666 拠点構築
コミック版15巻が月末に発売となります。
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六百六十六
到着して即戦闘にならなかったのは、運がよかっただけ。神々の実験場は、どこも安全とは言い切れない場所だ。
ゆえに落ち着いて情報をまとめ研究も出来るような安全地帯の確保もこれからの実験には必要だ。
「とりあえず、この部屋を中心に囲っていくか」
三神いわく、最初に送り込まれたこの場所こそが研究所跡らしい。多くの神々が、この場所で研究し準備を整え方々であれこれやっていたというわけだ。
薄汚れてはいるが、今でも健在なほどに頑強な施設だ。要所要所をゴーレムで塞いでしまえば、十分に安全圏を確保出来そうである。
今いる場所は広々とした部屋の中央。当時のものと思しき古びた設備だ何だが転がっているが、片付けてしまえば大きなスペースを確保出来るだろう。
そして部屋の四方に扉が、というよりは扉跡があるのでそこをバリケードなりゴーレムなりで塞いでしまえば、一先ずは安全といえそうだ。
「おっと、どこへいくつもりじゃ?」
ソウルハウルが作業を開始すると共にカグラも部屋の四隅に結界を張り巡らせ、フローネがそこら中のガラクタを隅の方へと片付けていく中。こっそり外に向かおうとする者が一人いた。
「えっと……うーんっと……そう、ちょっとお手洗いヨ!」
びくりと肩を震わせたメイリンは、そうあまりにもわかりやす過ぎる言い訳を口にした。
まずは拠点設営だというのに、これといってやる事のなかったメイリンだ。だからこそ暇つぶしに抜け駆けしようとしていたが、同じく今は特にやる事のなかったミラに見つかった次第である。
「ほぅ、そうかそうか。ならば、ほれ。直ぐに行ってくるとよいぞ」
フローネが豪快に片付けた事で、広い部屋には大きなスペースが出来ていた。ミラはそこに屋敷精霊を召喚する。
研究室内の大きさと質感に合わせて新規に調整したその外見は、もう屋敷というよりはマンションのそれと同じであった。
床から天井に至るまで、研究室の中央を埋めた屋敷精霊。その存在感といったら、むしろ最初からここにあったかのように自然な仕上がりだ。
だが扉を開けてみれば、ほどよいアンティーク調の空間が広がっている。ミラは入って直ぐ右側がトイレだと言って、さあどうぞと促す。
「ううう……」
誤魔化しに誤魔化しを重ねようというのか。メイリンは、仕方がなさそうにトイレへと向かっていった。そして一分も経たぬうちにトイレから出てくる。
「うん、すっきりすっきりヨ!」
嘘なんてなかったといった態度で戻ってきたメイリン。けれどミラは確証を得たといった顔で、彼女の肩にそっと手を置き引き留める。
「おっと、メイリンや。嘘はいかんのぅ。そもそも入って水を流しただけで用を足しておらんじゃろう? 何といってもこの屋敷精霊は全てがわしの管理下にある。だからのぅ、処理状況から全て丸わかりなのじゃよ!」
トイレの処理状況に、水以外の物質は含まれていなかった。つまりちょっとお手洗いなんて言ったメイリンの言葉は嘘だったと証明されたわけだ。
だからこそミラは、その動かぬ証拠を突きつけながら鬼の首でも獲ったかのようにふんぞり返る。
「う……ずるいネ! 来る前にお手洗いも済ませてきたからまだ出ないヨー!」
嘘であったら直ぐにバレるトイレだった。そんなものがあるなんて反則だと文句を言うメイリンは、ついでに嘘だったという事までも勝手に自供する。
「ほれみろ、やっぱりじゃ。一人で抜け駆けしようなどと、百年早いわ!」
直ぐに行きたいところを我慢してまで、大事な拠点の準備をしているのだ。先に楽しもう──実験しようなんて、それは筋が通らないと勝手な理論で論破する。
と、そうしてミラが得意げに笑っていたところ──。
「ねぇ、ちょっとおじいちゃん。今、トイレが何て言ったのかな? その部分について詳しく聞かせてくれる?」
気づけばカグラが鬼の形相をして背後に佇んでいた。
「な、何事じゃ!? 何故、そんな顔でわしを──……!?」
振り返ると共に感じ取った憤怒の圧に思わず後ずさったミラは、けれど何がどうしてカグラがこんな状態になっているのかと疑問を抱く。
しかし、その数瞬後だ。カグラが言葉にした『トイレ』という部分について考えてみれば、その答えに行き着くのは簡単であった。
「ねぇ、ほら。詳しく聞かせてよ」
カグラにしっかり捕まえられたミラは、そのままトイレに引きずり込まれた。そして再び、聞き捨てならない事を言っていなかったかと追及される。
そう、簡単な話である。屋敷精霊のトイレを使ったら、家主であるミラが使用状況を詳細に知る事が出来る仕組みというのが問題なのだ。
「しかし、あれじゃよ。そんな事も出来るというだけでのぅ。そもそもこれを使ったのは今回が初めてじゃ! 後にも先にも、これで何やらこうやらなんて考えた事もないぞ!」
ミラにしてみればメイリンの嘘を暴くためだけのカードであったが、ちょっと考えてみれば非常にプライベートな部分であると直ぐわかる。
トイレ事情という赤裸々な秘密が全て筒抜けなんて、カグラでなくともいい気はしないだろう。そして今回はカグラだからこそ余計に厄介でもあった。
そのためミラは誠心誠意といった顔つきで、あまりにもわかりやすいメイリンの嘘だったからこそ使っただけだと必死で弁明した。
「それと、まあ、あれじゃ。流石にそこまで変態ではないぞ?」
更に追加して、むしろそこを疑われる方が心外だと主張するミラ。もはやスケベ心を偽る気はないが、そんな領域にまでは踏み込んではいないと潔白を訴える。
「……もしそういう事に使ったりしたら、マリアナさんに全て伝えるからね。この事も、これまでの事も全部」
ミラがまだそこまでの域に立ち入ってはいないと信じてくれたようだ。一先ず怒りを収めたカグラだが、けれどまだ可能性は捨てきれないらしい。いざという時の防止策として、最強のカードを提示してきた。
「いやまて、これまでのとは……どういう事じゃ!?」
女の子のトイレ事情に興味があるなんて吹聴されるわけにはいかないが、同時に飛び出してきたその部分に狼狽えるミラ。
いったいこれまでの事とは、どれまでの事なのか。カグラはどこまで知っているというのか。どこまで把握しているというのか。
何だかんだいってマリアナに告げ口されたくない色々が沢山あったミラは、それは秘密だと微笑むカグラに絶対を誓うのだった。
「まあ、こんな感じで十分じゃろう」
とにもかくにも皆の手際はよく、準備はあっという間に整った。これから数日──いや、数週間にも及ぶかもしれない研究実験のための中心になる拠点が完成したのだ。
神々が利用していたとあってか元々あった研究施設は、そのままでも頑丈な造りだ。その中央の大きな部屋を利用した拠点は、鉄壁さと快適さを併せ持った仕上がりとなった。
部屋の出入り口は、完全武装の超重量級ゴーレムがどっしりと塞いでいるため、魔物や魔獣が侵入する事は不可能。更にはミラ達の声に反応し、出入りも自由だ。
またカグラの魔物除けの結界が拠点をぐるりと覆っているため、よほどの事でもない限り近づいてすらこないだろう。
そして中央には、快適な生活に必要な環境が全て揃った屋敷精霊だ。当然、召喚術によるものであるため防護効果も有効。ゴーレムや結界に加えて二重の護りで安心安全も割り増しである。
「今は三部屋が限界じゃから……まあこっちは我慢してもらうとしようか」
屋敷精霊の調整を終えたミラは、寝室までは完璧に出来なさそうだと諦める。今よりもっと親和性が高まっていけば可能性はあるが、やはり大きさには制限があった。
今のミラが用意出来る広さでは、幾らか広めのリビングと、三畳ほどの部屋二つが限界だった。
そしてミラが考えた部屋割りは、まず家主である自分が一部屋。一人だけ男のソウルハウルに一部屋。そしてカグラとメイリンにフローネはリビングでといった具合だ。
「ああ、わかった」
「とっても快適ヨ!」
ソウルハウルは何も文句はないと頷いた。メイリンもまた修行中は野宿が当たり前だったからか、むしろ上等過ぎるくらいの環境のようだ。リビングのソファーに寝転がっては嬉しそうに笑っていた。
「まあ、しょうがないかな」
なんとなく文句でも言いそうな予感のあったカグラだが、以前にも屋敷精霊に寝泊まりしたからだろう。現状で用意出来る環境の中でもトップクラスである事を理解する彼女は、風呂を見て満足そうだ。
「私も個室がいい」
拠点については一先ず完了となるはずだったその手前で、一人だけ文句を口にする者がいた。
フローネだ。寝る時間になったらリビングにもベッドを三つ並べるため快適度は個室と同等なのだが、それでも彼女は個室じゃないと落ち着かないと駄々をこね始める。
「というてものぅ……」
また面倒な事を言い出したものだと苦笑するミラは、そのままそっとカグラを見やった。
ミラ自身としては、どこであろうが問題はなかった。けれど、おやすみからおはようまで一緒になると、着替えだったり何だったりという時間が重なる事になる。
カグラも幾らか慣れてくれた感があるので、ミラが一緒でもフローネの我がままのためならばと大目にみてくれそうだ。だが扱いは同性とまったく同じというわけではない。だからこそ、自分の身の安全も含めた部屋分けなのだ。
「よし、それではこうしようか──」
今日から二週間ほど過ごす予定のため、途中で面倒事が起きる可能性が日数の分だけ高くなる。不可抗力で覗いてしまうなんて出来事が起きないとも限らないわけだ。
ゆえにミラは、ここで一計を案じる事にした。
「吾輩の手が必要ですワン? 凄いところに行くと聞いていましたワン!」
神々の実験場という特別な場所に行くという事を、どこかしらで聞き及んでいたようだ。そして、そんな凄いところでの活躍を望んでもいたのだろう。ワントソは召喚されると共に好奇心をその目に浮かべていた。
「ワントソくーん!」
「ワワン!?」
だがその刹那、ワントソはフローネにがっしりと捕まっていた。
今はフローネが所有する天空城の森に移ったクー・シーの村。安全安心快適と全てが揃った理想郷のような場所ではあるが、そこには彼らにとって唯一の問題が存在していた。
言わずもがな、フローネという存在だ。毎日のように入り浸っては、多くのクー・シー達を捕まえ可愛がるのである。
それは被害というほどではないものの、様々な仕事や予定といったものが狂いに狂いまくる問題となっていた。
その後、話し合いの末にフローネもワントソ達の事情を理解してクー・シーの村への出入りを控えるようになったわけだが、当然それだけフラストレーションも高まっていくのは道理。
だからこそ余計にフローネの愛情表現は情熱に満ちていた。
「場所も場所じゃからのぅ。この実験場の調査などを担当してもらうわけじゃが、その間は臨機応変に動けるように、ワントソ君にもここに滞在してもらおうと思っておる。このリビングを寝床にしてのぅ」
「ここでいい、ここがいい!」
個室を希望していたはずのフローネは、むしろ断固としてリビングは譲らないと座り込んだ。そしてワントソの耳元で「一緒に寝ようねー」と囁きながら近年まれにみるほどの微笑みを浮かべていた。
(すまん、ワントソ。今度、日之本委員会産の特選牛をたらふく食べさせてやるのでな)
これでもうフローネから文句が出る事はない。そう確信を得たミラは、一先ずこれで落着だと肩を撫で下ろす。
と、そうして一息ついた次の瞬間だった。ふと顔を上げると、カグラが真剣な眼差しで挙手していた。
「……はい、カグラ君」
その目力に気圧されつつ何となく予想しやすい予感を覚えながらも、ミラは彼女の意見を汲み取る姿勢をみせる。
「私も個室がいいです」
予想した通りの意を含んだ言葉がカグラの口から発せられた。どこか淡々とした調子ではあるが、その目にその態度、何よりその気迫には言葉に出来ぬ圧と欲望に満ちた畏怖が滲み出ていた。
ごねれば与えられる。その前例を示してしまったのだから、似たような資質を持つカグラもまたそれを望むのは必然だ。
「特級調査隊、いよいよ出撃ですにゃー!」
ここで僅かでも否定の意を表そうものならカグラに何をされるかわかったものではない。ゆえにミラは、それに言葉ではなく行動で返した。
「団員一号くーん!」
「にゃんとー!?」
未知の冒険が待っていると、やる気に満ちていた団員一号。けれど直後に身柄を拘束され、あっという間にカグラの胸の中だ。
フローネとは違い、まだ団員一号が暮らすケット・シーの村までは辿り着けていないカグラである。だからこそ、積もりに積もった情念は桁違いだ。そのままソファーにダイブすると、容赦なく可愛がり始めた。
「にゃ……にゃふ……にゃふふふふっ」
初めのうちは戸惑いと共に抵抗をみせていた団員一号だったが、猫好きカグラの猫可愛がりテクニックは達人級だ。みるみるうちに篭絡されていった。
「さて、団員一号にも調査を担当してもらうわけじゃが、その間は臨機応変に、以下略じゃ」
「はーい、ここでいいーでーす!」
望み通りになったからか喜んで答えたカグラは、団員一号の耳元で「寝る時も一緒だからねー」と囁きながら存分に撫で回していた。
先日、従弟の結婚式がありました!
思えば結婚式に出席するのは初めて……。実に貴重な体験になりました!
と、その際に出た食事はコース料理!
そう、すき焼きと合わせて、もう今年に入ってから二度目のコース料理です!!!
そして食べながらに思いました。やっぱりコース料理ってスペシャルなチートデイ感があるよね、と。
そこで考えました。チートデイにコース料理を再現してみるのはどうかと!!
そして、そのためのプランは既に頭の中に浮かんでおります。
ということで今週は、コースチートデイの開幕だ!!




