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657 激写

六百五十七



「さて、ひとまずはまとまったかな? じゃあ次は、この情報をどう伝えるかね」


「そうだなぁ、こっちだけの問題じゃあないからな」


 最終決戦と、そのための準備については一通りまとまった。

 ただ問題は、ここから先だ。ただ決戦場に最高戦力を送り込めば済むというようなものではない。特に難題なのは、魔物を統べる神が持つ特異な力への対処だからだ。


「確か三神国は神様達がどうにかしてくれるんだよな。で、うちらもアトランティスとニルヴァーナに頑張ってもらって、どのくらい動かせるかだ」


 最終決戦の時、魔物を統べる神が復活すると共に、その魔物を統べる脅威の力が大陸全土を覆い尽くす事になる。全ての魔物に魔獣が支配され、一つの意思の元で暴れ始めるのだ。

 そして一斉蜂起した魔物の群れが人類の生存圏を蹂躙していく事になる。しかも魔物を統べる神を討ち果たしたとしても、この魔物や魔獣は支配から解き放たれるだけ。

 そこが人の生活圏内であったら、そのまま戦い続ける事になる。残った数によっては長期戦も予想される。

 三神と精霊王達は、当時のあまりにも無残な状況を知っていた。

 突如現れた魔物を統べる神。何の備えもないところに、降りかかる厄災。魔物の群れによる大虐殺。

 それを繰り返さないためにも、これに備えるのは必須。三神と精霊王も、これには幾らでも名前を貸すと約束してくれた。それほどまでに重要視しているというわけだ。


「まずは初動で、どれだけ協力が得られるかだ」


 だからこそ、今回の情報を基盤として大陸会議を開く事は必須だ。魔物の群れに対応するための準備を、各国で進めていく必要がある。

 何よりもそういった事情ゆえ、決戦に挑むためには大陸全ての国の同意と協力が欠かせない。けれど当然ながら、それぞれの国が抱える問題や事情というものが存在するのも確かだ。


「未来のためだなんていう大層な看板を掲げるけど、やっぱりさ。今を生きる者達にしてみれば今が一番大事だからね。いつかの未来のために、それが脅かされるなんてなったら、そりゃあもう複雑だろう」


「まあ、そうだよなぁ」


 たとえ三神から直々のお告げがあっても、それだけで満場一致で合意となる可能性は低い。それが、ここにいる全員の考えであった。


「極論としては、同意が過半数を超えればどうにかなりそうだけどね」


「まあ、なぁ。今回は三神までも関与している、言ってみれば聖戦だ。ある程度、賛成が出揃えばそこから先は同調圧力で進むか。あまり気持ちのいいものではないが」


 子供達の未来を、そして世界の未来を護るための戦いだ。そう多くの国が立ち上がる中、これに反対し続けるとなると、どこまでも外聞が悪くなっていくのは避けられない。なんなら背信国家などと蔑まれ孤立してしまう恐れもあった。

 ゆえに国の体裁を保つためにも同意せざるを得ない状況に陥ってしまう国も出てくるかもしれないわけだ。


「三神のお告げっていうのは強いからこそ、その辺りの配慮も必要になってくるな」


 反対するにも、已むに已まれぬ事情があるだろう。だからこそ真に未来を思うのならば、そういった国も同意しやすくするような何かがあった方がいい。


「理由としては、いざという時の保障や、単純な防衛力不足、後はあれか。長期戦にもつれこんだ時の食料とかの消耗品だな」


「確か、非戦闘員とかは教会の方で保護してくれるって話だったよね。住民の安全の問題はそれで幾らか解消出来るから、やっぱり重要なのは戦力の拡充かな」


 今後に遺恨を残さないためにも、淀みなく全合意に至れるに越した事はない。

 そうして最終的には、ここに集まった皆──日之本委員会と元プレイヤー国家、そして三神国に三神教会とで出来る限りの話し合いを行い、対応出来そうな問題の解決案を揃えてから大陸会議へ進もうという話に落ち着いたのだった。




 この大陸の未来のために出来る事。一通りの指針が定まったところで、会議は解散となった。


「後はお偉いさん方にお任せじゃな!」


 ややこしい政治的な部分を丸投げしたミラは、それでいて冷静に工作を始めた。まず農業植物総合研究開発部へと赴き、適当な鉢植えを入手。そこにいい感じの土を敷いて種を植えれば準備完了だ。


「えー、こんな感じじゃろうか……」


 精霊王の加護の力を存分に発揮させたミラはマーテルの力を借りて、そこに立派な木を生やした。

 一見しただけなら、実に見事な盆栽だ。けれどこれには、驚くべき特性が秘められていた。


「おお、これなら十分だろう」


 満足げな精霊王の声が、その盆栽から響いてくる。

 そう、この盆栽は精霊王の依代として用意したものなのだ。


「では、後はこれをオリヒメあたりにでも預ければよさそうじゃな」


 これから最終決戦に向けて、多くの協議を重ねていく事になる。その際には様々な詳細も把握しているアンドロメダがいて、多くの国とも繋がりのあるこの研究所が中心となるだろう。

 多くの国を納得させるためには、どこまで出来るか。三神と精霊王の威光を使うと言っても、その塩梅がどの程度かは相談が必要だ。加えて、最終決戦の影響は当然精霊達の生活にも関わってくる。

 だからこそミラは、そう言った話し合いの場に精霊王も同席出来るようにと考えたわけである。

 その結果が、この鉢植え依代である。即席の依代とは違い、しっかり世話をすればいつでも精霊王が依代として使える優れものだ。

 なお、会議の都度に呼び出されるのは面倒だと思ったミラが、それを回避するために捻り出した策でもあった。


「すっごい……。こういうのって詳しくないけど、なんかわかる。惚れ惚れするくらい見事なものね」


 依代盆栽を受け取ったオリヒメの第一声がそれだった。テーブルに置いてじっくり眺めた彼女は、盆栽の魅力を少しだけ感じ取ったようだ。


「そうじゃろう、そうじゃろう!」


 依代として用意したものではあるが、だからといって適当に誂えたものではない。細部にまで拘り抜いて仕上げたミラはオリヒメの言葉に満足し、これなら安心して任せられそうだと、世話の仕方なども丁寧に伝えた。





 後はよろしく。そうオリヒメに告げたミラは、空絶の指環を使い召喚術の塔の自室に帰ってきた。


「なんというか、懐かしさすら感じるのぅ」


 魔王の件でずっと出ずっぱりだったため、こうしてホームに戻ったのはいつぶりか。いない間もマリアナがいつも掃除をしてくれているからか、以前と変わらぬ空間がここにある。

 ただ所々の小物が変わっているのは、風水を実践する彼女の拘りだろう。ベッドの傍には立派な蛇の置物があった。口に金の玉を咥えている、何とも金運の高まりそうな置物だ。


「さて、マリアナは──」


 先日に通信装置で話したが、直接会うのも久しぶりだ。と、そう思ったところで少し緊張してきたミラは、ちょっとだけ様子をみるように、そっと扉に向かっていく。


「……──」


 扉の向こうから微かに声がした。何を言っているのかまでは聞き取れないが、その声色からマリアナだとはわかる。そして普段に比べて幾らかテンションが高いようにも思える声だった。

 相手は誰だろう。そんな疑問が過ぎったが、続けて小さな鳴き声が聞こえたので直ぐにわかる。

 どうやらルナとおしゃべりをしているようだ。

 その声と雰囲気だけで、随分と心休まる温かな情景が脳裏に浮かんでくる。それはミラにとって、とても大切な時間であり宝物だ。

 それを守るために、最終決戦へと挑むのだ。


「今帰ったぞ──」


 その愛おしい家族に、これから何度でも会えるように。そんな意気込みと共に扉を開けたミラ。


「そう、いいです。完璧ですよ、ルナ。その横顔いただきです!」


「──っと……?」


 直後にミラが目にしたのは、頭に浮かべていた情景から遠く乖離した光景だった。

 何がどうしたというのか、室内用砂場でキリリとポーズを決めるルナと、床に這いつくばってカメラを構えるマリアナの姿がそこにあった。

 これは、どういう状況なのだろうか。妖精光が舞い散る中、ルナはふりふりのケープを纏い大きなリボンまで付けている。


「あ……」


 数瞬後、ルナをカメラに捉えたまま、ごろんと転がったマリアナ。そこでミラの姿を目にした途端、その笑顔を引きつらせた。


「これは何というか……お取込み中じゃったかな」


 パッと見た瞬間、脳裏に浮かんだ印象。それは、際どい角度でアイドルを狙うカメラマンだった。

 見てはいけないものを見てしまったのかもしれない。そう瞬間的に察したミラは、そのままそっと扉を閉める。


「待ってください、これには深い理由があるんです!」


 間髪を容れずに扉が開いたと思えばマリアナが必死の形相で迫り、先ほどの状況についての解説をまくし立てていった。





「なんと、それは凄いのぅ! 流石はルナじゃな!」


 マリアナが思いっきりめかし込んだルナの撮影会をしていた理由。それを知ったミラは、驚きつつも喜びルナを抱き上げた。

 先日の事だ。アトランティス主催で、アイドルペットコンクールという大会が開催されていたらしい。多くの主要都市などに特設会場が置かれ、そこに自慢のペットを持ち寄っての審査会が行われたという。

 その特設会場はルナティックレイクにもあり、マリアナはそこにルナを連れて行ったそうだ。

 するとどうだ。ルナは、その圧倒的な可愛さを存分に発揮して他を圧倒。審査会で無双して見事に地区優勝をもぎ取ったわけだ。

 つまり、アイドルペットコンテストの本戦にまで駒を進めたという事。ただ本戦出場のためには、アトランティスに本戦用のプロフィール写真を送る必要があった。


「写真を撮るのは慣れていませんので、このカメラを貸してくださったルミナリア様に色々と教えて頂いたのですが、その……」


 ただのプロフィール用ではない。本戦は既に始まっている。そうルミナリアに言われ、だからこそ不足ないよう拘って撮影していたというのが先ほどミラが目撃した光景だったようだ。


「なるほどのぅ……」


 大切なのは光とアングル。特にアングルのためならば、自らの体勢や見てくれなど気にするなとも教わったらしい。

 経緯を理解したミラは、マリアナに何て入れ知恵をしているのかと呆れる。そこまでせずとも巧く撮る方法は幾らでもあっただろうと。

 ただ、それを素直に実践していたマリアナは、それでちょっと可愛らしい。


「それであんな格好をしておったわけか。かなりの気合の入れようじゃな」


 本戦にかける情熱は、それほどに燃え上がっているのだろう。ミラは普段からは考えられないような体勢だったマリアナを思い出しながら、珍しい姿が見れたものだと笑った。


「あ、駄目です、忘れてください!」


 マリアナもまた、余程の体勢だったという自覚はあるようだ。からかうミラに対し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、必死に抗議した。


「まあそういう事ならばわしも協力しようではないか!」


 ルナをナンバーワンアイドルにするため。掴んだチャンスを逃がさないためにもと、ミラもまたやる気を漲らせた。

 大陸全土で開催され、しかもアトランティス主催ときたものだ。規模も品格も話題性も抜群な舞台といえる。つまり、最高に可愛いルナが活躍するに相応しい舞台でもあるというものだ。


「ですが、ミラ様には大事なお役目が」


 これから大陸の未来を決する戦いが待っている。だからこそ、やるべき事は幾らでもあった。ゆえに、ミラの手を煩わせるわけにはいかないと困惑するマリアナ。


「大丈夫じゃ。それについては既に指針が決まっておるからのぅ。慌てるほどではない。各国の準備が整うより先に済ませられるじゃろう。しかし、何よりも大切な家族の大事な時じゃからな! わしも黙って見てはおれん。ここで戻ってきたのも三神様の御導きやもしれんぞ。ならば全力でトップを取りにいかなくてはならんじゃろう!」


 最終決戦に備えてするべき事は幾つかある。

 加護が十分に馴染んだと、精霊王の許に赴く。ひょんな事で得られた神気の制御を学ぶ。そして召喚術への応用の研究と実験だ。

 その日が来る頃には、きっと今より強くなっている。だから何も心配は要らないと軽く笑い飛ばしたミラは目指せアイドル一番星と、ルナを高々と抱え上げた。


「はい! 全力でいきましょう!」


 未来の事は心配要らないと、僅かの不安すら吹き飛ばすミラの笑顔。そこに確かな安心感を覚えたマリアナは、だからこそ今に気合を込めた。

 そうしてルナをアイドルペットの頂点にするために、二人は最高の一枚を目指して撮影を開始した。


「うむ、よいぞよいぞ!」


「角度完璧です!」


 ルナが秘めた魅力の全てを引き出すべく、ミラとマリアナは徹底的に拘り、かつ様々な可能性も模索しながら一枚、また一枚とカメラに収めていく。

 そして使える手は、何でも使う。

 ホーリーナイトを騎士役に見立てての、お姫様。ペガサスを背景に据えた、聖域のアイドル。ウンディーネの協力で実現した、麗しのサーファー。サラマンダーと対峙する、勇者ルナ。

 他にも休憩中におやつを食べているところや、ミラに甘えているところ。団員一号と可愛い対決に燃えるルナや、ミラとマリアナも一緒に写った何気ない家族写真など。それはもう、あらゆるシチュエーションやジャンルにも挑戦して撮影を続けた。




「ふーむ……なんじゃろう、こう、あれじゃな。もっとルナの魅力が伝わる何かがあるような……」


「はい。ルナなら、もっと上を目指せるような気がします」


 使えるものは何でも使って、数十回とシャッターを切った。間違いなく、ルナの魅力に溢れた写真が沢山撮れているはずだ。

 けれどミラとマリアナは、まだどこか満足出来ていなかった。世界一可愛いルナの魅力を完全に引き出せていないという思いが、心のどこかに燻っているのだ。

 だが、いったい何が足りないというのか。


「ルナは、こんなにも完璧なのじゃがのぅ……」


 ルナにもアイドル魂が芽生えたのだろうか。カメラを構えると、見事な愛らしさを振りまいてくれる。

 撮れば撮るだけ、抜群に可愛い写真が撮れた。

 けれど、何かが足りない。そんな漠然とした感情を抱いたまま、ミラは部屋に散らばる小物を見回して考え込む。

 撮影のために色々なものを利用した。結果、素晴らしい写真が撮れたが、これだという確信的な手応えには未だに達していない。

 大事な勝負の時は、徹底的に準備するのがミラの身上だ。

 だからこそ考える。どうすれば、ルナの輝きを最大限に引き出す事が出来るのかと。


「これは……もしや……」


 何をすればいいのか、何か他に使えるものはないかと考えながら部屋を見回していたところだ。ミラの脳裏に、その足りなかった部分が朧気に浮かび始めてくる。


「そうか……そういう事じゃったか!」


 そこから更に部屋とルナを見つめる事、数度。そのイメージは一気に閃きへと昇華し、ミラは天啓を得たとばかりに高らかと声を上げた。


「何か秘策がありましたか!?」


 深く考え込んでいたマリアナは、そんなミラの輝く笑みに期待を寄せる。


「うむ、今思えば当たり前の事じゃった。そもそもルナの魅力に対して、この部屋は狭すぎたというだけの話じゃよ!」


 ミラは自信に満ちた顔で頷き返した。

 ピュアラビットのルナ。その一番の特徴といえば、愛くるしさや可愛さやキュートさだけではない。何と言っても森を縦横無尽に駆け回る俊敏さだ。

 吹き抜ける青い疾風。そこにこそルナの原点がある。こうして仕切られた部屋の中にルナの魅力を閉じ込めていたからこそ、はっきりとした手応えが感じられなかった。


「きっとそれです!」


 マリアナもまたミラの言葉を受けて、その閃きに至ったようだ。足りなかったものは、ルナに見合ったフィールドだと。


「ですが、ルナの一番を引き出せる場所はどこでしょう」


 その解を得たはいいが、次に問題なのはそれがどこかというものだ。

 草原か、森か、花畑か、湖畔か。どれも良さそうだが、まだ確信とまではいかない。


「それについては、わしに考えがあるのでな。善は急げじゃ。さあ行くぞ!」


 ルナのベストショットを狙える場所。そこに当てがあるミラは、張り切って出かける準備を始める。


「わかりました!」


 突然の事でも即答したマリアナの動きは、実に機敏だった。あっという間に支度を整えると、ルナのお出かけ準備までも同時に済んでいた。

 それから塔の屋上に上がったミラとマリアナは、ルナを連れてペガサスに乗り、空へと飛び立っていった。











年末も間近に迫った今日この頃……

いつもどうしようかと考える事があります。


それは、

大晦日のスペシャルディナーについてです!!


やはり何かと特別感のある大晦日ですからね。

そして今年の〆にもなるので、やはりチートデイよりも、スペシャルチートデイよりも更にスペシャルなディナーでないと!


という事でここ毎年、スペシャルな大晦日として

お肉のオードブルセットとピザ、そして稲荷寿司を買っていたわけですが


折角なのに毎年同じメニューというのも、どうなのだろうと思いまして。

今年の大晦日ディナーについて、あれこれ考えているところなのです。


さて、今年はどうしようかな!!!!


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― 新着の感想 ―
こういう何気ない日常こそ1番大切で儚いモノ。だからこそ守り続けるためには努力し続けなければなりませんね
マリアナお久しぶり~♪ 感動の再開かと思ったらルナの撮影会してるとは しかもどこへ飛んで行ったのか とんでもない場所なんだろうなぁ ミラの気合の入り具合すごいもんね 大晦日のディナー 私はクリスマス…
この木なんの木気になる木 名前も知らない木ですから聞いてみましょう これね、ミキプルーンの苗木。(精霊王) 昔、女神の生首が植木鉢に生えてるイカれたゲームがありましてね。そんなふうにならなくてよかった…
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