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636 骸を求めて

六百三十六



「しかしなんとも、おどろおどろしいのぅ……」


 地下に広がっている、魔王の拠点の心臓部。そこは魔王という名から感じ取れる印象通りに、不気味な気配と景観に溢れていた。

 黒い岩というべきか、闇に堕ちた岩とでもいうべきか。それこそ善くない何かに汚染されたかのような色合いに染まったここは、正にラストダンジョンとでもいった雰囲気である。


「方向的には、このまま真っすぐね」


 このような場所で一つのものを探すとなったら、相当に骨が折れそうなところだが、今はカグラがいる。

 目標となる骸の位置は、そこに仕込んだ式符を彼女が探知するという方法で正確に把握出来るのだ。そのため、目指すべき方向に迷う事はない。しかしながら拠点内部の構造といった点については探知外だ。


「壁、じゃのぅ」


「壁、ですね」


 カグラが指さす方向には、どんと壁が立ち塞がっていた。そう、方向がわかるのはいいのだが階層や区画で細かく分けられているため、簡単には辿り着ける状態ではないのだ。

 しかも魔術士三人による大破壊にも耐えたような構造物だ。よほど分厚くて強固なのだろう、その壁を撃ち抜く事も困難。ゆえにミラ達は、ダンジョン攻略さながらに、あっちこっちと奔走する事を余儀なくされていた。


「──であれば、次は向こうでござるな」


 とはいえサイゾーがいてくれるお陰で、同じ道を行ったり来たりという事にはならなかった。彼のマッピング能力は、いったいどれほどのものなのか。着実にルートを絞り込んでいく。


「露払いは、我らにお任せ下さい!」


 拠点内部をうろうろ彷徨っていれば、拠点を防衛する魔物と遭遇する事もある。

 とはいえ、通路は通路。レイド級の大型などが控えているような場面はなかった。ただし生半可な魔物でもない。どれもがBからAランクにも相当するほどの強敵だらけだ。だからこそヘムドールや四聖将達は、率先して魔物の処理を引き受けていた。

 ミラ達主戦力に万全でいてもらうためという理由が一つと、少しでも役に立ちたいという思いが一つ。ついでに英雄達の前で活躍したいという願望も交じっているようだ。


「しかしまた、凄まじい武具じゃな。こんなものを持っておったとはのぅ」


 複数の魔物を相手に、獅子奮迅の活躍をみせるヘムドール。そんな彼の姿は今、空港にいた時から大きく変わっていた。

 白銀と黒金の複合装甲と黄金の紋章。更に光を纏う大剣と重厚な盾。一回り大きく見えるほどの重装備で、パワードスーツにでも乗り込んだかのような風貌だ。


「これは、三神将の神器を使う練習用とでもいいましょうか。今回、特別に持ち出しを許可してもらいまして。今の私が使う事の出来る最強を用意いたしました」


 ミラの興味を惹けて嬉しかったのか、ヘムドールはその鎧について色々と教えてくれた。

 三神将を最強たらしめる、究極の神器。だが当然、その破格の力は簡単に扱えるものではない。それこそ人の領域を超えるくらいの技量と精神、何より魂の練磨が必要不可欠だ。

 強力過ぎるがゆえ、生半可な実力では使用者を破壊してしまう三神将の神器。だからこそ三神将の候補者というのは、そのために専用の訓練を行っている。

 その一つが、ヘムドールの着込んでいる武具だそうだ。僅かながらも神力を秘めており、それを特別な技法で増幅。その結果、非常に強力な武具として運用出来るようになっていた。

 ただその分、使用者の負担は大きい。そして、その負荷が何よりの訓練になっているという。


「憧れてしまいますね。私もいずれは、と」


 ヘムドールの言葉に羨望を浮かべたのは四聖将の一人、シーラだ。

 四聖将というのは、三神将候補の前段階といった一面も担っている。ここから突出した者が、候補者としての修業を始めるのだ。

 だからこそ、既にその段階にいるヘムドールが羨ましいのだろう。

 ヘムドールといえば色々と問題を起こした過去がある。加えて三神将の孫という有利な立場でもある。だからこそ羨望は妬みにも変わりそうだが、シーラにその様子はなかった。


「へぇ、意外とあっさりしたものなんだね。四聖将の方々からすると、腹に据えかねた感情とかありそうだと思ったのに」


 と、繊細な部分に堂々と言葉を挟んでいくのは、名も無き四十八将軍の一人、斬魔卿アシュラオだ。

 二刀流の退魔術士である彼は、嫌われ役を買って出ては本当に嫌われて落ち込んだりする、強いのか弱いのかわからないメンタルの持ち主だ。


「えっと、それはもう。周りから見るとそう感じる方もいるかもですが、私達は、そちらの鎧の力と恐ろしさをよく知っております。何の訓練もなく身に着ければ命すら危うい代物ですから。だからこそ今のヘムドール様を見て抱くのは、どれほどの苦労を重ねればそこに至れるのか、といった尊敬が大きいですね」


 その鎧を着ているという事は、彼が積み重ねてきた努力の証でもある。ゆえにシーラは四聖将が彼を妬むような事はないと答える。すると残る二人もまた、その通りだと頷いた。


「おお、そのように思ってもらえていたとは……!」


 その言葉を聞いた直後、何よりも驚いていたのはヘムドールだった。

 彼自身もまた、恵まれた立場にあるというのは自覚していた。だからこそ多くの反発を受ける事も覚悟しており、だからこそ人一倍に努力してきたつもりであった。

 そんな努力が、最も反発されそうな四聖将に認められた。特に不安な部分だったからこそ、この事実はヘムドールにとって大きく気持ちを前進させるものとなったようだ。


「この鎧に恥じぬよう、これからも精進していくとここに誓おう!」


 そう高らかに宣言したヘムドールは、喜び勇んで先頭は任せろと告げ力強く前進していった。


「今のところを左でござるな」


 ただ、どうやら勇み足が過ぎたようだ。通り過ぎていった横道をサイゾーが指し示す。ぴたりと足を止めたヘムドールは、ちょっとばつが悪そうに目を泳がせながら、そそくさと戻り、いざゆかんとやり直した。




「この先のはずなんだけど……」


 道中、ヘムドールを筆頭に遭遇する魔物を蹴散らしながら進む事暫く。ミラ達は遂に、骸が保管されている場所の入り口らしきところにたどり着いた。


「これは、どういった感じのものなんですかね」


 それを前にしながら困惑気味に見上げていくヴァレンティン。

 そこには、黒い壁が聳えていた。扉というような類には見えない。また、この地下全体に広がっている不気味な岩壁とも明らかに違う。それはもう完全な漆黒であった。


「まあ、そうじゃろうな。ここまできたからといって、そう簡単に持ち出せるようにはなっておらんか」


 骸の奪取を阻む謎の壁。ただ、こういった状況もある程度は予想出来た事だ。魔王側にとっても重要なものなのだから、そこらにぽんと置いておくはずもない。それこそ金庫のようなものに入れて厳重に封をしておくのが当然というものだ。

 ゆえに目の前のそれは、金庫の扉か、はたまたその外郭といったところだろう。


「まずは分析からじゃな」


 幾つかのパターンを想定していたミラは、まず初めに出来そうな事を実行するために手を伸ばす。今回のように謎の物質に阻まれた場合は、それに触れて精霊王に解析してもらうと決めてあった。


「ああ、君主様。ここは一つ、この私めにお任せください」


 ミラが壁に触れる寸前、何やら黒い壁をじっと観察していたダンタリオンが、その正面に滑り込みミラの手の平を腹で受け止めた。そしてほんのりと喜色を浮かべながら、そんな事を口にする。


「ほぅ、もしや何か心当たりでもあったか?」


 程よく引き締まったダンタリオンの腹筋。イケメン感を増す要素が癪に障りつつも、ミラは現状を打破する可能性があるのならと続きを促す。


「はい。おそらくですが、これは以前にシグマ・アーカイブにて研究談議されていた『生贄の壁』かと」


 シグマ・アーカイブ。ダンタリオンが管理者権限を有する、いわば悪魔用のネット掲示板的存在だが、どうやらそこでそれらしい情報のやり取りが行われていたらしい。よく観察してみたところ、情報と一致する部分が多いという。


「なんとも物騒な名称じゃな……」


 ミラは触らなくてよかったと、いっそダンタリオンの腹筋に感謝しつつ、その気味悪さに一歩距離を置いた。


「それはもう、多くの魔物がそのまま材料になっているという代物ですからね」


 そんな言葉と共にダンタリオンが、その壁をつんと指先で突いたところだ。そこを中心に波紋が広がるように揺らめき始め、この世のものとは思えないような呻き声が響き始めた。

 更に見れば、揺らめきと共に漆黒のそれも微かに光の加減が変わり、その一部がほんのりと浮かび上がる。


「うわっ……とんでもないわね」


 見えたのは、圧縮され押し固められたかのような魔物の姿であった。いったい何十、何百の魔物を材料にしたというのか。魔王の所業といえど、常軌を逸しているとドン引くカグラ。

 ミラもそのすぐ後に、一歩二歩と更に距離をとった。


「ともあれじゃ。任せろという事は、つまりこれを開ける方法も心得ておるという事じゃな?」


「それは、もちろんでございます」


 目の前のそれが何であれ、自信満々に名乗りを上げたダンタリオンである。ならばどうにか出来るのかと確認したところ、心強い答えが返ってきた。

 いわく、『生贄の壁』については強固なプロテクトがかけられていたが、いつか役に立つ日が来るかもしれないと考え、管理者権限を利用して隅から隅まで履修しておいたとの事だ。

 浄化された今、ダンタリオンにとって悪魔達の悪巧みは、その全てが警戒対象。ゆえにそれらの情報を把握しておけばミラの役に立てると考え、片っ端から閲覧しているのだ。


「ふむ、ようやった。では早速じゃが、これを解除出来るか?」


 全てを把握するダンタリオンのお陰で、これから分析や解析をする時間は必要なくなった。

 他者の研究成果を盗み見る管理者というと随分見聞の悪い印象があるが、それはそれ。むしろ素晴らしい心がけだと称賛したミラは、早速『生贄の壁』をどうにかするように頼む。


「お任せ下さい!」


 ミラに頼られたダンタリオンは、それこそ心躍らせるように答えて解除作業を開始した。




「──解除したら魔物に戻ると、先に言っておいて欲しかったのじゃがな!?」


 それは数分前の出来事だ。

 ダンタリオンが『生贄の壁』を見事に解除した直後。何と生贄(・・)として使われていた数百を超える魔物が、目の前で復活したのである。

 生贄というのだから、当然全て死んでいると思っていたミラ達だ。戦力的にはたいした事のない魔物ばかりではあったのだが、吠えて鳴いて叫んでの大合唱に、まず驚かされた。

 加えて解除後のそれは、アラーム的な意味も含んでいたのだろう。その声に警備の魔物が次から次へと引き寄せられてきたのも面倒なところであった。

 結果として突然魔物と遭遇した事となり、慌てて戦闘開始となったわけだが、流石にそこはミラ達の戦力の方が上だ。魔物の始末は、そうかからず終了した。

 そして今である。無事ではあったものの、こうなるとわかっていたら素早く簡潔に終わらせられていただろうと、ミラはダンタリオンを小突いていた。


「ああ、申し訳ございません君主様。失念しておりました……」


 そう反省したように答えるダンタリオンは、けれどミラに小言を言われながら、どことなく悦に入った顔をしていた。

 役に立って褒められるのみならず、叱責されるのもまた彼にとってはご褒美のようだ。


「とりあえず、中を確認しましょ」


「そうでござるな。では拙者が先に」


 ダンタリオンの変態性を垣間見たカグラが、そそくさと歩き出したところ、サイゾーが素早く先頭を買って出る。

 そして罠がないと確認出来たところで皆もまたそれに続き、さっさと先に進んでいった。











先日からAbemaTVでドラゴンボールをみていました。

しかも少年時代の第一話からです!


これまでZの方はテレビで何度も再放送されていたのですが、この初代の方はまったくといっていいほど再放送されていなかったので、とてつもなく久しぶりの視聴となりました!!

前回見たのは、それこそ数十年前というくらいの久しぶりっぷりです。


だからこそか、大筋はある程度覚えていましたが、もうまったく覚えていない部分もちらほらありましたね。

そして見てから、ああーと思い出すような部分も。

ブルー将軍とか、そういえばいたなぁ……とか。

しかもブルー将軍ってピッコロと同じ声優だったんだと驚いたり。



そして、ここ数日で摩訶不思議アドベンチャーを歌った回数は自分がナンバーワンかもしれない。

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― 新着の感想 ―
そういえば、『悪役令嬢は最強を志す』(作者:フウ)にも《“軍勢”のアルマ》という召喚術師がいるよね。
神器… ミラたちがもらった物はプロトタイプで、ヘムドールが着ている鎧は後発品なのかな? 四聖将は三神将の鍛錬や武具のデメリットを知っているから、ヘムドールの努力と改心がわかったのですね。 わだかまった…
武士と侍と変態がいる。 実は悟空はブルー将軍に勝てていない。 いずれもネズミとアラレちゃんに助けてもらっている。
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