659 未来への序章
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六百五十九
怒涛の撮影会を終えた次の日の朝の事。思う存分に遊びはしゃいだからか、今日のルナはのんびりモードのようだ。朝からごろごろ寛いでいた。
対してミラとマリアナは、現像された写真の中から本戦に提出する最高の一枚を厳選するという作業に没頭していた。
昨日の夜、シルバーホーンに帰って直ぐにフィルムをクレオスに託したわけだが、ミラとマリアナの要望もあってか一晩で仕上げてくれた。
人と光の精霊の間に生まれたクレオスは、どこでも暗室に出来るという強みがあった。だからこそ、何かの役に立つかもしれないと写真の現像技術も学んでいたそうだ。
なお、朝方まで作業していた彼は、ちょっと寝てから学園に行った。今日一日十分な仕事が出来るかどうかは、彼次第である。
「これはよいのぅ。お、こっちも実に愛らしい。やはりルナが一番じゃな!」
「こちらも、それにこちらもよく撮れています。もうどこに出しても優勝ですね!」
写真だけで優勝出来るのではないかと盛り上がる二人は、だからこそ悩みに悩んでいた。どの写真も一番過ぎて、一枚に絞れないからだ。
いっその事、全部送ってしまおうかなどとも考えたが思い直す。そんな事をしてレギュレーション違反で失格にでもなったら目も当てられないからだ。
ゆえにミラとマリアナは、全ての写真を並べての写真トーナメントを開催していた。
「こっち……いや、こっちじゃろうか」
「このルナも最高です」
なお始めてからそう経たぬうちに、その方法の欠点が浮き彫りになった。審査員が二人であるため、票が割れると勝敗がつかないのだ。
その事実に直面し、マリアナが通信装置でどこかしらに連絡をしてから数分後。
「急に何事かと思ったら、何をしているのかしら?」
そんな言葉と共にやってきたのは、魔術の塔の補佐官リタリアであった。
しかも更にもう二人が、続けてその後ろからひょっこりと顔を覗かせた。
「あら、なんだか楽しそう」
「まあ、随分と沢山の写真がありますね。もしかして緊急の用件に関係ありますか?」
死霊術の塔の賢者代行であるアマラッテと、補佐官のシャルロッテだ。
この三人が、なぜここに来たのかといえば理由は明白。
「協力をお願いします!」
通信装置では、とても重大で緊急の用事があると連絡していたマリアナは、こうして三人が揃ったところでその詳細を説明する。
すなわち、本戦に送る一番の写真を一緒に選んで欲しいと、鬼気迫るほどの真剣みを帯びながら告げたのだ。
「どこが緊急なのか、理解に苦しむところね」
「マリアナちゃんは、ほんと相変わらずこういうところが……」
とんだ緊急事態があったものだと呆れた様子のアマラッテとシャルロッテ。慌てて来て、また損をしたとため息交じりに苦笑する。ただその目には、迷惑だとかそういった感情はなく、どこか手のかかる妹に向けるそれに近い色が浮かんでいた。
そんな二人の様子からすると、どうやらマリアナと二人の間にはミラもまだ知らない色々な関わりがあるようだ。
「なるほど、由々しき事態ですわね。わかりました、微力ながら協力いたしますわ!」
と、呆れる二人と違いリタリアにとっては、確かに非常事態だったようだ。直ぐ写真に飛びつくと、その目を見開き可愛らしく映ったルナの姿に甘い声を上げながら、是非にと協力を申し出てくれた。
リタリアは、こちら側についた。では二人は如何かと、マリアナが挑戦的な視線を送る。
「まあ、いいけど」
「わざわざここまで来た事ですからね」
アマラッテとシャルロッテは、仕方がないと笑う。そして、やるからには妥協しないと徹底的な姿勢で審査の席についた。
(わしが出かけている時、どんな事をしておるのじゃろうな……)
彼女達の反応から、何となく窺い知れる関係性。補佐官として、また共に暮らす家族としてのマリアナしか知らないなと気づいたミラは、そんな見知らぬ一面を垣間見て興味を抱くのだった。
厳選は夜まで続いた。だが着実にトーナメントは進んでいき、遂に至高の一枚が決定する。
徹底的に拘り抜いたミラとマリアナ。そしてプロフィール用という点も考慮し尽くしたリタリア。何だかんだで最後まで手を抜く事のなかったアマラッテとシャルロッテ。
誰もが納得の一枚は、そうして本戦提出用の書類に封入され、特別審査チームは解散となった。
その後、皆で夕食を楽しみながら、のんびりと語らい合う。それは、ルミナリアやソウルハウルの日常だったり、ミラの知らないマリアナの一面が知れたりした実に有意義な時間であった。
そうして一日も終わり、次の日の朝になったところだ。
「──今日の昼には来るように、との事でした」
早くから通信装置が鳴ったかと思えば、相手はソロモンだった。
いわく、帰国しているのなら早く来て色々聞かせなさい、だそうだ。
「むぅ……もう少しのんびりしていたかったのぅ」
今回のそれは報告のみに留まらず、色々と小難しい話に突入するのは明白だ。ゆえに、もう少しだけマリアナとルナで英気を養っておきたかったところだが、催促されてしまったのなら仕方がない。
そう腹を括ったミラは、それでいてゆっくりと支度を整えた。
「ミラ様、ご一緒してもよろしいですか? あちらに本戦出場用の受付窓口がありますので、昨日完成したこれを提出してきます!」
「ほぅ、そうじゃったか。ならばわしが、ついでに出しておこうか」
「いえ、ミラ様にお手数をおかけするわけには参りません。それとルナをばっちり整えるためにも、あちらにある『ワイルドバディ』で色々と買い揃えておきたいと思っていたところですので」
提出するだけならば、やっておこう。そう返したミラであったが、マリアナは一緒に行くと力強く答えた。
ここシルバーホーンにあるペットショップ『ワイルドバディ』より、やはり首都にある店の方が品揃えも豊富のようだ。本戦のためには全力だと燃えるマリアナの目は、煌々と輝いていた。
「ふむ、ならば一緒に行くとしようか!」
「はい!」
いつもならば一人で行くところだが、今回はガルーダワゴンにマリアナとルナも加わった。
そうしてルナティックレイクに向かう空の旅。そこで交わされる話の内容といったら、何気ない日常と愉快な出来事が大半だ。
最終決戦を控えた今だからこそ、ミラは束の間のそれを存分に堪能し活力へと変えていった。
アルカイト城の敷地にガルーダワゴンが降り立つ。城の者達にしてみると今では見慣れた光景であるが、最近は精霊女王の名の勢いが増してきた事もあり、新米などが窓にへばりついている様子がちらほら窺えた。
「ではミラ様。また後程に」
「うむ……」
そんな中、ガルーダに礼を言って送還したミラは、続くマリアナの言葉に対し名残惜しそうに頷いていた。
一緒に提出に行きたいところだったが、何やら着陸したそこにはスレイマンが、待っていましたといった顔で立っていたからだ。急ぎの時などによく見る、案内役に扮した連行人の佇まいであった。
そうしてマリアナ達と別れたミラは、スレイマンの案内に従い城内を進む。
「む? いつものところではないのじゃな」
アルカイト城内については、もうだいたいの場所を把握しているミラ。だからこそ、いつもソロモンと話している執務室とは違う場所に向かっていると気づく。加えて、ちょくちょく集まる事のある会議室でもない。
ただこれまでの報告に来ただけのつもりだったミラは、どこに連れて行かれるのかと疑問顔だ。
「はい、本日は別の場所となっております」
そう答えたスレイマンは、更に廊下を進み階段を上っていく。
そうしてようやくたどり着いた場所は、アルカイト城の中でも特に機密性の高い場所。
「さあ、ミラ様。既に皆様も集まっておいでです」
「なんという事じゃ……」
そこは城内でもっとも大きな会議室、国家決議場であった。
アルカイト王国において、ソロモンと九賢者とで開かれる銀卓会議は非常に重大であり国家の命運まで左右すると重鎮達に知られているが、実際のところはそうでもない。本当に重大な会議は、この国家決議場にて執り行われる事となっていた。
ゆえに、ここまでの出来事を話しに来ただけのミラは、突然その場に連れてこられて戸惑うばかりだ。
だがそんなミラの様子など意に介さず、スレイマンは国家決議場の扉を開いた。
一歩踏み込めば、これまでとは雰囲気がまるで変った。見回すと、九賢者の面々が居並ぶ他、アルカイト王国の要職に就く者達も勢揃いしているのがわかる。
それぞれの街を治める貴族。アルカイト王国の元帥と軍団長。またそれぞれの部門長などが集結していた。
中にはミラもあった事のある魔導工学技術局長のトーマに加え、今回の件で必要と判断されたのだろう国内の教会からも三名の司教が参列していた。
そして、侍女長のリリィまでいる。まさにアルカイト王国の中枢が勢揃いだ。
「やっと来たね」
扉の先から漂う重圧に押され──というよりは面倒そうな雰囲気だと二の足を踏むミラの背後から、覚えのある声が響く。
悪戯が成功して嬉しそうなその声の主は、やはりソロモンだった。
「お主」
「だって、こういう会議だって言ったら君、色々言い訳して来ないでしょ?」
「ぐぬぅ……」
その通りだった。今はただの冒険者だからと、断る自分の姿が幻視出来る。
けれど、今は状況が状況である。姿を変えて潜んでいるが、本来はアルカイト王国の将軍位。この場に立ち会うのは当然の立場だ。
「まあ、そうじゃが……今回はそうもいかん事くらいはわかっておるぞ」
「なら上出来だ。君はあの席だよ。さあ、座って座って」
ゆえにミラは、ため息交じりに腹を括った。そしてソロモンに促されるままに入場し、その席へと向かう。
ここにいる者達は皆、ミラがどれだけアルカイト王国に貢献してきたかを把握している。ソロモンの密命を受けて奔走していたという事も知っている。そして何よりも、かの精霊王と繋がりがある事もわかっているからこそ、この場に登場したのも理解は出来ていた。
ただミラがその席に向かうのを見て、幾らかのどよめきが起こった。そしてミラがその席に着いた事で、どよめきは静寂に変わり、誰ともなしに顔を見合わせた。
そこは九賢者が居並ぶ席の中央。そう、本来はダンブルフが座る場所であったのだ。
その場所をソロモン王が示し、弟子であるミラが座ったという事実。その意味するところはと、この瞬間に多くの憶測が皆の脳裏を駆け巡っていったわけだ。
「ふむ、これは……」
するとミラはテーブルの上に伏せられていたそれに気づく。そしてそれを、皆に見やすいようにテーブルの上に立ててみせた。
『ダンブルフ代理 見習い』
もしやダンブルフが退任になるのか。その弟子のミラが新たに九賢者となるのか。これまでの実績や実力から十分とする者や、ダンブルフ様の代わりが務まる者などいないと密やかに言葉が交わされる中、全員の視線がテーブルに立てられたそれに集まった。
「今回の件については、彼女もまた問題の中心にいる。そして今後も何かと関係していく事だろう。よって、今は隠居中のダンブルフに代わり、その席を守ってもらう事にした。そしてこれは、九賢者全員も承認済みだ」
ひそひそとざわめくそこへ、ソロモンが有無を言わさぬくらいの圧で、それが決定事項であると告げた。
するとどうだ。ざわめきはぴたりと収まった。誰かは納得したように頷き、誰かはソロモン王がそう言うのならと言葉を呑み込む。
ただ過半数は承知を示したが、幾人かは思うところもあったのだろう。少々、呑み込み切れないといった表情でミラの事を見据えていた。
「さて、始めようか」
思いも様々だが、それはそれ。今必要なのは、国の未来を守るための会議だ。
ソロモンの一声で、その場の空気が一気に切り替わった。アルカイト王国のトップが揃うだけあって、全員が今一番重要な事を理解しているようだ。
「まずはこの先に待ち受ける大戦についてだ──」
今回の会議の議題は、当然ながら最終決戦に向けたものだ。
けれどそれは、魔物を統べる神との戦いそのものではない。その際に大陸全土で発生すると示唆されている、魔物達への対応が中心だ。
魔物を統べる神が復活すると大陸中の魔物や魔獣がその影響を受け、一つの意志に導かれるようにして人里へと押し寄せ無差別に蹂躙する事となる。
精霊王達が言うに、その力を持つからこそ、かの者を『魔物を統べる』と呼称するようになったそうだ。
ゆえに決戦時は、そのための備えも必須。しかも問題は、魔物や魔獣だけではない。魔物を統べる神が呼び出す怪物──特異体もその侵攻に含まれていた。
「どの場所でも激戦が予想されるだろう。よって、まずは国防の要となる九賢者の配置から議論しよう」
魔物を統べる神との戦いにも必要な戦力だが、同時に国防にも必須の戦力だ。だからこそ、その組み分けは極めて重要。
九賢者それぞれの能力と得意分野。そして本人達の意見なども踏まえ議論は白熱し、ここに多くの時間が割かれる事になった。
「まあ、そんな感じだろうな」
「国の事は、ばっちり任せてくれ!」
一番に決定したのは、九賢者の組み分けだ。問題ないとソウルハウルが頷けば、ラストラーダはその使命に燃える。
国防も重大だが、これだけの戦力を有しながら決戦に一人も送らないというわけにもいかない。何より、大陸の未来を左右する重大な一戦だ。
決戦のための戦力と、国防に必要な戦力。この二つのバランスを徹底的に話し合った結果、魔物を統べる神の討伐に参加する者は、ミラ、ソウルハウル、メイリン、カグラ、フローネ。
残る、ルミナリア、ラストラーダ、アルテシア、ヴァレンティンは国防のためアルカイト王国の要所に配置される形となった。
「では続き、防衛設備の方を突き詰めていこう。トーマ、あと一年でどれだけ量産出来るだろうか」
重要な九賢者のチーム分けが終わった次は、更に別の戦力分布についてだ。
「このまま素材が滞りなく入手出来るのであれば、だいたい──」
ソロモンが指名すると、トーマは現実的な範囲でその数を答えた。
魔導工学技術局長のトーマが担当するのは、対魔獣用兵器のアコードキャノン。そして武装型のプロティアンドールだ。
どのような魔獣が現れても対応出来るように。また、いざという時に九賢者の到着まで耐えられるように。軍のみならず、動員出来るものは何でも使う。
魔導工学の工房は今、多くの生産ラインを停止して、これら二種の量産に集中しているそうだ。
「──となりますので、後は上質な魔封石がどれだけ使えるかになります」
現状と現実的なライン、そして理想までも述べたトーマは、どこか期待するようにミラへと視線を投げかける。ちらりちらりと、それはもういっそ催促するかのようでもあった。
「というわけで忙しいとは思うが、魔封石の製造もよろしく頼むぞ」
「……まあ、いいじゃろう」
相当な数が提示されたものの素材さえあれば、やってやれない事はない。相当な手間ではあるが、今回ばかりは国のためだ。移動の間にせっせと拵えればいいかと、ミラはその要請に仕方なく頷き答えた。
それからも会議は続き、決戦時の対応について幾つとなく決まっていく。
「戦闘用の他に災害対策用もありますので、多少の火災なら問題ないかと」
「やはりチームで動かすべきでしょうな」
量産したプロティアンドールは国内の街や村に配備して、チーム単位で運用するように決まる。なお、その数やバランスなどは後の会議にて調整していく事となった。
次に、決戦前の避難誘導についても一通りまとまった。
「はい、そのように窺っております。倉庫を整理しているので、来週からでも物資を運び込めるかと思います」
避難先は、当初の予定通りに教会の保護区画だ。そのための移送手段や避難中の衣食住といった点などについては、これも後の会議で突き詰めていく予定だ。
なお、決戦までに教会と協力して、教会周辺に結界を張り巡らせる事となった。カグラとヴァレンティンが、その担当として準備を進めていく形だ。
「その点は、抜かりなし! ふふふふふ、いざという時のために用意しておいたとっておきが火を噴く時がきたわけ!」
対空戦力として期待されるのは、フローネの天空城。だからこそかフローネは、そのためなら何でも出来そうだと不敵に笑っていた。
他にも会議では、軍隊の割り当てや、装甲車の実戦配備、アコードキャノンの運用といった点にも触れていく。
国としての指針をまとめるために必要な項目は多岐に亘った。けれどソロモンは、魔物を統べる神の存在についての話を聞いた日から、この時が来る事までも想定していたそうだ。
既に対策のための地盤は出来上がっており、会議の方は滞りなく、あれよあれよと進んでいった。
(……仕事の時は、こんなにもしっかりしておるのじゃな)
いつも見ている姿とは打って変わって、実に立派に職務を全うしている。
王としてのソロモンに感心すると同時、ミラはもう一人にも目を向けた。それはリリィだ。やはりこういう場だからこそか、侍女長であるリリィは、いつになく真剣な表情をしていた。いつもミラの前に現れては捕まえにくる普段の彼女とは別人かというくらい、この場の雰囲気に溶け込んでいた。
(ふむ、絶対に勝たねばならんな)
ここにいる誰もが、国の未来のために頑張っている。ここにいる全員の顔をじっと見回したミラは、だからこそ国を任せて決戦に向かえると実感するのだった。
年末年始は、スペシャルなディナーを!!
そう意気込んで、早一週間。
さらりと新年になりましたね。
で、スペシャルなディナーはというと……
今回は宅配で、ガストのオードブルセットを大晦日用に、お弁当をお正月用に選んでみました!!!
しかも先を見越して、29日の時点で予約しておくという用意周到さです。
だがしかし!!!!
大晦日は忙しい。予約した時間には、到着しませんでした。
そして待てど暮らせどくる気配もなく、確認してみたら……
キャンセルされていました。
配送要員を確保出来なかったそうです……。
という事で、急遽外出が決定。去年と同じスーパーで同じようなものを買ってきました。
十分に贅沢で美味しいご飯ではありますが、なんだかなぁ……な年末年始でした。




