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悪魔の微笑を消す呪文  作者: 林 りょう
【白騎士】編
20/79

白を名乗る黒の矜持(2)




 おそらく、もっと疑問を持つべきだったのだろう。自分とて、まだまだ甘い。出来る限りの最善は尽くしたが、おかげで多くを学んだ気がする。

 それをただの後悔で終わらせない為にも、これからの十分間を何としてでも凌がなければならなかった。


「何ぼさっとしてやがる。さっさと合流して目標を死守しろ!」

「っ――――!」


 目も向けずに怒鳴れば、弾かれたようにジャン様が動き出した。エドガー様は、私が注意を引きつけている間で、すでにしっかりと臨戦態勢を整えている。

 あの人とは、仕事そのものは意外にもやりやすいのかもしれない。性格の相性は最悪だが、正直言って頼りになる。安心して三人を預けられた。

 そして、私がすべきは、任務をまっとうできるよう、出来る限り障害をこちらへ集中させることだ。

 後れを取ったことに焦る護衛がそれぞれで武器を抜き、動こうとしていた。

 気持ちとしては、全員で雇い主のところへ行きたいのだろうが、させやしない。エドガー様へと向かっていく背中へ、扇子に仕込んでいたものより太い針をいくつも投げ飛ばす。

 さらに、罪が露見することを恐れた客たちが入口へ殺到しかけたところを、舞台を下りて近くのテーブルを蹴り倒すことで止まらせた。


「そっちに行けば巻き込むぞ。良いのか?」


 けして声は張らなかった。それでも届いた者が意味を理解し、懇願することで広がっていく。

 逃げ道は一つしか無い。しかし、私より前に出ることは、すなわち戦闘の真っ只中へ突っ込むことになる。

 知能的には馬鹿ではないのだ。ひとたび自分の命を引き合いに出せば、貴族ほど誘導が楽なものもないだろう。これが民ならば、ただただ混乱して自ら火の中へ飛び込む者も出てくる。

 それでいて、地位と名誉も捨て切れない。私が部屋の中心で陣取る間際、護衛に無視された輩が醜く追い縋ってきた。


「頼む、私だけは逃がしてくれ!」

「なっ?! ちょっと、それならわたくしでしょう!」


 どいつもこいつも虫唾が走る。強欲は身を滅ぼすと、誰でも良い教えてやらなかったのか。

 私は、不幸にも巻き込まれた女児の為なら人生を捨てても潔く諦めをつけれるが、お前らには一瞬だって費やしたくはない。

 だから、もはや邪魔にしかならない仮面を剥ぎ、襲いかかってきた敵へ集中しながら吐き捨てた。


「話はあとで聞いてやる」


 私じゃなく、白騎士の誰かがな。

 心の中でそう付け加え、ひとまず一人。剣を合わせるとでも思っていたのか、馬鹿な奴め。考えなしに突っ込んでくるから、勢いを殺せず隙を突かれんだよ。

 同じ人間が流す赤を見たからか、客たちが慄然として静まり返る様を肌で感じた。

 そのまま大人しくしていてくれ。はっきりいって、理性などかなぐり捨てたい気分なんだ。

 そして、攻める方向を決めあぐねている連中へ語りかける。


「おいおい、ここは厄介な奴から叩くのが常識だろ? それともお前らは、女一人を相手取ることすらできない小物か?」


 この時には、懸念していた隠し部屋からも応援が駆け付けてしまっており、状況としては窮地に立たされていた。

 ちなみにその入口は、モートン達が背にしていた絵画付近の壁に隠されていたようで、ジャン様が逃げ道に使われないようすぐさま閉じに動く。

 こちらはたったの三人。対して敵は二十を超える。

 結局、私が引きつけられたのは、その半分といったところだ。

 当然か。私たちが本命だとは思うまい。とにかくこいつらがするべきは、すっかり夢の中なモートン達を早急に逃がすことだ。


「でも、残念。誰が許すかよ」


 そして私は、自分を囲む奴らを無視して、愛剣をエドガー様たちが相手をしている内の一人へと全力で投げた。

 色んな所から唖然とされているが気にしない。だって、この状況で長剣は邪魔だ。そして、短剣を右手に持ち替える。


「剣を捨ててどうする!」


 すると、思わず出てしまった様子で、エドガー様から突っ込まれた。こっちに構うなとも告げてくる。

 けれど、阻止すべきは自分を襲ってくる奴らではないので、それは聞けないな。なにより、自分の尻は自分で拭わなければ。

 こちらに向かってくる敵の攻撃をひたすら避け続け、エドガー様たちの援護に徹する。

 一騎打ちや剣のみでの戦闘はあまり得意ではない私だが、一対多数ともなれば話は別だ。六人ほどを倒し用意していた針を使い切ってしまうと、一気にエドガー様たちの所まで駆け、途中で再び短剣を左手に戻しながら、敵の身体を鞘にしていた剣を引き抜く。

 そして、残りの全員と真正面から対峙する。

 気休めに投降を促すも、残念ながら首を縦には振ってくれなかった。既に打ち取ってしまった二人の時にも顔色一つ変えていなかったが、はたしてそこまでして守る価値がモートンたちにあるのだろうか。


「お前…………」

「レオ…………」

「大丈夫です、お二人はそいつらに集中していて下さい」


 背後から困惑気味に声を掛けられたので、血の滴る剣を構えつつ頷く。

 爆発した怒りは、全て腹の底へと移し終えている。冷静な声が出せたはずだ。

 とりあえずジャン様へ、気安く喋りかけるなと声を張り上げるのは耐えられた。


「馬鹿! 欲張るな!」


 違う、そうじゃない。あの名を口にしたその瞬間から、私はこの場の誰一人として逃がすわけにはいかなくなっただけだ。そういう取引だった。

 だから、エドガー様の声を無視して敵の中へ突っ込み、一心不乱に剣を揮う。

 残っていたのは八人だったが、この時にはこいつらも、私たちを排除しなければ逃げられないことを悟っていたようだ。全員が迎え撃ってくれた。ついでを言えば、さっさと殺して次へ、という思惑が見え透いている。


「くそっ、ちょこまかと」

「後ろに回れ!」

「んだよ、この女!」


 だが、私があまりに避けまくるせいで、そうもいかなくなってきたらしい。

 すでに披露していたはずなのだが、どうしたというのか。ああ、一斉にかかって来ているからか。残念、そっちの方が好都合なんだ。

 極力は短剣で行動不能に陥らせようとしながら、無理な場合には迷いなく愛剣を使う。

 これで無傷なら、圧倒的力を持っていると思わせられるのだろう。そういや誰だっけか、私の戦い方は見ていてハラハラすると言っていたな。

 その言葉が示す通り、立っている者が三人となった時には、身体の至るところに浅い切り傷が生まれていた。手袋もドレスもボロボロの染みだらけだ。もったいないことをした。


「うわああああぁぁ――――――!」


 床に転がる奴らの呻き声が響く中、それを憂う余裕が出てきてため息を吐いていれば、生き残っている内のへっぴり腰になっている二人が、奇声を上げながら入口と隠し部屋へそれぞれ駆け出した。

 今さら逃亡を図るぐらいなら、投降すれば良かったものを……。おもしろいほど私を避けて逃げてくれたせいで、剣が届かず空振ってしまう。

 仕方なく、使い切った眠り薬付きの針とはまた違う、毒塗りの方を素早く放つ。それは即効性が高く、使う私もあまり気分が良くないので、できれば念の為で終わらせたかった。

 ただ、標的が左右ばらばらだったせいで、入口の奴はエドガー様に任せるしかなくなった。

 それは言わずとも、分かってくれているだろう。

 だから、最後になるはずの相手と目を合わせようとした瞬間、一本の剣が凄い早さで顔の横を通り抜ける。驚きで心臓が止まるかと思った。


「うぐっ――――?!」

「っ、エドガー様!」

「ちっ、構うな!」


 そして、背中で痛々しい呻き声が発せられた。

 思わず声をかけるが、目で確認することは出来ない。目前に迫っていた剣を防ぐので必死だったからだ。

 すると、苛立ちはすれど元気そうな言葉が返ってきたので、安心しつつ改めて至近距離にある凶悪な顔と対峙する。

 こいつ、一対一になるまで力を隠してやがったな。


「あの技、結構楽しいな。できれば一緒に黒髪も仕留めたかったが」


 押し負けそうになり、慌てて腹を蹴りつけ距離を取った。

 ヤニまみれの黄色い歯をちらつかせながらかけられた声には覚えがある。入口に居た男だ。

 仮面がなければ絶対に貴族の前へは出れないであろう風貌は、私にとってはなんだか安心感さえ抱ける。無論、いつも相手にしている連中と似ているからという意味でだ。


「あ~! 姐御、そいつ殺すのはナシな方向でよろしく!」


 私たちの間を気の抜けた声が邪魔するも、それは無視して剣を握る力を強めた。

 小人のおかげで、この男が西街から子供を攫っていたということが分かった。罪もない幼き命を金儲けに利用した、その愚かさを知らしめてやらねば気がすまない。


「あんた、微笑みの悪魔だろ?」

「黙れ」

「おー、こっわ。とりあえずさ、オヤジだけは返してもらうわ」


 ああ、だからか。だからこいつらは投降もせず、尻尾を巻いた仲間を討ちさえしたのか。マドックの組織の者として、潰されては困るから。

 豪腕が生み出す剣筋は重く早かった。左右の剣をそれぞれ駆使しなんとか避けるも、こちらから攻める隙がない。

 それもまた、こいつが余裕を失わない理由なのだろう。

 後ろの二人が未だに援護してこないのを、私より実力が劣るからだと判断している。

 馬鹿だな、逆だっての。任務対象にこそ本物を付けるんだよ。これからさらに、敵が増える可能性だってあるのだから。


「おっもしろいなー、あんた。こんだけ押されて、仲間も助けてくれないってのに、何が楽しいのかねぇ」


 何度も何度も、耳元で空気が裂ける音がする。

 性根は腐りきっているが、たしかに強い。私が小細工を使うのを分かっているから、それをさせないようにしている。濁りきった目が時折両足を捉えており、警戒も怠っていない。

 それにしても、この感覚はすごく久し振りだ。

 戦闘には欠かせない緊張感。私が戦う時特有の、剣がぶつかるのではなく擦れ合う、どこか嫌悪感を生む音。本能と心が、本人を無視して生を渇望し身体を動かす。咄嗟の駆け引きがそれを分ける。

 そういう時、いつも私は微笑んでいるらしい。あからさまに楽しんで笑っているのではなく、薄っすら、それでいてはっきりと。

 そして、一際鋭い攻撃が繰り出され、二の腕を掠りながらもかろうじて避けた際、踵に何かがぶつかった。

 だから、ここで初めて攻守を転じて一閃し、男が一歩下がったところで、確認もしないまま踏んで浮かせ、素早く掴み投げつける。

 その正体は銀のトレイだった。見事な軌道を描いて、汚らしい顔へと向かう。


「てんめぇ……」


 それは反射的に庇った腕とぶつかり床を転がったが、怒りによってそう呟いた頃には、すでに私の剣は突き出されていた。

 狙うは腹のど真ん中。そこなら、少し避けられたとしても貫ける。回避の技術ならば、余裕で私の方が上だからな。

 これで終わりだ。そうすれば、やっとあの女児を家に帰してやれる。あの子は、おかえりと言ってもらえるだろう。


「姐御!」


 だが、直前に聞こえた呼び声が、私の集中力をブツリと切った。

 剣はかろうじて男の内部へと埋まっていたが、場所は脇腹で、痛みさえ耐えれば動けてしまう。

 まずいと思った時には遅かった。

 おまけに興奮が一気に冷めたせいか、今の今まで無視していた体調の悪さも我先にと押し寄せてきた。

 目が眩む。手の力が抜ける。


「死ねぇ!」


 かろうじて見えたのは、銀の線だった。

 だめだ、切られる。だけど、死ぬわけには――


「なにをしてる!」


 なんとか致命傷だけは避けようと、捨てることも覚悟した腕が誰かに取られた。

 頭上で金属音がして、そのすぐ後には獣のような呻き声が響き何かが倒れる。

 痛みは――無かった。


「あんなタイミングで油断する奴があるか!」


 安堵を上回って同時に襲う眩暈と吐き気を耐える中、崩れる身体の腕を掴まれたまま怒鳴られ、何が起こったのか悟った。

 どうやら私は助けられたらしい。

 でも、だったら、あなたは早く戻らなければ。これで敵は全て排除できたが、まだ任務が成功したわけではない。


「エド、ガ……様」

「お前、まさかどこかを」


 なんとか声を絞り出し、それが上手くいかず、何度か深呼吸をしてから再び口を開く。

 しかし、ここまで悪化していたとは。気の持ちようでどうにかなるとは良く言ったものだ。

 とりあえず、死にかけた原因の小人はあとでシメる。


「私のことは良いので、モートン達の所へ戻って下さい」

「だが!」

「こうなった理由は、私よりあなたのご友人の方がご存知ですので。気になるならばそちらへ」


 そう思ったら、少しだけ体調が回復した。

 そして、未だ渋る様子のエドガー様に腕を離してもらい、その顔を見上げる。彼もいつの間にか仮面を外していたようで、眉間にはやっぱり皺が寄っていた。


「エドガー様は、やはり青い瞳がお似合いだ」


 今の色合いでその顔は、全然似ていないが連想してしまうので、おかしくってたまらない。


「は……?」

「たぶんもう安全でしょうが、眠り薬の効果はそこまで長くありません」


 そして、怪訝そうにしているのをはぐらかして立ち上がる。まだふらつきはするが、歩くのには申し分なかった。血だまりを避けながら、運良く汚れていなかったドレスの下半分だった布を拾って、舞台へと向かう。

 すると、何故か客が一人もいなくなっており愕然とした。

 まさか戦闘に集中している間で逃げられた? いや、いくら調子が悪かったとはいえ、そこまでぼんやりとしてはいなかった。

 だったらどうして――――


「ひっ!」


 その原因になり得そうな奴は、言いつけた通りに奥部屋へと続く扉の前には立っていた。立っていたが、まさかそれだけだったとは言わないだろうな。

 私を殺しかけたのに飽きたらずやらかしたなど、ふざけるのは着けている仮面だけにしろよ。


「小人」

「ち、違う。違うよ、姐御~。客は邪魔になると思ってさ、奥の部屋のどこかに隠し通路があるらしいよって言ったら、全員一目散にね?」

「お前、後で覚えてろよ」

「それはだって、あいつ連れてかないと、俺がおばばにお仕置きされるし……。結局、死んだけどさ! 怒られるの確定だけど!」


 とりあえず、最悪な事態にはなっていなかったようだ。

 安堵しつつも、邪魔されたことにはムカついているので礼は言わない。むしろ一生、扉を押さえてろ。

 小人は西街の魔女の子供だ。ただし、一応が付くし、実子ではない。おばばの好みが丸分かりな容姿で揃った七人の孤児で、私も詳しいことは知らないが、とりあえず、ここに潜り込めるぐらいはやってのける連中である。私兵、とでも言うんだろうか。

 まあ、こいつは末っ子で、物事を引っ掻き回すのが得意だと有名だが。ついさっき身を持って経験したしな。


「くっそ、開かねぇ!」


 なんにせよ、状況は改善した。

 敵はいなくなり、貴族どもはあるはずのない逃げ道を探すのに必死で、ターゲットの確保もばっちりだ。

 だからこそ、溜まった鬱憤がこれ以上は大人しくしていられないと暴れだす。

 あちこち切り傷だらけで痛いし、ジョゼット様とアデラ嬢がせっかく着飾ってくれたドレスも髪もボロボロ、返り血で汚れている。

 なにより気持ち悪い! 睡眠薬だと思っていたが、本当は毒でも入ってたんじゃないか?!


「あ、姐御? 落ち着いて。それ、目の前の棒引けば開くから」


 イラつくままに中々開かない檻を蹴っていると、情けないことに小人に指摘されてしまった。

 びくびくしすぎだっつの。今の舌打ちは、恥ずかしさを誤魔化しただけだから。

 中へ入ると、恐怖を浮かべながら眠る女児の前で膝をつき、腕にかけていた布で包んでから抱き上げる。一応脈などを確かめたが、異常は無いだろう。

 さらには檻を出る前に、人間の狂った享楽に付き合わされた哀れな犬へ祈りを捧げた。謝罪も、埋葬だってしてやれないし、なによりこれはただのエゴ。だからその分、私はこの女児に誠意を示すと誓う。

 巻き込んだ責任は、救えたからといって取れるとは思えなかった。

 そして、エドガー様の所へ戻りながら、小人へついてくるよう顎で伝え、ジッと入口の扉を見つめる。

 剣を抜いてから、とっくに十分は過ぎていた。


「アシル様、居られますよね? いい加減、隠れていないで出て来られたらどうですか」


 ジャン様とは、もはや目も合わせたくない。女児などもっての外だ。だから全身を包み隠している。

 すると、静かに扉が開く。隠し部屋の方もだ。

 そこからぞろぞろと近衛部隊の白騎士が現れ、あっという間でモートンや生き残っている護衛たちを拘束していった。


「三人共、お疲れ様。レオは良く分かったね」

「アシル様ならば、想定する時間は最大でしょうから。下手をすれば、私が合図を送る前から上階の制圧を終えていたのでは?」

「さすがだね。怒っているかな?」


 その中で凛然と立つアシル様に対しても、もう苛立ちを隠さなかった。

 そして、尋ねる。


「私は、あなた方の思惑通りに動けたでしょうか」


 すると、アシル様は言った。

 作戦開始直前に見せた、偽物の笑みを浮かべて。


「それはこれから分かることだよ」


 そんな彼の視線は、私と違って無傷で小奇麗なままの部下二人に向けられていた。

 しかし、その内の一人は同じ性質の血を引いている。

 ジャン様は、私が奥の部屋に客が居ることを伝えている間で、とても素敵な事をおっしゃってくれた。それが自分の首を締めるとも気付かずに。


「ていうか父さん、レオも拘束しないの?」

「なぜ?」


 もうほんと、こいつらそっくりな親子だな。

 声を聞いているだけで嫌悪感がひどいので、なにがなんでも視線を合わせないようにしていると、失敗してエドガー様の方を向いてしまった。

 どうせだから今の内に、色を戻す目薬を渡しておくか。

 すると、私たちの手が触れ合う直前、ジャン様がその言葉をはっきりと口にした。


「ねぇ、エドガー。レオってば、王太子殿下の名を語ったんでしょ? これって立派な不敬罪だよねー」

「あ、ああ……。それは、事実だ」


 三人の視線が私に集中する。

 エドガー様はどこか戸惑いを映し、僅かに確認してみたジャン様は勝ち誇っている。ここまでくると、恨みを買ってるような気もするな。アシル様だけが、事実を知っているので楽しそうだ。

 私も笑う。もはやこの暴露でさえ、気晴らしにはならないが、思い通りにさせるつもりはない。


「貰いましたが」

「は?」

「ですから、エイルーシズ王太子殿下ご本人から、直接許可を頂きました」

「なん……だと……」


 なので、問題はありません。

 そう言いながら目薬を離すと、それはエドガー様の手からスルリと落ちていき、床を跳ねた。




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