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第2章:俺と人龍(上)

今回から文章を行頭空けにしてあります。

前回までは横書きでの読みやすさ重視で変なところで切っていました。

見やすければ次回以降は行頭空けを使用したいと思います。

 集合の日、早朝にメルディスへ到着した。

 仲間の状況を確認するとパーティーメンバーの半分くらいはすでに街の中にいるようだ。

 全員が集まる前に、回復薬や魔法耐性が上昇する道具を購入しておこう。ほんの少しでも生存率を上げなければならない。


「マスター、待って下さい。人が多くて上手く歩けません」


 俺の後ろを体長3メイル近い石像が追ってきている。

 草原ならまだしもメルサ迷宮のおかげで人が賑わっている街中を歩くには不便なようだ。


「ゲフネルやシャーウッドと一緒に外で待ってればよかっただろ。買い物だけなんだから付いてこなくて良かったのに」

「一緒にいたいんですよー。10年も待っていたんですよー。その分を取り戻さないと!」


 なんだ、このゴーレム気持ち悪いぞ。昨日散々話しかけられたせいで喋ることには慣れたが、この馴れ馴れしい感じは辛い。

 何が悲しくてこんな巨大な物体に甘えられなくてはならないのだ。

 街の人間はゴーレムが喋っているとは思っておらず、人ゴミの中の子供の声だと思っているのか何の反応も示してしない。

 子供の声と言ったのは、ビチャビチャの声……だと思うものがやたらと高い声で成熟した人間のそれではないのだ。


「昨日も言ったが、人前で話すのは止めろ。ゴーレムは、喋らないものなんだぞ」

「喋ってますよ、ほらほら」

「あー、もう! とりあえず黙ってろ! 後で相手してやるから」

「はーい」


 やっと理解したのか、無言で地響きを立てながら付いてくるようになったが、これはこれで怖いものがあるな。

 店に辿り着く途中で街の子供たちに乗っかられたり、いじられたりしてたがその際にも言葉は発さず、グゴゴとかガゴゴとか音を出していた。


「おっし、着いた。ここがこの街で一番でかい道具屋か。俺は中で適当に道具を見繕ってくるから、そこらへんで待っていてくれ」


 ビチャビチャは静かに頷く仕草をした。




 必要な物を一通り買って出てくると、そこには何とも表現し難い光景が広がっていた。

 ゴーレムの周囲を子供だけではなく小鳥なども囲んでいて、一枚の絵画のようになっていた。体のいたるところに鳥が乗って囀り、膝の上では子供たちが寛いでいる。基本的にモンスターは魔素を周囲に漂わせているため動物や子供は寄ってこないのが普通だ。

 本当にビチャビチャ、お前は何なんだよ。


 結構な量を買った道具をビチャビチャに持たせて、集合場所である南の門へ急ぐ。

 ゲフネルとシャーウッドは、門近くのモンスター待機所に待たせてある。


 門に着くとガッチンとガイデンが試合のようなものを行っているところだった。


「ガッハッハ、避けてばかりでは俺は倒せんぞ!」

「当たらなければ負けはせぬ」


 ガッチンが繰り出す戦斧の強撃を、二刀のシミターで受け流す。縦に振り下ろしても、横に薙いでも流されている。凄まじい腕前だ。

 しかし、なんでまた仲間同士でこんなことをしているんだろうか。腕試しにしても本気でやる必要などないのに。


「一撃が上か連撃が上かで、もめ始めたらしい」


 同期の一人が教えてくれた。

 どうやら、やる気があり過ぎて街に早めに到着してしまい暇になってしまった二人が始めたらしいが途中から白熱してしまい今に至るらしい。学生時代からそりが合わなかったのに、どうして大人になってまで絡むのか理解に苦しむ。


「うぉぉぉぉぉ、死ねぇぇぇぇぇぇ」

「しねぇぇぇぇぇぇ」


 おいおい、やばいんじゃないのか。白熱したじゃ済まされないレベルに発展しているように見えるぞ。

 ガッチンが大上段に斧を振りかぶり、ガイデンも半身に構え腰を落とし、何らかのスキルモーションに入っていた。


「大切断!」

「ブレードストーム!」


 外野が止める間もなくお互いの技が炸裂した、と思われたが突如として二人の間に人影が現れて攻撃を止めた。


「仲間同士で殺し合っちゃ駄目でしょ」


 間にバリトンが立っていた。二人の手を抑えている。力を込めているようには見えないが、ガッチンもガイデンもそれ以上武器を動かせないでいる。


 すごいな、あれが勇者になるやつの力なのか、同期の連中から感嘆の声が上がる。

 こんな奴がいれば人龍でも楽勝だぜ、とすでに勝ち馬に乗った気でいる奴もちらほらと。


「ほとんどの人が揃ったみたいだね。じゃあ、パーティーごとに集まろうか。ほらほら、ガッチンとガイデンも早く自分のパーティーのところにね」


 同期二人の大技を受け止めたのに涼しい顔をしていやがる。

 本当に勇者になるってのはすごいことなんだろうな。逆にここまでの強さがないと倒せないという魔王の強さも物語っているということか。


「アイン、よく来てくれたね。連れて行くのは、そのゴーレムだけでいいのかい?」

「いや、後2体いるんだ。今呼ぶ」


 手の甲の紋章に意識を集中させてゲフネルとシャーウッドにここの位置を知らせる。

 門の近くに置いてきたため、すぐさま駆けつけてきた。


 これはモンスター使いのスキルの一つ【伝心】だ。使役するモンスターに対して、自分の意思を伝えることができる。あまりにも離れ過ぎていると無理だが、この街の規模ぐらいであれば余裕で通じる。元々は言葉を理解できないモンスターや、聴覚機能がないモンスターと意思疎通するための技術であるらしい。


「ゴーレム以外にナイトデーモンとハイドエルフィンを連れてきた。大きな荷物があったら、ゴーレムに持たせてくれ」

「すごい! モンスターがちゃんと人の言う事を聞くんだね。この姿を見たらモンスター使いがもっと増えるだろうに」


 増えない理由は別の部分にあるんだよ、と言おうと思ったが説明もめんどくさいので放置する。


「これナイトデーモンだよね。上級冒険者になれるクラスの能力持ちじゃないと倒せないレベルだと思うけど。それを討伐ではなく、より難易度の高い捕獲ができるなんてアインは、上級になれるのになってないの?」


 言えない……、何年も貯蓄したお金で雇った高レベル傭兵を使って服従させたなんて。


「いや、まぁその時ちょっとレベルが高い人たちと旅しててね。だから、自分だけの力じゃないんだよ」

「そうなんだ?」


 多少の疑問は抱いているようだが、素晴らしいほどに善人であるバリトンさんは信じてくれたようだ。

 シャーウッドの方とかもっと恥ずかしいから聞かれないで良かったと安堵した。


「よし! じゃあ、みんな揃ったところでメルサ迷宮に向かうぞ! 転位石を準備してくれ」


 転位石?そんな高価なアイテムをみんな持っているのか。パーティー内で一人が持っていればいいのだが、購入するためには俺の冒険者としての稼ぎ半年分相当が必要になるような代物だ。それだけ高価なものなのに、転位石は消耗品なのだ。それをさらっと使ってしまえる同期の連中が憎い。どんだけ金を持っているんだ。


「目標メルサ迷宮! 転位っ!」


 続々と手に持った転位石を発動させて飛んで行く。


「それじゃあ、私たちも行こうか。転移っ!」


 急に体を浮遊感が襲う。内臓が持ち上げられる感じがして気持ち悪い。そのまま頭の先を掴まれて引っ張られるように目的地へ飛ばされていく。以前に一度だけ転位魔法に便乗したことがあるが同じ感覚だ。慣れるものではない。徒歩だと2日はかかる場所へ、あっという間についてしまった。


「ここがメルサ迷宮か。地表にはほとんど出ていないんだな」


 地上部分には入口と思われる穴があるだけで周囲は完全な砂漠地帯であった。

 第一発見者は、よく見つけたなという大きさの入口しかない。入ってすぐの第1階層部分に攻略組が野営地を作っているらしいのでまずはそこで情報収集を行うことになった。


 人龍の噂を聞きつけてか、有名な冒険者がかなり集まっているようだ。

 同期の連中もそれなりだが、それ以上のランクの面々が顔を並べている。その中でも一目置かれる存在が、勇者バリトンだ。各所からついに勇者様のお出ましか、などと言われている。当人は何を言われても、聞こえていないかのような感じなので気を使う必要もない。嫌みに何の反応もしないバリトンを見て、結局周囲が何も言わなくなってしまうのは昔から変わらないな。


「おい、モンスター使いがいるぞ。まだ存在してたのかよ、こんな糞職業」


 バリトンに野次を飛ばしていた男の一人が矛先を俺に変えてきたようだ。


「くせぇくせぇ、モンスターくせぇよー」


 ダンジョンの中なんだから当たり前だろ、と言いたくなるがこの手の奴は俺を怒らせる事が目的だ。

 俺を怒らせて連鎖的にバリトンにも火の粉を飛ばして評判を落としたい輩だ。こんなに分かりやすい奴も珍しいが。

 最良の手は、バリトン同様に反応しないこと。揉め事には出来るだけ関わらないこと、それが俺の処世術だ。


「こんなくせぇ奴と一緒にいられるかよ。勇者様もそっから逃げた方がいいんじゃないですかー。臭くて鼻がまがっ――」


 鈍い音がしたと思ったら、罵倒してきた男が壁にめり込んでいた。

 俺の横にはさっきまでいなかったはずのゴーレムが、右手を伸ばしたまま立っていた。

 どうやらビチャビチャが殴ったらしい。


「おまっ! 何やってんの!?」


 俺の焦り方に気付いたのか、ビチャビチャは両手を胸の前で重ねてやっちゃったごめんなさいみたいな動きをする。

 図体が図体だけに非常に気持ち悪い。


「ご主人様想いのいい子だな」


 バリトンは、自分の主人を馬鹿にされたゴーレムが怒ってやったと思っているようだ。実際にそうなのだろうが、まるで犬を褒めるかのように言うのは勘弁してくれ。言われたビチャビチャも照れているような動きをする。これがまた気色悪い。内股のゴーレムなんぞ、見たくない。

 何やら周囲が騒がしくなってきたた。みんなビチャビチャを見ているようだ。


「おい、今やられたのビッグエッジじゃないか」

「ビッグエッジがゴーレムにやられるかよ。噂じゃ先日、レベル60に到達したって話だぜ」

「でも、あそこに転がっている大剣を見ろよ。どう見てもレイジバスターだろ。あんなもん使う奴は限られるぞ」

「なんなんだ、あのゴーレムは」


 まずい状況になってきたな。さっさとここから離れないと。

 うっかりビチャビチャが喋りでもしたら大変なことになる。


「バリトン、先に出発点に行ってるから」

「わかった。地図が手に入り次第こちらもすぐに後を追うよ」



 野営地ダンジョン側出口【出発点】

 これからダンジョンに入る者、戻ってきた者がすれ違う場所だ。最新の情報が飛び交う場所でもある。

 帰って来たばかりの冒険者に商人らしき人物が話しかけて情報を収集している。

 恐らく人龍の情報を仕入れて冒険者に売ろうという魂胆だろう。


 バリトンたちが来るまで一息つこうかと腰を降ろす場所を探しているとダンジョン内から重傷者を引き連れたパーティーが出てきた。

 出発点の入口近く待機していた白い法衣の数人が彼らの下へ走った。

 走り寄ったのはこの手のダンジョンに付き物の白魔法協会の見習いだろう。傷を負って出てきた冒険者を出口で待ち構えて、お布施という形で金を貰うことで回復することを生業にしている。中には回復魔法をかけた後で異常な金額を請求する悪徳な奴らもいるそうだ。


「我々は先程、5階層まで到達した! 地図はほぼ完成させてある。人龍のいる部屋までの道も記した。この地図が欲しい者はいないか?」

 つい先程出てきたパーティーのリーダーと思われる人物が声を張り上げている。

 地図を売って、仲間の治療費を捻出したいってところか。これから入る場所だし、地図くらい買っておいても損はないな。


「売値は1200コルトだ」


 高い、無理だ。ダンジョンの地図は通常50コルトだぞ。何倍だよ。完全に人の足元見てやがるな。

 そんな値段じゃ、どんな馬鹿だって買わない。


「売って貰おう」


 颯爽と現れたバリトンさんが買っていかれました。

 流石は勇者です。庶民とは金銭感覚が違います。


「地図を買うついでで教えてもらいたのだが、あなたの仲間の傷を見るに噂の人龍と一戦交えられたのか?」

「一戦交えたと言えるものかどうか……、俺たちも人龍の部屋の中には入れなかった。入口で何かが光ったと思ったら、前衛の二人が倒れていた。一人は頭を消し飛ばされて死んだ。もう一人も右の肩から先を消された」

「光った? 頭を消された人と腕を怪我された人は、どのような並び方でしたか?」


 気になった部分があったらしく、バリトンが質問を始めた。

 何故か、その横にうちのビチャビチャがいて一緒に話を聞いている。本当に変なゴーレムになってしまったようだ。


「おーい、バリトン! そろそろ出ようぜ」

 冷静さを取り戻したガッチンが呼んでいた。戦いたくてうずうずしているのが傍目でも分かる。他の連中もやる気のようで普段街中で見かけないような武具を身に付けてきていた。


「わかった。今行くから。それでは、すみません。貴重な情報をありがとうございました」

 親切にお礼をして立ち去るバリトン、礼を言うのは高値で地図を買ってもらった相手側だろうに。

 

「ビチャビチャ、もう行くぞ。ゲフネル、シャーウッドも付いてきてくれ」

 ゲフネルは前を歩き、シャーウッドは少し後方で付いてくる。ビチャビチャは、俺の真横に。これでは俺が考えた最高の陣形にならないではないか。

 今回は同期の連中がいるから俺らが前線に出ることはないだろうからこのままでいいか。

 大量のポーションにいつもの道具、自分が死なないための準備はしてきた。

 


「さて、アイン・トローペリーの最後の冒険に行くとしますか」 

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