655 封印の地
六百五十五
「さて、これで残すは頭部のみになったわけだね」
アンドロメダは設置した機材を一つ一つ片づけながら、興味深げに三神を見やる。
魔物を統べる神の骸については、その封印と場所決めまでの全てを三神のみで実行したという話だ。
その理由は、秘匿性の高さである。真実を知る者が少ないほど秘密は守りやすく、誰かに知られる可能性が低くなる。
更に誰が相手であろうと秘密を守れるだけの力を持つものといえば、三神が筆頭だ。ゆえに骸の封印場所は精霊王どころか天魔族や他の神々に至るまで知らされてはいなかった。
と、三神だけしか知らなかったといえば、もう一つの謎もある。
「しかし今更ながらに不思議に思うが。悪魔達は、どうやって魔王──フォーセシアの居所を突き止めたのじゃろうな」
あらためて考えたミラは、ふとそんな疑問を口にする。
魔王の主因子に憑りつかれてしまったフォーセシアを封印した場所というのもまた、三神だけが把握していた事だ。
秘密は徹底的に守られていたはずだが、悪魔達はその場所を完全に特定していた。だからこそカシオペヤを捕まえて、かの黄金都市にまで踏み入ったわけだ。
ではいったい、どうして悪魔達はそれを見破る事が出来たのか。
「ああ、その辺りについても幾らか調べがついているよ──」
ミラの疑問に答えたのは、アンドロメダだった。
彼女が言うに、かつて起きた三神国防衛戦こそがきっかけだったそうだ。
骸の隠し場所を特定するために悪魔達が仕掛けた作戦『災禍の夜』。これによって霊脈の乱れを検知し、骸の封印候補地を特定していったわけだが、どうやらその時に別の不可解な反応を示す地点を見つけていたらしい。
「骸を探すための作戦だったけど、封印されたフォーセシアは体に魔王の主因子を宿していた。だからこそ、反応を示したのかもしれないね」
その結果、悪魔達は次代の魔王となるフォーセシアを発見するに至ったわけだ。
「なるほどのぅ……」
いってみれば、ついでに見つかったようなものだ。
もしも全てが終わった後、魔物を統べる神の影響が消え去ってから封印が解かれていたとしたら、どうなったのか。
もしかしたら、精霊王やマーテルが悲しまずに済む場合もあったのかもしれない。そんなもしもを思い浮かべながら、ミラはフォーセシアの中の人は今どこで何をしているのだろうかと考えるのだった。
「しかし、頭部のみを残して他は消滅か。こうして思い返せば、想定していたどの状況よりも理想的と言えそうだ」
「決戦のために用意した神器で、ひっそり一つずつ消していく事になるとはな」
「当時は、思いつきもしませんでしたね」
これから最終決戦に向けて準備を進めていくわけだが、現状は当初に幾つも思い描いていた状態の中でも最良以上の出来だそうだ。この影響は非常に大きいと、三神は満足げにミラを見やる。
「後は出来るだけ早めに仕掛けたいところだ」
「ああ、どうにも勘付かれたようだからな」
「適応する前に仕留めきりたいところです」
後はここから各国が決戦に向けてどれだけ備えられるのかと、魔物を統べる神を相手に勝利出来るだけの戦力を集める事が出来るのかが問題だ。
ただ、どうにもゆっくりじっくり準備してもいられないそうだ。
魔物を統べる神は封印の中にありながらも、頭以外が消滅した事に気づいた様子だという。封印の地より微かな淀みが漂い、大陸全土に散らばっている因子がざわめき始めているのが観測出来たらしい。
なお、今すぐそれらが害になるというわけではない。けれど変化の予兆はあり、だからこそ将来的には間違いなく障害になる。
「ふーむ、悠長に外交してられんというわけじゃな」
魔物を統べる神は、いずれ必ず復活する定めだ。そしてその時は、万全の状態となっているだろう。
ゆえにこちらがとれる策は、相手が万全になる前に準備を整える事。そしてこちらから封印を解き、その場で仕留めるのが最善だ。
骸を五つ消滅させた今、未来の禍根を断つために最も相応しいタイミングとなった。だからこそ三神は、この好機を逃したくないと思っているようだ。
「全ての国を動かすとなったら相当じゃのぅ。して、猶予は後どのくらいじゃろうか?」
その予兆が、実際に形になるまで。魔物を統べる神が変化し適応するまでに、どれだけの時間がかかるのか。最大限優位に立てるのは、いつまでか。ミラは、ある程度の指標があればと三神に問う。
「そうだな、少なくとも変化が始まるまでに数年はかかるはずだ」
「失った部位を補填して適応するとなったら、それこそ数百年単位は必要だな」
「ですがそれは、かの者の本体に限った事です。ここで憂慮すべき問題は、その因子がどのような厄災を引き起こすのかでしょう」
魔物を統べる神を討つ。これだけに焦点を当てるのなら、最終決戦に向けて時間をかけて念を入れ徹底的に準備出来るだけの時間はあるそうだ。
だが問題は、かの者の意思に呼応して動き始めた因子だという。魔物を統べる神の失われた力を補うべく、これらの因子がどのように動き、どのような被害をもたらすのか三神達でも予想出来ないとの事だった。
「なるほどのぅ……それは厄介じゃな」
骸を五つ消滅させて大幅に弱体化出来た事と引き換えに、因子の不穏な動きを招いてしまった。
出来ればもうこれでもかというくらいに準備万端に整えてから最終決戦に挑みたいところだが、未知の被害が予想されるとなったら迅速な解決が必要だ。
「それで、理想としてはどのくらいに仕掛けるのがよいのじゃろうか?」
被害を最小限で済ませつつ最大限の準備期間を設けるとしたら、どのくらいの猶予があるのか。
ミラがその質問を口にしたところ、三神は何かを探るように目を閉じた。
「大陸中に飛び散った因子の欠片が寄り集まるのに一年ほどだ」
「そこから更に集まり大きくなったら、少しずつ影響も出始めるだろう」
「それに今は霊脈を伝って全体を探れるけど、もっと自由に動けるようになったら、もうどこで何をしているのかもわからなくなるわ」
大地の深くに潜んでいた因子。動き出したそれらが地上に出てしまったら、何をしでかすのか見当もつかない。そしてどこにあるかも把握出来なくなる。
ただ初期の状態ならば、命に直接かかわるような影響は及ぼせないそうだ。よってある程度の被害に目を瞑るのなら、それなりに余裕はあった。
問題は、因子がどんな方法で消えた骸の分を補おうと動くかだ。そのあたりが詳細にわからない今、被害を出さずに終わらせるという条件ならば一年がギリギリだという。
「ふーむ、一年か。十分な時間にも思えるが、これまでにない規模の一大決戦じゃからのぅ。ちょいと皆に相談しなければいかんな」
猶予は一年。それだけあればと思わなくもないが、国のあれこれは、全てソロモンに放り投げてきたミラだ。はたしてその一年でどこまで出来るのかは、明確に想像が出来なかった。
「一先ず、三つの国については我らが働きかけてみよう」
「神託を下すなんて何年、何十年……どのくらいぶりになるだろうな」
「私達の言葉が正確に伝わるといいのですが」
最終決戦に向けて、大陸全ての国を動かす必要がある。頭の封印を解き魔物を統べる神が復活すると、大陸中の魔物がその意に操られる。またどこからともなく、かの者の眷属が湧き出てくるそうだ。
だからこそ全ての国がこれに備えなければ始める事も出来ないわけだ。
「それは心強いのぅ!」
そのための外交だが、三神国にその旨の神託が下ったとなれば、きっとその影響は大きく出るはずだ。
何より三神教のトップである教皇と大司教達が既に色々と詳しい事情を知っている。
三神国の力と、大陸教である三神教が各国に働きかけてくれれば、きっと多くの国が応えてくれる事だろう。
「次に気になるのは肝心の決戦場なのじゃが、それはどこになるのじゃろうか。その頭が封印してある場所がそのままという感じかのぅ?」
魔物を統べる神との戦いは、間違いなく激戦になる。すると当然、その戦場と周辺に対する被害も甚大になるだろう。
だからこそ準備をするとしたら、その辺りの対応も必須だ。予め戦場となる場所を整えておいたり、なんなら完全に城塞化してしまうという手もある。
「ああ、そうだな。封印の地がそのまま戦場になる。だが、細かい事は心配しなくていい。周辺環境などはこちらで調整済みだ」
「先にこれを渡しておこう。決戦場の見取り図だ」
「これが基礎になるわ。ここから更に調整や配備も出来るように造ってあるから、持ち込みも可能よ」
そんな言葉と共にミラは一枚の見取り図を受け取った。
紙とはまた違う不思議な材質のそれは、かなりの強度があった。そして図の方は、きっちり正確で明瞭に描かれていた。
「これまた、正に決戦場といった感じじゃな」
見取り図からでもよくわかる。広大な壁に囲われたそこには、そのために用意されたのだろう設備なども随所に見られた。
そして何よりも、そこから出られるのは勝者のみとでもいうような造りから、大陸の未来がここで決まるのだとわかる覚悟も秘められている。
「それで場所についてだが、そうだな……ミラ殿にとっても幾らか縁のある場所と言えるか」
正義の神は続けて、どことなく勿体ぶるような素振りで意味深な言葉を口にした。
魔物を統べる神の頭が封印されている場所は、ミラの知る範囲に近い所にあるというのだ。
「なんじゃと……?」
いったいそれはどこなのか。普通のダンジョンから神域に至るまで、思い返せばかなり行動範囲が広かったミラは、だからこそ候補があり過ぎて首を傾げる。
「もう、こんなところで回りくどいんだから。えっと、確かミラさんは第一ヴァルハラの領主になっているのよね。そして他に第二、第三って続く事も知っているでしょう?」
「うむ、そうじゃが……もしやここでそれを言うという事は!?」
慈愛の女神がふと口にしたヴァルハラという言葉。アルフィナ達が住むそこは確かに少々特殊であり、ミラにも縁のある場所だ。
つまり、幾つもあるそのどれかに封じられているというのか。ミラは、そう瞬時に予想した。
「そう、頭を封じたのはヴァルハラだ。しかし、今存在しているヴァルハラではない。それ以前に存在した最初のヴァルハラの中心点、いわば第零ヴァルハラだな──」
ミラの予想は、勇気の神によるまさかの歴史的事実によって覆された。
いわく、当時のヴァルハラは広大であり、尚且つその中心部には霊脈のそれにも匹敵する特別なエネルギー体が存在していたそうだ。
そして、そのエネルギーを利用して頭を封印した。その際、ヴァルハラの外周を分割して切り離した事で、今の第一ヴァルハラや第二ヴァルハラが出来上がったというわけだ。
「第零ヴァルハラ……まさかそのようなものが存在しておったとはのぅ」
それについてはアルフィナ達からも聞いた事がない。つまり彼女達もまた、これについては知らないのかもしれない。
ヴァルハラに、そんな歴史があったなんてと驚くミラは、けれど同時に納得もする。
魔物を統べる神の頭などという厄介なものを封じて隠すというのだ。そのくらい特殊な場所でなければ、そうそう隠し通せるものではない。
そして同時に思う。今でも実に幻想的なヴァルハラだからこそ、その始まりとなるヴァルハラはどれほどのものだったのかと。
「残る細かい部分は、とりあえず話を持ち帰ってからじゃな」
一通りの話は終わった。最終決戦の日時の他、外交問題などについては答えを出せる立場にないミラ。そこは首脳陣で話し合って決めてもらうべきだ。
「わしも、それまでにもっと強くならねばのぅ」
今回も面倒な話し合いは全てソロモン達にぶん投げる事に決めたミラは、これから出来る事、これからすべき事を考える。
まずは何よりも、特訓と研究だ。今より更に召喚術に磨きをかけ、どんな状況をも打ち破れるだけの自信と力をつけるべきだ。
と、そうミラが今後の目標を立てていたところだ。
「ああ、我々もだ。一度気合を入れ直した方がいいと、前回の事で思い知った」
「この先に待つ決戦は、あんなものではないからな。万全を期して挑むべきだ」
「ええ、そうよね。油断なんてしていないつもりだったけど、結局それが油断に繋がってしまったんだもの」
ミラが決意を新たにしていたところ、なんと三神もまた己を鍛え直すなどと言い出した。
そのきっかけは、やはり前回のミラだ。最も得意な神域という場所でミラを危険に晒してしまった事で、三神は己の腕と勘の鈍りを痛感したようだ。
そして、だからこそ神などという慢心を捨て一から己を見つめ直そうなどと思ったらしい。
「ではミラ殿。また後日に」
「そっちも頑張れな。応援しているぞ」
「じゃあね、ミラさん」
神域でやるべき事は終わった。後は、今回の結果と今後についての話を持ち帰るだけだ。
「うむ、ではまた。世話になった」
三神に手を振り返したミラは、さあ地上に帰ろうと踏み出す。
「おっと、私も一緒に帰るよー!」
と、そこへ沢山のファイルを抱えたアンドロメダが合流した。ミラが三神と話し合っている間、ずっと今回のデータをまとめていたようだ。
かなり興味深い事がわかったらしい。その顔に浮かぶのは、可能性への喜びだ。
「ところで、あれは大丈夫なのじゃろうか?」
アンドロメダが抱えているのはファイルだけ。そのデータをとるために使った機材は、まだそこにそのまま置きっぱなしだった。
「ああ、大丈夫大丈夫。今はこのデータを持ち帰るのが先だからね。あれはまあ……時間が空いた時にでも片付けるつもりさ」
そこにある機材は一回二回程度で運べる量ではない。見た目以上の力持ちなアンドロメダだが、きっと十回以上は往復したのではと思えるくらいの量だ。
それゆえか、笑いながら答えた彼女の顔には明らかに面倒そうな色が交っていた。
「しかし第零ヴァルハラとは。戦いが終わった後は、そこもまた暮らせるようになるのかのぅ」
実に興味深い話だったと思い返すミラは、同時にそんな興味も抱いた。
特別な力を秘めていたからこそ、封印の地になったという第零ヴァルハラ。その力は、ヴァルキリー達に何かしらの影響を与えたりするのだろうか。
そう、もしかしたらのパワーアップ要素が見えたからか、ミラの表情は不敵に輝いていた。
なんだかんだで色々な(近場のスーパーで買える範囲)インスタントコーヒーを試してみましたが、
これが一番いい感じだと思うものを見つけました!!!
それは、
スターバックス カフェモーメント スムース
です!!
インスタントコーヒーにある、あの共通した風味というか何というか。
あれが少な目で美味しいのです!
それでいて、プレジデントやブルーマウンテンよりはお安い値段。
これで更にコーヒーライフも安定しそうな気がします!




