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662 新巡礼地

六百六十二



「思った以上の変わりようじゃな……」


 岩山に並ぶ遺跡の更に奥の門を抜けたところに、幻影回廊は存在している。

 そして今、入り口に到着したミラは、その場の状況を前にこれほどとはと苦笑した。

 百を超える回廊が層となって岩山を上下に貫くという構造をしている幻影回廊。その出入口となる一層目なのだが、そこが人気の観光スポットと化していた。

 精霊王効果というべきか。ぐるりと続く回廊には、多くの露店の他、診療所や鍛冶屋のみならず宿泊施設までも軒を連ねていたのだ。


「精霊王かぁ。どんな感じなんだろうな」


「そりゃあもう、なんかこう、でっかいんじゃないか?」


 しかも聖職者のみならず、冒険者の姿も多く見受けられた。ほとんどは巡礼者の護衛役のようだが、中には精霊王の噂に興味を引かれたという者もいるようだ。

 精霊というのは、人間のよき隣人として多くの者達に親しまれている。だからこそ、その王にもなると聖職者のみならず万人の関心を集めるのだろう。


「こうして見ると凄いところだよな、ここ」


「遠い場所だから来た事なかったけど、こりゃあ圧巻だな」


 無数の回廊が上下に延々と連なる光景といったら、彼らの言う通りである。何か凄いものがありそう、何か凄いものがいそうという予感をひしひしと感じさせる迫力があった。

 だからこそもあってか、観光気分が強めな者も多い。


「賑やかじゃのぅ」


 ミラが目指すのは、そんな幻影回廊の最奥だ。賑わう者達を尻目にペガサスに跨ると、そのまま颯爽と中央へ飛び立ち、そのまま一気に順路を突き進んでいった。

 幻影回廊の観光スポット化は、その道中にまで及んでいた。

 幻影と名の付く通り、この場所は迷わせるための仕掛けが多く、闇雲に進むだけでは決して古代環門にまでたどり着けないように造られている。

 だが今はどうだ。その要所要所に正解の道順を示す案内板が立てられていた。本来なら辿り着くのが困難な古代環門までの快適な道順が誰でもわかりやすいように記されているのだ。

 それゆえ順路通りに進むミラは、その途中途中で多くの者達を抜き去っていく。

 その際、羨む者もいれば、ずるいと文句を垂れる者もいた。それでいて中には、すれ違う一瞬で精霊女王ではないかと看破した者までいたのだから驚きだ。

 実に多くの者達が、この巡礼路と化した道を歩んでいる。


「ここもしっかり整っておるのじゃな」


 そうこうしながらも幻影回廊の最奥に到着したミラは、ここもまたこんな事になっているのかと笑う。

 古代環門の入り口の手前。幻影回廊の通路を進んだ先にあるここは天然の洞窟のようになっており、なかなかに広々とした場所だ。

 ただ以前ならばそのままの天然洞窟だったのだが、巡礼路の終点となった今は大きく様変わりしていた。

 この場の雰囲気を一言で表すとしたら、待合室だろうか。特に何もなかったはずのそこには、休憩用の椅子が幾つも並べられてあった。そしてここには、その椅子に座って寛ぐ聖職者と冒険者らの姿も幾つか見て取れた。


「これまた律儀じゃのぅ」


 なぜ、ここがこんな事になっているのか。と、疑問を浮かべたミラだったが、その答えは数秒後に判明する。洞窟の真ん中に目立つよう立ててあった看板に、参拝のルールやら時間というものが記されていたからだ。

 看板いわく、精霊王の手を煩わせないために。また、より祈りが届きやすくという意味も込めて、参拝時間は一日に一回のみ。午後三時にというのが決まりのようだ。

 つまり、どのタイミングで到着しても、その時間になるまではここで待機するというわけだ。


『どうやら三時頃に来ておるようじゃぞ』


『そうだったのか……。よし、そういう事ならば今度は、その時間に様子を見てみようか』


 ここの賑やかさと看板を見る限り、ほぼ毎日、参拝されているようだ。

 だが精霊ネットワークが出来た事もあってか、毎日そちらにかまけてばかりだったゆえ、精霊王は参拝者を一切把握していなかった。

 祭壇にも先ほど気づいたくらいだ。けれどこうして知った今、そういう事ならこれからは日課にしてみようと精霊王は笑って答えた。




 三神教徒の配慮や真面目さというものに感心しながら、古代環門へと向かうミラ。

 するとその時──。


「あ、ちょっと待ってくれ。そこに書いてあったのは読まなかったかい?」


 古代環門に続く道の直前。そこに座していた、ちょっと身なりの良い男が慌てたように立ち上がった。その態度と言葉から、今は参拝の時間ではないと忠告しているのがわかる。


「ああ、わしは大丈夫じゃよ。参拝しに来たのではないからのぅ」


 直ぐにそれを察したミラは、問題ないと笑って答えた。看板に書いてあるのは、参拝のためのルールだ。ゆえに参拝ではなく精霊王に会いに来ただけのミラは、そのルールに自分は該当しないと自信を持って胸を張る。


「……え? いやいや参拝じゃなければ、こんなところに来るはずがないと思うのだが」


 男は僅かに考える事もなく、ひたすら疑問を浮かべながらそう言い切った。

 とはいえ、それも当然の反応だ。この先には冒険者が求めるような宝はなく、討伐するべき魔物もいない。ただ古代環門があるだけだ。

 事実、今はこれほどまでの人が集まっているが、それ以前はここまで来る者などほとんどいなった場所だ。ゆえに参拝でなければ何だというのか。


「もしかして君は、考古学者……だったり?」


 いるとしたら、そんな酔狂な連中くらいのものだ。けれど、どこをどう見ても考古学者には見えないミラである。もはや理解も及ばない男は、ますます疑問を募らせていった。


「彼女はきっと、精霊王様に用事があってきたのでしょう」


 男とそんなやり取りをしていたところだ。ベンチに座っていた一人が立ち上がり、そんな言葉と共に歩み寄ってきた。

 服装を見れば、その者もまた聖職者であるとわかる。


「精霊王様に用事、ですか?」


 それは参拝という意味ではないのか。違うというのなら、それこそ精霊王に会いに来たとでもいうのか。そんな事があり得るのかと、男は続けて戸惑いを浮かべる。


「ええ、よく御覧なさい。この御方こそが、精霊女王様その人ですよ。ここまでいらしたという事は、つまり直接会う必要のある用事が出来たという事でしょう」


 その聖職者は、状況からそこまでを察したようだ。ずばりと言い切った彼は、そうでしょうと言わんばかりに微笑みながらミラに視線を送る。


「え? 精霊女王!?」


 彼の言葉に驚き声を上げた男は、慌ててミラを見やった。するとそれに呼応するかのように、この場にいた者達の注目が一手に集まる。


「ん、お主は確かどこかで……」


 ここまで的確に察してくれる彼は何者か。聖職者の視線をじっと見返したミラは、思えばどこか見覚えがあるような気がすると唸る。


「もしや記憶の片隅に残しておいてくださいましたか。以前、『銀天のエウロス』を寄付していただいた時にお会いして以来でございます」


「……おお! そうじゃった。道理で見覚えがあったはずじゃ!」


 彼の言葉で、当時の記憶が蘇る。そう、そこにいた聖職者の彼は、怪盗ファジーダイスから取り戻した宝を教会に寄付した時に立ち会ってくれた者。三神教会にて特別な効果を持つ銀のメダルを授与してくれた大司教だったのだ。

 あの時に貰った銀のメダルは、聖秘牢に入ったりだなんだと役に立った。色々と好印象のある聖職者だったゆえ覚えがあるのも当然だ。ミラはこんなところで会えるとはと喜びを露わにした。


「と、思えばこんなところで久しぶりというのも何だか驚きじゃな。以前に精霊王殿の拝謁であちらこちらに出向いておったから、その時に会えそうじゃったものを」


 以前に三神国巡りをした際、拝謁を望む多くの聖職者達が三神国に集まったものだ。

 彼ほどの聖職者ならば十分に素養もあっただろうし、彼ほどの信心ならばその場にいてもおかしくはなかった。


「ええ、それはもう私も是非参加したかったのですが。その頃は大陸各地の教会を巡り、運営状況の確認などといった業務で立て込んでおりまして。まったく機会が合わず……」


 彼は教会の中でも重要な調整役という立場にあるようだ。普段からあっちこっちと移動が多く、だからこそ最後まで拝謁に参加する事が出来なかったそうだ。


「ですが、また次回がありますからね──」


 そうがっくり肩を落とした大司教は、だからこそ、ここに来たのだと笑ってみせた。

 三神国での拝謁が終わった後、次からの予定が発表された。そしてその際には条件などが設けられる事となった。

 大司教は、次に開催されるそれに参列出来るようにという合格祈願も兼ねて、今回ここにやってきたそうだ。


「そういう事じゃったか」


 彼に限らず精霊王との拝謁を望む三神教信徒は、まだまだ大勢いる。けれど拝謁の儀は、ミラのみならず精霊王にも手間をかけるという事で次回からは三神教会の行事という形で執り行われる事に決定した。

 しかも参加するためには、厳しい試験を突破しなければいけないときたものだ。


「まあお主ならば、きっと合格出来るじゃろう。健闘を祈っておるぞ」


 そう言ってミラは右手を差し出した。試験を突破するために必要なのは、三神教信徒としての誠実さだ。その点でいえば、彼は既にクリアしていると言ってもいいだろう。


「ありがとうございます、ミラ様。これほど心強い言葉もありませんな!」


 精霊女王の激励ともなれば、それだけでご利益がありそうだと笑う大司教は嬉しそうに握手を返す。

 と、その直後だ──。


『あの日の事は、よく覚えている。貴殿の心意気と、その思い。我も応援させてもらおう』


 そんな言葉と共に精霊王の力がミラの手から大司教の全身へと巡っていった。


「なん、と……これは」


 そう、それはまごう事なき拝謁の儀であった。彼については既に把握している。だからこそ精霊王は、ここで出会ったのも何かの縁だといって、特別に取り計らったのだ。


『ちなみに、この事は秘密だ』


『秘密じゃからな』


 とはいえ今回のこれは、彼だけの特別待遇である。だからこそ他に知られると面倒そうなためにミラ達は内緒だと示す。そして大司教は、これに頷き承知の意を返したのだった。





 大司教の口添えもあり精霊女王だと認知された事で、精霊王に会いに来たという言葉も信じてもらえたようだ。幾らか騒がしくなったものの全員の同意も得られ、参拝時間外でも古代環門までやってくる事が出来た。


「これは確かに、とんでもなく立派じゃのぅ」


 古代環門に造られた祭壇を見上げるミラは、これは想像以上の出来栄えだと呆れ気味に笑った。

 教会の礼拝堂などで見かけるようなタイプの祭壇を予想していたミラ。けれどそこにあったのは、石像や彫刻が施され立派なステンドグラスや壁画までも立てかけられた大聖堂規模の祭壇であった。

 それこそ大聖堂のそれをここに移設したかのような出来栄えだ。


『完成品を運び込んだのか、それともここで仕上げたのか。いやはや人間の行動力というのは凄まじいものだな。とはいえ、ここから何が出来るものか……』


 一目見ただけで相当に気合を入れて造り上げたとわかる祭壇だ。嬉しそうな精霊王は、けれど同時に信者達の期待もそこから感じ取ったようだ。はたして、どう応えたものだろうかと苦笑していた。

 そうして、そんな気合の入った祭壇を眺めつつ、精霊宮殿に連れて行ってもらったところ──。


「ここも以前に来た時とは随分と変わっておるようじゃが、これは……」


 視界一杯に広がる幻想的な風景に感嘆したのも束の間。ミラは前回に来た時と比べ賑やかに──というより散らばっているように見える周囲を一望しながら眉根を寄せた。

 しかも少しどころではない。場所によっては足の踏み場もないくらいの惨状だ。


「いや、まあ、あれなのだよ。色々と試しているうちに増えてしまってな」


 そう言って笑う精霊王の言い訳は、こうだ。ミラと出会い精霊ネットワークが構築された結果、この精霊宮殿にいながらも出来る事が沢山増えた。

 その一つとして、日夜励んでいるのが数々の知識を組み合わせた様々な実験だ。つまりそこらに転がっているのは、そういった実験によって生まれた残骸だ何だというわけらしい。


「ふむ……そういう事ならばこうなるのも仕方がないのぅ!」


 廃棄物の山を見てみれば、確かにその通り。そこにはいつぞやに見た依代のようなものの出来損ないも積み上げられていた。

 実験に失敗はつきものだ。そしてそれだけの廃棄物が出るのも当然というもの。だからこそミラは、こうなってしまうのもよくわかると精霊宮殿の惨状を温かく受け止める。


「あ、ミラさんにも片づけを手伝ってもらいたかったのに。もう本当に二人ともしょうがないんだから……」


 それは研究実験あるあるだと、ミラと精霊王が意気投合していたところだ。ため息交じりの声がしたと思ったら廃棄の山の片隅にあった人形が、ひょっこり起き上がったではないか。

 人の形を模した粘土細工のようなそれは、短い脚でひょっこりひょっこりと歩いてくる。


「その声は、もしやマーテル殿か?」


「ええ、そうよ。でもこの通り、片付けるには不向きだからミラさんが頼りだったのに。まったくもう」


 全体的にのっぺりとした粘土人形だが、よく見ると頭に花の飾りがついていた。

 それもまた、依代研究と実験によって出来上がったものだ。調整に調整を重ねた末、精霊ネットワークを通じて接続出来るようになった第一号だという。


「片付けるというてものぅ……」


 精霊王は、かなり熱心に研究と実験を繰り返していたようだ。この場にある失敗作の数といったら、それはもう一朝一夕ではどうにもならないとわかるほどの量である。


「いっそ片づけが出来るくらいの依代を作ってしまった方が早いのではないじゃろうか」


 幾らマーテルの頼みとはいえ、これはご遠慮したいと考えたミラは、もう一つの妙案を提示した。片付けるのに不向きならば、片付けるのに有利なものに作り替えてしまえばいいと。


「おお、確かに。ミラ殿の言う通りだな」


 その手があったと頷いた精霊王は、早速とばかりにどんな依代にするのがいいかと設計し始めた。


「いえ、シン様自身で片付けるのが一番早いのですけどねぇ」


 もはや最初から他人任せな精霊王。その態度にため息を零すマーテルは、刺し穿つような言葉と視線で精霊王を睨みつける。


「──さて、ミラ殿。早速、加護の引き上げを始めようか!」


 ちくちくと突き刺さるそれに耐えられなくなったようだ。ミラをひょいと拾い上げた精霊王は、そのまま精霊宮殿の奥へと逃げるように走り去っていった。


「まったくもう、シン様は」


 その後ろ姿を見送るマーテルは、呆れつつも、どこか微笑ましそうに笑っていた。











最近、フルーツゼリーの美味しさに気付きました。

ああいうカップタイプのデザート系を買うテンションの時は


やっぱりプリンだろ!! って感じだったのですが、ひょんな事からみかんゼリーを買ったところ……


美味しい!!

と、それはもう感動を覚えたものです。


しかも、リッチな方のゼリーです。三つ入りではなく、マルハニチロの一つどーん! って奴の方です。果実入りです!


やっぱりみかんが鉄板ですね!

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― 新着の感想 ―
私も以前はコンビニスイーツばっかり買っていましたが、健康診断で引っかかり以降はゼロカロリーのセブンのゼリーに変えました。
精霊王様、片付けが出来ないヒトだったのかΣ(´∀`;) 果肉入りのゼリーは満足感がありますよね(^o^) 体調不良で寝込んだ時、心配してくれたお義母さんがよく買ってきてくれるんですよね(*^_^*…
九賢者も片付けしないタイプが多そうだしな。
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