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第11章:俺と第二次魔王戦争

 俺の名はアイン、モンスター使いだ。俺がどこにいるかって、それは異世界から侵攻してきている奴らと起きている戦争の最前線さ。

 目の前には数えるのも嫌になるほどのおびただしい敵がうごめている。こちらに武器らしき物を向けて雄叫びを上げ、今にも襲いかかってきそうだ。

 こちらの戦力も俺だけじゃない。各国家が送りだした精鋭たちが、遥か後方に控えている。最前線にいるのは、たったの13人。

 しかし、その一人一人が勇者であり、一騎当千の力を持つ兵である。

 

「何故、こんなことに……、ハジコ村に行くはずだったのに」


 まさかセントラルから転位陣で送られる場所が、最前線だとは思わなかった。セントラル組以外はすでに揃っていて、気の早い奴は敵に1発2発加えてきたらしい。

 騎士団を率いて戦っていたバリトンも今は、単身で立っている。その横にいる見るからに堅そうな騎士が勇者ベイグルか。

 俺の横にはゴドルさんが、その隣にクタリさん、ヘンリー王子は地面で横になっている。カツオさんは、大きな杖を持った女性と言い争いをしている。勇者ベイグルとその女性から向こうにいる人たちは、初めて会う人達だ。

 本来であれば挨拶でもしなければいけないところだが、そんな事をしている状況でもない。勇者側も今か今かと戦いを待ちわびているようだ。


「アイン君! 乱戦になったら、抜けるんだ。自分で決めたやるべき事をやりに行け」


 ゴドルさんが格好いいことを言ってくれているが、その顔はにやけていてこれからの戦いを心底楽しみにしているようだ。目も血走っていて近くにいるのが怖い類の人になっている。


「ありがとうございます。お言葉に甘えて、さっさと行かせてもらいますね」


 こんなに死が近い場所からは逃げ出さないとな。

 と、言ったところで敵が動き始めた。隊列を崩さないようにゆっくりと直進してくる。


「おうおう、やっときやがったか。こっちから攻めこんじまおうかと思ってたところだ」


 カツオさんが指を鳴らしながら一歩前へ出た。他の勇者も続いて動き出す。俺は一歩後ろへと後退する。

 こちらの動きに合わせるように、敵の先頭を務める亜人らしき兵が長槍を構えてこちらに走りだす。

 訓練された騎士団のようにまとまってはいないが、量が量なのでまるで槍の津波が襲いかかってくるように見えた。

 勇者陣営からも一人、前に出る。カツオさんと言い争っていた大きな杖を持った女性だ。


「アハハハハ、思う存分に魔法が使える時を待っていたわ。来訪に感謝する、はじまりの魔王よ」


 そういうと、杖の先端をこちらに迫りくる軍勢に向けて円を描くように動かした。


『真なる世界にてまどろむ赤き虎王 伏してなお猛きその姿 破壊の咆哮となりて 我らが敵を討たん』


 女性が力ある言葉を紡いだ。

 敵と俺たちの間くらいに赤い光点がいくつも発生した。女性が杖を下に向けると、その光点が地面に落ちた。


『デストラクションハウリング!』


 次の瞬間、光点が落ちた場所が大爆発を起こした。そこを起点として敵の後方へ向かって爆発が連続して起きた。

 敵の前衛を飲みこみ、後方に控えていたであろう連中まで吹き飛ばされていた。


「な……なんですか、これは」

「ガッハハハ、活き活きしてるな、ミミパーンの奴。相変わらず、すげぇ魔法だ。町中じゃ絶対に使えないぞ」

「あの人が閃光の魔女ミミパーンなんですか」


 魔王を倒したことで勇者にはなったが、良い噂をまったく聞かない。逆に街を消し飛ばしたとか、自分の研究室で飼っていた上位のモンスターが逃げだして近隣の生態系が狂ったとか悪い話は、よく耳にする。

 人格には問題があるが、その魔力は絶大で戦術級の魔法を行使できるという噂だったが、これも本当のことのようだ。

 先ほどまで最果て側の地面を埋め尽くしていた敵の亜人兵の大半が吹き飛ばされて、腕や足を失ったり、致命傷を負って動けない状態になっている。


「気持ちいいいいいいいいいいいいい、あちしの魔法でたくさんの命が消えていく様を見ていると絶頂を迎えそうだわ。今度は地形を変えるぐらいのを撃つわよ」


 ミミパーンは、杖を地面に刺し空いた両手で魔法陣を幾重にも展開し始めた。複層展開された魔法円が重なり合わさり、大きくなっていく。

 巨大になっていく魔法陣は突き刺された杖の上に溜まっていった。陣と陣が反応し合っているのか、魔力光がはじける音まで聞こえてきた。


『光の翼を持つ暗き王よ 汝が想いに応えるため 汝が想いを叶えるため 深淵より零れる 黒き光を導かん』


『ディープライトニング!』


 真っ黒い光の線が地面に刺さった杖から生まれ、一条の光が分裂を繰り返して増えていく。眩しさはなく、ただ黒く思い線となった光が敵に降りかかる。

 その線に接触された敵は、黒く変色し崩れていく。体の一部分が触れたものもそこをはじまりとして黒く浸食されていき遂には全身が黒い粉となって落ちた。

 なんなんだ、この魔法はこんなものをくらったら、生きている奴なんかいないだろ。


「あちしの絶頂を邪魔する奴がいるようね」


 敵陣から10メイルはあろうかという大きな盾がいくつも出現した。盾は意志を持っているかのようにこちらに向かって進んでくる。

 よく見ると盾の下から脚のようなものが伺えた。あんな巨大な盾を持ったまま歩いてくるとは巨人族の連中か。


「あの盾に書かれている紋様に秘密がありそうね。あちしの魔法が通らないとなると、完全無効化の可能性があるわ」


 盾が真ん中で一直線に割れて、その間から巨大な蛇の顔が現れた。首から上が蛇なのだが、その下は人族と同じような体をしていた。大きさは完全に別物だが、四肢がしっかりとあり、手で盾を持っている。

 顔を見せたのは一瞬で、すぐに盾を合わせて防御体制を取った。あの状態のまま進んでくる気か。


「俺の出番のようだなぁ。続けよ、お前らぁ」


 カツオさんが動いた。正確には動いたように見えた。なぜなら、言葉が聞こえた時には、その場所に姿はなく盾持ちに向かって飛んでいたからだ。

 飛びながら右手を振りかぶり、そのまま盾を殴りつけた。


「おうらぁぁぁぁぁぁ」


 周辺に甲高い金属音が響き、続いてひび割れて何かが砕ける音が聞こえた。続けざまに破砕音が鳴り響く。

 ついさっきまで巨大な壁のように盾が並んでいた場所には今、蛇頭の巨人が立っているだけだ。

 破壊された盾の残骸に小型の兵士たちが押しつぶされ、被害が増大している。


「あ、あれが噂に聞く魔導拳ですか?」

「ガハッハッハ、違うぞ。あれは力任せにぶん殴ってるだけだ」


 ただ殴っているだけ? 腕力でどうにかできる大きさではないと思うのだが。

 盾を粉砕した事が勇者たちの呼び水となったのか、次々と敵に向かって駆け出した。

 クタリさんが影に潜り、ヘンリー王子が芋虫が動くように手足を使わずに敵陣に這って行く、バリトンは剣を、ベイグルは三又の槍を構えて走り出す。ミミパーンも次の魔法の詠唱に入った。

 禍々しい兜だけを身に付けた男もそれに続く、彼は勇者ビーチク。変態勇者ヘンリー王子と対をなす破壊天使と呼ばれる人物だ。

 勇者フトシ、勇者リッカー、勇者ラスール、勇者タイラも飛び出す。

 最後にゴドルが大きな棍棒を肩に乗せて駆け出した。


「アイン君! 武運を!」


 そうだ、俺にはやることがある。勇者以外のこちらの世界の連中も動き出した。

 大勢が一斉に動き始めたため、足もとにあった砂が舞い上がり砂埃が周囲を隠す。これに紛れて森の方に抜けるしかない。


「ゴドルさんも生き残ってくださいよ」


 森に向って走り出す。森を抜けて、途中にある湖まで到達できればハジコ村はすぐだ。

 邪魔な木々はゲフネルに両断させ、俺はただ走ることに専念する。

 途中で異世界の軍勢らしき亜人を何体か見かけた。本隊からはぐれたのか、それとも目的があって別行動をしているのか。

 もし、近くの村を襲うという命令が下されていたら、ハジコ村が危ない。走る速度を上げる。


「はぁはぁはぁ……、後少しか」


 いい歳したおっさんの全力疾走は長くは続かない。湖には着いたが、あと少しで走れなくなる。足は止めずに歩いてはいるが走るような距離は稼げない。


「ったく、もうなんなんだよ。ちょっと前までは日銭を稼いで暮らす底辺冒険者だったのに。それがなんで、勇者になって異世界から来る魔王なんかと戦ってんだよ」


 周囲にはゲフネルとシャーウッドしかいないので愚痴る。同期で集まった、あの日から俺の人生は一変してしまったように思える。

 冒険者を止めようとしていた男が、こんな立場になるなんてな。生きている間は何が起きるか分からないとは言え、一気に事が起き過ぎだ。

 あー、こんなこと考えている暇があったら足を動かさないと。


「やっと、見えてきた」


 遠目にだが、小さな小さな村が見えてきた。並ぶ建物はすべて背が低く、セントラルのように城などない、村でもなく集落と言ってもいいような外観だ。

 目的地が見えてきたことで体に活力が戻ったのか、足に力が入る。

 村からは火など出ておらず、破壊されたような跡は見えない。だが、人がいない。元々、村人は少ないがさっきから一人も姿が見えない。

 急いで村の中へ向かう。


「おーい、誰かいないのかー」


 村の中に入ったが人の気配がない。異世界の連中の姿もなければ、村人もいない。どうなっているんだ。ドラコと義母の家に着くまで誰とも合わなかった。

 娘の住むところに着いたが、扉には鍵がかかっていて開かない。


「ドラコー! レイコさーん!」

 

 呼びかけると扉の向こうに近づいてくる人の気配を感じた。

 金属音がなり、開錠されたようだ。


「ドラコっ!」


 扉を押しあけて中に入る。

 そこには黒髪に少し白髪が混じり始めた熟年の女性がいた。俺のよく知る人物だ。しかし、最愛の娘ではない。婆だ。


「レイコさん、無事だったんだんだ。ドラコは?」


 ドラコの居場所を聞いたら、いきなり顔を叩かれた。


「外で隠し子作って、どの面下げて帰ってきたー!」

「えっ……あっ」

「フタコに死んで詫びろー!」


 近くに置いてあった木の棒をやたらめったらに振り回す。


「危ない! 危ない! それ誤解なんですよ」

「お前の話なんぞ、聞くかー!」


 ドラコの早とちりは完全に遺伝だな……。知りたい情報をなんとか聞き出したい。


「ドラコは、家にいるんですか?」

「おらんわー! それもお前のせいだー!」


 駄目だ、まともな会話ができない。他の人に聞いた方が早いかもしれない。

 扉を閉めて家から逃げ出す。

 中から罵声が聞こえてきたが無視だ。昔から、義母は怒ったら手が付けられない。時間が経てば落ち着くが、今は悠長にしている時間はない。

 村長のところへ行くか。


「村長いますかー」


 義母のように家に隠れている可能性があるので大きな声で呼びかける。


「村長! 俺です、アインです。随分と久し振りになってしまいましたが、フタコの夫でドラコの父のアインです」


 扉が少し開いて、お爺さんが出てきた。知っている顔より随分と老けてしまったが、この村の村長のようだ。


「ご無沙汰しています。この村の人たちは逃げないんですか? すぐ近くで戦争が起こっているんですよ」

「それがのう、まだ日が高いころに立派な鎧を着た騎士様が来て、外は危ないから家の中から出ないようにと指示があったのじゃ」


 誰だ、そんな指示を出した奴は。勇者たちの戦いを見たらここに被害が及ばないとは思えない。


「さっきから大きな音が聞こえたり、地面が揺れたりして、何が起こっているのか分からず怖くて動けんので騎士様の命令に従っているのじゃ」

「じゃあ、ドラコも村の中にいるのか」

「おらぬ。先程の大きな音が聞こえた時に、家を飛び出したそうじゃ。レイコさんが追っていこうとしたので何とか止めて、家に戻したんじゃ」

「どこに行ったかわかるか?」

「わからぬが、家を飛び出す際に、お母さんと言っていたそうじゃぞ」


 お母さん――、フタコ――、あいつの墓か。

 ちくしょう、先に分かっていれば村ではなく、そっちへ行ったのに。墓はさっき通ってきた湖の近くにある。村よりも戦場に近い、森の中にいた異世界の連中があの辺りまで今頃進んでいてもおかしくないぞ。


「そうか……、わかった。あんたらは村の中にいるより、南へ逃げた方がいい。敵は、湖向こうの森まで来ていたぞ」

「わ……わかった。すぐに準備をしよう。お主は、どうするんじゃ?」

「ドラコのところへ行く。あいつを見つけたら、あんたらの後を追うように言う。だから、街道沿いに進んでくれると合流しやすい」

「うむ、了解した。レイコさんにもそう伝えておこう」


 居場所はわかった。疲労が溜まって足に上手く力が入らないが急いで向かうしかない。


「シャーウッド、すまないが後から追い付いてくれ。ゲフネル、俺を持って指示通りの方へ飛べ」

「御意に」

「(コクっ)」


 ゲフネルに抱きつかれるような形で、空に上がる。飛んでいけばそこまでの距離ではない。

 

「さっき通った湖に向かって飛んでくれ。湖よりも森に近い辺りに、少し盛り上がった丘がある。そこにドラコはいる」


 事の緊急性を理解しているのか、凄まじい速度で飛ぶ。抵抗がかかっているのか、身体に重みが増し、呼吸がしづらい。しかし、この速さなら。


「主よ、異常はないか」

「あ……ああ、大丈夫だからもっと速く飛べ」


 さらに加速する。下に見える平原は、まるで激流のように過ぎ去っていく。あっという間に、湖が見えてきた。夕暮れになり、湖面が淡い色を反射している。

 湖の上まで来た。あと少しだ。息が苦しい。骨が軋んでいる音が聞こえる。


「到着した」


 小さな丘の上に着いた。下を見ると、石碑らしきものの近くに人影があった。

 やっぱり、ここだったか。


「ゲフネル、あそこに降ろしてくれ」


 ゆっくりと下降していく。まともに摂取出来ていなかった空気を吸い込み、呼吸を整える。空を飛ぶってあんなに負担がすごいんだな。

 おし、後はドラコを村の連中のところまで送り届ければ――


「おい、あいつらはなんだ」


 丘の周囲にある森から飛び出した何かが、ドラコに向かって行くのが見えた。

 人の体に蛇や虎の頭が付いた奴らだ。異世界の連中、もうここまで来ていたのか。


「ゲフネル、急げ」


 急降下するが、このままでは連中の方が先に辿り着いてしまう。


「俺を投げろ!」


 少し思案したようだが、命令に従って、ゲフネルは俺を投げた。

 加速していたのが、さらに速度を増す。もう目が開けてられない、が目を瞑ったら駄目だ。地面に激突した際に一番衝撃が少ない方法を考えるんだ。


 いや、これ死ぬんじゃないか。叩きつけられて死ぬだろ。妻の墓に直撃して死ぬのか。

 地面が近づく。何とか、体に力を入れて耐えようとした。


 衝突する瞬間、何かに包みこまれるような感覚に襲われるが、そのまま地面に落ちた。


「あれ……、死んでない。痛くない」


 周囲を見渡すと、俺を中心に大きく地面が陥没していた。ドラコと襲いかかろうとしてた連中の間に落ちたらしく。

 ドラコは尻もちをついて口を開けたり閉じたりしている。異世界の連中は衝撃波を受けて、立ち止まっていた。

 無事を確認できたので、自分に怪我がないか調べる。頭、体を触るが妙な感じがした。体を見てみると白い布のようなものが体の表面を覆っていた。


「まさか、これって」


 強張っていた体を緩めると、それに合わせて白い布はほどけ、縮んでいき元のマントの姿に戻った。

 やっぱり、ダルイの能力だったのか。体に力を入れた時に魔力も放出していて起動したんだろうな。

 ありがとう、ガフさん。早速役に立ったよ。


「お、おとう――じゃない。知らないおじさん・・・…どうして」


 全身を覆っていた布が元に戻ったので、俺だとわかったのだろう。

 それにしても、まだ許してくれていないのか。わざわざ、言い直さずにそのまま、お父さんと呼んでくれればいいのに。

 頑固なのは、誰に似たんだ。


 衝撃から立ち直った異世界の連中がこちらに向かってきた。

 俺はドラコと連中の間に立つ。


「可愛い娘を守るために、決まってるだろうが!」



ぎりぎりのところでドラコのもとに辿り着いたアイン

そこで娘の想いと亡き妻の願いを聞く

色んなことから逃げていた男が初めて立つ人生の岐路

いい歳したおっさんが選んだ道は……


次回予告

第12章:俺と娘

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