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644 魔王戦

六百四十四



「もう十分じゃな」


 元プレイヤー四十三名を含む五十人以上からなる大型レイドチーム。その決戦準備は万端に整った。それを確認したミラは、ここまでよく耐えたと称賛し、アイゼンファルドを城内に退避させる。


「ここからが本番ね」


 カグラもまた、消えかけのリン兵衛を式符に戻し回収する。そうすると雷雲は晴れて日差しが差し込み、孤島に出来上がった陣地の全貌がくっきりと照らされた。

 巨城と軍勢。そして布陣を完了した将軍達。決戦の場は整ったと言わんばかりの様子を前に薄っすらと笑った魔王は、これと対峙するように堂々とその前方に降り立った。


「逃げたかと思えば、随分とやる気に満ちているようだ。これはまさか、吾を倒そうなどと考えているのかな」


 その言葉と共に魔王の気配が一層深く、大きくなった。その言葉にある自信に見合うだけの圧倒的な力が溢れ出ている。

 事実、その力はこれまでに相手してきた、どのグランデ級よりも強大だ。幾度とグランデ級を制してきた程度で戦えるような相手ではないと、対面しただけでわかる威圧感である。


「ああ、そのまさかだ。魔王、お前はここで我々が止めてみせる」


 強烈な重圧をものともせず、堂々と相対して啖呵を切るのはノインだ。

 その騎士然とした立ち振舞。強敵を前にしても怯まぬ気丈な態度。いっそ物語の主人公かというくらいに力強く見えるその背は、誰もが憧れる聖騎士そのものだ。


「そうか、出来るのならやってみるといい!」


 魔王決戦。その開幕は魔王の先制で始まった。不意に大地が赤い光に覆われたかと思えば、無数の炎弾が空を埋め尽くしたのだ。

 気付いたと同時に降り注いでくる炎弾。この島の全てを焼き尽くそうかというくらいの圧倒的な物量であり、島にいる以上、逃げ場などどこにもない。


「ああ、やってみせるさ」


 これに強気に笑い返したノインは、アーティファクトの力を全開にして空を薙ぎ払った。

 するとどうだ。一直線に大地を目掛けて降り注いでいた炎弾が瞬く間に方向を変えて、周辺のあちらこちらに散らばっていく。そして着弾と共に爆発炎上。遠くから轟音と微かな爆風が届くだけで、決戦チームへの被害は何もなかった。


「この通り。そういった類のものは通じない」


 その結果を前に堂々と言い切ってみせるノイン。とはいえ今回は単純にうまくいっただけだ。実際のところは逸らす方向を決められないため、場合によっては後衛陣に流れていってしまう恐れもある。

 あちらにも相応の備えはあるものの、飛び火しないに越した事はない。だからこそノインは同じような攻撃をさせないため、全て計算通りといった態度を崩さない。ようは、はったりだ。


「随分な代物を持っていたものだ。ならば、次はどうだ」


 その言葉と共に魔王は腰に帯びた剣を抜き放った。瞬間、戦場一帯が酷く寒気のする気配に覆われる。

 背筋をぞくりと、言いようのない不安が走る。その直後に魔王が一気に距離を詰め剣を振り下ろした。


「──っと!」


 得体の知れない気配は消えない。だが気合で振りほどいたノインは大盾を構えて剣を受け止める。

 それと同時に襲いかかってくる、寒気と不安。本当にこれでいいのかと疑いたくなってきてしまう、言葉に出来ない焦燥がノインの胸に広がっていった。





『嘆く亡者の剣とは、また厄介なものを』


 前衛陣を見守りながら援護の準備を進めていくミラ達後衛陣。そんな中、魔王が剣を抜いた途端に急な寒気を覚え、あの剣は何だとざわついたところだ。

 精霊王が、その剣──嘆く亡者の剣がどういうものなのかを知っていた。

 精霊王の簡潔な説明によると、それは魔物を統べる王に付き従っていた人族の王が手にしていた得物だそうだ。

 悲しみや恨み憎しみ、孤独、後悔。そういった嘆きの感情を封じたという呪物であり、一度鞘から解き放てば、周囲の者にその感情を無理矢理に押し付けるという。


『精神作用系のデバフ付き、という感じじゃな。地味じゃが……これは確かに厄介じゃのぅ』


 その剣の周囲にいる者は、どうにもこうにも心が後ろ向きになってしまうわけだ。なんとも陰険な効果だが、士気というのは勝敗に直結するくらい大切な要素だ。

 打倒魔王と燃えていた熱が冷めていくのを実感するミラは、そこに危機感を覚えどうにか出来ないかと考える。

 ただここでも精霊王の知恵が活きた。当時を知るからこそ、その対処法についても熟知していたのだ。


『なに、対策はミラ殿ならば簡単だ。レティシャを喚んでやるといい。彼女の歌なら悲しみの感情など直ぐに晴らせるからな』


 かつての決戦でも、かの人族の王との決着をつけた時は音の精霊が活躍していたとの事だ。


『それは確かに簡単じゃな!』


 それならばと即断したミラは「レティシャや一曲頼めるか」と、既に準備完了で控えさせていた彼女に声を掛ける。


「はい、お任せくださいですよぅ」


 どんな戦場でも、ゆるっとふわっとしたレティシャはミラからのリクエストを受けて、出番が来たと張り切って立ち上がる。そして音楽を奏で始めたところで音の精霊の本領発揮だ。


「奏主様の歌・スプリングメロディ・アメイジングバージョンを──」


「──それはまた今度で良いから、『青空ファイトナイト』を頼む」


「……リクエスト、承りましたよぅ」


 いったい今は、奏主様の歌にどれだけのバージョンがあるのか。真実は定かではないが、深堀りする気もないミラは、とにかく鬱な気分を軽く吹き飛ばせるような曲を頼んだ。

 レティシャは残念がりながらも直ぐに軽快な旋律を奏で始める。

 その音楽は、多少の距離などお構いなしに響き渡った。この島全体がレティシャの音に包まれていき、あっという間に闘争心を掻き立てる雰囲気へと変えていく。


「ふむ、効果ありじゃな」


 心が一気に軽くなるのを実感したミラは、同時に前線の様子も見やりノイン達の動きもよくなった事を確認する。

 嘆く亡者の剣を相手に気合一杯で立ち向かっていくノイン。ゴットフリートの剣の豪快さは更に増し、ローザンの技はより鋭く閃いていた。

 無効化するだけでなく、音楽の力によって前線の調子も上がったようだ。

 今回は士気向上タイプの支援がよさそうだとみたミラは、レティシャにその調子で頼むと告げて次の支援先へと向かった。





「まさか音の精霊までいるとは。なるほど……ここにこれだけの顔ぶれが揃っているのは、偶然でもないわけか」


 嘆く亡者の剣は、ただの剣になった。鋭さを増したノイン達の攻勢に対応しつつ、巨城にて動き回るミラを見据える魔王。この迅速な対応は、あの召喚術士の仕業かと確認して納得すると改めてノイン達を見回した。

 ここに揃う者達は、ただ拠点から骸を奪うだけが目的ではない。それは魔王まで討ち取ろうという明確な目的も帯びていた。

 追い詰めたわけではなく、おびき出された。その事に魔王は気づいたようだ。


「ああ、そうだ。今日ここで決着をつけてやる」


 ノインは正々堂々と相対し迫りくる斬撃を受け止めながら、その決意と意志をはっきりと口にする。心に輝く正義を宿し、力強く平和を謳う。その姿は全ての者達に勇気を与えるほど雄々しく輝く。まさに英雄そのものの姿だ。


「かつては大陸全てを相手にした私を、ここにいる数十人程度で相手しようというわけか。まったく、この数千年の間に随分と人間達は驕り高ぶったようだ」


 その明確な意志を察した魔王は、だからこそ笑う。くつくつと肩を震わせ、それを滑稽だと表し大きく距離を空ける。そして次には剣を構え不敵に口元を歪めた。


「その勘違いを後悔させてやろう!」


 声高に叫ぶと共に魔王が剣を振り下ろす。

 するとどうだ。先程まで掻き消えていた寒気と不安がノイン達の胸の中で一気に増大したではないか。


「なん、だ……」


 昂っていた感情が一気に反転させられたかのような、目の前に凄惨な未来を突きつけられたかのようなイメージが浮かんでは消えていく。

 ノインはあまりにも鮮烈な悲しみに目を伏せたくなってしまうのを、どうにか堪える。ここで感情に屈してはだめだと、消えかけの勇気を振り絞る。

 と、次の瞬間だ。虹色の輝きが周囲一帯を包み込む。するとどうだ、鬱々とした気配は一気に掻き消え、更なる勇気と闘志が湧き上がってきたではないか。


「味方の時は、やっぱり頼りになるんだよなぁ……」


 巨城を見れば、虹精霊トゥインクルパムとミラの姿があった。心に煌めく輝きは、ミラが手配した特別な精霊魔法によるものだとわかる。


「数十人程度だが、なかなかやるものだろ?」


 ミラに対しては複雑な感情が入り乱れているが、的確かつ迅速に対処するその手腕は、やはり流石だ。そう尊敬するノインは、後衛を狙おうとする魔王の前に雄々しく立ち塞がった。


「こうも直ぐに対策されるとはな。先に始末しておきたかったが、行かせてはもらえないか」


 視線を遠くから正面のノインへと戻した魔王は、更にそこに並ぶ強者達を見回す。そしてどういうつもりか、手にした剣を放り捨てた。


「降参……ってわけじゃあないか」


 得物を捨てる。その行動は概ね戦意喪失や継戦の放棄といった類のものだが、魔王の目は、より一層鈍く輝いていた。


「ああ、当然だ」


 そう言葉にすると共に、魔王の両手に黒く深い闇が集まっていく。

 直後、アルトヴィードが動いた。何かを感じ取ったのか、そうはさせるかといった勢いで魔王に斬りかかる。

 暴風の如き激しさと、圧倒的な斬撃の物量が特徴的なアルトヴィードの剣技。嵐にも例えられるその剣嵐は、時に敵を跡形もなく斬り刻む。

 そんな彼の剣が魔王を襲う。しかもアルトヴィードに呼応するかのように、ローザンとアシュラオもタイミングを合わせて剣を振るっていた。


「これは!?」


 三人の剣が魔王を捉えた──と思った直後、闇が膨れ上がった。そして気付いた時には、深く不吉な印象のある剣が魔王の両手に握られており、アルトヴィード達が宙を舞っていた。


「三人を頼む!」


 止めを刺そうというのか。救助を任せたノインは空に向かって剣を振ろうとする魔王に向かい、それを阻止するべく一気に駆け抜けた。


「やはり来たな」


 だが、それこそが魔王の狙いだった。待ち構えていたかのようにその視線をノインに戻し、空に向けて構えていた剣を振り下ろした。


「くっ!」


 反射的に大盾で受け止めたノインだが、途端に苦悶の声が漏れる。

 まるで巨大な魔獣の爪を受け止めたかのような、見た目とは比べ物にならないほどに重い一撃だったのだ。

 しかも今はまだ一撃だけ。魔王の手にはもう一本の剣があり、それも直ぐに振り下ろされた。

 その追撃を受けたら間違いなく崩される。


「おおおぉぉっ!」


 ノインは、その剣が届くより先に吠えた。そして全身に闘気を漲らせて大盾を豪快に突き出す。


【闘技:パラディンバッシュ】


 至近距離から強引に大盾を叩きつけるという単純な技だが、盾の扱いをとことん追求した聖騎士ノインのそれは、ただのシールドバッシュとは別物だった。

 魔王の剣を諸共に押し返すのみならず、そこに収束した聖なる力が一気に炸裂したのだ。

 その衝撃力は、それこそ高速で走る列車のそれにも匹敵する。


「小癪な……!」


 強烈な衝撃音と共に閃光が奔る。ノイン渾身の一撃とあってか魔王にも直撃は響いたようで、数メートルほど押し返した。けれどそこで両足を地面に着け勢いを完全に止められてしまう。

 ただ、その制動のために体勢を整えなければいけない僅かな時間は、間違いなく狙い所でもあった。


【仙術・地:炎帝彩禍】


【仙術・地:冨玄六合】


 その僅かな好機を穿つのは仙術士のルヴォラとメイリンだ。まるで息を合わせたかのように双方向から飛び出した二人は一足で魔王の隣に迫り、強烈な仙術を叩き込む。

 渦巻く炎が螺旋を描く槍となって敵を貫くルヴォラの一撃。

 両足でしかと踏み込み己の身体を柱とし、大いなる大地の力を集めて繰り出すメイリンの一撃。

 これが同時に炸裂したとなったら、どれほど強靭な装甲があろうと無事では済まないだろう。しかし確かな手応えの後に二人がそのまま離脱するよりも早く黒い剣閃が奔った。


「むぅっ!」


「──やるネ!」


 赤い飛沫が舞った。魔王の剣はルヴォラの肩とメイリンの腕を掠めていた。ただ、その鋭さは見た目以上のようだ。

 危険を察して身を翻した二人の反応は、これ以上ないものだった。ゆえに掠めた程度のはずだが傷口は深く、とめどなく血が流れ出している。

 とはいえ魔王にも二人の一撃は効いたようだ。素早く距離をとり、そこらに並ぶ全員を注意深く観察し始めた。


(カウンターには要注意だな)


 機動力においては最高クラスの二人が直ぐに出来る限りの回避行動をとってなお避けきれず、これだけの傷だ。

 あれほどの重い攻撃を受けてなお、これだけ迅速に反撃を繰り出してきた魔王の耐久力と反応速度は、かなり厄介である。


「お二人は直ぐ後方に」


 だからこそノインは、多少の怪我などどうという事もないとその場で応急処置を施し構える二人に引くよう促した。後方に控える聖術士──名も無き四十八将軍の一人『戦聖姫セレーナ』に治療してもらうようにと。

 その肩と腕では、万全とはいえない。しかも相手の実力は、全て見切れたわけではない。ゆえにノインは少しの不安要素も残さないようにするべきだと判断したわけだ。

 警戒したまま隙なく構え、魔王の一挙手一投足も見逃すまいと集中しているノイン。

 だからこそ、その真剣さと確実な勝利を目指す気迫が伝わったようだ。ルヴォラとメイリンは、素直に従い前線から退く。

 すると待っていましたとばかりに、セレーナの聖術が飛んできた。優しい光が二人を包み込むと、瞬く間に傷は塞がり痛みも消えた。


「これでばっちりヨ!」


「ああ」


 メイリンは巨城に向かって大きく手を振り、そのまま前線へと戻っていく。

 ただルヴォラは、そこで何かを考えるように立ち止まる。そして何か思いつきでもしたのか、そのまま後衛陣のいる巨城の方へと駆けていった。











つい先日の出来事です。

室内運動の良きパートナであったウォーキングマシンが壊れてしまいました。


いつものように、ヘッドホンをして音楽を聴きながら軽快にウォーキングしていたのですが、

突如、がくっと速度が落ちたかと思えば煙を吹き始めたではありませんか!!


もう慌てて止めてコンセントを引っこ抜きました。

なんだか、焦げたかつおぶしのような臭いが一日残りましたね……。


しかしこれは困りました。

ウォーキングとエアロバイクが日課なのですが、ウォーキングの分もエアロバイクにすると今度はエアロバイクの酷使で、こちらの寿命も早くに訪れかねません。


今のエアロバイクは二台目なので、もっと長持ちしてほしい。

というわけで、ウォーキングに代わる運動で何かいいものはないかと考えました。


そしてとりあえず始めてみたのは、あの懐かしの踏み台昇降運動!!!

それにしても、手頃な踏み台って、意外とありませんね。

とりあえず手近にあるダンボールに適当なものを詰め込んで、それを踏み台代わりにしてみました。


高さにして10cmほどですが、これでひたすら40分続ければなかなかいい感じです!


もっとちゃんとした踏み台を見繕ってみようか。

そう思う今日この頃でした。

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― 新着の感想 ―
まだまだ戦闘序盤ですけど、もんの凄い応酬ですね。とは言え………魔王は軽くても重い手札が豊富かつ継戦能力が高そうですけど、こちらはそうでもないですからねぇ。特にタンク役は。トップクラスなので仕方ないです…
›騎士然とした立ち振舞。強敵を前にしても怯まぬ気丈な態度。いっそ物語の主人公かというくらいに力強く見えるその背は、誰もが憧れる聖騎士そのものだ。 こんなかっこいい騎士様はTS元召喚術狂いの変態御爺を…
魔王にとっても、ノインの防御力は厄介なものなんですね。ミラの精霊による的確なサポートが光ってますね!(⌒▽⌒) 最近、電子機器の発火による火災が多いらしいので、気をつけなければなりませんよね……(;…
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