622 ブラズニル
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六百二十二
目的地は黄金都市。準備を整え終えたミラ達は、砂ゾリに乗って広大な砂漠へと繰り出す。
砂ゾリを牽引するのはヘビが作り出したゴーレムだ。牽引用に調整されたそれは、六本の足で砂を踏みしめて力強く進んでいく。速度もそこそこで多少の勾配もなんのそのだ。
パッと見た限り少々動きの気味悪さはあるが、砂地適性は抜群。見事なまでの走破性を見せつけてくれる。
「ふむ、まだまだ遠そうじゃのぅ」
時折、砂ゾリのヘリから身を乗り出しては砂にサンクティアを差し込むミラ。一定の距離まで近づく事が出来れば、後はそれで正確な位置を掴めるという事だが、今はまだ反応無しだ。
と、そうしてまた十分後くらいに試そうかと、乗り出した身体を引っ込める直前だった──。
「のぅ、何やら砂漠に船が見えるのじゃが……あれは蜃気楼か何かじゃろうか?」
ふと顔を向けた後方に、思いもよらぬものがあると気づいたミラは、あれは何だと目を細めながらじっと睨む。
それは、帆船だった。砂ゾリの進行方向から丁度後ろに帆船の姿が見えたのだ。
ここが海上ならばまだしも、砂上に帆船など不自然もいいところだ。だからこそミラは、これが砂漠で見えるという蜃気楼というものかと何度も目をパチクリさせながら興味を寄せていく。
現在地点は、オリアト砂漠の真っ只中。どこをどう見回しても砂しかないような状態だ。けれど蜃気楼にも見える帆船は動いているのか、不思議とミラ達の後方から離れる様子がなかった。
「あ、あー……もしかしたら、あのごたごたで目を付けられてるのかも」
蜃気楼とは、追いかけてくるものなのだろうか。そうミラが興味深げに眺めていたところだ。その隣からひょっこり顔を覗かせたサソリは、後方に見えるそれを確認したところでそんな言葉を口にした。
「なんじゃ、どういう事じゃ?」
いったい、何にどう目を付けられたというのか。ミラが聞けばサソリは詳しく教えてくれた。
どうやら後ろに見える帆船は蜃気楼や幻の類ではないらしい。では何かというと──。
「あれは、『ブラズニル』の移動拠点だよ」
サソリが言うに『ブラズニル』とは、大陸全土をまたにかけて活動しているトレジャーハンター集団だそうだ。
そして『ブラズニル』は、目立つと同時にシンボルにもなっている、あの帆船型の移動拠点が何よりも有名だという。
海であろうと地上であろうと関係なく渡る事が出来る魔法の帆船。それを拠点とする彼らは、大陸でも一、二を争うトレジャーハンターだ。
「多分だけど酒場でのやり取りを聞かれていたんだと思う。あのくらいだったら、たまにある程度のいざこざなんだけど、もしかしたらミラちゃんが精霊女王だって気づいたのかも。もう冒険者界隈ではすっごい有名だからね。精霊王と繋がりのあるミラちゃんが情報の出所だってなったら、それだけで信頼性も抜群だもん」
あの精霊女王が黄金都市に関係する情報を持ってきた。あの酒場でそこまでわかったら、動く理由にもなるだろうとサソリは言う。
そして、こうしてついてきているという事は、きっと横取りを狙っているはずだとも推察したサソリは、そうはさせるかと目くじらを立てる。
「ほぅ、つまりあの船は砂の上を渡ってきているわけじゃな!」
相手が『ブラズニル』というトレジャーハンターである事。そして案内させられているという事についてもミラはまったく意に介した様子はなかった。それよりも砂の上を走る魔法の帆船の方に強く興味を惹かれている。
「よいのぅ、憧れるのぅ」
砂漠の海を船で巡るなんて、流石は魔法でファンタジーだ。しかも、どんなところだって渡れる魔法の帆船が拠点というのもまた、実にロマンがあっていい。やはり大物というのは拠点も特別でなくてはなと、むしろミラは目に映る光景を前に感動すら覚えていた。
「あー、ほんとだ。男の子が好きそう」
続けて顔を覗かせたのはカグラだ。ミラの一つ上から顔を出して後方を見つめ、なるほどと笑った。砂漠を悠然と進む帆船。あり合えない事が詰まったその光景は、確かにミラが好みそうであると。
「ただ、最近はまあ色々あって……見ての通り結構必死だったりするんだよね──」
ミラが見事なファンタジーだと絶賛していたところだ。サソリが、まさかの現実を語る。そんな唯一無二を誇る『ブラズニル』だが、最近はどうにもこれと言った活躍がみられないのだと。
「なんじゃ、そうなのか?」
見た目からして迫力と威厳は十分。トップクラスだと言わんばかりに見えるが、どうやらそう単純なものではないらしい。サソリの目に、少しだけ憐れみのような色が浮かぶ。
サソリの話によると『ブラズニル』といえば、あの魔法の帆船こそが最大にして最高の強みだ。けれど今はそれ以上が出てきてしまったため、その業績に陰りが見えてきたらしい。
「うちにもある。あれは凄い」
しみじみとしたサソリに続けて顔を出したヘビが、憐れんだ目で後方を見据える。
「あー……」
「思えば、そうね。あれの方が凄いのかも」
あれほど立派な拠点を持ちながら、パッとしないというのはどういう意味か。ミラとカグラは二人の言葉から、それを察した。
水陸両用でとても便利な魔法の帆船。だが今は、その上──そう、飛空船が登場した事によって、『ブラズニル』はお株を奪われたような形になっているわけだ。
まず単純な移動速度だが、これは飛空船の独擅場といっても過言ではない。人工的な移動手段において、これに敵うものは存在しないのが現状だ。
「とはいえ、速度で敵わぬとも、あれでどこへでも行けるのならば、それだけでも便利そうに思えるがのぅ」
移動速度という面だけで考えれば、飛空船の勝ちだ。けれど、どこにでも拠点を移せて充実した施設のあるそこを中心に仕事が出来るというのは、かなりの優位性だろう。
そういったところに目を向ければ、魔法の帆船だってまだまだ活躍出来るはずだ。
と、そう考えたミラであったが、どうにもそう単純な話ではないらしい。
「便利は便利。でも、それが足枷になる時もある」
トレジャーハンターのみならず、冒険者の活動においても次々と変化しているのだとヘビは言う。
中でも特にトレジャーハンターの仕事というのは、早さも極めて重要な要素になっているとの事だ。
お宝の匂いがあれば即参上。それがトレジャーハンターである。そして当然ながら同業者達もまた同じ。我先にと一秒でも早くお宝を求めて殺到するわけだ。
「昔は、ブラズニルが圧倒的だった。魔法の帆船は凄い。それは今でも変わらない。けど周りが凄く変わった。飛空船に大陸鉄道も出来て、交通手段が豊富。だから人員の移動だけなら、これを利用した方がずっと早い」
ヘビの説明によると、以前とは比べ物にならないほど人の移動が便利になった事が、ブラズニルの斜陽のきっかけになったそうだ。
ブラズニルは、どこに向かうにしても魔法の帆船を動かす必要があった。そのため目的地と移動距離によっては、豊富な交通手段を利用する同業者に対し大きく出遅れる事になるわけだ。
「維持費だって結構かかるだろうからね。あ、そういえば最近、あの人達が話しているのを聞いたんだ。もう交通の便利な場所に船を留めてしまおうか、って」
「つまり、今回の黄金都市が最後の挑戦?」
「かもしれないね!」
どうやらブラズニルの者達も、そろそろ魔法の帆船を活用するのを諦めようとしているらしい。そして同業者に後れを取らぬよう、より便利な交通手段を活用する方に切り替えていくわけだ。
「世知辛いのぅ……」
「ちょっと不憫ね」
魔法の帆船を拠点に持つトレジャーハンター。これだけ聞けばロマンに溢れているが、現実は相当に厳しそうである。
(日之本委員会の研究員達が、随分と引っ掻き回してしまったようじゃな。すまん、ブラズニルの者達よ)
交通手段が著しく発展したのは、全て日之本委員会の技術者連中が張り切った事が原因だ。
それがこのようなところに影響を与えているとは。こういう場合もあるのだなと目の当たりにしたミラとカグラは、少しだけブラズニルに同情するのだった。
「で、どうしよっか。何だかんだで砂漠だとかなり速いから振り切るのは難しいと思うんだけど」
一定の距離を保ちながら追跡してきているブラズニル。死活問題という状態だからこそ、きっとこちらが黄金都市を発見した後に乗り込んできて、頭数に物を言わせお宝を掻っ攫っていく魂胆であろうとサソリが言う。
だからこそ面倒な取り合いにならないよう、早めに撒いてしまうのが一番だ。けれど如何せん魔法の帆船の性能自体は確かだった。飛空船や大陸鉄道ならともかく、流石に砂ゾリで逃げ切るのは不可能である。
「ふーむ。状況も状況じゃからのぅ。ああいう手合いに帰れと言うたところで聞く耳をもたぬじゃろうからな。まあ、とりあえず放っておけばよい。付いてきたところで、そもそも奴らは入れんよ」
どこまで付いてこようとも無駄になるだけだ。そう忠告してやりたいと思うミラだったが、同時に理解もする。そんな事を言われて、はいそうですかと納得するような者がどこにいるのだろうかと。
だからこそミラが出した結論は放置であった。
「そうなの?」
黄金都市に入るためには、何か特別な条件でもあるのか。サソリはミラが随分ときっぱり言い切った事に興味を示す。
「おお、そういえば、まだ詳しく話しておらんかったな。実はじゃのぅ──」
二人と合流してから出発に至るまで、思えば今回の一件について詳しく触れていなかった事を思い出したミラは、これまでの経緯を簡単に説明していった。
黄金都市とは、そもそもどういった場所なのか。そして魔王を名乗る存在との関係についても、一通り伝える。
「──そういった事情でな。お主達を信用して話したわけじゃが、内容も内容じゃ。この件については、決して他に漏らしてはいかんぞ」
状況は大陸全土の未来にまで及ぶ。ゆえにミラは最後にそう付け加えた。
サソリとヘビについては、精霊王も知る間柄だ。そのため信頼して情報の開示は許可されたが、当然ながら機密事項の多い内容である。
「これについては特級以上の秘匿情報だから心に留めておくだけにしておいてね」
更にカグラも、そう念押しするように続けた。すると二人は、ますます情報の規模と重要性を把握したのだろう。無言で頷き、決して口外しないと誓う。
「そういうわけで、入る時は精霊王殿の手を借りる事になっておる。ゆえに万が一にも奴らが紛れる隙間は存在しないのじゃよ。それとわしらが中に入った後、内側から閉鎖する予定じゃ。そうすればもう噂に聞いたような、偶然黄金都市に辿り着くなんて事もなくなるはずじゃよ」
ミラが受けた任務は二つ。
一つは魔王の封印が今どのような状態になっているのかの調査。
もう一つは、神々が封じていたそこに人が入り込んでしまった事の究明だが、三神が言うに、こちらは出来たらくらいでいいそうだ。どちらにしても以前より厳重に封鎖するため、もう二度と今回のようにはならないだろうとの事である。
「……ミラちゃんて、なんだかどんどん遠くにいっちゃうね」
「いつかは、亜神様?」
今回は精霊王のみならず三神からの依頼とあってか、その重要性が窺い知れる。しかも大陸の未来までも関係している様子だ。
だからこそサソリとヘビは、その渦中にあるミラを、友達から遠く離れていってしまったようだと感じたのだろう。とんでもない大物になったものだと驚きつつも少々寂しげだ。
「何を言うておる。わしは前と何も変わってはおらんぞ。どちらかというと精霊王殿の顔が限りなく広いというだけの話じゃろう」
ミラは何か特別なものになった覚えはないと、きっぱり言い切った。
精霊王に始祖精霊、天魔族、更には三神まで。人の領域を越えた存在と多く知り合い関係を結んできてはいるものの、ミラにしてみれば精霊王の繋いだ縁だ。
精霊王の加護を賜ったからこそ自然とその方面の繋がりが出来ただけであり、それもこれも精霊王の御導きでしかない。ゆえに特別なのは精霊王であり自身は皆と大きな違いはないのだと、そう言って笑うミラであった。
あの日に作った背徳の豚バラナポリタン。
冷凍保存しておいたそれですが、食べている途中で分けた事もあり一食分としては少々物足りない量だったんですよね。
ゆえにチートデイにはちょっと足りない感じに。
ただ、他に食べるタイミングがなかなかないので考えました!
そして……
とんでもない一品を生み出してしまったのです。
冷凍しておいた背徳の豚バラナポリタン。
ここに、イシイのおべんとくんミートボールを、どーん!!とぶち込んでボリュームを増し増しにしたのですが、
美味い!!!!!!!!!
完成したイシイのおべんとくんミートボール豚バラナポリタンの美味しさといったらもう。それは正しくチートデイに相応しい究極のコラボ!
フフフ、これほどの料理を生み出してしまうとは。
自分の才能が恐ろしいですね。ええ。




