84 ヒドゥンのサソリ
お待たせしました。
もう月末ですが、あけましておめでとうございます!
八十四
風は無く、波のように揺らぐ木漏れ日が、空の湖面を抜けて地面に差し込み水玉模様を映す。五十鈴連盟の本拠地は湖の底にあり、全面が水族館のような場所である。その中の一番奥、重役が集う内裏の中庭で、銀髪の少女と、短剣を両手それぞれに持ったメオウ族の女性が向かい合っていた。
(九賢者ダンブルフといえば召喚術士の頂点。となれば、もちろんあの子も召喚術がメインで間違いないよね。でも、九賢者物語には仙術で近接戦にも対応するような話があったはず。弟子なら、それも教えられているかも。だからって距離を取れば召喚術の餌食だし……あたしも遠距離は苦手だしなぁ)
全く読みきれない相手を前に、サソリはダンブルフに関しての記憶を井戸の底から汲み上げるように思い出しては、対処法を考える。
「準備はいいわねー。じゃあ、始めぇー」
どこか気の抜けるようなウズメの合図だったが、それに惑わされる事無くサソリは間髪入れずに加速した。距離を空けて召喚術を使われれば面倒になる。ならば開始早々から一番得意な近距離戦に持ち込んでしまえば良い。サソリはそう結論したのだ。そして、それを可能にするだけの敏捷性を持ち合わせている。まるで解き放たれた矢のようにサソリは低空を滑りミラに迫った。
それこそ瞬く間に接近戦の間合いに入ったサソリは、短剣を稲妻のような速さで突き出す。相手の首筋に刃を突きつければ、それで決着だ。
短剣は狙い通り相手の首筋に届く。だがその瞬間、ミラの姿はまるで幻のようにぼやけて消えた。
「あれ?」
サソリはどこか素っ頓狂な声を上げるも、迷う事無く振り返り再加速する。ミラージュステップであると見破り、即座にミラの気配を察知したのだ。
(精鋭というだけのことはあるのぅ)
相対する少女ミラはというと、初手ならばミラージュステップは、それなりの使い手にも有効であると分析する。それと同時に、流石はカグラの下に集まった精鋭だと感心した。幻影を追いかけ、ただがむしゃらに剣を振り回すだけだった慢心貴族カイロスと違い、サソリは迅速に対応したからだ。気配に反応し真っ直ぐとミラを見定めて駆けるその姿は、確かな経験と修練に裏打ちされたものだった。
彼我の距離が短剣の間合いとなった直後、サソリが鋭い一閃を放つ。最速で最短を打ち貫かんばかりの突きだ。しかしその刃はまたも届かず、虚空より唐突に現われた白く長大な盾に衝突し、サソリもまた勢いそのままに身体を盾に打ち付ける。
「なにこれ、どこから!?」
間一髪の受身により衝撃を最小限に抑えたサソリが注意深く視線を凝らすなか、ふっと盾が消滅した。すると、その後に居たはずのミラの姿もまた忽然と消えていた。だがサソリは、焦る事無く気配を探る。その直後であった。背筋を虫が這い回るかのような気味の悪い悪寒を感じサソリは咄嗟に飛び退いた。瞬間、地面が槌を打ち付けたかのように窪み、内臓までも震わせる衝撃の余波がサソリの身体を通り過ぎ、破裂音が響き渡る。
(これは、確か仙術の……衝破!)
現象から術を見極めると、その軌道から発動地点も割り出し、サソリは次弾を警戒しながら上方へ顔を向ける。そこには確かにミラが居た。部分召喚の盾を目くらましにして、空闊歩でサソリの頭上へ飛んでいたのだ。
当のミラはというと、手応えを確認しながら、サソリの反応速度に舌を巻く。完全な死角からであったにも関わらず、当たる直前で躱したからだ。だがミラは、ワゴンでの移動中に考えた今回の戦法はそこそこ有効そうだと、しっかり心に留めてもいた。
「まだ間合いの内!」
感心するミラをよそに、サソリは瞬く間に闘気を練り上げて短剣に込めると、空へ向けて一閃した。すると小さな竜巻がまるで顎を開いた蛇のように牙を剥き、宙に佇む少女へと襲い掛かる。それをミラは、仙術によって風を纏わせた両手で受け止め握り潰し、サソリを見下ろしたままにやりと笑みを浮べる。
(これは想像以上じゃな。召喚術の力を喧伝する良い手合いじゃ)
続く二撃目の竜巻をいなしながら、ミラは嬉しそうに相手を見据える。標的を見失った蛇が宙で解け、圧縮されていた空気が旋風となり中庭を巡れば、草木と共にミラのスカートがふわりと揺らぐ。それによりぎりぎりで影の内にあった聖域が露わになると、統括員代表のコフィンが歓声をあげる。だが次の瞬間、ヘビの手により粛清された。ミザールとアリオトは、即執行される判決に巻き込まれないように、禁止区となった聖域から自然な動作で視線を逸らしながら、「顔に似合わず、随分とませているんだな」と呟いたコンゴウが、流れるようにコフィンの後を追う姿に合掌した。
その間にも、主役の二人の攻防は続いている。
サソリが短剣を振るい風の渦を放てば今度は途中で相殺される。だが、その三匹目は、まだ牙を失ってはいなかった。薄く円いのこぎりのような刃が後を追うように投擲されており、役目を終えた蛇の身の内を貫き飛び出してミラに迫った。その刃は本来毒を塗って使うが、今回は試合であるため無毒だ。しかし、多少でも掠めれば勝利を宣言することもできるだろうと、サソリは考えていた。
刃はミラの足元に吸い込まれるように飛来する。顔の近くを狙うのをサソリが躊躇った事もあるが、何よりも素手のままで得意技を潰された結果を考慮して、手の届かない部分を狙ったのだ。
「また!?」
甲高い金属音が響くと、刃は牙を欠いて木の葉のように舞い落ちていた。サソリは、再びどこからともなく現われた傷一つ無い盾を見て、うんざりしたように声を上げる。そして直後、またもミラは盾と共に姿を消した。
刃を防ぐと同時、ミラはサソリの死角となる盾の後にもう一枚の盾を召喚し、それを足場に縮地を使い相手の頭を飛び越えていたのだ。
サソリはいち早く気配を察知して振り返る。盾が消えてから一秒足らずでの反応だ。ミラは、その鋭さを大いに讃え、そして大いに迎えた。
「げっ……」
サソリは、頬を引き攣らせ苦笑しながらそう声を漏らす。集中し、出来うる限り最速最短で反応できたという自信が彼女にはあった。だが目の前には、一番警戒していたダンブルフの弟子の召喚術が確かな形を作り佇んでいたのだ。この時サソリは、基準にしていた知り合いの召喚術士と対峙する相手の格の違いを、まざまざと見せ付けられ実感させられる。
(しかも二体とか……。召喚術は確か……指定、選択、消費、発動だったかな。あいつ下級でも二秒はかかるもんだって言ってたのに、言ってたのにー!)
サソリは心中で、召喚術士の知人に八つ当たりすると、いよいよどうしたものかと眉根を寄せて思案する。彼女の前には、姫を守るように白と黒の騎士が、ただただ静かに赤い双眸を光らせて立っていた。
(いかんいかん、これ程の兵を相手にすると、つい動きたくなってしまっていかん。初心じゃ初心。しっかりと召喚術を使わねばのぅ)
二騎士の後ろでミラは顎先を指でなぞり、見学者側にちらりと視線を向けながら反省気味に気合を入れ直す。
「さて、本番じゃ」
ミラがそう言うと、ダークナイトの姿が残像のようにぶれ、予備動作もそこそこに始まりから最高速で黒い騎士が飛び出した。当然、向かう先は正面で隙無く構えるヒドゥンの一人だ。
対するサソリは「うわっ、怖!」と、人間離れした風貌と挙動に驚きながらも、至って冷静に応戦を開始する。
嵐のように容赦無く空を裂く黒い剣をかいぐくっては、隙間を縫うように短剣を振るうサソリ。得物の差もあり、受けては駄目だと判断した彼女は、回避を徹底し僅かな好機を狙う戦術をとった。
だが、相手は術で作られた偽体であり、内在するマナが尽きない限り再生を繰り返す。確かな技で深く傷を刻み込むが、即座に修復されていく様に、サソリはまたもうんざりしたように眉根を寄せる。召喚術士の知り合いも居ることから召喚術に関する造詣が深いため、サソリは恨み言を呟くだけで済んだが、その知識が無ければ不死性でもあるのかと疑い戦意を削がれていたことだろう。
とはいえ、一瞬の気も抜けない程に巧みな剣捌きに加え、見聞よりも圧倒的に早い黒騎士の再生を前に後悔気味のサソリであった。
それでも二度三度とサソリは攻撃を繰り返し、上手く相手の姿勢を誘導して、絶好の隙に刃を奔らせる。渾身の一撃は、黒騎士の腹部を抉り取り、とうとうその再生の許容量を超えた。
ダークナイトがガラスのように砕けると、更にその破片は微粒子となって霧散する。サソリはその光景を前に高揚し一瞬だけ笑顔を見せるも、即座に目付き鋭く振り向き駆け出す。いや、駆け出そうとした。
「うそん……」
倒したはずのダークナイトが、何事もなかったかのように目と鼻の先に佇んでいる。焦りに急き立てられ反射的にサソリは飛び退き距離を取った。残りはホーリーナイトだけだと、勝手にそう思い込んでいたサソリだが、黒騎士の上級並の戦闘力で、召喚術の真骨頂を失念していたのだ。それは、マナの続く限り幾らでも戦力を追加できるというもの。
上級召喚は詠唱に時間が掛かる。サソリは、その事を知り合いの術士に聞いていた。有無を言わせぬ接近戦で詠唱する時間を与えなければ、召喚術士の最大戦力を封じられる。だが代わりに下級召喚は二秒程度で喚び出せるともだ。下級に関しては身をもって違うと学習したが、そもそもミラのダークナイトはその実力も下級の枠を逸脱するほどに鍛え上げられている。そのため戦いの最中、サソリは上級召喚を相手している気になってしまっていた。それ程の強者ですらミラにとって幾らでも補充可能な駒に過ぎないというのに。
ちらりと黒騎士の脇から後方に望めたミラは、まるで試し見極めようとしているかのように、しかし、何かを楽しむかのようにサソリを見据え不敵に笑んでいた。しかも、召喚術士は下級で上級詠唱の時間を稼ぐのが常套手段とされているが、ミラにその素振りは無い。その態度で、上級召喚は必要無いと語っているのだ。
サソリは、そのことに憤慨するも、正面のダークナイトと後方のホーリーナイトを一瞥してくすくすと笑い出す。これが大陸最強の術士の弟子というものなのかと。慢心している気は無かったが、それでもやはりどこかで自分は強いのだと慢心していたのだなとサソリは気持ちを改める。
(どこまで通用するのかな!)
当初の目的を忘れ、サソリは胸を借りるような気概で黒騎士に向かって駆け出していった。
戦いは更に激化し、あの手この手で黒騎士を撃破していくサソリ。その都度、再召喚されるダークナイト。やる気を漲らせていたサソリであったが、着実に疲労は蓄積され、徐々に動きが鈍くなっていく。それでも尚、鋭さを増した得意技で十二体目のダークナイトを切り伏せる。
(流石にもう、しんどくなってきたー……。あたし、何で戦ってたんだっけ……?)
無理矢理おかわりをよそわれる何かのように、倒しても倒しても次が現われる。サソリは心底疲れ果て、それ故に冷静さを取り戻した。そして、傷一つ無いホーリーナイトを前に大きく溜息を吐く。そんな光景と状況に、試合を見ていた五人の誰がともなく「これはまた……」と同情の色が交じった声を漏らすと、他の皆も似たような声を上げた。
(やりおるやりおる。次は、連携を試してみるとしようかのぅ)
世界が現実となり様々な仕様の変わった術の性能を組み込むべく、空いた時間に想像するだけであった戦術をこれ見よがしに実験していたミラ。やはり想像と現実は違うものだと、得られた経験を胸に刻んでいく。
「まだまだ、これからじゃぞー」
現実となり今現在、これ程までに有意義な術の実験をしていなかったミラは、まるで酔っているかのように上機嫌で、その様子にウズメがかつての光景を思い出しながら苦笑する。
「うそーん……」
サソリが絶望を込めて呟く。調子の上がってきたミラが、ダークナイトを五体同時に召喚したのだ。一対一ならば対処できていたが、こうなるともう限界だった。
「まいりましたー!」
降参を告げるとても明瞭で清々しいサソリの声が中庭に響く。短剣は既に地面に転がり、白いハンカチを手に白旗がわりにして掲げていた。
「ふむ……まあ良い。どうじゃ、召喚術はすごいじゃろう」
ミラはホーリーナイトの肩に駆け上り、これでもかと誇らしげに胸を張る。五十鈴連盟の精鋭を相手にこの結果ならば、十分に召喚術を認めさせられるだろうと満足気味だ。
だが、実はこの時点で少々の誤解があった。五十鈴連盟の頂点は、言わずと知れた九賢者の一人カグラである。当然、切磋琢磨し合ったダンブルフのことを良く知り、召喚術の有用性は相応に理解しており連盟内で重用している。そしてサソリの知り合いの召喚術士もまた五十鈴連盟のメンバーで、ここに居る誰もが、世間一般の認識としての廃れた召喚術という印象を持ってはいなかったのだ。
その結果、誰もが召喚術に対して新たな印象を抱く。
「召喚術っていうのは、随分と何だ、強かなのだな」
「一度型に嵌ると、こうも一方的とは」
ミザールが、言葉を選ぶようにして言うと、アリオトも同意しつつ苦笑する。
「あははははは! すっごい、えげつない!」
言いようのない空気の中、誰もが思った言葉を、コフィンは憚る事無く口にして笑う。それを咎める者は無く、満場一致で同意となった。
「なん……じゃと……」
予定と違う皆の反応を前にして、ミラは表情を一変させる。
「召喚術がそうなのか、お嬢ちゃんの性格がそうなのか……」
どの道、強力な戦力が加わったから良しとコンゴウは呟きながら、どこか間の抜けた顔で白騎士の肩に佇むミラの哀愁を帯びる姿を見つめた。
試合も終わり会議室に戻る途中、ミラはコンゴウから客観的に見た試合の内容を聞いた。曰く、ミラは羽の無い小鳥を玩ぶ猫のようだったと。
召喚術相手に勝つ方法が思いつかないと肩を落すサソリに、ウズメが「あれは、例外だから」と励ます。そんな二人の背中にちらりと目をやり、どうしたものかと、ミラは今後の喧伝方法に頭を悩ませた。
ほどなく一行が会議室に到着すると、それを見計らい給仕係が茶を配る。全員が座ると、アリオトが一つ咳払いをしてから言う。
「下級召喚だけで、アレ程までにサソリ殿を圧倒するとは驚きでした。確かにウズメ様の言うとおり、我々では相手にならなそうですね」
ウズメが得意そうな顔で「でしょう!」と一番に返す。九賢者という仲間意識から自然と出た言葉だ。
「戦力としては申し分ない。当てにさせてもらおう」
ミザールは、湯呑みの茶を一息に飲み干してから、疲れきったように座卓に突っ伏すサソリを一瞥すると異存は無いことを示す。
結果としてミラの実力を把握できたので、天秤の城塞行きに異を唱えるものは居なかった。だがヘビだけは、若干困惑したような、難しい顔をして俯いていた。そもそもの試合の発端となった原因は、留守番を言い渡され気落ちするヘビの意を汲んだミザールの発言である。だが、この時点では完全にヘビの意を汲み切れてはいなかった。ヘビはミラの実力云々に関して不安があったわけではなく、単純に五十鈴連盟過去最高の任務に関われない事が不満だっただけなのだ。事実、彼女の発言はミラの実力については触れておらず、同行希望という意思を押し出したものであった。
「どうしたヘビ、まだ納得できないのか? 俺も、十分に任せられると思うんだがな」
浮かない表情のヘビに気付き、コンゴウが声を掛ける。その言葉に反応したヘビは、ゆっくりと顔を上げ横目でちらりとウズメの様子を窺いながら口を開いた。
「彼女に不満は、無い。けど、同行できないのが……落ち着かない。ヒドゥンで私だけ、仲間はずれ」
「ああ……」
そのヘビの発言により、ようやく得心がいったコンゴウ。今回の任務は、ヒドゥン総動員で実行される予定となっている。しかし一人だけ、ヘビだけが人数制限という理由で外された形となるのだ。ヘビは、まだ戦力外とでも言われた方がましだとすら思っていた。
思案げに腕を組んだコンゴウは「ふーむ」と唸ると、ミラにその厳つくも優しそうな顔を向けて、今一度の確認を取る。
「嬢ちゃんが乗ってきたワゴンってのは、あれだよな。使役系に牽かせたりするやつ。どうにも見た事が無いからわからんが、三人っていうのは、重量の問題か?」
「いや、重量は問題ないはずじゃ。単純に広さかのぅ。三人も座れば窮屈になりそうでな」
ミラは、重量に関しては心配は無いと考える。ガルーダに初めてワゴンを見せた時に、片肢で軽々と持ち上げていたからだ。なので理由は、広さであると告げた。すると、その言葉を受けて、ヘビがミラに食いつくように身体を向ける。
「座れなくても構わない。邪魔にならないところに立っている。外に吊るしてくれてもいい。だから、同行希望」
ヘビは座卓に手を突き身を乗り出して、断れば泣き出してしまうのではないかと思えるような顔で、祈るようにミラへ視線を送りながら懇願する。
「どうかな? いける?」
横からウズメの問い掛けを受けて、ミラはワゴン内を脳裏に描く。そして自分とヘビ、サソリ、更にまだ見ぬAランク冒険者(女性希望)をそこに配置して仮想ハーレムを形成すると、少し狭いのもありだなとほくそ笑み、まったく問題無いと結論させた。
「そうじゃな。少し狭くなるが、それでも良いなら大丈夫じゃろう!」
「……えっと、うん、それならヘビも同行ってことで」
「感謝」
何かしら腹に一物抱えていそうな気色悪さが満面に表れているミラに、ウズメは内心で溜息を吐きつつ同行を許可する。ヘビは、座卓に打ち付けるように頭を下げて礼を述べた。
こうして、天秤の城塞行きは四人となり、会議は本格的な作戦立てに移行していった。
一時間ほどの会議で方針が固まり、幹部達は解散と同時に連絡や準備のために慌しく奔走を始める。
残っているのはミラとウズメだけだ。二人は作戦に関しては一旦脇に置き、この世界に来てからのことを話し合った。内容は波乱万丈であったが、大部分は友同士のお気楽な会話だ。
途中、五十鈴連盟の創設にも触れたりしたが、その時は、どこか孫を見守るような目で、ミラはその話を聞いた。そして、一言「任せておけ」と告げる。ウズメ──カグラにとっては、もう長いこと会っていなかった仲間であり、姿も声もまるで変わってしまっていたが、その一言は、すとんとカグラの心の深くに嵌り、篝火のように確かに灯って、瞬く間に今を照らし出した。仮想現実で育まれた顔の見えない絆は、時の狭間に埋もれることは無く通じ合い、紛れも無い本物に感じられるものだった。
カグラは、照れくささを隠しながらも、満面な笑顔で「ありがとう」と答えた。
14ももはやクリタワとルーレットをちょっとやる程度に。
それでも時間が……。




