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第2章:俺と人龍(下)

「なんだ……、ここは」


 周りの人間も5階層に辿り着いてから同じような言葉を発している。あまりにも他のダンジョンとは違う作りに驚くしかない。

 ここはメルサ迷宮の第5階層、通路は継ぎ目のない銀色の板のようなもので覆われ、松明もないというのに中は十分な明るさがあった。通常ダンジョンというものは、剥き出しの岩や草木の蔓で出来たような壁に囲まれ、足もとも悪くこの階層のような真っ平で歩きやすい状態ではない。

 まさにダンジョンを開拓するという意味に近いのだが、ここはそんな必要もない。特殊なモンスターが出るかと思ったが、それもなく低階層のモンスターが移動してきているだけのようだ。

 先程から壁に自分の武器をぶつけている奴がいるが、ほとんど傷がつかないと言っていた。


「みんな、モンスターがほとんどいないからといって、油断はするなよ。予定通りならあと少し噂の人龍の部屋に到着する」


 バリトンが同期の連中に注意を促す。モンスターが出ないといっても先陣を切った冒険者たちを圧倒した人龍の未知の攻撃があるんだ。命を大事にする俺のような人間は一切油断はできない。

 しかし、迷宮内がこんなに明るいのは不思議な感覚を覚える。薄暗く湿ったものがダンジョンという認識が強い。4階層までは他ダンジョンと変わらない造りだったのに、ここだけが異質すぎる。

 数々のモンスターどころか家族からも逃げてきた俺の逃走本能が危険だと告げている。もし一人だったら即座に逃げ出しているだろう。

 色々と思案している内の人龍の部屋の前に着いてしまったようだ。ビチャビチャ、ゲフネル、シャーウッドは俺の所属するパーティーの後ろに付いてきている。ダンジョン内はかなりの広さなので3メイルあるビチャビチャでも問題なく進むことができていた。


「到着したぞ。一度、ここで準備を整えよう。各パーティーは一つずつ緊急時用の転位石を用意しておいてくれ。噂の体を消しさる魔法は私と魔導職で対処する。他の連中はタイミングを合わせて部屋に突入してくれ」


 各々が自慢の武器を出して状態を整え始めた。この辺りは流石、上級冒険者の集団だ。やるべきことをやるべき時にやれる。

 攻撃パーティーのガッチンは5階層にたどり着く前のモンスターのほとんどを一人で屠っていたので武器の状態を念入りに見ている。俺は特に何もしていないので、何もすることがない。

 手持無沙汰になったのでその場で仁王立ちをしてると、うちのモンスターたちが寄ってきた。


「お前たちも俺同様にやることもないだろうから、後ろの方で見ていよう。うっかり前に出て傷を負ったら損だぞ」


 ゲフネルは御意と硬い返事し、シャーウッドはコクコクと頭を上下させた。ビチャビチャは、出発点からずっと何かを考えているかのように黙っている。再会した時、怒涛の喋りを見せたのと同じ奴には見えない。

 

「準備はいいかな。では、まず私と対魔力装備を持った魔法騎士、魔導士職が入る。後衛はできるだけ前衛に耐熱の魔法をかけるようにしてくれ」


 すべてのパーティーが、勇者の指示のもとに一斉に動き出す。


「討伐目標、神話級モンスター人龍! いくぞっ!」


 全員が走り出し扉の差し掛かったと同時に扉だと思われていたものが左右に開いた。

 それと同時に部屋の中から何かが動く音が聞こえた。


「上だ! 上から何かがくるはずだ。 隊列は仲間と並ばず重ならず、少し距離を置け」


 バリトンの声が部屋の中に広がる前に叫び声があがった。

 すでに数人が体を何かにやられ重傷を負っていた。持っていた盾を上に向けていたが、それをも貫通してきているようだ。


「天井近くを動く箱に注意しろ! その箱が光った瞬間直線上にいるとやられるぞ。防ぐな! 回避しろ」


 後衛の耐熱魔法が効果を発揮しているのか、四肢を欠損するような傷を負った者はいない。

 ある程度の対策が出来ていてもこのままでは、じり貧だ。人龍に辿り着く前にやられてしまう。

 すでに当初の作戦通りにはいっていない。隊列も乱れ、腕自慢の連中も慌て始めた。

 そんな中、バリトンが動く。


「天井から伸びる箱は、私がやる。 攻撃部隊は人龍へ急げ!」


 この後、俺は信じられないような光景を目にする。箱から出る光をバリトンが剣で弾き返し始めたのだ。

 剣に弾かれた光が壁にぶつかり消える。この状態になって初めて俺の目に攻撃の正体が見えるようになった。

 光と剣が接触すると甲高い嫌な音が響く。仲間に当たる光を弾き、反らし、ついには素早く動いていた箱を斬り裂いた。


「あれが魔王の破片を使用して作られた武具【セイタン】シリーズの剣【ブレテイル】か」


 同期の一人が興奮気味に騒ぐ。

 勇者には、自分で倒した魔王の一部を用いて作られた特殊な武具が与えられるのだ。バリトンが持つのは刀身が曲がりくねっている特殊な形状をした剣だ。

 高レベルの連中の防具を容易く貫く攻撃を平然と弾き返すことが出来るなんて、強度は相当なものだろう。反応できない攻撃を当たり前のように対処できる身体能力も凄まじい物があるが。


「箱の攻撃で負傷した者は部屋の外に運び出すんだ。治癒系を使える者は全力で施してやってくれ。まだ戦える者は付いてきてくれ」


 まったく戦っていない俺は元気であったが、このまま部屋の外から出ようとしていた。

 シャーウッドばりの隠行を今こそ見せる時だ、アイン!行けアイン!逃げろアイン!

 と、脱兎の如く負傷者の流れに紛れこもうとしたが、大きな手によって道を遮られた。


「マスター、あの子は人龍じゃない。それにこのまま進むと危険な気がするよ」

「は? 何を言っているんだ、どう見てもあの頭の角とか伝え聞いたまんまの人龍だろ。って、そんなことどうでもいいから逃げるぞ」

「あの子に戦う意志なんてないよ。ただ眠らされているだけ」

「だから、何を言っちゃってるんだ。それと普通に喋るなよ。変な目で見られるぞ」

「もー、マスターの分からず屋! いいもん、ちょっと行ってくる」


 待て、と言う前に目の前のゴーレムは消えた。

 消えた?どういうことだ、動いたのか。ゴーレムに素早さなんてほとんどないぞ。

 部屋を中を見渡すと人龍へ向かうバリトンたちのすぐ後ろにまで迫っていた。


「あー、もうしょうがねぇな。ゲフネル! シャーウッド! ビチャビチャを引っ張ってこの部屋から出るぞ」


 昔から甘いよな、こういうところ。見捨てることができればどんだけ楽なことか。

 この件が片付いたらビチャビチャにはお仕置きだ。

 ビチャビチャの後を追っていると、部屋の中に不快な音が鳴り響き、照明が明滅し始めた。


「――システム サドウ」


 人とは思えない声が広がった。

 椅子に人龍を固定したものが続々とはずれていく。最後にひと際大きな胴体のベルトらしきものがはずれた時、人龍が立ち上がった。

 その姿は、とても小さいものだった。頭部に大きな角が2本あるが、全体的には小柄で女性を思わせる体型だ。村娘が着るような服を身に纏っている。角がなければ、普通の少女と言われても分からない。

 人龍が立っていた地面が陥没した、と思ったら攻撃部隊の連中が吹っ飛ばされている。一体何が起きている。これがさっきビチャビチャが言っていた危険なことなのか。


「攻撃部隊にヒールを頼む! 人龍よ、私が相手だ」


 ブレテイルを構え、人龍と相対するバリトン。

 敵意を感じたのか人龍は目標をバリトンに絞り襲いかかってきた。

 人龍がバリトンを攻撃する度に周囲を突風が襲う。あんなもの食らったらひとたまりもない。

 バリトンも攻撃を回避したり、受け止めていたが自分から攻めることができないような状態に陥っている。

 こちら側の最高戦力である勇者が完全に押されていた。

 そしてついには人龍の攻撃を避けきれず、振り回す右腕に接触されてしまった。

 バリトンは壁まで飛ばされて、膝をついた。自分にヒールをかけているが、人龍は回復するまで待ってくれない。

 敵に止めを刺そうと、人龍が動く。

 途中、魔導職の連中が障壁を何枚も展開したが、まるで紙を破るかのように突破していく。

 この一撃で終わりだと、言うように手を高く上げてバリトンに止めを刺す。

 鈍い音が響き、地面に人龍の爪の痕が残る。


「バリトンがやられちまった。もう駄目だ。逃げるぞ。転位っ! ……あれ、転位っ! どうして、転位しないんだ」


 他の連中も必死に転位石を使用するが、誰も移動出来ていない。 


「逃げられないんだったら、戦うしかねぇだろうがぁぁぁ」


 さっきまで倒れていたガッチンが斧を支えに立ち上がる。


「バリトンの仇打ちだ!」


 へし折られた一刀を捨てて、残った一刀を両手で持って構えるガイデン。


「へっ、こんな最後になってお前と意見が合うとはな」

「ああ、こんなことは金輪際で結構だ」


「「いくぞっ」」


 駄目だ、いくら戦闘職の二人でもかなうはずがない。死にに行くようなもんだぞ。

 敵意に反応しているのか、襲いかかる二人に目標を合わせる人龍。

 ん? 敵意に反応している? そういや、俺はこんなに敵前にいるのにどうして無傷なんだ。どうして俺だけが襲われていないのか。

 何かが掴めそうだ、だがその前にガッチンとガイデンが。


「はーい、お疲れ様でしたー。後はお任せくださーい」


 飛びかかる人龍と二人の間に、うちのゴーレムが現れた。何してんのよ、あいつは。破壊されちまうぞ。と、思ったがそれはなかった。

 ガッチンの斧とガイデンのシミターがビチャビチャの体に接触した瞬間に粉々になった。

 そして飛びかかる人龍を大きな両の手で包み込むように掴んだ。


「大人しくしてくださいねー」


 ビチャビチャの手の中で人龍が暴れているが、手がこじ開けられることはなくもがいているだけだ。

 大の男を片手で吹っ飛ばすような奴を抑え込んでいるのかよ。


「マスター、観察の結果この子は何かに操られていると推測されます。それとこの子は人龍ではありません。人龍に似ているだけで別の生物です。はっきりとは分かりませんが、私のような無機生命と人族のような有機生命の間のような存在です」


 なんか難しいことを言っているぞ、うちのゴーレム。人龍ではないってことぐらいしか理解できないが、俺の目では人龍にしか見えないのだが……。


「これから魔法でこの子を操っている存在とこの子を切り離します。その間に【服従】を使用してください」

「服従って、人龍は俺がテイムできるようなモンスターじゃないだろ」

「人龍ではありません。それとレベルといったものが存在しません、この子には。ですので、いけます!」


 いや、いけますって言われても。多分、俺なんかちょっと接触しただけで殺されちゃうよ。近付くのも怖いよ。


「では、魔力障壁を展開してこの子を隔離します」


 さっきから普通に魔法とか魔力障壁とか言っていますが、あなたゴーレムです。魔法とか使えるモンスターじゃないでしょ。


「4番から6番の装甲を展開します。魔力吸収開始」


 ビチャビチャの背中の岩のような部分が3箇所展開して周囲の魔力を集め始めた。周囲の魔素が急激に薄くなり一箇所に集まっていく。


「吸収工程終了――魔力変換――擬似魔導回路形成――圧縮展開開始! 右掌部左掌部開門!」


 理解不能の単語を羅列させながら何かの行程を終了していくビチャビチャ。人龍じゃない何かを抑えたまま手の甲が展開して穴のようなものができた。そこに眩しいくらいの緑色の光が集まる。緑――魔力光だ。それもあんなに輝いているとは、どれだけの魔力量なんだ。


「魔力開放! 【デッド・プリズン】」


 両の手の甲の光が炸裂して魔法が作動したようだ。俺とビチャビチャと人龍っぽいのだけが隔離された四角い箱の中にいる。

 魔力障壁が作成された瞬間に、さっきまで暴れていた人龍みたいなのが大人しくなった。


「マスター、今のうちです。お願いします」


 本当に俺の【服従】が効くのかよ。さっきの暴れっぷりとか完全に神話級だっただろ。

 まぁ、大人しくしているうちにやるなら失敗しても問題はないか。


「えーと、普通の手順でいいんだよな」


 ビチャビチャが頷く。

 指先を軽く切って血を準備する。契約に必要なものだ。

 血の付いた指を人龍っぽいのの額に当てる。


「我は汝が主となりし者なり、我が血を持って汝を従わせ、制約を課す」


 最後の血からある言葉を唱えようとしたところで、人龍っぽいものが俺を見て口を開いた。


「パーパ」


 パーパってなんだ、龍言語か。やべぇ、早くしないと。


「【バインドプロミス】」


 【服従】の手順を踏んで魔法を施行した。

 人龍の額で俺の血が魔術記号となって印を付ける。これで完了だ。

 使役できないモンスターだと、この段階で血が弾かれてしまう。つまり、成功したということだ。


「お疲れ様でした、マスター。格好良かったです」


 ゴーレムに賞賛されてもな……。可愛い子ならまだしも。

 

 頭の中に情報が流れ込んできた。人龍っぽいののモンスター名だと思われるが――、機龍というらしい。

 人龍と名前が似ているが。違う種族なのか。それにしても機龍なんて聞いた事がない。

 今度、爺さんのところにでも行って聞いてみるか。と色々思考していたところ、体に衝撃を受けた。


「パーパ! パーパ!」


 機龍が俺の胸元に突っ込んできた。さっきまでの力はないようで、子供に飛びつかれた程度で良かった。


「さっきからパーパってなんだよ」

「意味は分かりませんが、マスターのことをそう呼んでいるようですね。それにしても嫉妬するぐらい懐かれてますね」


 ビチャビチャさんの頭部からミシミシと何かが鳴っている音が聞こえます。怖いです。


「私もマスターの胸に飛び込んでもいいでしょうか?」

「やめろ、死ぬ。普通に死ぬ」

 

 残念そうに肩を落とすゴーレム。動作のたびに岩が擦れる様な音がする。

 

「まぁ、でもお前のおかげで何とかなったのかもな」


 そう言って項垂れていたビチャビチャの頭を撫でてやる。どうしても背伸びしないと手が届かないため、様にはならないが。


「マスタァァァァァァ」


 感激余りに抱きついてこようとしたゴーレムを必死に避ける。さっきから腰に纏わり付いたままの機龍が重い。


「それにしても被害は甚大だよな。負傷者だらけな上にバリトンが死んじまった」

「死んでませんよ」

「さっきお前も見ただろ、機龍に止めを刺されてたじゃないか」

「刺されてないです。その前に助けましたので。バリトンさんならあそこにいますよ」


 太い指で指された方でバリトンは座っていた。こっちを見て手を振っている。

 どうやって助けたのやら……、まぁ助かっていたのならいいか。

 とりあえず、死んだ奴はいないようで良かった。武器をビチャビチャにぶっ壊されたガッチンとガイデンがこっちを睨んでいるが、無視しよう。


「パーパ! パーパ!」


 機龍が腰に手を回しながらぶら下がっている。こうやって見ると少女にしか思えないのだが。


「そうだ、お前に名前を付けてやらないとな」


 モンスター使いは【服従】させたモンスターに名前をつけるのが普通だ。同じ種族を複数使役する奴もいるので、種族名ではなく個別の名称で呼ぶのが基本となっている。

 機龍――キリュウ、リュー、ルー。ルーって響きがいいな。よし、決めた。


「お前の名前はルーだ。よろしくな」


 きょとんとした顔をしながらも理解してくれたようだ。


「ルー! パーパ! ルー!」


 自分と俺を交互に指差しながら連呼している。やはり、パーパとは俺のことなのか。

 近くでビチャビチャが口がないのに、歯軋りのような間接可動音を出していて怖い。昔の無口なゴーレムはどこにいったのでしょうか。


「ルーちゃん、負けませんから!」


 負けってなんの勝負なんだよ。おかしくなっちまったビチャビチャに続いてルーまで増えてどうしたいいものやら。あまりにも個性が強いのがいるせいでゲフネルとシャーウッドの影が薄くなってしまっている。

 と、思い出して2匹を探すと少し離れたところからこちらを見ていた。言いつけを守っていたようだ。後で好物で食べさせてやろう。


 後衛で無傷だった連中が負傷者に連れて次々と転位して始めていた。


「バリトン大丈夫か」

 まだ立てないようだったバリトンに近付いていく。


「もう少しで回復するよ。それにしてもすごかったね、アイン。まさか人龍をテイムするなんて」

「あー、なんか人龍じゃないみたいだったぞ。テイム後に得られる情報で種族名が違った」

「そうなのか。その腰にくっつくいている子がさっきの俺たちに襲い掛かってきたモンスターなんだよな」

「一応、そういうことになる」


 姿かたちは最初から変わっていないが身に纏う雰囲気が違いすぎるため、同じものだと認識できないのかもしれない。


「俺たちも帰ろうぜ。お前もちゃんとした治療を受けたほうがいい」

「ああ、そうしよう。今回は散々な状況になってしまったから、また同期で行ける冒険を企画しないとな」


 ああ、そうか。周りには言っていなかったな。今回が俺の最後の冒険だったということは。


「この場で言うのも違う気がするけど、実は俺、今回の冒険を最後に引退するんだ」

「そうだったのか、それならなおさら済まなかった。最後の冒険がこんなことになってしまって。人龍でも勝てると思っていた私の慢心が招いた結果だ」


 こいつ、いい奴過ぎるだろ。お前だけのせいじゃないって。俺以外の奴は、みんな勝てる気でいたと思うぞ。


「気にするなって。誰にもそのことを言っていなかったのも俺だし、最後に同期の連中で冒険できたってだけでいい思い出だよ」

「そうか。でも、勿体無い。あんなに強いゴーレムがいて、今回も強力なモンスターをテイムしたのに」

「まぁ、もう決めたことだし。田舎の村に引っ込むよ」

「わかった。決意は固いようだな」

「準備できたら転位石を使ってくれ。俺は持ち合わせがなくてな」


 さて、と後は家に帰って身辺整理するか。その前にうちの連中に美味いものを食わせてやらないとな。

 連れてきたモンスター全員を近くに呼ぶ。


「ビチャビチャ、シャーウッド、ゲフネル、みんなありがとう。今回のが俺の最後の冒険になる。お前らが望むならば【服従】を解いて自由にすることが出来る。復讐が怖いから制約は解けないけどな。どうする?」


 欲を言えば、全員連れて行って村の労働力にしたいところだが、愛着みたいなものが生まれてしまって、こいつらの意思も聞きたくなる。


「私はマスターに付いて行きます! どこまでも! 永遠に! 永久に!」


 すごい勢いでビチャビチャが残留を主張してくれた。ゲフネルが続いて「主と共に」と言った。いや、待て待てお前は服従させた経緯から考えても好かれてるとは思えないのだが。どういうことだ。シャーウッドも無言でコクコクと頷いている。それを真似してルーまで頭を上下させていた。


「はぁ、揃いも揃って変な連中だよ。本当に田舎の村で、なんもないところだから。覚悟しろよ」


 それじゃあ、こいつらをぞろぞろと引き連れて帰りますかね。元気にしてるかな、あいつ。


 バリトンが転位石を使用したようで、俺たちの体が光に包まれ始めた。これで本当に終わりだな。冒険者になってからは本当に早かった。楽しかったこと、辛かったことたくさんあったけど充実してたな。残りの人生は、畑を耕してゆっくり生きていこう。

 などと、物思いに耽っていた俺に聞こえないように何かをつぶやいている奴がいた。



「くふふ、マスターの冒険がこれで終わるはずないじゃないですかー。これからですよ、我がマスターの伝説は」


 何故、俺はこの時に気付かなかったのだろうか。考えればすぐに分かることだった。勇者を圧倒するモンスターを簡単に捕縛したゴーレム使役し、その勇者を超える神話級モンスターを【服従】させたような奴を世界が放って置くわけがない、と。


ここまでが序章より前の時間軸になります。

次章は序章の終わりから続く話です。


次回予告

第3章:俺とドワーフ

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