第7章:俺とはじまりの魔王
1話丸々使った説明回になっています。
書いていて自分でも???となる部分がありましたので後日、全体の修正に合わせて大幅に改稿する可能性があります。
「さて、お主らにここまで来てもらった大きな理由なのだが、その前に龍の巫女の予言というものは聞いたことがあるかね?」
どこかに繋がっている鏡のようなものからアーリードラゴンのカレインさんが質問を投げてくる。
龍の巫女っていうと、おとぎ話に出てくるあれのことかな。
「人族が幼いころに読む童話の中に出てくる、世界の危機を知らせるものでしょうか」
「そうじゃな、人族の作った絵本や伝説の中に出てくる預言者という類のものは、大体が龍の巫女が基となっている。その予言者は龍の里に実在しておってな、近いうちに起きる大災害などを我々に知らせるのじゃよ。それを龍族から人族に流すことを【託宣】と呼ぶ」
龍を祀った神社に仕える巫女が災害予知ができるっていうのは、龍族からの情報を得ていたからなんだな。
だけど、今回の破滅の予言なんてものは人族の世界には知らされてないぞ。
「今回の預言は、あまりにも突飛なものであったのでな、人族には知らせていないのだよ。しかし、長年予言とともに生きてきた我々は、これをそのままにするわけにはいかないと考えたのだ」
なんて勿体ぶった話し方なのだろうか、もっと簡潔にできないものか。
「カレイン! さっさと本題へ入れ。寝てしまうぞ」
ザルートさんありがとうございますっ!
「つまりだな、近々この世界は滅ぶという予言があったのだ。300年前の魔王戦争の時でもこのような事はなかったのにだ」
「滅ぶという単語が出てきた予言では確実に何かが消える。それが種族や大陸であっても変わりはない」
1000年以上この世界で生きてきたドラゴンが両方揃って言うのだから真実なのだろう。確かに、このような予言を託宣で受けて人族に広がれば大混乱になる。
「その予言には続きがある。そこには『全能の石、勇敢な悪魔、臆病な妖精、異界の子を束ねし人の勇者現れし時、鉄の巨人がはじまりを終わらせる』と」
「それでワシらは人の王に頼んで、これに当てはまる人物を探してもらっていたわけだ。少し前までは、このような人間はいないと返されていたんだけどよ。いきなり、現れたって言われたわけよ」
そうか、魔王討伐より前の時は俺はまだ勇者ではなかった。だから、王の人探しに該当する事がなかったのか。だけど、鉄の巨人ってなんだ。俺のテイムモンスターの中で一番大きいのはビチャビチャなのだが。
「当然ですよー。マスターは、つい先日まで勇者でもないただの中級冒険者でしたのでー」
「「喋った!?」」
おいおい、最古のドラゴンと最強のドラゴンが驚いているぞ。ゴーレムが言葉を話すってのは、そんなに稀有なことなのか。
「ゴーレムが喋るなど初めて見たぞ。カッカッカ、世にはまだまだ面白いことがあるのう」
「そこなゴーレムよ、もしや到達したのか」
「そうですよー。私は【識】っています」
カレインさんとビチャビチャの間に、何か共通認識があるようだがさっぱりわからん。ザルートさんも分かっていないような表情を浮かべている。
「予言に何故、お主らが出てきたか解ったぞ。まさかゴーレムが到達者であったとはな」
到達者という言葉に覚えがあったのか、先ほどまで蚊帳の外にいたっぽいザルートさんが口を挟む。
「この者が【真理】と繋がっているということか。龍でもなく人でもなく、石の塊が到達するなど思いもしなかったぞ」
なんだ、なんだもしかして俺だけ置いてけぼりなのか。到達者って何?真理って何?
馬車の中でルーと一緒に寝ていた方がいいのか。
「人の子よ、到達者を使役するとは、さらにとてつもない力を有しているということか。お主が争いを好まぬ者で良かったと私は思う。礼を言わせてくれ」
なんだか分からないが、最古のドラゴンに礼を言われてるぞ。この人?龍?はとんでもない勘違いしているのではないだろうか。
というか、ビチャビチャはこの2体でも手に負えないレベルということなのかね。
とりあえず、すべてを知っているかのような顔をして話を聞いていよう。
「さて、話を戻すとしよう。予言の中にある『はじまり』なのだがこれは、はじまりの魔王ではないかと考えている。魔王戦争の時に滅されたはずだがどこかへ逃げ伸びていたのであろう」
「それは少し違いますねー。はじまりの魔王の肉体は、完全に消滅しています」
「では、何が『はじまり』であると?」
「はじまりの魔王の魂です。300年前の戦争で負けた魔王は自らの魂だけを分離させて生き延びました。魂だけでは現界に干渉できませんので、憑りつける肉体を探したんです。誰にも負けない最強の肉体を」
「ま――まさかっ」
「はーい、そのまさかです。初代勇者の肉体にくっついたんですよ、はじまりの魔王は。そしてそのまま元の世界に転送される勇者と共に異世界へ行ったのです」
どういうことだ。初代勇者って、はじまりの魔王を撃ち滅ぼした後の記録がまったくないことで有名だったのだが、その後も何かしていたのか。
「ここからは推測ですが、長い時間をかけて初代勇者の精神を蝕み、支配するまでに至ったのでしょう。はじまりの魔王は、元々その手の能力に長けた異世界人だったようですしね」
「やはり、彼奴は異世界の者であったのか。初代勇者が異世界から召喚された者だとは聞いていたのだが」
「元々この世界は歪が生まれやすいので、呼ばずとも何か色々来ちゃうみたいですよー。ルーちゃんの場合はちょっと違いますけど」
さらっとルーが違う世界から来たみたいなこと言っているけど……。話の規模が大きすぎてついて行けない。
明らかに話を飲みこんでいない事に気付かれたのか、カレインさんが説明してくれた。
「世界は一つではないのだよ、人の子よ。その数は分からないが、我々が住む世界と隣り合うように別の世界が存在する。それらは世界の形は似ているが、違っているのだ。この世界では当たり前のように使われている魔法がなかったりの」
そんなことが本当にあるのか。でも、最果てのアレはそうであれば合点がいく部分がある。
最果てとは世界の端っこに当たる部分であり、そこで世界が切れているのだ。どこまでも続いている無色の壁が天高くそびえ立っているのだ。海も山もそこで折り返すか分断されている。飛翔魔法の使い手がどこまで伸びているのか挑戦したことがあるが、呼吸ができるところ以上まで行ったところで帰ってきたという話が流れた事がある。
世界を調査した人物が残した有名な書籍があるのだが、俺らが住む世界は四方をその壁に囲まれており、著者は我々は檻の中に入れられると書かれていた。
向こう側があるのではないか、と主張する人もいたが何をしても壁に傷一つ付かないので今では誰も試みていない。
「最果てから繋がっているのですか」
「実際に繋がっているわけではないんですけど、中央世界との接合部なんで入ってきやすいんですよー」
なんで、ビチャビチャが答えられるのか……。アーリードラゴンより知識があるのか、こいつは。
その後も世界の連続性は確保されているためループではないとか死んだ者が集まる場所はどの世界でも同じ場所とか理解を越えた話ばかりしやがった。
「では、強大な力を得たはじまりの魔王が300年前のようにこの世界に攻め入ることが破滅を導くということになるのか、到達者よ」
「私はそうだと思いますよー。でも、大丈夫です。マスターがいる世界は守りますので。いなかったら、どうでもいいですけどー」
「しかし、どのようにこちら側に来るのだ。世界転移など早々できるものでもあるまいて。したとしてもここ以外の世界に着いてしまう可能性もある」
「えーっと、ここ10年で魔王の出現数が急増しているのはご存じですかー?」
「うむ、魔王が出現できる大きさの歪が発生する確率が高くなっているということだそうだが」
「あれは、向こう側から故意的に広げてきているんですよー。この世界に照準を合わせて」
「世界の位置を把握しているということか。しかし、そのような事が可能なのか」
「この世界がどこにあるのか探索できるようにすれば、どこに穴を繋げるか選べますよね。その目印になるものを以前来た時に大量に残していましたよー。覚えてませんかー」
「そうか、奴が作った魔造兵の残骸かっ。確かにあれは死の大地に大量に残っておった」
「それ以外にも、魔王が発生するたびにわざわざご丁寧に残すものがあるじゃないですかー」
セイタンシリーズのことか。確かにあれは魔王の体の一部を使って作成する武具だが、各勇者のお伴として立派に役に立っている。
「最初は、魔造兵を媒介にして繋げることに成功したのでしょう。そこから送りこんだ魔王でこちらの世界の生命をすべて駆逐しようとしたのかもしれませんが、その試みは二代目勇者によって阻止されました」
「計画は頓挫したように見えたが、倒した魔王の一部を用いて武具を作成したことにより、あちら側の世界から探す方法を残すことになってしまったということか」
「その通りですー。その後も繰り返し魔王を送りこみセイタンシリーズの武具を作らせ、この世界の位置をはっきりと観測できるようになったのでしょう」
「そして、満を持して送られてきたのが、うちのルーちゃんなのです!」
はぁ? ルーが魔王ってことなのか。確かにおかしくなった時の戦闘力は異常だったけど。
「ルーちゃんは、端末というか部品というか何かを呼ぶために作られた人工生命ですからねー」
「――作られただとっ」
「その性質上、自分がいる場所の情報をどこかに一定間隔で送り続けているんですよー。条件が揃うとこの間みたいに歪が生まれて魔王が現れます」
鉱山に魔王が出たのはルーが原因だったのか。しかし、あの時ルーは俺に逃げてと言っていた。自分の意志で行っていることではないのかもしれないな。
「じゃあ、ルーがいる限り、はじまりの魔王はこの世界を狙って手下を送りこめるってことか」
「そういうことになりますねー。角がそこらへんの機能を持ってそうなんで取っちゃえばいいのですが、脳とくっ付いてるせいで除去できないんですよー」
「ならば、そのルーとやらを始末して、残る魔王の残骸を壊して回れば万事解決ではないか。それだけのことで世界が救えるならば安いものであろう」
ザルートさんがいきなり物騒なことを言い始めた。確かにそれができれば、はじまりの魔王はこちらへ来れなくなる。
でも、そのためにルーの命を奪うなんて許せるはずがない。自分のテイムモンスターを殺すと言われたらいい気分にはならないよ。
「何か別の方法はないのか? 多くの人を助けるためとはいえ、ルーを犠牲にしたくない」
「殺っちまえばいいんですよー、はじまりの魔王を」
その辺に転がっている石をどかすかのような気軽さで言い放つビチャビチャ。お前なら大丈夫なのか。
「いくら到達者といえども、被害を出さずにはじまりの魔王を討つのは難しかろう。魔王戦争の時の被害は酷いもので……、同胞たちの無残な死骸をいくつ見たことか」
「元々数の多くない龍族は、あの戦争で3分の一にまで減ったからのう。同じ事にはなりたくないのだよ、わかってくれぬか」
実際に300年前の戦争を体験しているこの人らの言い分も理解できるが、だからといって素直にルーを渡す気にもなれない。
「申し訳ないですが、ルーは渡せません。どこぞの他人ならどうぞと言ったところですが、一応うちの子なんでね」
「そうか、ならば仕方ない。世界の為だ、悪く思うな」
人の姿をしたケイオスドラゴンが目の前から消えた。転位かっ。
「最強と言われたワシでも到達者と戦って勝てる自信はないのでな。目的だけ達成させてもらおう」
声がした後ろ振り返ると、馬車で寝ていたルーを抱えているザルートがいた。
もう一度転位される前に何とかしなくては。【伝心】を使ってルーに呼び掛けるが目を覚まさない。
使役しているモンスターの位置はどこにいようが把握できるが、追ってもその前に殺されてしまっていたら意味がない。
この場から逃がしてはならない。
「ビチャビチャ、ルーを連れて行かせるな」
命令するが動こうとしない。傍観しているようだ。これまでだったら恐ろしい速さで対処していたのに。
この状況でこいつがまったく動いていないって逆におかしくないか。どういうことだ。
ザルートの姿が光に包まれ始めた。長距離の転位をする気だ。右手をこちらに向けて、隙を一切見せてこない。
「何もしなくて大丈夫みたいですよー。なんか、来ちゃったみたいですから」
ビチャビチャが言うのと同時に、転位寸前だったザルートの胸から腕が生えた。
ルーを連れ去ろうとしたケイオスドラゴンの胸を貫いた腕の持ち主は一体誰なのか。
侵入者を加えてアインとドラゴンのみつどもえの戦いが始まる。
世界の破滅を阻止するためにアインが取った行動とは?
次回予告
第8章:俺と世界の鍵