656 最終決戦場
六百五十六
神域から戻ったミラは、無事に骸の処理が完了した事を伝える。そして同時に、今後についての話し合いがしたいと告げた。
それから十数分ほどで所長のオリヒメとミケ、アラトに加え、カシオペヤにペネロペ、ヴァレンティンやダンタリオンなど、色々と事情を把握しているメンバーが揃う。
そこに日之本委員会の室長らも加わったところで、まず今後のための情報をまとめるという会議が始まった。
「さて、見つけた五つの骸を先んじて処理する事が出来たのでな。相手はかなり弱体化するはずじゃ。そして残る頭についてじゃが、これは今までのようにはいかん。封印を解けば、その時が決戦の始まりとなるわけじゃからな──」
会議が始まると共に、ここまでの作戦報告も済ませたミラは、続き決戦について議題に挙げた。
魔物を統べる神が相手となる最終決戦。特に、その戦場に挑むためのメンバー選出は重要だ。
「まずは、これを見てくれるかのぅ」
誰が決戦の舞台に立つか。その選出と布陣の参考にもなるだろうと、ミラは三神から受け取った決戦場の見取り図をテーブルに広げてみせた。
「このように、わしらの方でも色々と準備が出来ればよいのじゃが、どうじゃろう」
ミラは見取り図の真ん中あたりを指さしながら提案する。日之本委員会では多くのものが発明されている。その中には決戦で役立つものもあるだろう。それをここに設置していこうと。
「へぇ、これはまた随分なものを」
「なるほど。先に決戦場を整えてしまうってわけか」
「にしても、この規模ってなるとな。施工から始めて完成までどのくらいだ?」
強固な防壁と、多数の備え付け兵器。決戦の始まりを封印を解くタイミングで調整出来るのならば、先に有利を造ってしまえばいい。オリヒメとミケは、それが出来れば間違いなく有利になると得心する。
アラトもその通りだと頷く。けれどこれほどの決戦場を造るとなったら、どれだけの資財と時間が必要になるのかといった点に懸念があるようだ。
だがしかしアラト達が見ていたのは別のところで、だからこそそれは杞憂というもの。
「おお、そうかそうか。そこについては問題ない。この図は設計案ではなく、現在の決戦場の見取り図じゃからな。この外壁や兵装の類は全て配置済みとなっておる。わしが言っておるのは、この中の方についてじゃよ」
何もせずとも、ここまで立派な決戦場が既に準備済みだなんてわかり辛かったかもしれない。そこに気づいたミラは改めて見取り図の真ん中あたり、何もない大きな広場となっているそこを指さした。
「いずれ決戦の日が来る事は、わかっていたというのでな。このようにきっちり準備しておったそうじゃ。しかもこれに使う砲弾やバリスタの矢には、三神パワーが込められているので効果も抜群らしい」
更には用途に応じて改良や調整までも出来るようになっていると詳しく説明したミラは、魔物を統べる神との戦いで必要になりそうなものは他にないかと、皆を見回した。
「まじか……そりゃあ凄いな」
これほどの大規模な構造物が完成済なのかと目を見開くアラトは、これ以上に何が必要なのかと首を傾げる。戦闘については、そこまで造詣も深くないためか、これといった思い付きはなさそうだ。
「なるほどねぇ。ここに追加していく形ってわけか」
ミケもまた戦場で活躍してきたタイプではない。けれど情報は多方面から集めていたためか思い付く事もあるようだ。考え始めた彼女の顔には、不敵な笑みが浮かび始めた。
魔物を統べる神との最終決戦場に必要となるものはなにか。話し合いが進む中で、一つ二つと案が挙げられていった。
「この規模になると救護班を分ける感じになるか──」
一つは救護班用の医療シェルターだ。
熾烈を極めるであろう戦場において、回復役の聖術士を前線に立たせるのはリスクが高い。ゆえにグランデ級などの強力で大規模な敵が相手であった場合、後衛陣は守りの固い離れた場所に陣取る事が多かった。ソウルハウルのキャッスルゴーレムなどは、その最たる一つだ。
その中でも回復に専念出来るよう整えられた場所が救護班用の医療シェルターとなる。
「周りだけじゃなく、内側にも防壁が欲しいな。開けていて射線は通りやすいが、それは相手も同じだからね。盾役にだってカバー出来る限界もあるから、咄嗟に身を隠せる壁は必要でしょう」
次に挙げられたのは、防壁だ。グランデ級などで最も厄介なのは、無差別の範囲攻撃である。時に盾役でも防ぎきれない規模のそれを回避する方法で最も有力なのは地形の利用だが、この決戦場では不可能。だからこそ、予め防壁を用意しておこうというわけだ。
(……思えばわしらは、そのあたりが随分と緩かったのぅ)
話し合いの途中で、ふとゲーム時代の事を思い出すミラ。九賢者で揃って強敵に挑む時は、それら全てをソウルハウルが一人で解決していたものだと。
(陣地担当から外れたら、どうなるのじゃろうな)
だが今回の決戦では、その役割を事前に他へ預ける事が出来る。ミラは防衛役から解き放たれたソウルハウルは、どう動くのかと興味を抱いた。
「用意されている分も頼もしいが、もっとバリエーションもあった方がいいと思うんだ──」
続き提案されたのは、有力な兵器の追加設置だ。
神力の込められた矢や砲弾を打ち出すバリスタと大砲。威力は十分にありそうだが、他にも用途別に様々な種類を追加するべきだという主張があった。
敵の動きを封じる、チェーン付きの銛。属性攻撃に反応する、対属性迎撃装置。命中力に自信ありなビーム砲。牽制するためのガトリングガン。破壊力重視のミサイル。
次々と物騒な案が飛び出してくる。
(前に聞いた話じゃと、兵器などの開発はしておらんのではなかったか?)
当たり前のように兵器の名が並ぶのみならず、研究員の皆はいつでも準備出来るといった様子で続けていく。
「ならここはやはり、いよいよレールガンの出番になるのかな!」
そのように使えそうなものが羅列されていったところで、ミケがキラキラと目を輝かせながらこの時が来たかと声を上げた。
電磁気力を利用して物体を投射する兵器であるレールガン。その威力もさることながら何かとロマンが詰まったそれに憧れる者は多く、ミケもまたその一人だったようだ。
彼女も他の者達と同様、その顔には開発済みという色を湛えていた。
「のぅ、ちょいと気になったのじゃが……ここでは技術の兵器流用といったものは禁止されておるのではなかったか?」
勢いよく案が飛び出してくるものの、これから開発して本番までに仕上げる事なんて出来るのだろうか。
待ち受けるのは最終決戦だ。本番を実験場代わりにするなんて事は出来ない場面である。ミラ自身も今回ばかりは弁えて自重するつもりだ。
「ああ、そうだね。禁止されている」
「だがそれには一つ、足りていない部分があるな」
「正確には、対人兵器の開発禁止さ」
人類の平和のための技術開発。それこそが日之本委員会の研究理念であり、だからこそ人を傷つけるようなものは禁止されている。
けれど技術者連中が言うに、そんな人類を魔物や魔獣の驚異から守るためなら一部の研究が認められているそうだ。
「なに問題ない。これらの兵器には、専用のモジュールが組み込まれているからね。魔の力を持つもの、魔物や魔獣といった類が照準内にいなければ起動せず、人が範囲内にいたら発射も出来ないという仕様だ。ちゃんと理念は守っているよ」
ただの屁理屈ではないかとミラが不審な目を向けたところ、ミケは違反などどこにもないと胸を張って言い切った。
防衛用の兵器だからというのが屁理屈なのは、技術者連中も頭の隅では思っていたようだ。だが最終決戦という大義名分を得たからだろう。その後の話は、大いに盛り上がっていく。
「……随分と物騒な言葉が並んでいるが、問題はないのか?」
対魔物を統べる神用として幾つもの兵器が並べられている中、ところどころに大量破壊兵器の類が交り込む。その話し合いを眺めるバルバトスは、本当に大丈夫なのだろうかと苦笑気味だ。
「そこはまあ……何というか。今はこんなでも三十年の間きっちりしてきたわけだし、きっと戦いが終われば大丈夫、かなぁ……」
日之本委員会の者達は、時に暴走する。信じたいけど絶対とは言い切れないヴァレンティンは、挙げられていく兵器を左から右に聞き流し、そっと視線を逸らせた。
暫くして、兵器については専門の部署を立ち上げてとことん話し合おうと決まった。
次に出た議題は、救護医療シェルターの強度や設置数についてだ。
「難題だなぁ……」
あれこれ話し合うものの、これがかなり難しいものだった。
敵の戦闘力が魔王以上となったら、戦場内はどこも危険地帯だ。グランデ級の攻撃を防げるくらいの強度があろうと今回も大丈夫とは限らない。
また救護医療シェルターそのものを直接狙われたら大変で、だからこそノインのような防衛要員を救護医療シェルターに配置する必要が出てくる。
ただその分、貴重で優秀な盾役が前線から抜ける事になるわけだ。
理想は、やはり戦場の外。敵の攻撃が届かないか、わからないような場所に設置するのが一番。
「この図によると、周りの防壁内にスペースがあるだろ。ならここを救護医療シェルター代わりにするのはどうだ?」
「神様が用意してくれたっていうのなら頑丈そうだし、いいかもねぇ」
ゆえに戦場を囲む巨大防壁に注目が集まる。待ち受ける決戦のためにと用意されたそれは三神の御墨付。建材のみならず三神による防護結界まで張り巡らされているため、その強固さは現在考えられるものの中で最強最硬を誇る。
まさに理想的といえる場所だ。
「でも、どこを救護医療シェルターにするにしても戦場の端っこ確定だからな。ちょっと距離が気になるか」
戦場内に救護医療シェルターを設営するよりも安全で治療に専念出来るが、そこまでの距離が問題だった。
その外部防壁一辺の長さは、五百メートルにも及ぶのだ。
戦場の中心からだと直線距離で、その防壁まで二百五十メートル。治療を受けるために戻るにしても運搬するにしても、かなりの距離だ。だからこそ治療までに時間がかかり、戦線復帰が遅くなってしまうだろう。
では、どうするべきか。いっそ、外壁の内側に更なる外壁を造ってしまおうか。などと白熱していったところだった。
「どうやら、そこは解決出来るかもしれんぞ」
これまで静観していたミラが、ここで声を上げた。
ミラは会議に参加しつつ、同時に精霊王達とも話し合っていた。そして救護医療シェルターの件については考えられる中でベストな解決案が出たため、口を挟んだのだ。
「まず救護医療シェルターは、外壁の空きスペースに設置する形でよい。それも一ヶ所だけで構わん。必要なもの全てをぶちこんだ、完璧なものを用意してくれればよいぞ──」
最終決戦場であると同時に、魔物を統べる神を逃がさないようにするための檻としての役割も持つ外部防壁。
だからこそ救護医療シェルターとして利用するのは理に適ったもの。そしてその問題点も、リーズレインの協力を得られる事になったため解決出来るようになった。
「まずは戦闘要員の人数分だけ特殊な指環を作ってもらう必要がある。後は扉じゃな。リーズレイン殿が力を込めたそれを皆が着けて、救護医療シェルターに扉を設置すれば完了というわけじゃ」
精霊王達と話し合った結果、三神が最終決戦場に空間制御の結界を追加してくれる事になった。
本来ならば、近い地点で何度も何度も転移を繰り返すと空間に悪影響を及ぼしてしまう。だが三神が幾らかの力を割く事で、その歪を素早く修正する仕組みだ。
これによって一時的──決戦の間のみだが、瞬時に何度も戦線から離脱する事が可能となる。戦闘継続困難なほどに深手を負っても、直ぐ救護医療シェルターに避難出来るわけだ。
「いいじゃん!」
「すげぇ、それで完全解決だ!」
これ以上ないくらいに理想的だと一気に盛り上がる。そして、いざという時に移設する必要がないため、どれだけの設備が必要か、どれだけ揃えられるかといった内容で更に白熱していく。
「あ、ところでさっき指環や扉も作るって言っていたよね。それってどういうのを作ればいいのかな?」
話の途中。ふと思い出したのか、無性に気になったのか。または細工職人としての責任感か、ミケがそんな疑問を口にした。
転移を可能にする、特別な品だ。だからこそか、技術者達も次には興味と好奇心を浮かべてミラに目を向ける。
「あー、それはじゃな……。全部、あれじゃ。シンギナライト製でよろしくとの事じゃ──」
ミラは少しだけ視線を泳がせつつ、必要な素材について触れた。指環は、全てシンギナライトという金属で作る事。そして扉は、枠の内縁と扉の外縁部を同じくシンギナライトで覆う形だ。
リーズレインの要望をそのまま伝えたミラは、後は頼んだぞと言わんばかりに目を伏せた。
直後、先ほどまで白熱していた話し合いが一転、場は一気に静まり返っていった。
なぜならシンギナライトというのは、極めて希少な金属であるからだ。
「倉庫にあったっけ?」
「どうかな……。少しくらいはあったと思うけど」
「まさかこんなところで必要になってくるとは……」
はて、シンギナライトの在庫はあっただろうか。それを掘り下げていくほど、ここにいる全員の顔が少しずつ焦燥に変わっていく。
日之本委員会には、希少であろうがなかろうが多くの素材が集められ保管されている。
けれどシンギナライトは例外のようだ。
「これはちょっと、専用の採掘隊を編成するべきか」
「冒険者総合組合に、緊急の買い取り依頼を打診しておきましょ」
「とりあえず在庫がないかどうか、連絡つくところに片っ端から聞いてみるように伝えておこう」
最終決戦において救急救命に深く関わってくる案件ゆえ優先度は高く、行動は早い。今可能な策を思い付くや否や、会議室の壁にある通信装置で慌ただしく指示を出していく。
(どこで何が必要になってくるか、わからんもんじゃのぅ)
シンギナライト。その希少な鉱物は、鉱脈というものが存在しない。ただ採掘出来る場所は大陸全土に及び、どこでだろうと見つけられるものだ。
なんなら庭を掘ったら出てくる可能性すらある。
ただ問題は、その可能性が極めて低いというもの。山を一つ丸々掘り尽くして、カバンの半分を埋められるかどうかという代物だ。
そして何といってもこの日之本委員会で在庫を確保していなかった理由が、その素材としての価値にあった。
剛性や柔軟性、耐久性の他、伝導率やマナとの相性、術式の定着度に共鳴率などなど。その希少性に興味を抱いた者達により徹底的に調べられたのだが、得られた結果は全てが凡庸以下。何かを作る時に重要となる素材としての性質が、どれもこれもコモンメタルにすら及ばないのである。
いわば、どんな用途においても安価に使える上位互換の素材があるわけだ。それでいて希少性が極めて高いのだから、素材としての使い道は皆無。しかも見た目は薄汚れた黒であるため、装飾品としての価値もない。
だからこそシンギナライトは、希少というよりは、ただ珍しいだけという評価に収まっていた。
「金庫も開放するから、とにかく全国から買い集めちゃって!」
そんな評価を下されてから幾星霜。リーズレインとの相性というピンポイントな付加価値が見出された事で、日之本委員会ではその価値が一気に跳ね上がった。人数分の指環と扉を造るため、オリヒメの判断により莫大な資金の投入が決定される。
「おい、倉庫を調べてもらったら欠片が三つ残っていたってさ!」
通信装置が鳴ったかと思えば、そんな報告が会議室に響いた。どうやら研究調査に使った分の残りが、倉庫の隅っこに転がっていたそうだ。
これで二人分くらいの指環が作れそうだと歓声が上がる。
とはいえ、まだまったく足りないのが現状だ。はたして、どれだけの資金が溶ける事になるのか。そもそも必要数が集まるまでどのくらいかかるのか。前途多難であった。
さて、今週はいよいよ
悠久幻想曲の発売日です!
switch2の準備も万全!
ポケモンやったりディンカムやったりセールで買ったシレン6をやったりと大活躍だったswitch2。
全ては、この時のため!
あの頃の青春は、どのように進化したのか。
ドキドキワクワクです!!




