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序 章:俺とあいつとそいつとこいつ

 世間一般ではゴーレムと聞くとどのようなものを想像するだろうか

 体に刻まれた文字の中の一字を削られると崩れてしまう巨像

 人間の命令に従う従順な奴隷、共に戦う仲間、どれも俺の世界のゴーレムを表す言葉としては正しい。


「現れましたね! 今日はあなたを倒して終わりです」


 俺の知るゴーレムも、ウゴゴとかゴガガとか言葉なのだか可動部が擦れた音なのだか分からないものを出しながら動く石像だ。

 知能が低いため、細かい仕事を任せるには不向きなモンスターである。


「ゲフネル! 敵の左側の守りが薄いようです。そこにツバメ斬りをお願いします。シャーウッド、あなたはゲフネルの攻撃で防御の甘くなった頭部にパワーアローを放ってください。タイミングは私が指示します」


 ゲフネルは、俺がやっとのことで従えることに成功したナイトデーモンという悪魔族の騎士モンスターだ。

 シャーウッドは、森の守護者と呼ばれるハイドエルフィンというモンスターで隠行が得意で弓矢の扱いに長けている。

 前者は国家指定レベル30、後者はレベル25のモンスターである。国家指定レベルとは冒険者に転職できるレベルの人間族1人をレベル1として数え、何人の冒険者で対処できるかを表している。レベル25だと冒険者が25人いれば倒せるということになる。実際には装備や相対した地形などで勝てるかどうかは変化するため、目安程度にしかならない数値だ。

 しかし、この基準で市場はモンスター取引が行われるため、俺にとっては逐一確認しなければならない項目でもある。

 先程から話に出てきているゴーレムはレベル15、先の2体よりも一段劣るランクに位置している。


「弱ってきましたね。後は任せて下さい。【テンペスト・オーバードライブ】」


 魔法を行使するためには力ある言葉を用いた詠唱が必要なため言葉を操れない種族には発動する事ができない。低レベルのモンスターで魔法を使える種族は少ない。多くの低レベルモンスターは、種族特有のスキルなどを使って戦う。

 ちなみに【テンペスト・オーバードライブ】とは、風の上位攻撃魔法である【テンペスト】系の最高位のものである。風の谷に棲みつくウインドドラゴンや魔王直下魔導部隊のヘルドルイドが使う魔法として有名だ。

 最高位魔法というと詠唱も長く、大量の魔力を消費するため属性種か高位の魔法使いしか行使する事ができない。詠唱なしで最高位魔法を行使する者など聞いたこともない。見た事はあるが……。


「ふぅ、無事に倒せましたね。損害報告をお願いします。戦闘時間は……、13ケイルですか、まだまだ短縮できますね。各自の傷を治療したら、馬車で反省会です」 


 倒したモンスターから使えるものを回収しているようだ。高レベルモンスターの羽根や牙などは、武具店に高く売れることがある。それは冒険者の大切な収入の一部になっている。

 今、倒したのはブラッドナイトと呼ばれる、高位モンスターの血液が集まって生まれる特殊モンスターだ。装備しているブラッドウェポンと呼ばれる武具が高価な値で取引されている。

 国家指定レベルは70である。このレベル帯に入ると冒険者の人数の問題ではなくなり、高レベル冒険者がどれくらいいるかが勝敗を分かつことになる。

 さて、ここで不思議な点が出てくる。今、ブラッドナイトと倒したのはレベル30、25、15のモンスター達である。モンスター同士の戦いの場合、レベルが2倍あったら攻撃がまったく通じなくなるのは冒険者業界では有名な話だ。俺が通っていた養成学校の教科書にも載っている。

 このモンスター達ではブラッドナイトにかなうはずないのだ。だが、実際にはほぼ無傷で勝利を収めている。


「今回の戦闘で判明したのは、ゲフネルの武器ではBランクスキルを使用した場合、ブラッドナイトに本来のダメージの4割も通らないということですね。

シャーウッドのパワーアローは頭部を狙えば、十分なダメージと体制を崩す事が可能なようです。先日購入した世界樹の弓の効果が出ていますね。

今日の戦利品を売却したお金でゲフネルの武器を買い換えましょう。手ごろなところですとハイミスリルか魔血を用いた武器でしょうか」


 俺が乗っている馬が牽引する馬車の中では淡々と先程の戦いの反省会が行われている。1体が話し続けて、それに相槌を打っているのはゲフネルだろう。シャーウッドは、ほとんど声を発する事がない無口な奴だ。今日もいつものように深夜まで話が続くのだろう。


「マスター! 明日の予定が決まりました。武器を揃えるためにアレイスの街へ向かいたいのですが、よろしいでしょうか?」


 一方的に話し続けてしまってすまない。自己紹介が遅れたが今、マスターと呼ばれた男、それが俺ことアイン・トローペリーである。

 戦闘にも参加せず、反省会に出る必要もなく、馬車を引く馬を操る国家認定中級冒険者、職業はモンスター使い。歳は38で、遠く離れた土地に娘を一人残したままいつまでも冒険の旅をしている駄目男だ。

 子供のころに読んだ勇者の冒険譚に憧れて、自分も人を救う人間になりたいと考えて15で王国の養成学校に入学した。何とか18で冒険者になることが出来たが、それから20年も経った現在、同世代の連中のほとんどは上級冒険者となり、中には辺境の魔王を倒して勇者の称号を手に入れた奴までいる。

 このまま冒険者を続けても奴らのようにはなれないと、冒険者人生に見切りをつけようと決めたのだが思い出作りに最後の冒険をしようって時にこいつと出会ってしまったんだ。


 こいつってのは、自分より高レベルのモンスターに指示を出し、無詠唱で最高位魔法を行使し、綿密な作戦を練ることで敗北なき戦いを実践するゴーレムであるビチャビチャ(俺が命名)だ。


 このビチャビチャが人々の希望として世界を救ったり、異世界の魔王を相手に想像を絶する戦いをする……かもしれない話が本作である!


 物語が始まる前に言っておきたいことがある。

 このなんだかとんでもなくすごいゴーレムは、俺のテイムモンスターなのである!

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