたじろぐ惨状だ。それを十三の娘が見て、おかしくならないはずがない」

「素人ゆえの容赦の無さとでも言うんでしょうか。全身滅多刺しで、現場は血の海でしたよ」

「でまあ、当然娘は保護したんだが……。ちょっとした用件で外に出た際にな、丁度連行されて来た犯人と遭遇しちまったんだよ。で、それだ」


 ジャンもさすがに突っかかれなかったらしい。

 しかも話は、そこで終わらなかった。


「ともあれ、最終的なきっかけは葬儀が終わったその夜に、墓を荒らされたことでしょう。いくらなんでも立て続けにそんなことが起これば、子供でも何かがおかしいと気付きます。母親のみ、髪を剥ぎ取られていました」


 その言葉で思い返されるのは、ブラウン家の長男から忘れ物だと受け取った箱だ。あの女は、終始あれを大切そうに抱えていた。

 報告の際にはっきり人毛と言っていたのだから、導き出される結果は一つしかない。


「未だに残してあったなど、先方も良い趣味をしている」

「レオとしては喜ばしい事だったのでは?」


 やはり、そうなのか。なんということだ。

 あの女が原因というのも、金髪だったからなのだろう。


「な、んで……。そんな、教えてくれれば!」


 ジャンの叫びが虚しく響いた。

 けれど、所詮それは独りよがり。アシル様が無情に返す。


「教えて、それで? お前は家の力を使って、なり振り構わず動いただろうね」

「当たり前だろ、こんなのあんまりじゃないか! レオナが何をしたっていうんだよ。それとも父さんは、死んだらそれまでだとでも?!」

「そうだと言ったら?」


 あっさりとした物言いは、浮かべる笑みと相まってジャンの怒りをひどく逆撫でした。俺もさすがに冷酷だと感じる。

 けれど、目の前で感情を爆発させている者がいるおかげで、冷静さを失わずに考えることが出来た。

 動かれては困ることがあったのだ。だからアシル様は、最低限の情報を与えるに止めた。

 そして、あの頃に起こった大きな出来事といえば、エイルーシズ王太子殿下の母君の崩御しかない。それを機に、父上が懸念していた通り金髪至上主義が台頭している。

 だからなのだろう。おそらくは殿下を護ることで精一杯で、お爺様はあの女を後回しにせざるを得なかったのだ。さらに言えば、レオナ達の危機を察していながら動けなかったのかもしれない。

 その結果、あの女が復讐を誓って力を欲し、手段として騎士を目指したのだとしたら…………。

 あまりにも報われない。護って死んだレオナとカルロはもちろん、お爺様がだ。

 あの方が外を見て来いと仰ったのは、俺たちを通して彼等の様子を知りたかったからだというのに。ご本人はけして頷かないだろうが間違いない。

 レオナはあっさりと、自分がお爺様の娘で駆け落ちをしてカルロと結ばれたと教えてくれていた。だから俺は聞いたことがある。孫だけでも引き取れば良いのでは、と。

 今思えばあまりに無遠慮な質問だったが、それでもお爺様は答えてくれた。どこか寂しそうにしながらも幸せなら十分だと、そう小さく呟いておられた。

 それが貴族として、どれほどの覚悟と共にあるものなのか、あの女には分かるまい。お爺様にご兄弟がおられなければ、その方たちが子供を儲けていなければ、歴史ある家が絶えることになっていたのだ。

 そういった想いを無下にする行動に苛立ちが募った。

 抱いた悲しみには共感しよう。重なった不運は哀れなもので、いくらでも同情ができる。

 しかし、俺がそうであるように、これではあの女もまた甘えているだけではないか。偉そうに色々と言ってくれておきながら、貴様もまた何も分かっていない。


「やっぱり、レオさえ生まれていなければ! そうすれば――――っ」


 そしてその苛立ちは、ジャンの言葉によって抑えがきかなくなった。

 いつの間にか拳を揮るっていて、気付けば足元でジャンが転がっている。


「最悪……。とうとうエドガーにまで殴られたし」


 あれだけあしらわれていたというのに、相手が俺になった途端、いつもの態度に戻るのだから恐れ入る。

 けれど、今回ばかりは俺も言わせてもらう。


「俺の前でそれを言うか」

「エドガーまでレオの肩を持つわけ? いつの間に仲良くなったんだか」

「くだらない嫌味を吐くな」


 あの女など、どうでも良い。存在自体が許せないのもお前の勝手だ。

 しかし、対象がどれほどいけ好かない相手であっても、その言葉を口にする者だけは我慢ならない。

 俺は身を持って、それがもたらす痛みを知っている。嫌というほど、鋭いことを知っている。

 たとえ感情のままに出てしまっただけであっても、言われる側は全てを否定されるのだ。価値を見出すならまだしも、定めるなど誰にも出来やしないというのに。

 出生の選択ができるのならば、と思うことがどれだけ惨めか、お前には分からないのだろうな。


「頭を冷やせ。どれだけ情があったとしても、あの二人はとっくに死んでいる。そもそも俺たちは部外者だ。あの女を責めるならば、もっとましな方法でやれ」

「今の今まで忘れてたくせに」

「だから何だ? お前のように未練がましく当り散らすぐらいならば、いっそ忘れていて良かったとすら思う。おかげで無駄な時間を消費した」


 久し振りに人を殴るなどしたせいで手が痛い。事情の半分も把握できなかったではないか。どれもこれもジャンが原因だ。

 気持ちとしては、後二、三発食らわせてやりたいが、時間が惜しかった。

 だから、足元から睨みつけてくる目を一瞥して踵を返す。


「どこへ行くつもりですか?」


 柄にもない行動に驚いているアシル様の代わりに声をかけてきたのは、ウィリアム副団長だった。肩越しに見ると、なぜか不機嫌そうにされている。

 この人の本性を垣間見ておきながら言い返すなど、気が立っていなければ出来なかっただろう。


「あの女を連れ戻す」

「まだ説明は終わっていませんよ」

「それからでは手遅れだ」


 そして、無理やり止められる前にと一歩踏み出す。

 しかし、俺が扉の前へ辿り着くより早くそこが開き、足を止めざるを得なかった。

 現れた人物が、この場にさらなる混乱を生む。


「おーおー、あっついねえ。暑すぎて喉が乾くわ。なあ、ハルト?」

「殿下、お言葉が」

「気にすんなって。あー……、レオの紅茶が飲みたい」


 そのお方は、開いた扉の枠に凭れかかって腕を組まれ、廊下に立つお爺様へ陽気に告げていた。

 いつもならば、すぐさま跪いていただろう。しかし、どこをどう見ても同一人物でありながら、そうだと認識できない。

 それほどに纏う空気が変わっていた。


「んで、エドガーは誰を止めに行くって?」


 けれど、流された目と合わさった時、高貴な瞳の奥から容赦のない寒気を感じ、認めるしかなかった。

 どこまでも無表情であったはずの(かんばせ)に笑みを浮かべたこのお方は、確かにエイルーシズ王太子殿下その人であるのだと――――




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