626 天魔族の少女
なんと今、歴代カバーイラストの複製原画化人気投票というものが行われております!
藤ちょこ先生による素晴らしいイラストの数々がグッズに!
https://gcnovels.jp/blog/467
詳しくはこちらを御覧ください!
どうぞ、よろしくお願いします!
六百二十六
過程には色々と問題はあったものの、アスクレピオスの処置は完璧に完了した。
輸血に加えブーストフルーツによる相乗効果もあり、先ほどまで真っ青だった天魔族の女性の顔色が目に見えてよくなっていくのがわかる。
「……私、助かったんです……か?」
同時に混濁していた意識も少しずつだが明瞭になってきたようだ。ミラ達をゆっくり見回した彼女は、続き恐る恐るといった様子で自分の腹部へと視線を落としていく。
「あぁ、血ぃ~……」
救命活動に集中していた事もあり、その他については未だ手つかず。つまり棺の中には流れ出た血が溜まったままになっていた。
あまり耐性がないのか、それとも現実を突きつけられた影響か。天魔族の女性は目の前に広がる夥しいほどの血だまりを前に目を回してしまった。
「ちょっとちょっと!」
これに慌てたカグラは直ぐに彼女を支え、そのまま血だまりとなった棺から引きずり出した。そして直ぐにサソリとヘビに指示を出し、血塗れの服を脱がせ女性の身体を拭き始める。
『よかった、よかった。無事に一命をとりとめたようだな』
『本当によかったわ。ナイスよ、ミラさん』
『それもこれも仲間あってのものじゃな。マーテル殿のブーストフルーツは、やはり最高じゃな。リーズレイン殿も、ありがとう』
『礼を言われる事ではない。私にしか出来ない事をしただけだ』
最後に、猫柄の浴衣に手早く着替えさせていくカグラ達。女性の着替えとなると近づき難いミラは、それをなんと手際がいいのかと見守りつつ、天魔族の女性の無事を精霊王達と喜び合う。
精霊王は、心底よかったと安堵したように笑う。そしてマーテルは、今回の事で学びを得たようだ。いざという時のために、もっと効率的に摂取出来る果汁メインのブーストフルーツを作ってみると言い出した。
それがあったら確かに心強いと、ミラはマーテルを応援する。
なおリーズレインは、アナスタシアが待っているからと既に帰還済みである。アスクレピオスについては天魔族の女性の容態が安定したところで、また元の住処に送り届けてくれるそうだ。
「あ、目が覚めた? もしもーし、見える? 聞こえる?」
と、そうこうしている間に着替えは終わり、更には天魔族の女性も再び目を覚ましたようである。反応を確かめるようなカグラ達の声が響いてきたので、ミラもまた歩み寄り、どれどれと様子を窺った。
「えっと、あれ……どうしたんでしたっけ……」
見たところ、先ほどよりも更に血色が良くなっていた。目を覚ました彼女はミラ達をもう一度見回してから、今度は慎重にゆっくり、ちらちらと確かめるように自分の腹部へと視線を向けていく。
すると、そんな彼女の目に一番に入ったのは猫柄模様。
「あ、なんか迷惑をかけてしまったみたいですね」
着替えさせられている事に気づいたようだ。状況から察して謝ると、続けて緊張した顔で自分の腹部に右手でそっと触れた。
「あ、あー。やっぱり夢じゃなかった感じ、ですかね?」
さっきまでは、そこに致命的な傷があった。そしてそこから大量の血が流れ出していた。けれど今は何ともない。まるで幻だったかのように傷は塞がり、痛みから何から死を想起させる全てが消え去っている。
それを確かめた彼女は、朦朧としていた意識の中で見て感じていた一瞬一瞬が現実に起きていた事だったと、ここでようやく実感したようだ。確かめるように、窺うようにミラ達へと向けられたその目には期待が浮かんでいた。
「うむ、色々と大変ではあったがのぅ。怪我はしっかり完治させておいた。それと失った血の方も、まあ色々と対処したのでな。もう元通りじゃよ」
ミラが答えると、ヘビの胸元からアスクレピオスが得意げにひょっこりと顔を出す。その場所が気に入ったようだ。しかし次の瞬間にはカグラに引っこ抜かれ、そのままミラの胸元に突っ込まれていた。責任もって保護しておくように、との事だ。
「そう、もう大丈夫だから」
スケベオヤジも、死に至る元凶も全て排除したと笑顔で伝えるカグラ。
「そっか、本当に助かったんですね。そっかそっか、もう奇跡にでも縋るようなものだったんだけど上手くいったんだ! やった! 貴女達が来てくれてよかったです!」
するとようやく、天魔族の女性も現状を把握したようだ。またそれを実感した事で喜びが爆発したのか、安堵の笑みを浮かべると同時にミラとカグラに飛びついた。
とはいえ、その身体は癒えたばかりの状態だ。ゆえに万全とはいかず、身体の自由にはまだ制限が残っていた。
「あれぇ……?」
勢いのまま身体を動かした彼女は、そのままふらりと倒れ込む。
「おおっと!?」
「ちょっと!?」
瞬間、反射的に手を伸ばして天魔族の身体を支えるミラとカグラ。
だがその時だ。あろう事か咄嗟に伸ばしたミラの手が、天魔族の女性の身体と、それを全身で受け止めようとしたカグラの胸に挟まれるという事態に陥ってしまったではないか。
「あっ……!」
手の甲で感じる柔らかな感触。しかし急だった事に加え、手を無理矢理引っこ抜こうものならバランスが崩れて倒れてしまうかもしれない。
ゆえに、これに対処するような暇はなく、天魔族の女性の身体をそっと床に下す間、ミラの手は挟まれたままになってしまった。
これはもう完全に不可抗力であり、決して意図したものではない。そう必死に目で訴えるミラ。
そんなミラをカグラは険しい目で睨みつける。とはいえ状況も状況であるとわかってはくれているようで、ここでのお咎めはないようだ。ただ不機嫌そうにそっぽを向かれるだけで済んだ。
「あれれ、ごめんなさい。まだうまく動けないみたいです」
床に座り直した天魔族の女性は、また面倒かけちゃったと苦笑する。
これに問題ない、しょうがないと返すミラはカグラをちらりと見やりながら、もしかして少し棘がなくなってきたのではと、手に残る感触を思い出しつつ、ほっと一安心するのだった。
「えっと、ミラさんにカグラさん、そしてサソリさんとヘビさんですね。本当に本当に助けてくれてありがとう。私はカシオペヤ。見ての通りの天魔族です──」
なぜフォーセシアを封印していたそこに彼女がいたのか。その本題に入る前にミラ達は、まず先に自己紹介を済ませた。天魔族の女性──カシオペヤは、手間を掛けさせてごめんなさいと謝罪しつつ改めて礼を口にする。
なお今のカシオペヤは体調も万全ではないという事から、ミラが召喚したソファーにゆったり腰を落ち着かせている状態だ。いつでもどこでも身体を休める事が出来る召喚術を、カシオペヤも気に入ってくれた様子である。
「ところで、ここに来た事といい私を助けてくれた事といい、もう情勢はかなり動いているみたいですね。それで今は私の他に誰が協力していますか?」
カシオペヤは、現状から他にも色々な出来事まで察したようだ。ミラ達が既に他の天魔族の誰かと接触済みである事も見抜き、だからこそ今は誰が動いているのかと質問してきた。
「今じゃとアンドロメダ殿が指揮役といった感じになっておるのぅ」
「ええっ!?」
魔物を統べる神との決戦に向けて、アンドロメダがその中心となって準備が進められている。と、ミラがそう答えたところカシオペヤは一番に驚きを示した。
「って事は、もう誰か神器の試練をクリアした感じですか!?」
アンドロメダと出会ったきっかけは、マキナガーディアンを倒して神器の所有権を得た事に起因する。
マキナガーディアンの強さは別格だ。だからこそカシオペヤは、既にそこまで進んでいたとは思っていなかったようである。だからこそ続けて、いったい誰があれをクリアしたのかと、その目に期待を浮かべる。
「かなりの難関ではあったが、わしともう一人で華麗に攻略完了してやったわい」
簡単なものではなかったが、これまでに培った知恵と技術と力を合わせ見事打ち破ってみせたと得意げに答えるミラ。
するとミラこそが当事者であると知ったカシオペヤは、「それなら、もっと話は早そうですね」と告げてから本題に触れていった。
まずは、なぜカシオペヤがここにいたのかという点についてだが、そこに至るまでには色々と大変な事があったようだ。
彼女は、来たるべき決戦に備えるためという理由も含め様々な目的のために大陸全土を巡っていた。しかしその途中で運悪く公爵級悪魔三体からなるチームに見つかり、捕まってしまったらしい。
「なんと、公爵級のチームじゃと!?」
話の途中、ミラは気になった部分について強調して繰り返した。
今の悪魔は実力主義だ。また組織的に動く場合は、支配する者とされる者に分かれるものである。ゆえに公爵級同士で組んで動いたり、連携をとったりするなど決してあり得ない事だった。
だからこそミラは、そのような事があるものなのかと驚きを露わにする。
「私もびっくりでした。けど、どうやらあの三体には、かの者の主因子が宿っていたみたいでして──」
各地で暗躍している厄介な悪魔達だがカシオペヤが言うに、ミラ達がよく知っているものとは大きく違った悪魔が存在しているようだ。
ではそれらの悪魔は他と何が違うのかというと、大陸中に飛び散った魔物を統べる神の因子──悪意や憎悪、そして意思の存在の有無だ。
また、これらには特別な力を秘めた主因子というものがあった。
それ自体には何か特別な意思といったものは存在しないが、代わりにこれの宿主の意思を改変したりする力があるという。
しかもそれらには特異な能力まで秘められているようだ。カシオペヤが遭遇した三体の公爵は、その主因子を宿した特異な個体であったため、他の悪魔とは違った存在になっていたわけだ。
「実際に見たところ、主因子に起因した能力も確認出来ました。それと第一に、かの存在の復活を目的としていました。ですので効率が上げられるのならチームも組む、という事のようです」
そこまで話したカシオペヤは、主因子の所在を確認出来た事については僥倖であったとも続ける。
大陸全土に散らばった魔物を統べる神の因子と主因子。世界の未来のため、それらは必ず全て消し去らなければいけない。
彼女はこれについても調査し、結果として主因子は八つ存在していると判明しているらしい。そしてその内の三つが公爵級悪魔に宿っていると確定した。
いわく、これらの公爵級をどうにか出来れば、魔物を統べる神の復活時、主因子を欠いた状態──つまり能力を欠いた状態に持ち込めるという事だ。
「なるほどのぅ。ここでまた弱体化チャンスというわけじゃな」
即ち、骸を処理する事と同様に主因子というのもどうにかすれば特殊能力も封じる事が出来るのかと理解したミラは、勝利への道がまた一つ開けたぞと喜ぶ。
「そんなのが暗躍しているとか、堪ったもんじゃないわね……」
対照的にカグラは危機感の方が強いようだ。三体のチームで動く公爵級、しかも主因子による特殊能力持ちともなれば、絶対に出遭いたくない存在である。しかも五十鈴連盟の情報網にも、その影すら残していないのだから余計に厄介だ。
「というわけで流石の私も、ちょっと大ピンチになってしまいまして。しかも彼らは、私の特技まで把握している様子で。むしろ、だからこそ私を探していたのかもしれません。ここの封印を解くために──」
そんなのと遭遇してしまったのが、このカシオペヤだ。ただどうやら、たまたまというわけではなさそうである。
彼女が言うに、その公爵達の目的こそが、ここの封印。つまりフォーセシア──魔王の解放だった。そしてそのために必要となったのがカシオペヤの力だ。
何でもカシオペヤは、天魔族の中でも随一の魔法の使い手だそうだ。しかも、神の御業にまで干渉してしまえるほどの腕前らしい。
ゆえに、そこが狙われた原因となる。
極めて強力な公爵級三体に囲まれてしまったら、彼女の実力をもってしても、どうにもならなかった。そして命が惜しくば封印を解けと強要されたそうだ。
魔法が得意とはいえ、戦闘においては公爵級が上。魔法で対抗するより先に殺されてしまうのは確実な状態だ。
「でも私には、まだやらなきゃいけない使命が幾つも残っていたんです。だから、あの場で確実に殺されてしまうくらいならと思いまして」
逃げてもダメ。だが言われた通りに封印を解いても、結局は用済みだと殺されるに決まっている。そう察した彼女は、だからこそ賭けに出た。
カシオペヤの選択。それは封印を解くのではなく、中のフォーセシアを封印から出すという方法だ。
そして残った封印の中に自分自身を移してしまえば、公爵級でも手を出せない状態になれる。当然、自分を封印してしまう形になるため、そこから先はもうどうにも出来なくなってしまう。
けれど、きっと魔王となって復活したフォーセシアの姿を三神が確認したら、真っ先にこの封印の状態を探るはず。そして気づいてくれるはずと、淡い期待を抱いての作戦だ。
「ですが彼女を外に出した時点で、そんな私の企みなんかも見抜かれてしまったみたいでして。封印に移るよりも先に攻撃されちゃいました」
封印を解いた際に見たあの腹部の傷こそが、その時に負った傷であったわけだ。
とはいえ、彼女もやるものだ。最後の力を振り絞り、即死に至る追撃だけは逃れ、自身を封印の中に転送。全ての進行を抑制する三神の封印の効果によって、全てが停止する。
その後、誰かが封印を解いてくれるのを願い、またこの命を、使命を託す事が出来る者が現れるのを願い待っていた。
そしてカシオペヤはここまで生き永らえ、最終的にミラ達の手で救われるという結果に辿り着いたという事だ。
「本当に、上手くいってよかったです」
あの危機的状況から免れたのは奇跡だと安堵するカシオペヤは、それでいてちょっと得意げでもあった。
「あ、ですが魔法では天魔族随一という呼び声高い私ですからね。当然、やられっぱなしじゃありませんよ!」
助かってよかったと安堵したのも束の間。なぜフォーセシアを封印していたところにいたのかに至るまでの経緯を全て語り終えたカシオペヤは、けれど失敗談だけでは終わらせないと息巻き、あの公爵級三体を欺いて一つの細工を施しておいたのだと続けた。
「私も彼女の重要性は、ちゃんと把握していますからね。封印から出す時、敵になった場合に備えて魔法を仕込んでおいたんです──」
フォーセシアに乗り移った魔物を統べる王の力は強大なものだ。更に加えて、それを打倒したフォーセシアもまた極めて優秀な存在である。
だからこそ、魔物を統べる王がフォーセシアの肉体を得て復活するとなったら、以前のそれを遥かに超える強大な存在になるだろう。
「フォーセシアという英雄の力。その本質は、護る事だと聞いています。もしもこれを十全に使われてしまったら、難攻不落の脅威となるのは確実でしょう。だからこその仕込みです。使えるのは一度切りですが、これを発動させれば彼女の力を完全に抑え込む事が出来ます」
そうなればもう後は打ち倒すだけだと告げたカシオペヤは、ただ攻撃は苦手なのでそこから先はお任せする事になるけどと目を逸らしながら笑った。
「護りの力とはまた、厄介じゃな」
「でもそれを無力化出来るのは、かなり重要ね」
「タイミングも肝心じゃな」
「ある程度は分析してからよね」
いずれ戦う事になるのは間違いない。その時に役立つ手札が増えたと喜ぶミラ達は、けれどその切り時がなかなか難しそうだと頭を悩ませる。
ともあれ随分と予定外な状況になったものの、カシオペヤを助けられた事と魔王戦に役立つ情報を得る事が出来た事は、十分な収穫といって過言ではない。
ミラ達はカシオペヤのお陰で色々と状況が明確になったと喜ぶ。
『我が眷属達も、よく守ってもらっていたな』
『ええ、本当に優しい子だったわ』
そんな中、精霊王達はかつてを思い出すように、しみじみと語り合う。
護る力。それは精霊達の力と彼女の強い想いが交わり生まれた特別な魔法だという。それこそがフォーセシアの本領であり、また在り方でもあったようだ。その力にどれだけ助けられた者がいたのか。当時を振り返りながら、思い出話に浸っていた。
今、毎週納豆キムチを食べております。
納豆とキムチを混ぜて七時間すると、とても健康にいいらしい。
というわけで食べているのですが、
先日……いつものキムチが買えなかったので別のキムチを買いました。
ただそれは、いつものよりもずっと量が多いものでして。全部納豆キムチにしても、まだ余りそうなくらいです。
という事で、他にも何かに使おうと思ったところで閃きました。
豚肉が残っていたので、これで豚キムチを作ろうと!
更にここでもう一つの閃きが!!
前回、チーズタッカルビを作った時の残りのチーズの存在です。
というわけで、作りました。
豚キムチーズを!!!!!
美味しかったです!!!




