658 万能撮影場
書籍版23巻が発売となりました!
素敵なケット・シーの村が表紙です!
是非とも、よろしくお願いします!
六百五十八
「ところでミラ様。向かう先は、もしかしてあちらですか」
勢いのまま飛び出してきてから数分。マリアナは少し落ち着いたところで、遠くに見えるそれを目に映しながら言う。ルナにベストな撮影現場とは、一直線に向かっているあの場所かと。
「うむ、その通り。あれには大陸各地の自然が集まっておるからな。ルナに相応しいものがきっと見つかるはずじゃ」
ミラ達の行く先には空に浮かぶ大きな島、フローネの天空城があった。
あのフローネが拘り抜いた大地と、空に浮かぶ島というロマン。だからこそルナに相応しい舞台ではないかと思い付いたわけだ。
「はい、きっと見つけられそうです!」
マリアナもまた、あれほど素晴らしい場所ならばと納得する。
「ですが、こんな急に訪ねても大丈夫でしょうか。今もまだ、色々と制限している状態と伺っておりますが」
ただ、どういった場所か、今はどれだけ重要な場所になっているのかも知っているため、そこが気になるようだ。
「まあ問題ないじゃろう! 何といってもあちらの管理責任者には精霊がおるからのぅ。いざとなれば精霊王殿に説得してもらうなりすればきっと大丈夫じゃ!」
継ぎ接ぎされた大地は広いため、フローネ一人で全て管理出来るはずもない。そこに住む者達が区画を分けて担当している状態だ。
そして得意分野という事もあり、その担当責任者には精霊が多い。だからこそ、多少の事なら精霊王の威光で押し通せる。
ゆえにミラは、目的のためルナのためにならどんな手段も厭わないと言い切った。
「それなら問題ありませんね!」
マリアナもミラの事を、そして都合のいい方を信じたようだ。二人は、その目にルナの輝かしい未来を映し息巻いた。
「相変わらず、見事なところじゃのぅ」
「はい、とても素敵です」
「きゅいー!」
城に降り立ったミラ達は、そこからの光景を一望しながら感嘆とした声を零した。
流石はフローネのお気に入りが集められた土地だ。そしてその配置も随分とこだわったのだろう。城からの眺めは、もはや王を越えて神にでもなったような気分になるものだった。
フローネが仕掛けた術式が随所に散りばめられた土地は、更に精霊達の協力も加わり常に最盛期。瑞々しく煌めく新緑と、華やかに咲き誇る花々が視界一杯に広がる。
この圧倒的な景色に加え、精霊王の祝福を受けた場所というのも相まって、ここは世界的にも特別な場所となっていた。
今もまだ、厳しく入場制限されており厳重な管理下に置かれている。そのため本来ならば近づく事さえ出来ないのだが、やはり精霊王の威光は効果覿面だ。接近しているのがミラだとわかった途端に警戒は解除。そのままこうして眺めのいい場所に案内された次第である。
「なるほど、撮影のためにですか」
「うむ、ここが一番だと思ってのぅ!」
威光はあれども、何も告げず勝手にというわけにはいかない。そのためまずは撮影許可の申請が必要だ。
精霊女王のお出ましだと次から次に精霊達が集まってくる中、ミラはここの管理責任者に来訪の理由を告げた。
「そういう事でしたら、どうぞお好きなだけご利用ください」
精霊王の後ろ盾もあってか、まったく問題なく許可された。ただ、この場所と国のあれこれもあり、高所など土地の全容が見えてしまうような写真は撮らないようにとの事だ。
いわく、まだ色々と隠蔽工作をしている途中だそうだ。
「ところで、特に見栄えする場所などを知っておらんか?」
撮影許可も得られたので、いざ出発だ。という前に、折角だからと集まった精霊達に良い感じの撮影スポットはないかと聞き込みをするミラ。
するとどうだ。精霊女王の名は伊達ではないようで、お役に立てるのならばと皆が喜んで色々な場所を教えてくれた。
「いやはや、流石じゃのぅ……」
フローネの拘りは、細部の景観にまで及んでいるようだ。次から次へとオススメスポットが挙げられていく。
ただそれだけの数にもなると、覚えきれないというもの。そのため幾つかに絞ろうかと思ったところだ。
「そういっぺんに伝えてもわからないでしょう。一つずつ案内するのがよいと思いますよ」
管理者代表が、そう告げたために状況は一変。なんとミラ達に多くの精霊達が同行する事となり、気付けば二人から数十にも及ぶ撮影隊にランクアップしていた。
大所帯になったものの、やること自体は変わらない。撮影隊は精霊達がオススメだという絶景スポットを巡る。そしてマリアナが自然の中で伸び伸びと遊ぶルナの一瞬一瞬を狙い撮影していく。
「これは神秘的じゃのぅ」
「このミステリアスな雰囲気もルナに似合いますね」
案内された湖は全体が光っていた。一見すると危ない光のようにも思えるが、精霊達の説明によると発光性の植物や微生物が多いだけのようだ。
以前にフローネが、そういった発光するものばかりをここに集めていたらしい。その結果、こんな湖が誕生したわけだ。
輝く湖とは相対的に湖畔は仄かに陰り、そこに佇むルナはどこかミステリアスに見えた。
「おお、絶景といえば、やはりこれは外せんじゃろうな」
「花とルナは相性抜群ですね」
次の絶景スポットは絶景の王道、色彩溢れる花畑だ。あえて品種や色で区分けをせず、無数の花が入り乱れるそこに広がるのは、まるで砕けた虹が降り注いだかのような光景だった。
人工的になり過ぎぬよう、あくまでも自然にというのが、ここに込められたフローネのこだわりだそうだ。
色とりどりの花に囲まれたルナは、花のお姫様といっても過言ではなかった。
「こういうところが落ち着くんじゃよなぁ」
「なんだか、スポットライトみたいですね」
今度の絶景スポットは、先ほどと違い随分と落ち着いたところだった。
風にさざめく木々の葉擦れに、ちらちらと揺れる木漏れ日。背の高い木々に囲まれながらぽかりと開けたその場所は、森の中に現れた舞台のようだ。
差し込んでは消えていく幾つもの木漏れ日を追って駆け回るルナ。その姿は、夢を掴もうと邁進する舞台女優さながらだ。
「これまた大迫力じゃのぅ!」
「騒がしさまで心地よく感じられます」
森を抜けた先に待っていたのは、雄大な自然を堪能出来る大瀑布であった。
落差は百メートルほどだろうか。そして幅に至っては二百メートルにも及ぶであろう豪快な滝が目の前に広がるさまといったら圧巻である。風と共に飛沫が舞えば、清々しく吹き抜けていく。
また滝つぼから五本の川に分かれている。精霊達の話によると、この滝がメインの水源らしい。ここから島全体に水が行き届くようになっているとの事だ。
大瀑布を見上げるルナの目には、挑戦者の如き気迫が宿っているように見えた。
「ようこそ、おいで下さいましたですワン」
「とんでもない仕上がりっぷりじゃな……恐ろしいくらいに」
「可愛くて素敵な街ですね!」
近くにミラが来ていると気づいていたのだろう。次の場所ではワントソが尻尾を振って待っていた。
飛び込んでくるワントソを受け止めて抱きしめたミラは、可愛いやつめと撫で回す。だが直後にそれを、クー・シーの村──と言うより街を見回しながら戦慄する。
大の愛犬家であるフローネの支配地に移設されたクー・シーの村。そこは彼女の情熱と愛によって、劇的な発展を遂げていた。
思い返せば、団員一号が暮らすケット・シーの村も街くらいに大きくなっていたものだ。
だがフローネの欲望に塗れた、このクー・シーの街は、そういった正当な進化といった道から大きく外れていた。
カラフルな家に、柔らかな印象のある建物のデザイン。そして住民のクー・シー達。その光景を見て頭に浮かぶのは、正にメルヘン。
ケット・シーの村の方も十分にメルヘンが散らばっていたのだが、ここはその度合いが段違いだった。それこそ絵本かおとぎ話に出てくるような街になっていたのだ。
なお、そんな街でクー・シー達と遊ぶルナは、それこそおとぎ話の主人公のようであった。
「ばっちりじゃな!」
「はい、ばっちりです!」
あっちへ行ったりこっちへ行ったりと撮影のために費やした数時間。百枚以上あったフィルムも尽きたところで、撮影は終了だ。
良いも悪いもひっくるめて、この島にはフローネのこだわりがうんと詰まっていた。だからこそ撮影スポットも数えきれないほど存在しているため、一日で全てを回りきれるようなものではない。
ただ精霊達が厳選してくれた絶景スポットはどれも見事で、ミラとマリアナは確かな手応えを幾度も感じる事が出来ていた。
ルナもまたトップアイドルを目指してのみならず、マリアナ特製おやつも期待してか調子よくポーズを決めたものだ。
しかもそれだけではない。同行する精霊達は、案内のみならず撮影まで協力してくれた。
「皆も協力感謝する。お陰で十分に納得出来るものが撮れたはずじゃ」
「いえ、ミラ様のお役に立てたのなら光栄です」
ミラが契約している精霊達は、戦闘に特化した者がほとんど。けれどここにいる精霊達といったら、それはもう多種多様な能力を有している。
光の加減調整によってレフ板いらず。湖面に浮かぶ水の球が光を受けて宝石のように輝く。風に乗って自由自在に宙を舞う花弁は、完璧なタイミングでフレームに写り込む。蕾から開花までも思いのままに、あらゆる自然環境の理想を完璧に再現出来た。
ミラのプロデュースと飛び回れるマリアナの自由な撮影技術、そして精霊達の多彩な演出。これらが合わさった事で、ルナの魅力を余す事無く発揮出来た次第だ。
と、そうして手伝ってくれた精霊達に礼を言って別れたミラ達は、一休みだと召喚したソファー精霊に腰かける。二人で並んで座れるロングタイプのソファーだ。
「流石に今日は疲れたのぅ」
体力的というよりは、精神的な疲労が大きい。ちょっと写真を撮るだけでも、ここまで大変なのかと知ったミラは、だからこそ仕上がりが楽しみだと笑う。
「はい、怒涛の一日でした」
ミラの隣にそっと近づき腰かけるマリアナは、専用のバッグにカメラを収め嬉しそうに微笑む。忙しい一日だったが、何よりもそれをミラと一緒に過ごせた事が幸せだった彼女は、疲れた以上の笑顔を浮かべていた。
「きゅい!」
ただ、同じくらい動き回っていたルナはというと、こちらはまだ元気そうだ。むしろ行く先々に実っていた上質な果実をつまみ食いしていたからか、この上なくご機嫌だ。
夕暮れに陰る林を今もまだ駆け回っていた。
(……やはりルナは、こういった自然の中で暮らすのが一番なのかのぅ)
いつも以上に元気な姿を目にしたミラは、ふとそんな思いを巡らせた。
部屋の中なら、ルナはここまで元気に走り回る事が出来ない。だからこそ、ルナにとってはこういった自然の溢れた場所にいるのが一番の幸せなのではないだろうかと。
この島は、フローネと仲間達によって徹底的に管理されている。ルナにとって危険となるものは存在せず、美味しい果実も食べ放題だ。
箱庭といえど、いつものあの部屋とは比べ物にならないくらい広大だ。ルナにとっては、理想の棲み処になるのではないか。
「現像してからが大変ですね。今日撮った中から最高の一枚を選ばないといけません」
ミラが思いを馳せていたところ、マリアナは本戦に向けてのやる気を更に漲らせていた。その目には『必勝』という文字が浮かんでいる。
「うむ。最高が多過ぎて、一つに絞るのが大変そうじゃな」
今日撮った写真には、自然の中で活き活きとしたルナの姿が沢山写っている。いってみれば、動物としてあるべき環境と思えるような姿だ。
「では、急いで帰りましょう!」
本戦までには時間があるが、それでも厳選する時間が足りなくなるかもしれない。そんな心配をするマリアナは、少しでも早く現像しようと意気込み立ち上がった。
その直後だ。マリアナの声が聞こえたのか、これまで自由に駆け回っていたはずのルナが、即座に向きを変えて勢いよく戻ってきた。
「ルナ、今日はご苦労様でしたね」
「きゅいー!」
それを受け止めたマリアナが優しく頭を撫でれば、ルナは嬉しそうに鳴く。そして自らお出かけ用カバンの中に潜り込むと、ひょっこり顔を覗かせて、さあ帰ろうといった様子でもう一度鳴いた。
「うむ……帰るとするか!」
多分きっと、ルナは一緒にいる事の方を選んでくれたようだ。などと心の中で勝手に感じて安堵するミラは、ペガサスを召喚して颯爽と跨る。
そして背中にマリアナの温もりを実感しながら、さあ我が家へ帰ろうと目一杯に笑うのだった。
さて、先週は大晦日のスペシャルディナーについて触れましたが
忘れてはいけないもう一つがありますよね。
そう、続くお正月です!!
一年の始まりもまた、とてもスペシャルデイ。
ならばこそ、夕食もまたスペシャルでも罰は当たらないというものです。
では、どうしようかと考えたわけです。
と、この年末になってくると広告やら何やらでよく見かけるものがありますよね。
そう、おせちです!!
そして今月、考えました。
おせちとか、まともに食べた事なかったな、と。
そんな二つの想いが重なった事で、一つの可能性が生まれました!
そうだ、おせちにしよう!
お正月は、スペシャルなおせちを食べる。
そう思い立ったわけです。
その結果!!!!
残念ながら、おせちの可能性は潰えました。
なぜなら、全てのおせちにエビが入っているからです。
エビ嫌いな自分には縁のないものでした……。




