都会にまぎれる猫 1
結局、宿を見つけるのに3時間はかかってしまった。
正確には泊まらせてくれる宿を見つけるのに、だけど。
「いらっしゃいませ。………すみません、ペットは駄目なんですよ。」
「犬?そんなの外に放り出しておけばいいだろ!中に入れるってんならウチはお断りだよ!」
とまあこんな具合である。ボーラスは外で構わないと言うのだけれど、やはりそれでは良くない。
ボーラスはただのペットではなくて仲間なんだから。
店に断られる度、ボーラスの顔は憤りと申し訳なさの同居した表情を見せるのだった。
「泊まらせてくれてありがと。ボーラスも感謝してるって。」
それに合わせてボーラスはワン!と鳴いた。
ようやく俺たちを受け入れてくれたのはこの町の大通りをすこし外れた木造の小さな建物。
大都会であるこの国にはそぐわない建物だったが、俺の故郷はド田舎でもっと小さな家ばかりだったのであまりきにならなかった。
「どういたしまして。ってお礼はあたしじゃなくてマスターに言った方がいいんじゃない?」
そう言って快活に笑うのは、ここに連れてきてくれた少女だった。
白い肌にブロンドの髪、笑ったときにこぼれる八重歯がとてもまぶしい。
「マスターもありがとう。」
少女にマスターと呼ばれた男は柔和な笑みを浮かべている。
「かまわないよ。」
後になって聞いたことだけど、ここは古くなって使われなくなった宿で今はこのマスターが買い取り、バーを経営しているらしい。
二階の客室だったところが空いているのでそこに泊まらせてくれるようだ。とてもありがたい。
「おにーさん名前は?」
そういえばまだ名乗っていなかったな。これからお世話になるというのに失礼きわまりない。俺は姿勢を正し、こう言った。
「俺は四条ケイ。旅人です。」
決まった。シンプルかつ礼を逸していないベターな自己紹介だ。
師匠から去り際に言っていたがこの国は旅人たちによって発展したらしいしなかなか好印象なはず。
今まで旅をしてきた場所によっては厄介者扱いされたり散々な目に合うこと間違いなしだけど。
ようやく旅人として歓迎され………?
「「………。」」
どうやらこの国でも旅人というのは歓迎されないらしい。
時代遅れの遺物である旅人を受け入れてもらえる場所はもはやどこにもないのかも。