637 教皇躍進
コミック版14巻が発売になりました!
ぜひとも、よろしくお願いします!
六百三十七
無事に『生贄の壁』の問題を解決して部屋へと踏み入ったミラ達は、その奥で目標の骸を発見した。
「間違いなく、あれね」
「流石に強固じゃな」
だが相手側にとっても重要なものだ。そのまま直ぐに持ち出せる状態ではなかった。魔王も、かなり警戒しているのか、骸は強固な結界によって守られていた。
何やら不気味な黒い幕のようなものに覆われており、試しに触れてみようと思うのも躊躇われる、そんな結界だ。
「結界なら……って思ったんだけど、なにこれ? なんか、術式も何もわからないんだけど」
「……ですね、どこをどう見ても読み取れそうなところがありません」
結界といえば、カグラやヴァレンティンが得意とする分野だ。けれど、それをじっくり観察した二人は揃ってお手上げだと口にした。
いわく、そこにある結界は術や魔法の類によるものではない、というのだ。
「うっ──。申し訳ございません。私にも……」
ここは活躍出来るチャンスだと思ったのだろう。ダンタリオンもまた結界の解析にのりだしたが、暫くしてその顔をどんよりと曇らせながら肩を落とした。
悪魔の魔法に詳しいダンタリオンまで知らないとなったら、これはいったい何なのか。
どうしたものか。どうやって骸を持ちだそうか。これを解除するのは、かなり時間がかかりそうだ。と、ミラ達が唸り悩んでいたところだった。
「あ、これってもしかして、『魔錠千牢』だったりするんじゃない?」
どうすればいいのか。といった空気の漂う中、諦めずにじっと結界を観察していた者──教皇が、何かに気づいたように声を上げた。
「もしや、これが何か知っておるのか!?」
聞き覚えのない名称が飛び出してきた事で、救世主の登場だと喜ぶミラ。またカグラ達も、期待を込めた目で振り返る。
「ふふーん。では、教えてあげましょう──」
九賢者に十二使徒、そして名も無き四十八将軍。大陸でもトップクラスに有名な将達に頼られたとあってか急に得意げになった教皇は、その知識を存分に披露した。
いわく、『魔錠千牢』とは、今よりもずっと昔の時代に使われていた特別な牢だという。
そしてこの牢は、マナと変質させたマナを融合させた物質を組み合わせて作るそうだ。ゆえに魔法を使って作るわけだが、完成したものは組み上がった融合物質。だからこそ術式の類が読み取れなかったというわけだ。
「──それでこれの特徴は、守るんじゃなくて外敵を排除するという方に強く働くの」
最後に教皇は、『魔錠千牢』の特殊性に触れた。
極めて攻撃性が高いそうで、かつては罠として多く利用されていたそうだ。止めを刺さず、この『魔錠千牢』に閉じ込めるという方法で、見捨てられないという感情を利用して多くの者を巻き添えにするというわけだ。
「そういったわけで禁じられて、そのまま忘れ去られたものだけど、まさかここで見る事になるなんて思わなかったわ」
そう言いながら教皇は、『魔錠千牢』へと歩み寄っていく。
「危ないのではないか!?」
話によると、かなり物騒な代物だ。だからこそ慌てて引き止めたミラであったが、教皇は笑って振り向いた。
「私達、歴代の教皇ってね、こういった歴史的危険物にも対処出来るように、知識だけじゃなくて技術も代々受け継いでいるの。だから任せておいて」
そんな言葉と共に『魔錠千牢』へと向き直った教皇は、手にした杖を掲げてマナを集中させていった。
その言葉が示す通り、それは術という類のものではなかった。あえて言うならば、マナを操作する技術とでもいうべきか。不可思議に揺らぐマナは、やがて結晶のような粒となって『魔錠千牢』に降り注いだ。
するとどうだ。まるで氷に湯を注ぐかのように『魔錠千牢』が溶けていったではないか。
「ほほぅ、こんな事も出来るのじゃな」
「さっすが。やっぱりただ者じゃないわね」
大陸最大の三神教。そのトップを長く勤め続けているだけあって、彼女の実力は本物だ。その知識と技術を改めて見せつけられたミラ達は感心すると共に、教皇が持つ知識と技術にも興味を寄せては不敵に笑っていた。
「さて、後はこれを持ち帰るだけじゃが……これは本当に留守っぽいのぅ」
目標の骸を無事に確保出来た。後は飛空船に戻りゲートで神域へと運び処理するだけだ。
作戦は既に折り返し地点。けれど、魔王の反応は未だに皆無。何かしら窺っているという気配もない。
「見事、出かけているところだったってわけね」
「もしかしたらダミーとして流した、あっちの方に向かっていたりするかもしれませんね」
その分、楽でよかったと笑うカグラと、現状がどういった形で成り立ったのかを分析するヴァレンティン。
「あー、その可能性もありそうじゃな」
魔王の拠点に侵攻するにあたり、敵勢力の戦力分散を狙い仕掛けた陽動作戦。
報告によると、そちらに向かって出発した敵影が確認されているわけだが、その中に魔王が交っていたのかもしれない。
これまでにミラが骸を消滅させてきたからこそ余計に危機感を煽り、魔王の出動を誘えたとも考えられる。
「しかし、我らが骸を奪い返した事には、もう気づいているでござろう。ゆえに、早くここを出るでござるよ」
魔王は、骸の動きを検知する能力を持っているという話だ。だからこそ既にこちらの異変を察知し、急いで戻ってきていると思われる。
ならば少しでも早く脱出し、少しでも早く上の戦闘を終わらせて、少しでも早く魔王との戦いに備えるべきだと告げたサイゾーは、「こっちでござる」と続け駆け出していった。
「うむ、そうじゃな」
魔王が戻ってきているからといって、逃げる必要はない。むしろ魔王との決戦も想定して戦力を揃え、ここに乗り込んできているのだ。
戻ってきてくれるというのなら、このまま迎え撃てばいい。
魔物については、ほぼ全滅させた。後は拠点に残っていた公爵級と魔獣にも決着をつければ、それだけ魔王戦が有利になる。
その通りだと頷いたミラ達もまた、サイゾーに続き走り出す。骸の元までは随分と迷わされた場所であったが、出る時はサイゾーのお陰で楽々だ。
「ほぅ、流石の腕前じゃのぅ」
地下の拠点から脱出したミラ達がまず目にしたのは、ゴットフリートのチームが一気呵成に仕掛けていく光景だった。
個々の戦力に加え編成のバランスもよく、それぞれが確実に自らの役割をこなしている。公爵級を相手にしながら次から次へと攻撃を仕掛け、反撃の隙を与えていない。
中でも特に、ゴットフリートの一撃の威力は目を見張るものがあった。前回に会った時よりも──というより前回のそれがいい経験になったのだろう、技の冴えに磨きがかかっていた。
とはいえ相手も相当だ。このまま直ぐに決着というわけにはいかないだろう。ただ割れた瓶が転がっているのを確認出来たため、変異は防げたとわかる。
「このまま加勢して一気に決めましょう」
ならばもう、憂いはない。後はこのまま押し切るだけだと、ヴァレンティンはまずノインのチームに加勢するよう指揮して飛び出していく。
「それじゃあ、早く来てね」
「わかっておる、わかっておる」
続けて皆も加勢していく中で、カグラが振り返る。ここでミラだけは、一時的に別行動となっているからだ。
その理由は単純。まず骸の確保を確定させるためである。
現状、魔王がどのくらいで戻ってくるのかは、わからない。場合によっては、まだここでの決着がついていない時に戻ってきてしまうかもしれない。
そうなったら、なし崩し的に魔王決戦開始だ。そうなったら、骸がどうこうとは言っていられない激戦へと移行していく事になる。
場合によっては、頃合いを見計らって骸を奪い返されてしまう恐れがあった。
だからこその別行動だ。簡易封印を施した骸を、まず先に神域に置いてきてしまおうというわけである。そうすれば、どのような乱戦状態になったところで、隙を見て奪い返されるなんて事にはならないわけだ。
「さて──」
戦力が加わった事で、戦況が大きくこちらへ傾いていく。それを確認したミラは骸をホーリーナイトに抱えさせて、えっちらおっちらと飛空船の中に運び込む。
それからゲートの前で着替えたミラは、次に骸を用意しておいた台車に載せる。胴の骸の封印は特に強固なため大きく、一人で運ぶのは一苦労だ。
神域に入った後、そのままエレベーターに台車ごと骸を突っ込んで三神の許へと送った。
「よし、これで一先ず安心じゃな」
三神の方には既に話も通し済みだ。よって骸が到着したら、あちらの方で準備を進めておいてくれる事になっている。
魔王の事もあって、今は一分一秒を争う状況。ゆえに骸を消滅させている時間はない。
また、魔王を倒したら、その主因子も消滅させる必要がある。これは主因子を引き受けた後、神域にて専用の依代に移してから骸と共に神器で消し飛ばすという方法をとる予定だ。
それを確実に為すために、少しでも早く戻り戦力となって魔獣を倒し、公爵級を浄化してしまうのが最優先だ。
エレベーターが動いたのを確認したミラは、そのまま直ぐにゲートで戻り着替えてから戦場に舞い戻った。
「ふむ、わしはこっちの方でもよさそうじゃな」
公爵級二体と魔獣が暴れる主戦場。その様子を確かめたミラは離れた位置で全体を見渡し、そう判断した。
敵側の戦力も相当だが、こちらも精鋭ばかりが揃っている。特に元プレイヤー達の勢いは凄まじく、ヴァレンティンのチームが加勢した事によって、かなり押し始めていた。
ゆえにミラは前線の戦力は十分だと、サポート側に回る。
音の精霊レティシャと虹の精霊トゥインクルパムを召喚して、仲間達の補助を更に盤石なものへと強化。続き、飛空船の傍に展開されている結界の中へと向かった。
「こちらも大丈夫そうな感じじゃが……」
多重結界で護られているそこは、いわば救護班用の詰め所といった場所になっている。見れば六人ほどの負傷者が手当てを受けていた。
優勢ではあるものの、誰もが無事というわけではない。激戦ゆえにここは負傷者が入れ代わり立ち代わりといった状況だった。
なお、聖術士は全員が前線を支える事に注力しているため、ここにいる救護班は医療の心得もある飛空船の技術者達だ。
とはいえ治療効率が聖術士に劣るかというと、そんな事はない。何といっても今回の決戦のために、日之本委員会で研究開発されている回復薬が大量に持ち込まれているからだ。これでもかというくらいの大盤振る舞いである。
「もう痛みもなければ、身体の底から充実してくるような気分だ! ふぉぉぉぉぉう!」
傷を治し、気分も向上し、ヤル気まで漲ってくる。特別な薬が盛り沢山だ。先ほどまで苦しそうにしていた四聖将の一人が元気よく飛び出していった。
張り切っていってらっしゃいと見送る救護班の面々の顔には、成功だと浮かんでいた。
「うぅ……お役に立てず申し訳ない……」
そんな中、苦しそうな声が聞こえ振り向いてみれば、そこには特に傷だらけの男の姿があった。
「そんな事ないさ。飛空船の皆が無事だったのは、君がここに来てくれたお陰なんだから」
その男は四聖将の一人、シャルーク。そんな彼を手当てしながら慰めの言葉をかけているのはミケだ。
「やっぱり呪痕が深い。他の薬は──」
しっかり横になって安静にするようにと続けたミケは、効き目の有りそうな薬を探してアイテムボックスを漁る。
決戦のためにと潤沢に用意された薬の数々。だが、その素材や希少性といったところで簡単に用意出来ないものもあった。
「なるほどのぅ。これは厄介じゃな」
呪痕。話を聞いて結界の外を確認してみたミラは、そこに転がる夥しい数の死骸に注目した。
よく見なくともわかる。それらは、昨日今日に息絶えたというものではない。しかも百体以上に及ぶそれらは、魔物や動物のみならず、それこそ人と思しき死体までもが含まれていた。
その状況と様子から察するに、それらは死霊術に類するような力で操られていたものだと判断出来る。
呪痕は、死を纏う存在が持つ潜在的な恨みや憎しみが原因で生み出された、いわば呪いのようなものだ。
特に傷つけられた際に受けてしまうもの。つまりシャルークは、この数の死骸を相手に戦い負傷したというわけだ。
「こういう時は──」
呪痕は、治療の難しい傷だ。とはいえ通常の治療が難しいだけで、治す方法は幾つかあった。
しかも今回に至っては、そう難しいものではない。何といっても優秀な聖術士ならば、呪痕の浄化など簡単だからだ。
そして優秀な聖術士は、各チームに一人はいる。だからこそちょっと手伝ってもらえれば解決なのだが、状況が状況だ。誰かいないかと戦場を見回したミラだったが、当然手の空いている聖術士はいない。
「ならば──!」
とはいえ、他にも手段はある。そもそも呪痕を治すために必要なのは、そこに受けた不浄の呪いを解けばいいだけだ。
そして、それが出来るのは聖術士だけではない。むしろそういった類は、神職に就く者の得意分野である。
「あ、おったな。ちょいと行ってくる!」
「あ、ちょっと……!」
つまり現状で最も適任なのは、三神教の頂点である教皇その人だ。ミラはヴァレンティン達の後方に控える彼女の姿を見つけると、慌てるシャルークの声を置き去りに飛び出していった。
先月でしょうか。
心が震えるような思わぬニュースが飛び込んできました。
それは……
悠久幻想曲のリメイク!!!!!!
なんだと!? こんな……2025年になって、まさかそんな事があるというのか!?
と、それはもう驚愕し、同時に歓喜しておりました。
悠久幻想曲……それは、唯一ちゃんと遊んだギャルゲー。
男もいますが、まあ大きく分類するならギャルゲーといってもきっと問題ないでしょう。
そんなゲームが、なんとまさかのリメイク!
遂に、遂にswitchを買う時がきたようです。
今のタイミングならswitch2の方を買うのがいいですかね。
発売日は、12月。その頃には店で気軽に買えるようになっているといいなぁ。