674 リーダー
六百七十四
霊脈の詰まりを直しているリーシャ達を待つ間、ミラ達は各々で自由に過ごしていた。
防衛部隊は、カグラが張った結界を活かした陣形や魔獣クラスが来た時の対応など、様々な状況下での立ち回りを想定しながら聖域内を見回っている。
そしてミラはミラで、別の場所から聖域を眺めていた。
「この調子ならば来年には十分なくらいに育ってくれそうか」
今の霊脈では、まだ安全装置の稼働に必要なエネルギーに届かない。けれど成長速度は劇的であり、決戦時には十分な量が確保出来ているはずだ。
「しかし、この感じ。これが聖域の成長というものじゃろうか」
僅かに緑の届いていない荒野の丘に立つミラは、寸前まで迫る聖域の端から溢れる不思議な力をその身に感じていた。
ミラは聖域を復興させる事も含め、大陸中に存在する多くの聖域を巡ってきた。そして、その全てから聖域という特別な場所が秘めた力や気配まで感じ取っていた。
これまでのそれは微かなものだった。だが目の前にあるそれは、規模が違うと肌でわかる。
「ふーむ。こうやって聖域というのは広がっていくものなのじゃな」
流石は元大陸一の聖域があった場所。そして、再びその座に返り咲くべく成長していく始まりの聖域である。
これまでとは比べ物にならない力と勢いを実感したミラは、だからこそ、その力に注目した。
「聖域か……。少し形が見えてきたかもしれんのぅ」
聖域が聖域たる意味と、その真価。これから更に長い年月をかけて、今とは比べ物にならないほどの規模へと成長していくだろう今の聖域を見据えながら、ミラはそこに新たな力の可能性を見つけていた。
リーシャはミラ達が到着してから三日後に戻った。一緒に作業していた精霊達も同時に帰ってきたため、聖域は一気に賑やかになった。
(思えば、カグラが帰っていて正解だったかもしれんな)
リーシャの姿を目にしたら、カグラがどのような発作を起こすかわかったものではない。
早々にケット・シーの村へと襲撃に行ったが、この聖域の安寧を思えば悪くない結果だったのかもしれない。
と、そんな事を思いつつ顔合わせを済ませたミラと防衛部隊。そこから更に情報のやり取りも行われたわけだが、その中にはこの聖域が抱える問題が含まれていた。
聖域が広がり緑も豊かになった事で多くの動物達が寄り付き暮らすようになったわけだが、だからこそ問題が発生しているそうだ。
その問題とは簡単な話、種族間による生活圏の衝突──つまりは縄張り争いだ。
「どこかに居てくれればいいのになぁ……」
随分と気を揉んでいるのか、リーシャも落ち込み気味だ。聖域の守護者という立場ではあるが、動物達の問題には深く介入出来ないらしい。今は抑制するのが限界だという。
動物達の問題は、やはり同様の立場で見られる存在が必要なのだ。
ただ、この問題を解決するには一番簡単な方法があった。それは、ミラが復興した聖域と同じようにペガサスやウムガルナといった聖獣や霊獣といった存在を管理者として据える事だ。
とはいえ、その簡単な方法を実行するのは、なかなかに難しい。
自然界の秩序の問題に加え大陸法でも厳密に禁止されているため、そこらにいる野生の聖獣や霊獣を勝手に捕まえて連れてくるわけにはいかないのだ。
「ふーむ、わしが知る聖域にも幾らかおるが、引っ越しとなるとどうじゃろうな」
可能性があるとすれば、それこそ各聖域などに赴いて直接交渉するくらいであろうか。だが聖獣や霊獣の信頼を得るというのは、かなりの困難を極める。
多くから信頼を得ているミラは、それだけで相当に特殊である。だが暮らし慣れた場所を離れ別の聖域に移すとなったら、余程の一押しが必要になるだろう。
「それでしたら適役の霊獣を知っていますよ。いつぞやからか、聖域での生活に憧れを持つようになりまして──」
簡単だけど簡単ではない。そんな話をしていたところで、マティに気の有りそうな男がそんな事を言い出した。
「ほんとにほんと!?」
その一言に、ぱっと笑顔を咲かせて男に駆け寄っていったリーシャは、その目に爛々とした期待の色を浮かべる。
すると、そんなリーシャに続く者がもう一人。
「いるんですか!? どなたか紹介してくれませんか!?」
マティだ。縄張り争い問題については彼女も随分と難儀していたのだろう。確実に治められる方法だが簡単には実行出来ないそれが、もしかしたら叶うかもしれないとあってか、随分と興奮気味だ。
「は、はい。喜んで!」
瞬間、男は背筋をぴんと伸ばしながら力強く答えた。
なんと先ほど口にした通り、彼には知り合いの霊獣がいるようだ。しかも、その霊獣は聖域とは違う場所で暮らしており、それゆえ聖域という場所にかなりの憧れを抱いているらしい。
「ところでそれは一体どこのどんな霊獣じゃ!?」
やはりというか、ここで黙っていられなかったミラは興味津々に詰め寄っていった。
それは召喚術士の性とでもいうものか。聖獣や霊獣と聞いたら、たとえ既に契約済みであろうとも色々と知りたくなってしまうものなのだ。
「えっと、うちの研究所で育った狼のタロジローなんですがね──」
リーシャにマティ、更にミラまで加わり威圧感の増した目に晒された男は、少々おっかなびっくりしつつもその詳細について説明した。
話によれば、『生物牧畜技術研究開発部』という場所で生活していた狼の一体が一年ほど前に霊獣の領域へと踏みいれたらしい。
そして姿も一変し、今は純白の毛並みが神々しい白狼になったという。
ただ、本質的な部分はそのままであり、タロジローは白狼になってものんびり屋のままだった。
しかし、何が影響したのか。いつからか様子が変わり霊獣然とした立ち振る舞いをするようになり、最近は言葉も話せるようになったようだ。
そこで、その白狼自身の望みを知る事になったという。
「白狼……おお、そうか。あやつじゃったか。前に会ったが、そうじゃな。よいかもしれんぞ」
その霊獣は何者か。話を聞いたミラは、以前の出会いを思い出した。
男が挙げた心当たりとは、研究所の見学をしていた際に出会った、あの白狼だ。
霊獣になったが、はたしてどうすればいいのかと悩んでいた当時の白狼。その悩みを知り、仲間の先輩聖獣や霊獣を召喚してやった事があった。
その白狼が今は、聖域での暮らしに憧れているらしい。当時の事がどれだけ影響しているのかはわからないが、ぱっと見の威厳は確かな白狼だ。
何より白狼自身が聖域に行きたいと言っているのなら、なおさら好都合だ。
「そうなんだ、会ってみたいな!」
「ミラさんがそう言うのなら、確かですね」
ミラの一言もあってか、リーシャとマティもその案に賛成を示した。そして、ようやく今の抗争が終わるのかと、その顔には安堵の色も浮かんでいる。
しかも動物達の縄張り争いが落ち着けば、今よりももっと早く聖域を広げていく事が出来るらしい。
決戦も考慮するならば、是が非でも白狼のタロジローに来て欲しいところだ。
「では、この聖域で暮らさないかと頼んでみます!」
多くの期待を一身に受けた男は、けれど怯まずその目にやる気と覚悟を漲らせ、お任せ下さいと力強く答えたのだった。
「──そういう感じでのぅ。あともう少しといったところじゃった」
「順調そうで安心したよ。にしても面白いね。研究所育ちの霊獣とか」
ソロモンの執務室にて、ミラは高級スイーツを堪能するついでに聖域復興計画の進展についても報告していた。
白狼を連れてくるため防衛部隊が研究所へと帰還していったところで、ミラの顔合わせの立会人としての役割も完了。後の事はマティ達に任せ、一足先に帰ってきた次第だ。
「うむ、まったくじゃな。どういったきっかけで霊獣へと変わったのかも気になるところじゃ。そのあたりが明らかになれば──」
日之本委員会の研究所で生まれ育った白狼のタロジロー。そのような環境下において何がどう影響して霊獣に変じたのか。
そのあたりについては戻る前に精霊王に聞いてみたが、どうやら詳しくは把握していないそうだ。ただ、種族や血筋がある程度は関係しているとの事だった。
つまり聖獣や霊獣というのは、動物界のエリート階級にあたるわけだ。
「うわぁ。悪い顔しているねぇ。契約し放題とか考えているでしょ」
「そ、そんなわけないじゃろう!? もっと純粋なやつじゃよ」
その血統と条件を解明出来れば、もしかしたら。ソロモンの言う通りの事も考えていたミラだったが、聖域に暮らす動物達のためだと主張してシュークリームを頬張る。
聖獣や霊獣のいる場所は、野生の動物達にとって最も居心地の良い棲み処となる。そして今後、リーシャの治めるあの聖域は、大陸一を取り戻すくらいの規模にまで拡大していく事になるだろう。
すると今度は、白狼のタロジローだけでは目が届かない領域が増えていくわけだ。つまり未来を考えれば、聖獣や霊獣の更なる増員は必要不可欠。
そこで霊獣に至る条件がわかれば、そんな将来的な問題にも悩む必要がなくなる。半分は私利私欲で間違いはないが、もう半分は成長し続ける聖域のためというのも確かなのだ。
「とにもかくにも、それなら後は決戦までに出来る限りをするだけだね」
聖域に問題がないというのならば、決戦用神器の運用についても問題なしという事だ。
現状、魔物を統べる神を完全に消滅させる事が出来るのは、三神の力を束ねて放つ特別製の神器だけ。そして決戦の時は、その一撃を魔物を統べる神の核に叩き込む必要がある。
非常に重要な切り札であるからこそ、その準備が順調に進んでいるのは朗報と言える。
ソロモンは安堵したように茶を口にしながら、国防の方に専念出来そうだと笑う。
「うむ、そうじゃな。国の方は全て任せる事になるが、よろしくのぅ」
「うん、最善を尽くすよ」
決戦の日、復活した魔物を統べる神の力は、大陸全土の魔物や魔獣までにも影響を与える。その結果、多くの国がその脅威に立ち向かう事になる。
それは大陸規模での戦いとなるため、きっと完全勝利は望めないだろう。
はたして、どれだけの被害が生じる事になるか。避けられないからこそ、そう告げたソロモンの声は静かで落ち着いたものだった。
すっかり春になりましたね。
そしてこの季節になるとキャベツもまた冬から春に様変わり。
美味しさでは春キャベツが上みたいですが……
冬キャベツに比べると一つの量が激減しているのが何ともかんとも……。
いつもは半玉を二つ買うところ、この季節は三つは買わないといけないんですよね。
そして数が増える分だけ下拵えの手間も増えるという。
早く、いつものキャベツに戻って欲しいものです。
ただ、春キャベツで作った回鍋肉は絶品でしたね!!!!




