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631 人の器

六百三十一



「やあやあ、お待たせ」


 政治的な話が一通り済んだところで、アンドロメダとカシオペヤが合流した。


「不肖、カシオペヤ。無事、復帰となりました」


 検査の結果、カシオペヤの身体は十分に健康体だと判明したそうだ。希少な秘薬とブーストフルーツ、そしてアスクレピオスの治療が完璧だったと明確に証明されたわけである。


「うむうむ、これで一安心じゃな」


 カシオペヤの全快を喜びつつ、ミラは心の中で更に喜んでいた。

 致命的な状態からでも、やりようによっては命を繋ぎ留める事が出来る。そして召喚術には、その一助となれる力がある。そして彼女はその証明だ。

 これはミラにとっても大きな学びの一つとなった。


「そろそろ始まる感じかな?」


 続きやって来たのは教皇と大司教達だ。

 また研究所にて待機していたハミィにノイン、ソウルハウル。他、名も無き四十八将軍の十名と、現着していた九賢者のラストラーダ、メイリン。加えて十二使徒のアルトヴィードと鳳翁も、所長室に集まってきた。

 どうやらミラ達が説明を受けている間に招集がかかっていたようだ。魔王城攻略戦の指針とする作戦会議を、これから始めるようだ。


「……お主も座ったらどうじゃ?」


「いいえ、ミラ様。ここが私の特等席ですので」


 会議の開始を前にして全員が着席する中、一人だけ──ヴァレンティンが呼んだ浄化済みの精鋭悪魔三名の内の一人であるダンタリオンだけはミラの直ぐ後ろにぴったりと控え、動こうとしなかった。

 一人だけ立たれても落ち着かない。ミラは誰かそう言ってやってくれといった目で見回すが、これについて口を出す者はいなかった。

 何故ならばミラが黄金都市に行っている間に、全員がそれぞれ交流して人となりをある程度わかり合っていたからだ。その上で全員が、ダンタリオンの厄介さというのも把握済みであった。


「……あまり迷惑をかけるでないぞ」


「もちろんでございます」


 何とも落ち着かないが、ダンタリオンはとても満足そうだ。よって、そのままにしておいた方が大人しそうと判断したミラは、これ以上は突っ込まない事に決めた。

 そうして一通り落ち着いたところで、いよいよ会議が始まった。





 魔王城攻略戦の会議を経て、その準備が始まってから一週間と少々。

 ミラは今、ゲートを越えた先にある、アンドロメダの秘密基地にいた。

 このようなところで何をしているのかというと、実はこれといって特別な何かをしているわけではない。

 前回、前々回と魔物を統べる神の骸の処理をした中心人物がミラだったからこその一時的な措置だ。しかも、かの大秘境にて魔王と直接の対面を果たしている事から、中心人物として把握されているのは確実。

 ゆえに、ミラの動きでこちらの目論見を予測されないために作戦決行の直前まで、こうして誰にも見つからない秘密の場所に隠れているというわけだ。


「うむうむ、順調のようじゃな」


 なお準備の進行度合いなど現在の様々な情報については、毎日ゲート前に報告書が置かれているので必要分は十分に把握出来ている。

 また、ミラがここにいる間は精霊王とのネットワークが切断されてしまうのだが、その間、状況が把握出来なくなるのは心配だという精霊王のため、ソウルハウルがミニ精霊王ゴーレムを作ってくれていた。

 よって精霊王は現在、そのゴーレムを依代に研究所で動き回っている。作戦会議に参加したり相談役になったりと、アンドロメダ達と共にフォーセシアを解放するために頑張っているようだ。


「ふむ、いい感じじゃのぅ!」


 と、そのように報告書を確認しつつ隠れる日々が続いているわけだが、当然じっとなどしていられない性分のミラである。

 こっそりしつつも、召喚術の研究に打ち込んでいた。

 中でも特に、ここに来てからずっと熱心に試しているのは、やはり最近契約したばかりのガーディアン精霊だ。

 僅かだが神の力を秘めているため、武具精霊という枠組みでありながらも、その力を行使するためのマナ消費は上級の術にも迫り、術式もまた複雑だ。

 ゆえに、これまでの武具精霊の運用法と同じようにはいかない。とりあえず並べたり囮にしたり物量で強引に押し切ったりなどという使い方は、まず不可能だ。

 ガーディアン精霊専用の使い道を一から組み立てる必要があった。相当な時間と労力がかかるが、それでも納得出来るだけの力を秘めているのは確かだ。

 だからこそ今のミラは、ガーディアン精霊の研究に夢中になっていた。


「ここからは一から教えていかねばならんか。しかも適性から何から大きく違っておるからのぅ。いっそ思い切って別の剣術を──」


 類稀な力を秘めた存在ではあるが、まだ主力とするには問題も多かった。

 ミラが得意とするダークナイトやホーリーナイトには、これまでに数千数万と繰り広げられた厳しい戦いの中で成長していったからこその強さがある。

 けれど今のガーディアン精霊は、まだ契約したばかりだ。極めて恵まれた能力があるだけで、戦いのイロハというものが備わっていない。それが現状だった。

 そして当然ながら、一朝一夕で育てられるわけがない。よって今度の魔王戦での活躍は見込めないだろう。

 だが、ミラにはもう一つの活用法があった。


「おお……これは凄い! とんでもないのぅ!」


 それは武装召喚だ。しかも武装召喚の方は、むしろポテンシャルの方が重要になってくる召喚術であるため、その相性は抜群であった。

 神々しく輝くガーディアンフレームを身に纏ったミラは、全身を巡る万能感に震えながら飛び跳ねる。

 身体能力の向上に加え、攻守ともにこれまでの武装召喚から更に頭一つ抜けたといっても過言ではないほどの体感だ。アシストによる剣技といった面は大きく曇ってしまう事になるが、それ以外は圧倒的である。

 だからこそミラは実感する。これならば、もっと前線に立って存分に召喚術を振るう事が出来そうだと。

 これまでは俯瞰して把握するしかなかった最前線の戦況を間近で確認出来るようになったというのは、大きな選択肢といえるだろう。

 前線を支える一助を担ったり、サポートに回ったり。軍勢の運用法については選択肢が多いほどいいというものだ。

 更に出来る事が増えたぞと喜んだミラは、早速その新たな選択肢を基にした戦術を考え始めた。





 召喚術の研究に熱中するミラではあるが、やる事はそればかりでもなかった。

 この場所には神域へのゲートがあるため何かと干渉しやすいようで、三神から直接お呼ばれするなんて事もちょくちょくあったのだ。


「ふーむ、いい感じではないじゃろうか」


 巫女服に着替えたミラは、その着付け具合を鏡精霊で確認しながら満足げに頷く。

 神域に行くための巫女服は特殊な形状とあって、きっちり着るにはまだ誰かのサポートが必要だ。しかし隠れ潜んでいる今は、一人でどうにかしなければいけない。

 ゆえにミラは頑張っているわけだが完璧とはいかず、常に着崩れたような姿になってしまうのが困りものだ。

 今回もまた悪くないと自己評価するミラではあるが、やはり色々と緩み気味で不格好な状態にあった。

 とはいえ、着られてさえいれば問題はない。

 三神からの呼び出しとあってか初めのうちは緊張していたミラだったが、最近はもう慣れたものだ。着替え終えたらさっさとゲートを潜り抜け、三神の待つ間へと向かう。

 三神にとっては、気軽に話せる相手がいるという事が極めて珍しいそうだ。だからこそお呼ばれする内容というのは、概ね雑談が主だったりする。


「──危機的だけれど、だからこそ好機でもある」


 ただ時には、今後についての話題も挙がる事があった。

 勇気の神は言う。魔王の許には、魔物を統べる神の完全復活を企む者達が多く集まっていると。

 ゆえに、このまま好き勝手にさせていたらこちらの準備が調う前に最悪の状況に陥ってしまう。

 しかし、魔王の暗躍に気づけた今は違う。今回の作戦で、この魔王の勢力を先制して壊滅させる事が出来たなら、こちらが望む不完全な復活という形へと大きく近づけられるわけだ。

 魔王勢を倒せれば、骸の入手を邪魔する者はいなくなるだろう。そうすれば、頭以外を消滅させるのも時間の問題だ。


「残りが頭だけになれば、全盛期だったあの頃の半分以下にまで奴の力を抑え込む事が可能だ。そうなれば大陸への被害も最小限に止める事が出来るだろう」


 来たるべき決戦での課題は、魔物を統べる神を倒すだけではない。その影響から、どれだけ大陸を護る事が出来るかでもあると正義の神は語る。

 かつての大戦では、大陸の大部分に壊滅的な被害が及んだそうだ。


「きっとミラさんは、大陸を襲うそれらを間近で目にするでしょう。ですが、そのための準備はしてきましたから、貴女は目の前だけに集中してくださいね」


「うむ、心得た」


 いずれ訪れる決戦の時。その際に必要な心構えなども教えられたりしていたところで、話は再び目前に迫った魔王との戦いへと戻る。


「予想出来ると思うが、当然魔王は主因子持ちだ。しかも特に厄介なものになる」


 因子は、魔物を統べる神が世界に遺した呪いのようなもの。特に主因子は、本体の力の一端を受け継ぐ強力なものとなっている。

 だからこそ、これを持つ者を倒して主因子を浄化出来れば、更なる弱体化が可能だ。そして魔王の持つ特別な主因子を浄化出来たとしたら、その影響は絶大なのだが──。


「そこで、一つ注意が必要だ──」


 正義の神は、かの魔王が持つ主因子には極めて厄介な特性があると告げた。

 それは、かの主因子が肉体を離れたら直ぐ近くにある新たな肉体に宿るという特性を持っているという事。そう、大英雄フォーセシアが魔王となってしまった原因に繋がるものだ。

 魔物を統べる王とは、この主因子が原因として生まれる存在だと、フォーセシアの一件で判明した。となれば今回もまた、魔王を打ち倒した時に同じ事が起きるだろうと、三神は確信しているようだ。


「だからこそ魔王に止めを刺す時は、ミラさん、貴女にお任せしたいの」


 慈愛の女神は、少しだけ躊躇いながらも重々しく告げた。

 魔物を統べる王を生む主因子が肉体を離れるその時には、ミラが一番傍にいるように──つまりはその宿主に選ばれるようにしてほしいというのだ。


「どうするのが最善か、多くを話し合ったんだ。その結果出た答えは、ミラ殿に多大な負担をかけてしまうものになってしまった。けれど、正直なところこれが一番確実だったんだ」


「方法は、これから私達でミラさんの中に器となるものを創り、乗っ取ろうとしてきた主因子をそこに封じ込めるという形になります」


 勇気の神は誰かを囮にするような方法ではなく、もっと安全な策はないかと色々考えたらしい。けれど確実性を求めるならば、これ以上の方法がなかったと語る。

 また、その方法については慈愛の女神が概要を教えてくれた。

 早い話が、罠を仕掛けるわけだ。そしてミラの身体に入ったが最後、そこに仕掛けられた器に閉じ込めたら、続き精霊王が用意する依代に移し替えてしまうという流れだそうだ。


「それから先については簡単だ。取り返した骸と共に処分してしまえばいい」


 そのように説明を締めくくった勇気の神は、無理強いはしたくないが、出来れば力を貸してほしいと重ねて言葉にした。


(ふむ……リスキーといえばリスキーじゃな……)


 三神が確実な方法というのならば、きっとそれが一番なのだろう。また精霊王の協力も決まっているところからして、三神のみならず精霊王達も含めて幾度と綿密に会議して決まった策であるとわかる。

 とはいえミラにとって、相手は未知の存在だ。僅かながらに不安も生じていた。万が一にも乗っ取られてしまったら、自分はどうなってしまうのか。死んでしまう事になるのか、それとも精神が永遠に閉じ込められるなんて状態にでもなってしまうのか。

 魔物を統べる王にされるなんて事にでもなったら、どの道碌な事にならないのは確実だ。


「……うむ、わかった。それが最善策というのであれば、そうしようではないか」


 もしかしたらという危険性まで考えた末、ミラはその案を受け入れる事にした。

 その決断は、相当に難儀なものだった。けれど、これまで交流してきた精霊王達と三神への信頼、そして何よりも今生きる世界のため、大切な仲間達の未来のためになるのならと思い決心したのだ。


「感謝するぞ、ミラ殿」


「その決断の早さは凄いね。君の信頼は、確かに受け取ったよ」


「任せて。何があっても全力で援護しますからね」


 ミラの勇気ある決意を受けて立ちあがった三神は、そのまま歩み寄りミラを囲んでいく。そして三神がミラの頭と胸と背に触れたところで、それは始まった。


「お……おおお……」


 感覚としては、まるで直に心臓に触れられているかのような、また体内を熱い何かで包まれているような、これまでに一度も体験した事のない感覚にミラはびくりと身体を震わせる。

 身体どころか命や魂までも掌握されているのではないか。そう錯覚してしまうほどに強大な存在感を持つ熱は、やがてミラの体内を巡り全身へと広がっていった。


「んんっ……!」


 堪らず漏れ出た吐息は火でも吐いたのかと思えるくらいで、身体中が焼けるような熱さに、いっそ塗り潰されてしまいそうだと悶絶するミラ。

 けれど同時に全身で実感していた。この熱く迸る奔流が三神の力なのかと。そう体内で直に触れた事によって、ミラは神の力というものを明確に感じ取っていた。


「これで完了だ。少々負荷がかかったと思うが、健康に害はないので安心してくれ」


 神の器を創る作業は終了したと正義の神が告げる。どうやらこれでミラの身体の中に、主因子を封じるための器が完成したようだ。


「あまり実感みたいなものはないのじゃな」


 全身で激しく三神の力を感じていた先ほどまでと違い、完了した今は、これといった何かを感じられはしなかった。

 器が出来たそうだが、本当に出来たのだろうかと首を傾げたくなるくらいに存在感がない。

 と、ちょっと不安になるとミラが顔に出したところで慈愛の女神に抱き上げられたかと思えば、そのまま全身を撫で回されて確かめられた。


「うん、大丈夫。ちゃんとありますよ。というより、ミラさんとは相性がよかったのでしょう。思っていたよりもずっと綺麗に馴染んでいますね」


「よし、練習の成果ありだな」


 慈愛の女神が完璧な出来栄えだと断言したら、勇気の神は頑張った甲斐があったものだと笑う。

 どうやらこの時のために何度も練習していたようだ。なお正義の神は、それを言ってしまったら締らないと少々苦笑気味であった。

 そのようにして魔王戦に向けて、準備は着実に進んでいく。ただ、この時のミラはまだ知らなかった。三神から器を授かるという事が、いったいどういった意味を持つものなのかを。












先日からちまちまと読み続けていたブリーチですが、遂に最後まで読破しました。


そして実は最終巻については当時に買ったまま、ずっと読んでいなかったんですよね。


なんかこう、どうにも最終巻ってなると直ぐに読みづらいといいますか……

これでこの物語も終わりなんだなぁと思うと、なんだか先延ばし先延ばしに……。


その結果、今回遂に最終巻までたどり着いたというわけです!

あのラスボスをどうやって倒すのかと思ったら、こういう感じだったのですねぇ。


やはり最初から一気に最後まで読むのは、いいものですね!!

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― 新着の感想 ―
カシオペヤ(敬礼しつつ)「恥ずかしながら、帰ってまいりました!」 ミラ「(小○田少尉さんかな?)」 輝くガーディアンフレーム… 聖闘士聖衣かな? まだ、黄金聖闘士には成れなさそうです。 魔王因子……
私は、まだそんなに終わりに近くないと言いたいです。あるいは、少なくとも計画は失敗するかもしれません。 そのほかにも、私たちはまだ三神を召喚できる神の神器を使っていませんし、惑星を破壊できる存在と戦うと…
ソウルハウルは神器の力自体はどういうモノか知ってるけど使えるタイミングがまだ来てないだけ(他の感想投稿者へのレス)。 なんか意味深な終わり方………。こういう時は良くも悪くも大事になる悪寒もとい予感が……
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