611 一掃
六百十一
「──と、まあそんな感じだな」
「ふむ、問題ないじゃろう」
そうこうして魔物の大群を迎え撃つ準備も一通り終わったところで一室に集まり、今回の戦術などを一通り固め終わったところだ。
「前方上空、目視で確認出来るところまで来たよ」
上階の観測塔から下りてきたミケが、いよいよ魔物の大群が到着したと告げる。
現在、魔物らはミケ達が用意した『試作型魔物誘引ドローン』を追いかけて、真っすぐこの小島に向かってきているとの事だ。
そしてこのまま、四分後には予定通りの空域を通過するだろうという。
「さて、いつも通りにじゃな」
「何というか、皆貫禄があって安心するね」
もうすぐ魔物の大群との戦いが始まる。けれどここにいる誰にも緊迫した色は見えない。全員が落ち着いた様子のまま、各々の持ち場へと向かっていく。その姿を見送りながらミラもまた「どっこいしょ」っと腰を上げれば、アンドロメダがそんな感想を口にした。
「思えば確かに、そうじゃのぅ。何というか、昔にも同じような事が無数にあったからじゃろうな。あれで慣れたような気がするのぅ」
今より昔、それこそゲーム時代の頃。ここにいる誰もが、こういった戦いに数えきれないほど身を投じてきた。
皆が落ち着いて動けるのは、その時の経験が大きく影響しているのだろう。つまり、念入りに訓練してきた結果とでも言うべきだろうか。
あの頃の全てが今でも活きている。そう改めて実感したミラは、だからこそ安全確実に実験も出来ると、そっとほくそ笑んだ。
「いよいよ開戦じゃな」
「久しぶりですが、やっぱりなんだか馴染みますね」
城壁の上から空を見据えるミラとヴァレンティン。その目に映るのは、遠く黒い点が徐々にその輪郭をはっきりさせていく様子だ。
近づくほどに、それが夥しいまでの魔物の大群であるとわかる光景は、本来ならば恐ろしいものに違いない。
けれど二人は、むしろ微笑みすら浮かべながら佇んでいた。特にヴァレンティンは、いつも頼りにしてきた巨城が当時よりも更に進化している事に尚更関心を寄せていた。
さあ、もうすぐだ。それぞれが戦闘態勢を整えてから少ししたところで、ミケが言っていた試作型の魔物誘引ドローンらしきものが勢いよく頭上を通過していった。
「よし、今じゃ!」
そしてそれを合図にミラが号令を出すと、大きな城門が音を立てて開く。
その奥には、限界までエネルギーをチャージしたアイゼンファルドの姿があった。
直後、アイゼンファルドの目が空より飛来する魔物の大群の姿を捉える。そして次の瞬間、その大群に向けて限界突破ドラゴンブレスが放たれた。
空を切り裂き大地までも揺るがすほどの強烈な衝撃波が吹き荒れる中、皆は近くのものにしがみ付きながら空を見上げる。そして誰もがそこに巨星が輝くのを目の当たりにした。
青空に迸った白い閃光。全てを埋め尽くそうかという勢いで広がったそれは、炸裂してもなお十数秒とそこに留まり続け、巻き込んだあらゆるものを死滅させていった。それこそ夥しい数の魔物が、原形を留めぬ欠片となって海に落ちていく。
その光景はあまりにも壮絶であり、大群の半数以上がその光に呑み込まれていく様は、敵ながらも同情すら浮かんでしまうほどだ。
「待ち構えられる状況ならば、これ以上の一撃はないじゃろうな!」
対してこれを仕掛けたミラは、それはもう今までで一番の撃墜数を叩き出したかもしれないと、我が息子の偉業に大喜びだ。
「うわぁ、こういう感じか」
ゲーム当時、初撃ドラゴンブレスという戦術が猛威を振るっていた事を知るノインは、この光景を前に頬を引き攣らせていた。
今ほどの威力ではなかったものの、十分な範囲殲滅力を有していたドラゴンブレスだ。開幕でこれを喰らう側の気持ちを考えると笑えないなと、ノインはその全てに同情を寄せた。
「流石に、あのクラスの魔獣となると一撃とはいかんか」
それほどまでの破壊力を持つ限界突破ドラゴンブレスだったが、何もかもを片付けられるというわけではない。大きな深手を負いながらも、そこにいた魔獣二体は未だに健在だった。
やはりしぶといやつらだと、魔獣を不機嫌そうに睨みつけるミラ。
「それじゃあ、残りの掃討を始めましょうか」
そんなミラの事は無視して、いよいよ次は自分達の番だと張り切るのはカグラだ。言うが早いか、直ぐにピー助とニョロ蔵を顕現して残った魔物を迎え撃つ。
そうして皆が動き出すと同時、今度は城門の大砲が次々に火を噴いた。
「さて、丁度いい。ここで試してみるとするか」
魔獣や魔物に命中しては轟音を響かせる砲撃の威力は、かなりのものだ。ただの魔物であれば、もはや即死は免れまい。
そんな砲撃が続く中、一門の大砲の傍に立つソウルハウルは不敵な笑みを湛えながら、黒い短杖を取り出した。
その見た目は杖のようで、けれど何かの柄のようにもみえる代物だ。だが当然、このような場面で取り出したのだから、ただの術具であるはずがない。
そう、アーティファクトだ。
ソウルハウルは次に装填される砲弾に、その短杖で触れた。するとどうだ。砲弾がギラギラと真っ赤に輝き始めたではないか。
そして、赤く輝く砲弾は狙いを定めた後に豪快な音と共に発射された。
大砲より放たれた赤い砲弾は、空に一本の輝く線を描きながら空の魔物に直撃する。
その効果は劇的な形で現れた。これまでにも空で炸裂し続けてきた無数の砲撃。その一発一発でも十分なほどに重厚な爆炎をまき散らしていたのだが、今回の一撃は、これまでとは比べ物にならないほどの破壊をそこにもたらした。
「おおぅ!? っと、今のがソウルハウルのアーティファクトじゃな。まったく、何とも相性がよさそうじゃのぅ」
「ちょっ!? そんなに範囲広いなら最初から言っておいて欲しいんだけど。うちのピー助が巻き込まれそうだったじゃない!」
周囲を真っ赤に染め上げるほどの爆炎が広がった。しかも、あまりの迫力に皆が思わずびくりと肩を震わせるほどの鮮烈な一撃だ。
「なるほど、じゃあ次は──」
方々のクレームなど全て聞き流したソウルハウルは、再び砲弾に短杖で触れた。すると今度は、帯電する砲弾の出来上がりだ。
装填して発射されたその砲弾は、上空で炸裂すると共に耳をつんざくほどの雷鳴を轟かせて爆炎と稲妻を生み出した。
それこそ落雷でも発生したかのような迫力で雷光が奔ると連鎖するように繋がって、続けざまに魔物達が落ちていく。
「なるほど、面白い」
その効果のほどを確認したソウルハウルは、とても満足そうに笑っていた。
彼が選んだ短杖のアーティファクト。それは、触れた物体に強力な属性力を一時的に付与する、というものだった。
ただの鉄の剣であろうと灼熱の獄炎剣に変えてしまうという、とてつもない効果を持ち、属性付与の道具としては他の追随を許さぬ性能を秘めている。
だが、それがまた欠点でもあった。
付与する属性力が強過ぎるのだ。よって媒体となった道具は効果が切れた際に、この効果に耐え切れず全てが塵と化してしまう。
「次は、ゴーレムの方でも試してみるか」
けれど、元より使い捨てるつもりのものや、それこそ砲弾といったものとの相性は抜群であるというのが今回の実験で示された。
これは色々と試し甲斐があると、ソウルハウルもいたく気に入った様子だ。
「あっちも派手でいいなぁ。でも連射力なら、こっちが上だからね!」
多属性を扱うという意味では、ハミィの弓も似たようなものだ。だからこそか対抗心を燃やす彼女は、更に無数の矢を空へと放った。
そして色とりどりに空が輝く。だが見た目は幻想的なものの、現場はただの殺戮場だ。一体、また一体と魔物が力尽きていく。
開幕直後から派手に始まった対空戦は、やはり十分に仕込みの時間があったため、ミラ達側にとても有利な形で推移していった。
熾烈極まりない対空砲火で、既に魔物の大群は大群に非ずだ。
「後はこのまま仕留めるだけじゃな!」
それでも落としきれなかったのは流石魔獣といったところだが、万全な状態でない以上、ミラ達の有利に変わりはない。
まずはノインが一体を受け持ち引き離したところで、もう一体を残りで一気に総攻撃を仕掛けていく。
また魔獣が相手とあって、ここでヴァレンティンが大活躍だ。ミラ達の攻撃で動きを封じたところに特大の一撃を炸裂させ、これを一気に仕留めたのである。
そのタフさにおいて特にしぶとい魔獣であろうと、やはり退魔術は極めて有効だと示す見事な一撃だった。
そうして続きノインの方に合流すると、こちらもまた危なげなく討伐に成功した。
「お見事お見事。これで憂いなく進めそうだね」
城からひょっこり顔を出し、安全を確認してから駆けてきたミケは、そこに倒れる魔獣を見つめて感心したように頷く。また素材回収班も要請しておいたと言いながら「うちでもらっちゃっていいよね」と、ヴァレンティンに迫る。
「まあ、いいと思いますけど……」
急に迫られてたじろくヴァレンティンは、もはや反射とでもいった様子でそう答えさせられていた。
言質頂きましたと喜ぶミケは、続いてミラ達にも視線を向ける。
これにソウルハウルやノインにハミィも、好きにすればいいと軽く答えた。
するとどうだ。ここでごねたら、けち臭いと揶揄される地盤が整えられてしまった。ゆえにミラ達もこれには頷くしかなかった。
「それじゃあ、次に向かうとしようか」
離れた場所で待機していた飛空船が迎えにくると、アンドロメダが顔を覗かせる。
いざという時に備えて飛空船の護衛に回ってもらっていたが、今回は出番がなかったようだ。
「この調子で残りも処理出来れば、勝利は確実じゃな」
とにもかくにも、魔物の大群を片付ける事が出来た。先んじて迎撃態勢を整えられたからこその大勝利だ。
もしも合流されたり挟み撃ちにされたりしたら、大きく戦力を分断される事態になったはずだ。加えて爵位持ち──特に公爵級の悪魔を伴っていたならなおさら危険だ。また、そこらに上陸して生活圏に入り込まれでもしたら大災害になっただろう。よって早めに処理出来たのは大きな戦果といえる。
これで安心して次に向かえるというものだ。憂いを断ったミラ達は、次の骸が封印された地に向けて出発する。
「──と、落ち着いたところで、ちょいと行ってくる」
移動している間にも、やるべき事がある。それは神器のチャージだ。
本来ならば、あれやこれやと手続きしてから三神国に赴くという手間が必要なのだが、今は精霊王による特例が発動中だ。
「では、ゆくぞ」
「うむ、よろしく頼む」
異空間の始祖精霊であるリーズレインの手を借りた最速での三神国参りである。瞬きする間もなく、見事に転移していくミラ。
「これが専門家か。流石ね」
「鮮やかですね」
似たような術を持つカグラとヴァレンティンは、異空間の始祖精霊とはどれほどのものなのかというのを目の当たりにして感嘆する。
その転移は、それこそ神隠しにでもあったのかというほど素早く静かに、一切の波紋を残す事無く行われた。やはり始祖精霊というのは格が違うと思わせる、実に自然な転移である。
「いずれは研究してみたいところだな」
「痕跡すら残さず、あんな簡単に……」
ソウルハウルとノインも、その圧倒的な手際に感心した様子だ。精霊の力というのは、人知の及ばぬ領域にまで到達する事がある。リーズレインのそれは、もはやその代表ともいえるものだ。
そして、だからこそ興味をそそられるソウルハウル。
ただノインは、その力に圧倒されながらも少しだけ心をもやつかせていた。何となくミラを攫われたような、そんな感じがしたからかもしれない。
「えー、すっごいイケメンだったんだけど!」
そんなノインのもやついた心にハミィの言葉が突き刺さる。見知らぬ男が現れたと思ったら、超が付くくらいの美丈夫だったと盛り上がる。そして、あんな風に強引に連れ去られてみたいと一人で興奮し始めた。
「ぱっと見た感じ、ちょっと陰気そうに見えたけどなぁ……」
更に心が掻き立てられたノインは、そんな言葉を呟きながらも直後になぜこんな気持ちになっているのかと自問自答してのたうち回るのだった。
なんだかんだで今も続いているコーヒータイム。
あれやこれやと色々な種類に手を出していった結果、今は
ちょっと贅沢な珈琲店のドリップパックに落ち着きました。
しかし最近、ここで再び新たな風が!
初心に戻るとでもいいますか、コーヒータイムの始まりとなったインスタントの方を買ってみたりしました。
そして、思ったのです。
インスタントでよく共通して感じられる、この味というか風味というのは何なのだろうかと。
メーカーや種類などが違っても、だいたい同じあのインスタント感があるじゃないですか。
不思議ですよねぇ。と、お店でインスタントコーヒーのコーナーを見ていた時にふと思ったんです。
同じインスタントとはいえ、かなり値段に差があるんですが……
はて随分と違うけれど、はたしてこの値段による違いというのはどういうものなのだろうかと。
という事で買ってしまいました。
ネスカフェのプレジデントを!!!!
定番のゴールドブレンドより瓶が小さい。それでいながら高いという高級インスタントコーヒーです!!
飲んでみました。そしてわかりました。
なるほど、確かに違うと!!!
何となくですが、これまで感じていたあのインスタント感が心なしか薄くなったような気がしましたね。
こうなってくると更に気になるのは、これ以上のもの……。
あるんですよね。ブルーマウンテンだったかなんかの……凄い高いのが。
あれはもっと違ってくるのかどうか。それともやはり、インスタントはインスタントなのか。
誰か……誰か知りませんか!?
高級インスタントコーヒーはどこまで違うのか。リーズナブルでそれらに迫れるものはあるのか!?
私、気になります!!




