671 第二回実地実験会
六百七十一
二週間に及ぶ神々の実験場での実地実験会からミラ達が帰ってきた次の日の事だ。
アルカイト城の会議室にソロモンと九賢者の全員が集まり、次回の予定について話し合っていた。
「当然、次は俺達だよな」
一回目の実地実験会は、ミラとカグラにソウルハウル、メイリンとフローネが参加していた。ルミナリアとアルテシアにラストラーダ、ヴァレンティンは会議のために不参加だったわけだが、だからこそ次は不参加組に予定を合わせてほしいとルミナリアが主張する。
「試してみたい事は山ほどあるぞ!」
次回は絶対に参加したいと表明するラストラーダ。孤児院の運営でも忙しい彼だが、やはり根元には他の九賢者にも負けず劣らずの研究者魂が宿っていた。特に究極の超必殺技の開発がようやく出来そうだと実に嬉しそうだ。
「そうね、決戦前に少しだけ調整しておきたい事もあるわね」
九賢者の中で唯一、周辺環境への被害を出した事のないアルテシア。孤児院運営の他にも最近は治療院での研究や実験に力を入れていた彼女だが、次の実地実験会には参加するつもりのようだ。
聖術は治癒や補助がメインだが、それ以外の術もかなり豊富だ。ただ今回は実戦での勘を取り戻しつつ、他に試してみたいものもあるとの事だった。
「因子の影響で変異した魔物というのが、やはり気になりますね。敵の配下には、普段の魔物とは違う存在もいるという話ですし」
魔物を統べる神の力は、大陸全土の魔物を操るだけではない。これまでに見た事もない魔物を生み出していたという話だ。
ヴァレンティンは、そういった魔物を統べる神の影響を受けた存在などに、退魔の力がどの程度まで通用するのかを確かめておきたいそうだ。
「うむ、わかったわかった。それでは都合のよい日を決めるとしようか」
第一回実地実験会では、全員がとても素晴らしい成果を得られた。だからこそこれから先に待ち受ける大戦のために、ルミナリア達にも参加しておいてほしいと考えるミラは、テーブルに日付表を広げた。
「そこには私達も参加させてもらおうか!」
「参加したいです!」
「当然、いいっしょ?」
そんな声と共に会議室の扉がどーんと開かれた。
ソロモンと九賢者が揃う銀卓会議中はスレイマンすらも近寄らない、不可侵の場所となる。ゆえに誰であろうと来るはずもないのだが、彼女達となると話は別だろう。
「ほぅ、それは面白そうじゃな!」
やってきたのは天魔族三人組のアンドロメダとカシオペヤ、そしてペネロペ。ミラ達にとっても興味深い、神代の魔法を識る者達だった。
彼女達もまた、決戦に備えて出来る限りの事をしておきたいそうだ。
前回入手に至った黒い液体の研究も進んだため、その対応策になる魔法のテスト。封印した主因子を解析して得られたデータを活用した魔法のテストなどだ。
魔王の拠点に総攻撃を仕掛けた結果、得られた成果は絶大だった。来たるべき戦いの備えとなる情報が目白押しである。
アンドロメダ達は、魔物を統べる神の影響を受けた改造魔物達を相手に、その情報から構築した魔法がどのような影響を与えるのか確認してみたいという。
「上手くいけば、敵の能力を制限したり抑制したり出来るはずです」
それらの試みが成功したらどうなるのかについて、カシオペヤはとても簡潔に語った。
魔属性を増幅し、悪魔を変貌させてしまう黒い液体。その効果は、悪魔が持つ力を増幅し歪めてしまうもの。その成分を分析し調整する事で、今度は真逆に作用する物質を生み出せる可能性が出てきたそうだ。
「各国の犠牲も、かなり抑えられるはずだからね。私はこれに注力する事にしたよ」
黒い液体をメインに研究するのは、アンドロメダだ。未来のためとはいえ、これから待ち受けるのは大陸全土を巻き込んだ大戦だ。当然、犠牲になる者も少なくないだろう。
研究がうまくいけば、魔物や魔獣が持つ魔属性まで抑制出来る可能性がある。
決戦当日は、魔物を統べる神の力によって魔物や魔獣のスタンピードが大陸全土で発生するわけだが、これらの勢いを削ぎ弱体化を図れるとしたら、是が非でも実現したいところだ。
ゆえに彼女は、少しでも犠牲者を減らせるように尽力するつもりらしい。
「主因子の方も、かなーり興味深いよね。これ、結構使えそうかも」
得意げに微笑みながら小瓶を手にしているのはペネロペだ。
前回の戦いで採取出来た主因子からも、決戦時に役立ちそうなデータが取れたそうだ。
何でも魔物を統べる神が使う力の仕組みなどを一部ながら知る事が出来たらしい。これを更に研究発展させていけば、幾らかの能力を封じてしまう方法まで発見出来るかもしれないという。
「それと魔王が秘密裏に画策していた、魔物を統べる神の乗っ取り作戦についてですが。こちらは浄化の完了した悪魔さん達の協力もあって、そろそろ秘密の隠れ家も見つけられそうです。もしもその方法が有効的な手段であった場合、敵の脆弱性などが見つかるかもしれませんね」
傘下であった悪魔達にも秘密にされていた、魔王の真の狙い。今思えば、時々不審な行動や言動などがあったと悪魔達が覚えていた。
それらの情報を基に、ペネロペの組織のメンバーが魔王の真の研究所を探しているという。今は候補地も随分と絞れてきたため、発見まではもう少しだそうだ。
「確実な勝利に向けて、着実に進んでおるな」
今のところ全てが順調だ。
骸の消滅によって大幅な弱体化に成功。魔王勢力の討伐で後顧の憂いは断った。そして三神教会を通じて大陸全土の気持ちも纏まり始めている。
冒険者総合組合の方でも、各国の防衛のために動いていた。軍の防衛力に応じて冒険者を戦力として派遣する事になったのだ。戦力の乏しい小国などには特に名のある冒険者が集うわけだ。住民達も歓迎ムードらしい。
そして何より、決戦に参加するメンバーも更に実力をつけている。ミラ達は元より、名も無き四十八将軍や十二使徒の他、各地から名だたる猛者が集結する手筈だ。
敵の力を削ぎながら、自軍はまだまだ増強されていく。既に勝利は確実だと思えるくらいに基盤は整っていた。
「でも油断は禁物だからね」
この調子ならば、きっと勝てる。そうミラがどこか得意げに笑っていたところ、カグラがぴしゃりと言い放つ。
自信を持つのも大切だが、それが行き過ぎて慢心にならないようにと続けるカグラは、特にしでかしそうなミラとルミナリア、そしてフローネを睨みつけた。
「当然じゃろう」
「もちろん、わかっているって」
「心配ないない」
そんな事はあり得ないと、三人は自信満々に笑い飛ばす。そしてそんな三人を見やりながら、ソロモンとカグラにヴァレンティンは、どうしようもないと苦笑するのだった。
どうにかこうにか予定を合わせて、やってきた神々の実験場。
今回の参加メンバーは、なかなかに多い。ミラとルミナリア、アルテシアにラストラーダ、ヴァレンティン。そしてメイリンとフローネ、アンドロメダにカシオペヤ、そしてペネロペ、ついでにダンタリオンだ。
「思った以上にあっさり決まったのぅ」
今回は実験対象となる改造魔物や魔獣の多い地帯に拠点を構えた。ただ防壁係のソウルハウルがいないため、屋敷精霊は地下の隠密仕様だ。
普段の屋敷精霊とは違うためスペースも幾らか狭く、生活用設備以外は大部屋が一つと小部屋が一つになっている。
ともなればこれだけの人数だ。部屋割りなどが難しくなりそうだが、これが特に問題なくあっという間に決着した。
「まあ、こんな感じだな!」
「無難で一番いいと思いますよ」
小部屋にラストラーダとヴァレンティン、ダンタリオン。残りは全員大部屋となった。
ミラとルミナリアについて気にする者がいなかった結果だ。天魔族の三人は、むしろ男がいても構わないといった態度であり、メイリンとアルテシアは気にしないタイプ。なおフローネについては、今回もワントソ君を犠牲にして黙らせた次第だ。
そんなこんなで、実にわかりやすい分け方となった。
「出来れば君主様と共に……」
しかしダンタリオンだけは不服そうだ。この生活にてミラの手となり足となり椅子となりベッドになるつもりだったと理想を掲げた彼は「是非、ご再考を」と訴えたが、ミラはこれを微塵の躊躇いもなく却下した。
「大人数で寝泊まりするのって、なんだかワクワクしますね」
そんな無邪気な感想を口にするのはカシオペヤだ。
普段彼女が滞在している日之本委員会の研究所では、多くの者達が暮らしている。ただ全員に寝床があるため、就寝時間になればいつも一人だ。
しかも彼女は、誰もいない黄金都市で何年も眠り続けていた。
だからこそいつもと違う環境に、少し高揚しているようだ。ミラが就寝時のベッドの配置を決めているのを見て、真ん中がいいと主張する。
「では私は、その隣で」
するりと音もなくミラの隣にやってきてそう告げたのはアルテシアだった。
どうやら、子供のようにはしゃぐカシオペヤの姿に母性が溢れたようだ。それはもう慈愛に満ちた微笑みを浮かべながらカシオペヤを見つめていた。
「う、うむ。承知した」
実際の年齢的にはカシオペヤの方がずっと上であるが、現状を見る限り見た目通りの少女に見えてしまうのは仕方がないのだろうか。
なお、カシオペヤに向けられたアンドロメダとペネロペの表情も姉色に染まっていたので、やはり仕方がないのかもしれない。
第二回、神々の実験場実地実験会は、これといって大きな問題も起こらず順調に進んだ。
各々が好き勝手に試した一週間と、改造魔獣を相手に合同で実験した一週間。それぞれが確かな手応えと成果を得られたのだろう。憂いなく次の段階に進めると、一様に笑顔である。
(これで一先ず、実戦投入も可能じゃろう)
ミラもまた、ガーディアンの大きな成長と精霊仙術の進展具合にほくほく顔だ。改造魔物や魔獣を相手に十分通じるようになった今、足手まといにはならないはずだ。
とはいえ、まだまだ成長途中。そして皆も、試したい事は山盛りのようだ。
アルカイト城に戻って来てから直ぐに会議が開かれ、三回目の日程も決められた。
「ああ、そういえば。二日ほど前に日之本委員会から連絡が来たんだ。何でも決戦の時には、いざという時のために備えて安全装置のある聖域に防衛部隊を置きたいんだって。それで君には、そのための挨拶に同行して欲しいってさ」
会議が終わったところで、ソロモンがそんな言葉を口にした。
聖域に設置する安全装置は、魔物を統べる神を完全に消滅させるための神器を使うのに極めて重要な役割を持つ。
だからこそ万が一にも何かがあってはいけないと、日之本委員会では安全装置を護る専門の部隊をそれぞれに派遣する事を決定したそうだ。
設置場所である四ヶ所にはミラが契約する召喚仲間の他、聖域に身を寄せる動物に聖獣、霊獣なども多い。ゆえに現地の戦力だけでも十分に強力だが、このような形で巻き込み被害を出すわけにはいかないと、皆で話し合って決めたらしい。
そして当日に驚かせないよう、また協力出来るよう、現地のもの達にしっかりと挨拶をしておきたいそうだ。
「ふむ。そういう事ならば、よいぞ」
大切な聖域を護ってくれるというのなら特に断る理由もない。何より、神器を使うのはミラ自身だ。すなわち、自分の安全のために動いてくれるというのなら、むしろ進んで協力するような事情であろう。
「うんうん、そうだよね。という事で、あっちはもうグリムダート北東の聖域に向かっているよ。現場近くにある川で合流する事になっているからよろしくね」
ミラが承知するのも当然と予想していたようだ。実験から戻ったら直ぐに向かわせると約束していたらしい。
ゆえにソロモンは、このままいってらっしゃいとベランダの方を示しながら手を振ってみせた。
会議室のベランダは、屋外パーティでも開けるくらいに広々としている。そのためガルーダワゴンの発着も可能であり、今すぐ飛び立てるのだ。
「お主という奴は……」
確かにその通りだが、どうにも悔しい。そんな不満をその顔にありありと浮かべながらも、ミラは仕方がないと立ち上がる。
「ふーん、聖域に挨拶回りか。それって大事な大事な安全装置だし、だったら強力な結界とかもあった方がいいと思うのよ。なら私もちょっと手伝えるけど」
向こうが既に動いているのなら、直ぐに出発するのがいい。と、ミラがベランダに向かったところだ。不意にカグラがそんな事を言いながら歩み寄ってきた。
万が一のために備えるのは大切だと鷹揚に頷きつつ、だからこそ己の術が大いに役立つはずだと、それはもう自信満々に胸を張っている。
「いや、しかしじゃな……」
彼女の実力からして、その申し出は理に適っていた。防衛部隊のみならずカグラの結界まで加われば、聖域の安全性は飛躍的に上昇するだろう。
だからこそ断る理由などないのだが、ミラはこれを直ぐ受け入れる事が出来なかった。
なぜなら、安全装置を設置している場所にケット・シーの村も入っているからだ。
(どうする……わしと聖域の安全を考えるのなら、むしろお願いしたいくらいじゃが。あの場所を知られてしまったら、長閑な村の平和が──)
もしもカグラに知られたら、ケット・シーの村の穏やかな日常は消えてなくなるだろう。日々襲撃を受ける事になり、多くのケット・シー達が捕らえられる事態になり兼ねない。
そうしたらどうなってしまうのか。
度を越えたカグラの猫愛である。その手によって、骨抜きになるまで可愛がられる事になるだろう。
きっとケット・シー達は、これまでの常識を一変させるほどの贅沢を覚えてしまうはずだ。カグラに容赦はない。極上の品々で、ケット・シー達を虜にしてしまうのは火を見るよりも明らか。
平和に慎ましく無邪気に平穏な日々を送るケット・シー達が、それを味わってしまったらどのように変わってしまうのか。贅を覚えて堕落してしまう事だって考えられる。
ゆえにカグラの愛は、劇毒にもなり兼ねない。
「なに? 私の結界じゃ不満だって言うの?」
ミラが答えあぐねていると、カグラが眉をしかめながら迫ってきた。そして懐から仄かに光る式符を取り出しては、それを見せつけるようにミラの目の前で行ったり来たりさせる。
「あーあ、折角とっておきの式符を使おうと思ったのになぁ」
「むぅ……」
カグラの言葉は事実だ。その式符は結界術において最も高価で強力な触媒であり、それによって構築された結界は、今後も数百年と聖域を護り続けてくれる事になるはずだ。
つまり決戦が終わってからも仲間達の生活が危険から護られるわけだ。
なんと大盤振る舞いな提案であろう。
「──わかった。よいじゃろう」
今回協力してくれた聖域の仲間達のためを思えば、カグラの協力を蹴る必要はない。そう結論したミラは、ゆっくりと頷き答える。
「オッケー、そうこなくっちゃ。それじゃあ直ぐに行きましょ」
そんな言葉と共にベランダへと飛び出してくカグラ。そしてミラは、色々と事情を把握しているソロモンの『どうするつもり?』といった顔に苦笑で答えるのだった。
なんという事でしょう……。
漫画を買うために長年利用していたお店が、まさかの閉店に!!!!
それはもう、地元にその店が出来てからというものずっと通い続けてきたものです。
漫画は基本的にそこでばかり買っていました。
そして書籍化して自著が発売になってからは、ちょくちょく棚を見ては並んでいるかをチェックしてにまにましたりしていたものです。
そんなお店が、ここにきてまさかの閉店に!!
移転する事もないとの事……。
今後は漫画もネットで買う事になりそうです。
それともむしろこれを機に電子書籍の方の導入を考えるべきですかね……。
電子書籍……。なんか色々と端末があるようですが、実際のところどれを使うのが一番なのかがわからず手を出せていなかったんですよね。
漫画の場合は、どうするのがいいのか……。




