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悪魔の微笑を消す呪文  作者: 林 りょう
【白騎士】編
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後悔先に立たず

 恋が成就するまでというよりも、恋に至るまでの様子を描いていますので恋愛要素は薄めです。

 主人公が出世するまでのどたばた模様と言った方が良いかもしれません。が、一応カテゴリーは恋愛で。

 どちらにせよ軽く読んで頂ければ幸いです。





 両親がこの世を去ったのは、十三の誕生日を迎えて一ヶ月が過ぎた頃のことだった。

 小さな宿屋を営んでいた二人は、目立って世の中に貢献しているわけでも、誰からも尊敬される人柄だったわけでもなかったけれど、それでもごくごく普通の人であり、私にとっては自慢の両親だった。

 けれど彼らは、知人であったはずの男にある日突然殺されてしまった。原因となりそうなトラブルは無かったらしいが、その所業は事故で片付けるにはあまりに惨く、焼きついた光景は今でもほんの少しだって忘れることができない。

 兄弟はおらず、親戚とも疎遠だった為、その日から私は天涯孤独の身となった。

 そして、一応の遺産はあったとはいえ宿屋を続けられるわけもなく、全てが従業員への退職金に消えていき、十三の小娘が進める道はあまりに少なかった。

 善意の手を差し伸べてくれる人は勿論いた。けれど私は、そのどれも取ることなく、無謀とも言える選択を取る。

 憎悪というものが、その時の私を突き動かしていたのだろう。犯人が拘束されたその日に獄中で病死してしまったのも決意に拍車をかけた。

 同じように理不尽な形でささやかな幸せを奪われる人が、一人でも少なくなって欲しい。そんなもっともらしい動機を胸に、騎士学校へと入学したのが十年前。まだなってもいなかったくせして、女を捨てる覚悟での選択を止められる者は誰もいなかった。

 心にあったのは両親の無残な姿と、犯人が残した不可解な一言、そして両親の世話になったという少年の叱責だった。その三つが、騎士としての私を作り上げた。

 特に見知らぬ少年は、何度も挫けそうになった心を奮い立たせてくれた。彼は、葬儀が終わり真新しいお墓の前で呆然として、ほとんど意識なく立ちつくしていた失意のどん底だった私に言った。


『良いことを教えてやる。笑顔はな、武器にも鎧にもなる。泣きながら強くなりたいとぼやくぐらいなら、心底悲しくても笑って立ってみせろ』


 どんな顔の人物だったのかはまったく覚えていない。もしかしたら青年だったのかもしれない。とにかく彼は、私の様子によほど苛立ったのか不機嫌そうな声でそう言うと、両親の墓に花を供えて立ち去っていった。

 その背中は、当時の私にはとても大きく映り、抗う勇気をくれた。それは今でも変わらない。

 おかげで私は、学校を卒業して見事騎士になることができ、黒騎士団の志願していた部隊への入隊を果たした。どんな小物の犯罪者にも容赦せず相手をしていく内、気付けば〝微笑みの悪魔〟などという訳の分からない異名を頂戴するまでに成長する。さらには、二年目にして小隊長を任されるぐらいには強くなれた。

 そんな私に転機が訪れたのは、騎士となって四年目の冬の季節こと。団長直々の呼び出しに応じると、思いもしない特務を言い渡される。


「近々、大捕り物があるらしくてな。それにお前も参加してほしいそうだ」

「私が……、ですか?」


 いくら小隊長だとはいえ、目の前の御方でさえ滅多に関わることがないというのに、声を掛けてきたのは騎士の中でもとっておきのエリートが集まる白騎士団の、しかも近衛部隊だという。

 何かの間違いではないかと思っていれば、王都の悪人たちから名を呼ぶのも憚られるほど恐れられている団長も同じなのか、ただでさえ凶暴な熊みたいな顔を盛大に顰めていた。

 直立不動な体勢で話しをする私と違い、団長は部屋の中を歩きまわっている。それなりの広さがあるはずが、この人が居るというだけで狭く感じるのだから不思議だ。それだけ良い身体をしているわけだが、正直言って鬱陶しい。当然ながらそんなことを思っているとは微塵も表に出さず、私は普段通りに不快感を抱かせない笑みを浮かべる。

 しかし、黙ってるだけでは埒が開かないので、いささか失礼だと自覚しつつも質問をした。


「任務である以上従いますが、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」


 すると団長は、気が進まない様子を前面に押し出しながらも教えてくれた。

 心から私のことを案じて下さっているのだろう。さすが、一癖も二癖もあるといわれる黒騎士団をまとめているだけある。懐が恐ろしく深い。


「だいぶ前だが、喧嘩を吹っ掛けられたことがあっただろ? それで目に止まったそうだ」

「ご存知でしたか」

「ただでさえお前は有名だからな。レオの名を知らぬ騎士はいないだろう」

「まさか。それに、あの件につきましては、私の未熟さが招いたようなものです」


 団長の大袈裟な物言いはともかく、脳裏では三ヶ月ほど前にあった騒動が思い返される。今思えばもっとやりようがあったと後悔しか浮かばないが、その日は残念にも虫の居所が悪く、私は馬鹿げた言いがかりを上手くあしらえなかった。

 まだまだ女性騎士は少ないせいか、どうやら男以上にライバル意識が強い傾向にあったようで、そのせいで難癖をつけられたのが事の発端。そんなものを抱いているよりかはもっとすることがあるだろうというのが本音で、正直言って今の今まで忘れていたどうでも良い事であった。

 けれど、相手にとってはそうではなく、ただの小隊長ごときが異名まで持っているのは許せなかったらしい。本人にとって不本意であろうが関係なく、だ。

 そういったくだらない理由でわざわざ出向いて来たのが、エリートであるはずの白騎士団所属の女性騎士だった。しかも、仲間を三名ほど引き連れて。

 彼女は、食事をしようと移動中だった私の前に立ち塞がると、なんだか高圧的に色々と語ってきた。数分間のそれを要約すれば一言で済む。気に入らなかったんだと。

 もちろん私は表面上笑みを浮かべ、まったく意に介さなかった。すると突然に剣を抜き、彼女は決闘しろとのたまった。

 騎士にしては、あまりに感情的で見苦しい。

 そもそもとして、こちらはいくらでも替えの利くしがない小隊長で、向こうは誰もが羨む地位にいるのだ。なんと狭量で浅はか。これでよく王族の護衛が務まるものだなと、機嫌が最悪だった私は思ったものである。

 逆を言えばだからこそ、彼女は白騎士でいられるのかもしれない。王族が男だけならよかったのに。

 白騎士は城内での警備や護衛を主としている。そして高貴な方々との接点がある以上、平民はまず選ばれることがない。まったくもって興味がないので不満には思わないけれど、だからといって力もないくせして重要な仕事を任せていいものかと不安にはなった。

 なにせ、腹立たしい感情のままに相手をしたところ、ものの数秒で片が付いてしまったのだ。これにはさすがの私も呆れ返った。

 誰かが止めに入ってくれれば、事はまだ穏便に済んだのかもしれないが、残念ながら騎士だって酒を飲むし、賭け事や一夜の夢を買ったりもする。女同士の決闘ともなれば、面白がって率先して野次馬になりたがるだろう。私だって当事者でさえなければそうしたはずだ。

 だから、負かせた女騎士のその後の所業には、誰もが反応し遅れてしまった。

 うるさく喚かれても、その時の私は既に意識を昼食に戻していて、背中を向けていた。

 あろうことか彼女は、そんな私に剣を振りかざした。敗者がというよりもまず、騎士にあるまじき行いである。

 とはいえ、戦争でもない限りは最も実戦の多い黒騎士団所属の私が、後れを取ることはなかったけれど。日々相手にしているのは、性根の腐った悪党ばかり。卑怯だなんだと言ってはいられない。

 慌てる外野を余所に振り返りながら距離を取り、その攻撃を冷静に避けた。どうせ腹いせが目的、そうでなくとも背中の傷はあまり嬉しいものではない。

 そして、これが一番反省したことだが、相手が白騎士なせいで易々と非難できずに沈黙する場で、私は言った。言ってしまった。

 たしか、そう――『最近の白騎士の方は、そこらの悪党と同じ手を使うのですね。恐れ入ります』だったか。

 しかも満面の笑みでだ。ただでさえ機嫌が悪く腹も空いていて、そこに加えての面倒事で沸点が低かったのは分かる。だが、さすがのこれは暴言過ぎた。

 どう考えても相手が悪かったから、周りも私に理解を示してくれたとはいえ、あの時のあれが伝わってしまったのだろう。

 今回の召喚はその報復としか思えない。白騎士のプライドは太陽よりも高いと定評だ。でなければ、他にもいる女性の白騎士を差し置いて、私が呼ばれるわけがない。


「どうしよう、次にあの女の顔見たら殴りそうだ」


 考えれば考えるだけ頭が痛くなり、必要な話が済み団長室から退出してから思わず呟いてしまうと、すれ違った者にギョッとされてしまった。

 笑って誤魔化せば、なぜか真っ青になりながら会釈して走り去られてしまう。


「まあ最悪、自警団の道があるわけだし」


 どう転んだって、明日は白騎士団の本部まで行かなければならず、私は開き直って訓練に勤しむことにした。







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