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87 現在の旅事情

最近、カルビーのベジップスがお気に入りです。

お高いですが。

八十七



 カグラとの夕食後、大内裏に用意された部屋で一夜を明かしたミラは、一汁五菜の昔ながらな朝食を摂った。

 そして現在、サソリ、ヘビ両名と合流してから、見送りのカグラと共に本拠地の出口である塔の前まで来ていた。

 登るとなると溜息の出そうな塔を見上げたのち、ミラは三人に続いて螺旋階段へ踏み出す。

 塔の最上階である湖と本拠地を隔てる門の前に到着すると、既にそこにはアーロンの姿があった。金属で補強されながらも軽装で身を固め、熟練の貫禄を滲ませている。


「おはよう、アーロンさん」


「ああ、おはよう」


 カグラことウズメが声を掛けると、朝陽に輝き揺らぐ()を見上げていたアーロンは、返事をしながら一行に振り返り、四人を一目して笑みを浮べた。五十鈴連盟では任務の際、この場で待ち合わせるのが通例となっているようだ。


「これまた豪華な顔ぶれだな」


 楽しげにアーロンが言う。現在、正面に並ぶ者は、五十鈴連盟の頂点とその精鋭、更には賢者の弟子だ。今回の旅が楽しみで、アーロンは随分と早く目を覚ましてしまったくらいである。

 対してサソリは自信満々に、口端を上げる。ヘビはといえば、ちらりとアーロンを目にしたあと、静かに目を伏せ「おっきい」と呟いた。ワゴンの許容量を気にしているようだ。


「それじゃあ、最終確認をするわよ」


 一変して表情を固くし、ウズメは作戦の説明を始める。


「まず、行き先は天秤の城塞。移動手段はミラちゃんのワゴンで空から。目的は、キメラクロ−ゼン幹部の捕縛。ここまでは、いいわよね」


「ああ、問題ない」


 アーロンがそう答えると、皆も一様に頷き同意する。それを確認するとウズメは、ミラへと視線を向けた。


「ワゴンは、ガルーダに運ばせているのよね?」


「うむ、そうじゃ!」


 戦うだけではない、ワゴンによる召喚術の有意義な利用法である。ミラは、どうだと言わんばかりに胸を張った。

 ミラの、もといダンブルフの事を良く知るウズメは、かつて覚えのあるガルーダの風格を思い浮かべると、小さく肩を竦める。


「許可証を貰うために、サルートの組合に寄る必要があるから、その時に馬車に乗り換えてね。あんな鳥が飛んできたら、目立ちすぎて警戒される恐れがあるから」


 そう召喚術の活躍の機会を制限する言葉を放ったウズメ。


「うむ、分かった……」


 ミラは、子猫のように背筋を丸めて項垂れる。そこへ更にウズメが言う。


「あ、一応サルートが見えてきたら陸路に変えて。キメラ相手には慎重に慎重を重ねるくらいでないとね」


 ミラは、ウズメの言葉に相槌を打ちながら、召喚術の復興はまだまだ遠いと溜息を漏らした。


「キメラの幹部がいつ現われるか分からないから、多分現場には暫く滞在してもらう事になるわ。その際の不寝番と見張りはサソリとヘビに担当してもらうから、アーロンさんとミラちゃんは万全を整えておいてね」


「ああ、了解した」


 アーロンはそう答えて、ちらりとミラに視線を送る。ウズメの言葉から、ミラに対する絶大な信頼が窺えたからだ。目に映る少女に、アーロンはより期待を膨らませる。


「このメンバーなら、戦闘に関しては心配無いわ。捕縛に関してもサソリとヘビに拘束具を渡してあるから、動けなくなる程度に痛めつけるだけでいいわよ」


 ウズメの釘を刺すようなその言葉は、真っ直ぐミラに対してのものであった。


「ふむ、わしは戦闘に集中すればいいという事じゃな」


 ミラは言葉の意味を理解すると、そう言って薄っすらと微笑んだ。えげつないと称された召喚術を見直させる好機だと考えたからだ。対して、先に作戦内容を聞かされていたサソリはミラに向かい「任せといて」と自信満々だ。ヘビもまた、言葉は無いが力強く頷いていた。


「それじゃあ、よろしくね!」


 ウズメは最後にそう締め括り四人を送り出す。現在、考えうる最高の人選で挑む任務だからだろうか、その表情には微塵の不安も浮かんではいなかった。



 まるでアクアリウムの中のような水中階段を上りきると、絹のように滑らかな空気が四人を迎える。朝露に煌めく四季の森は、淡い夢のように白く霞んでいた。それは薄暗く、木々の吐息のように辺りに立ち込めているが、不快感は微塵も無く、森厳とした清々しさで満ちている。


(良いところじゃのぅ)


 森の香りは優しく、所々から顔を覗かせる精霊は、任務に向かう四人に加護を与えていく。ミラは、身の内に感じる仄かな温もりに、故郷に似た安堵感を得るのだった。


「随分と手厚い見送りじゃな」


「利害が一致しているし、何よりもここに居る皆は仲間だからね」


 サソリは、精霊達に手を振り返しながらミラの呟きに答えた。

 精霊の加護には二種類ある。永続的に効果を発揮するタイプと、時間制限のある効果を得られるタイプだ。前者は、精霊と親密になる事で与えられるもので、様々な特殊スキルの習得条件となっている事が多い。後者は主に精霊の気まぐれがほとんどである。そして今回、ミラ達に与えられた加護は後者のタイプだ。

 ミラは幾重にも加護を受けながら、その優しさ、温もりを感じて、より一層キメラクローゼンの打倒を心に決める。

 加護をくれる精霊に感謝しながら湖の畔を歩いていくと、子供が群がるワゴンに辿り付く。


「ぬ……」


「ありゃりゃ。遊び場にされちゃってるね」


 それは森に住む幼精霊達であった。支柱にぶら下がったり、ワゴンの上に登っては飛び降りてみたりと、咲き乱れるような笑顔が溢れている。

 森の緑と湖の青の中でも映える白いワゴンは、この場にはとても珍しく映ったようで、幼精霊達にとって恰好の遊び場と化していた。

 遊びに夢中な幼精霊をワゴンから引き剥がすのに手間が掛かったものの、今度は四人に纏わり付き遊んでとねだる幼精霊達。ミラは、若干名残惜しそうにしながらも、胸に抱いた子を世話係の精霊に預ける。

 気を取り直して、ミラはもったいぶるようにワゴンの扉を開く。すると、サソリが我先にとミラの脇から顔を覗かせて「おおー!」と感嘆の声を上げれば、それに誘われるようにヘビとアーロンが続いた。


「和風様式のワゴンなど初めて見たが、こいつは良いな。快適そうだ」


「これは、想定外」


 アーロンは和風様式独特の落ち着いた雰囲気を気に入っており、その良さを小さく纏めたワゴンの内装に、感嘆の声をあげる。ヘビはというと、想像していた内装と違っていたようで、困惑気味だ。対してサソリは、正面に見える大きな窓を目にして、そこから望めるであろう空からの景色に期待満々であった。


「靴はそこで脱ぐのじゃぞ」


 ミラがそう言うと、子供のように瞳を輝かせるサソリとアーロンは、言われたとおり即座に靴を脱ぎワゴンに乗り込んだ。

 ミラ用に作られたワゴン内は、ミラとアーロン、そしてサソリの三人が入れば相応に窮屈で、ヘビは申し訳無さそうにしながら入ると、そのまま部屋の角に立つ。


「ん、どうしたんだ?」


 張り付くようにして角に収まっているヘビを見てアーロンが問いかけると、黙り込んだままのヘビに代わり、サソリが事の次第を説明する。ワゴンは大きくないため、本来は三人で行く予定となっていた任務であったが、ヘビがどうしても付いていきたいと願い出た。それゆえに、少しでも邪魔にならないようにと考えての事だろうと。

 そういう事かと納得するアーロン。だが、ミラとしては、そうされた方が落ち着かないというものである。


「ヘビよ、そっちの端を持ってはくれぬか」


 そう言いながら、ミラは中腰で炬燵の縁に手をかける。


「分かった」


 頷き答えると、ヘビはミラを真似るようにして炬燵を掴んだ。そして掛け声と共に持ち上げて隅に移動させる。


「これで、少しは広くなったじゃろう」


 炬燵はワゴンのど真ん中に鎮座していたため、どけただけで随分と広くなったように見える。ミラは満足そうに言うとヘビに座るよう促し、自分自身は御者台に顔を出して出発の準備を始めた。

 ふと自分の体格を確認したアーロンは、他三人の頭を見下ろしながら背格好を見比べると、何も言わぬまま壁際に詰めるようにして腰を下ろした。

 準備を終えたミラが、炬燵の脇に座椅子を運びそこに腰を下ろせば、上から押さえ込まれるような僅かな圧迫感が四人を包んだ。


「うわっ、どんどん浮いていく!」


 窓際を陣取っていたサソリは、色彩溢れる森がぐんぐんと遠ざかるのを眺めて、嬉々とした声を上げる。


「少し、怖いくらいだな」


 サソリにつられるようにして、窓に視線を向けたアーロンが言う。その隣りでちょこんと正座したヘビは、覗き見るようにして眼下に視線を向けると、どこまでも広がる大地に無言のまま瞳を輝かせていた。



 四季の森から飛び立ち、四時間ほど空の旅を楽しんだところで、進行方向にサルートの町が見えてきた。


「もう少しで、サルートの町」


 ヘビが報告するように、座椅子で寛ぐミラに告げる。


「ふむ、それでは降りるとしようかのぅ」


 ミラはそう言って渋々立ち上がり、三人の隙間を縫うようにして御者台まで行くと、そこから顔を出してガルーダに指示を出す。

 それから、ゆっくりと降下を始めたワゴンは、街道から少し外れた草原に着陸した。

 

(さて、誰に牽いてもらおうかのぅ)


 一度降りて陸路を行くのは、キメラクローゼンに警戒されないようにするためである。ならば、ワゴンを牽かせるのも、その意に適うものでなければいけない。その事を念頭においてミラは思案する。


(グリフォン……は目立つのぅ……。ペガサスは、翼を畳ませておけば馬じゃからな、どうにかなるかもしれぬ。しかし陸適性が低いからのぅ、力不足かもしれぬ。その点、陸適性で選ぶならばウムガルナじゃが……見た目が馬すら丸呑みできそうな大蛇じゃからな。目立つなという方が無理じゃろう)


「どうしたんだ、ミラの嬢ちゃん」


 突っ立ったまま、うんうんと唸り続けていたミラ。出発する様子も無い状態を気にしてアーロンが問い掛ける。


「いやなに、目立たずにワゴンを牽かせられるものが思いつかなくてのぅ」


「そういう事か」


 今、目の前に居るのは、召喚術の賢者ダンブルフの弟子であるという少女だ。アーロンは、ちらりと確認したガルーダの輝く翼を脳裏に思い浮かべながら、確かに難しそうだと納得する。

 ミラが再び思案を始めた時、傍らでそわそわしていたヘビは「ワゴンを牽くなら、私に任せてほしい」と、活躍できる好機に名乗りをあげた。


「そういや、ヘビの嬢ちゃんは死霊術士だったな」


 疑問を浮べる事無く訳知り顔でアーロンが言う。


「ふむ、では任せる」


 ヘビから向けられる真っ直ぐな視線と、アーロンのその言葉から、死霊術士ならば何か手があるのかと判断しミラは頷いた。ヘビは「ありがとう」とだけ答えて御者台の扉を開く。基本無表情であったその顔は、役に立てるのが嬉しいのか僅かに笑みが浮かんでいた。

 ワゴンの外に出たヘビは、四足のゴーレムを作り出す術を発動させる。

 ミラは、どうやって解決するのか興味があり、そっと御者台を覗き込む。そして、トカゲに似た胴体から生える丸太のように太い足と、フックのような先端をした三本の尻尾を持つそのゴーレムを見て、異様な迫力に眉根を寄せワゴン内に振り返った。このような姿をしたゴーレムで本当に目立たないのかと。

 だがミラの心配をよそに、アーロンとサソリは寛いだままだ。この現実となった世界に関しては、まだまだ知らない事の方が多いと自覚しているミラは、二人の様子から問題無いのだと悟る。

 ヘビが行使したその術は、ワゴンなどを牽かせる労働力として新たに開発された死霊術の一つであった。それゆえに、一般に広く知れ渡っており、利用している者は冒険者から商人、貴族にまで至る。

 似たような事の出来る使役系ならば、陰陽術や召喚術もあるが、この死霊術は特に安定性に優れていた。その結果、牽引ゴーレムは、もはや旅の常識となっており、その知名度は目立たないという目的を簡単に達する事が出来るのであった。

 ミラが視線を戻すと同時、ワゴンは、ゆっくりと動き出す。見れば、ゴーレムが三本の尻尾を支柱に絡めて、実に軽そうに牽いていた。


「では、頼んだ」


 厳つい図体で器用なものだと感心しながらミラは言う。それにヘビは「任せて」と答えて力強く頷いた。

 カラカラと車輪が転がる音が響き、小気味良い振動が、じわりと全身を上っていく。ワゴンに乗り地上を進む道程は、空の旅とは違いのんびりと穏やかで、一定のリズムを刻むその音が心地良く感じる陸路に、速度重視で空ばかりだったミラは、これもまた一興だと窓の外へと視線を投げかけるのだった。



 ミラ達を乗せたワゴンは順調に街道を進んでいき、昼の中頃にサルートの町に到着する。

 事前に組合の場所を確認していたヘビは、ゴーレムを巧みに操りワゴンを進めていく。そこは有名どころの商店が軒を連ねる大通りで、人々のほかに多数の馬車も行き交っていた。窓から大通りを眺めていたミラは、数多くの牽引ゴーレムとすれ違うのを目にして、こういう理由で目立たないのだなとヘビの意図を理解した。

 サルートの町並みは木造の建築物が主で、大きな建物や重要な場所は石造りとなっている。西部劇の中に、ちらほらと西洋建築の凝った意匠が見えるといった様子だ。それでいて雰囲気を壊す事無く、木と石による、独特な景観に満ちていた。

 ミラがそんな町並みを満喫しているうちに、ワゴンは二軒並んだ石造りの建物の前に到着する。宮殿のような外観のその建物には、大陸共通である組合の紋章が刻まれていた。


「さて、行ってくるか」


 そう言うとアーロンは天秤の城塞の許可証を発行してもらうべく、ワゴンを降り組合に入っていった。


 許可証の手続きは五分程度で完了した。アーロンが戻り乗り込んだのを確認すると、ヘビは再びワゴンを走らせる。

 次に到着した場所は、大きな宿だった。そこには立派な厩舎とワゴンを置くためのガレージがある。安心してワゴンを預けられる場所として、ヘビが昨日のうちに調べていた、ガレージの利用だけでも良いという宿であった。ダンジョンにミラのワゴンで乗りつければ、キメラクローゼンがあとから来た場合、誰かが先に居ると分かり、それだけで警戒されるかもしれない。今回の任務は、そういった要素を徹底して排除して遂行していくのだ。

 ヘビは二言三言、宿の係員と言葉を交わしてから誘導に従いガレージへとワゴンを進ませ、着いた先で利用の日数や料金についての細かい手続きなどを済ませていく。

 三人は、そのやりとりを背にワゴンを降りる。

 木造のガレージには大小様々なワゴンが泊められており、作業着を着た係員が入念に手入れをしているのが見える。ミラは周囲を見回しながら、ここなら安心だなと納得した。


「お待たせ」


「任せきりですまんのぅ」


 手続きを終えたヘビが戻ると、ミラはワゴンの駐車券を受け取りながらそう声を掛ける。


「問題ない」


 ヘビのその返事に抑揚は無かったが、その表情は少しだけ嬉しそうで、そして僅かにはにかむようであった。


 サルートの町は冒険者が多いようで、一目見ただけで相当な実力だと分かるような者達が、幾つもの集まりを作っていた。俗に言うパーティというものだ。ミラは、目に入ったパーティのバランスを勝手に評価しながら、自信満々に先頭を行くヘビを追うようにして大通りを進む。

 途中、大通りから少し外れた道に入る。その先には多くの馬車が列を成していた。見れば冒険者パーティの多くも集まっており、並んだ馬車の御者と何事か交渉しては乗り込んでいく。


「ほぅ、乗合馬車か」


 ミラがそう呟くと、ヘビが振り返り首を横に振った。


「少し違う。ここは馬車タクシー乗り場。乗合馬車より高い。けど、個人単位で貸し切れる。冒険者の足代わりとしてよく利用されてる。今の私達にはこっちの方が良いと判断した」


 乗合馬車は一定区間を往来しており、道中で様々な利用者が乗り合わせる、言わばバスの馬車版に近いだろうか。

 それとは別に馬車タクシーとは、個人、またはパーティを目的地へと送り届ける、これもまた既に定番となっている移動手段である。五十鈴連盟の極秘任務で動いているミラ達にとっては、他者との接触を最低限に抑えられ、しかも定番ゆえに目立たないという、今の状況にぴったりの乗り物だ。


「ほほぅ。タクシーか。確かに、その方が気楽で良いのぅ」


 どこにキメラクローゼンと繋がりのある者がいるか分からない今、気を張りつめる必要の少ない馬車タクシーは、現在とれる手段の中でも優良といえるだろう。

 ミラが同意すると、ヘビは意気揚々と馬車の列へと飛び込んでいった。

 数分後、馬車タクシーの御者と話をつけたヘビ。どうやら列の中から最適の馬車を見繕ってきたようで、ミラ達を案内する足取りも軽やかである。

 何台も通り過ぎていく馬車の列は、馬車と一括りにするのを躊躇ってしまいそうになる程に、バリエーションが豊富だった。定番の馬からしても軽種から重種まで揃い、他にも立派な角を持つ雄牛であったり、威勢良く鼻を鳴らす大猪であったりと牽引者も様々である。更に牽引ゴーレムまで加わるのだ。

 それぞれの種類により得意とする距離や速度が変わり、目的によって選ぶのが常識となっている。目的地である天秤の城塞は岩山の中央にあり、それなりの馬力が必要となる場所だ。そのため、ヘビが選んだ馬車タクシーは御者が二人いて、ヘビが見せたものより一回り大きな牽引ゴーレムが二体繋がれていた。


 ミラ達を乗せ、力とそれなりの速度を備えた馬車タクシーが街道から山道へと入っていく中、ヘビは恐る恐る機嫌を窺うように、ミラに視線を送っていた。どうにも、馬車に乗ってからミラの口数が少ないからだ。馬車が気に入らなかったのか、それとも無理矢理付いてきた自分の存在が疎ましくなったのか、ヘビはそんな不安を募らせていた。


(ゴーレムがあれだけ並んで、式神の姿まで見えたのにのぅ……。なぜ召喚体が一体も居ないのじゃ……)


 視線の先のミラは、窓枠に頬杖をつき、山道を進むにつれて草木が疎らになっていくのを眺めながら、召喚術もこの草木のように衰退していくのではないかと感慨に耽っていた。

 その後、二人の様子を気にしたアーロンが声をかけた事により、ヘビの不安は払拭される。ミラは、ヘビに不満があるわけではなく、ただ召喚術が見当たらなかったのが召喚術士として気になっていただけなのだと。

 同時にミラの憂いもまた、ガルーダのような飛行できる存在を召喚可能な術士は重役がお抱えにしており、馬車タクシーよりも高位なのだというアーロンの言葉によって一先ず晴れる。

 それから冒険者パーティを装った一行は、終始和やかなまま天秤の城塞に到着した。

そろそろ、二巻目の作業が本格始動……!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば、五十鈴連盟の戦士クラスの人達はどうやって精霊を見てるんですか?術士でないと精霊を見れないという話では…? [一言] 目立ちすぎガルーダげきちん!
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