610 迎撃準備
六百十
封印砦に入って直ぐに続く階段の先に、骸が納められた封印の間があった。
その中心にあるのは、白くて巨大な柱だ。まるで墓標のようにも見える柱は、それでいて力強く聳えており、その役目の重さを体現しているかのようだった。
「よし、始めるとするかのぅ」
『ああ、そうしよう』
柱の前に立ったミラは、その全身に精霊王の加護紋を浮かび上がらせる。それから三神に教わった通りに、精霊王と協力し封印に干渉。これを正式な手順と工程で一つずつ解除していった。
ミラが一つ封印を緩めるたびに、柱の状態も大きく変わっていく。
円柱から八角柱。更に四角柱から円錐に至ったところで精霊王の力を注げば、遂に封印が消え去った。
そうして消えた柱のあった穴を覗き込めば、底の方に白い箱のようなものが確認出来る。
「よし、まずは無事に回収完了じゃな」
最初の封印であり骸の入れ物でもある箱だ。ミラは安全に持ち出せるようにするための仮封印を施してから、そっと箱を手にした。そして異変もない事を確認すると、ほっと一息つきつつ第一の条件達成だと喜ぶ。
とはいえ本封印を解いた今、魔王もまた封印解除に気づいたはずだ。
もしも上にいた悪魔達とある程度の連絡を取っていた場合、この異常事態に気づいたかもしれない。
悪魔達は、数ヶ月はかかりそうな方法で、ここの骸を狙っていた。それが予定よりも早く解かれた上に音信不通となれば、十分に怪しまれるだろう。
状況把握のために、何かしらの動きはあるはずだ。場合によっては様子を見に来る事も考えられる。
どのような反応を示すかは不明だが、ここから先は全て迅速に進めた方がよさそうだ。と、そう考えたミラは、箱を抱えて直ぐ封印の間を後にした。
「よし、急速浮上じゃ。よろしく頼んだぞ」
一気に封印砦の出口まで急いだミラは、アンルティーネと共に再び深度五キロメートルの深海に出ると、そこで待っていた大王剣亀の甲羅に潜り込んだ。
きっと潜水において、このコンビネーションに敵う者はいないのではないだろうか。豪快な大王剣亀の浮上と、アンルティーネの完璧な魔法によって劇的な水圧変化もなんのその。ミラは、ほんの数分で海上にまで戻る事が出来た。
それから両名に感謝を述べて送還すると、ミラはそこで待っていた飛空船に帰還する。
「ん、どうした? 何か問題でも起きたか?」
無事に入手出来たという一報のために作戦室を訪ねたミラは、そこに集まる皆が、何やらざわついている事に気づき声を掛けた。
「ああ、おかえり。うんうん、無事に持ってこれたみたいだね──」
振り返ったアンドロメダは、まず先にミラが抱えている白い箱を見て満足そうに笑う。更にカグラやノイン達もミラの成功を讃えると、だからこそかと付け加えるようにして現状を教えてくれた。
話によると、つい先ほど日之本委員会の研究所から連絡が入ったという。しかもその内容は、研究所周辺が随分と不穏になっているというものだった。
何でも研究所を包囲するかのように、魔物だなんだと沢山集まってきているらしい。現地のレーダーが、それこそ夥しい数を捉えたそうだ。
「また襲撃するつもりかな?」
先日は撃退したが、その続きを始めようというのだろうかと予想するハミィ。だが、あちら側がこちらの動きに気づいていたとした場合、この包囲にはもう一つの可能性もあった。
「もしかしたら、わしらの邪魔をするつもりかもしれんぞ」
研究所に張り付く事で、骸を入手したミラ達が戻れないようにするという作戦だ。
けれど、そうだった場合は、まだこちらが先手を打てる状態にある。
「その可能性も十分にありそうね」
「それじゃ、余計な手出しをされる前に、こちらで済ませてしまいましょう」
カグラもその可能性に同意すると、ヴァレンティンが早く骸を処理しようと続ける。
研究所が包囲されたままというのも落ち着かない。ならば早めに終わらせて、敵の狙いをこちらに逸らせてしまおうというわけだ。
「うむ、そうじゃな」
危険物は、迅速に処理するに限る。そう頷いたミラは、直ぐアラトと一緒に倉庫へと向かった。
「起動、問題なしだ」
アラトがスイッチを入れると装置が起動して、アンドロメダの秘密基地へのゲートが開く。
「きっと、大いに慌ててくれるじゃろうな!」
魔王は先の二回と同じように、研究所へ骸を持ち帰ると思っているはずだ。けれどそこで、まさかの現地遂行である。きっと激しく動揺するだろうと、ミラはほくそ笑みながらゲートを抜けた。
三度目の骸処理だ。とすれば、もう幾らか慣れてくるものである。手早く巫女服に着替えたミラは、神域に踏み込むと真っすぐ三神の待つ場所まで駆け付ける。そしてそのまま三神のサポートを受けて神器を振るい、見事に三つ目の骸を消滅させる事に成功した。
「これで残りは三つじゃな!」
確かな手応えに満足し、実に順調ではないかと得意げに笑うミラ。
「よくやった。勝利に向けてまた一歩前進したな」
「ああ、見事だ。輝かしい未来が、また広がったようだ」
「こんな一気に進展するなんて、本当に素晴らしいわ」
そんなミラを褒める撫でる抱きかかえると、大絶賛の三神。
扱われ方は何とも言えないが、ありがたいお褒めの言葉を浴びせられてミラもご機嫌だ。
そしてミラは、もしもこの事を教皇達に伝えたらどんな反応をするのだろうかと思い、にまにまと微笑むのだった。
骸の処理という重大な任務を、また一つ達成したミラは意気揚々とアンドロメダの秘密基地に帰って来た。そしてそこから更に着替えて飛空船に戻る。
するとだ。倉庫室の隅っこにノインの姿があった。ただ、どうしたのか。何やら壁に顔を向けたまま、ぶつくさと呟いている。その姿は、まるで苦悶しているかのようだ。
「なんじゃ、どうした。何か事件でも起きたか!?」
神域に行っている間に問題が発生したのかもしれない。そう考えたミラは、直ぐに駆け寄って状況を伺う。そうしたらノインは、どうにも複雑そうな表情で振り返り、そうではないと首を横に振って答えた。
「いや、次の目的地について話し合いがしたいから、戻ったらそのまま操舵室の方に集合だって事を伝えに来ただけだ」
それだけ告げたノインは、足早に倉庫室を出ていってしまった。
「ふむ……?」
ただの伝言だけのわりには、どうにも様子がおかしかったようなと疑問を抱くミラ。とはいえ時折挙動不審になるノインの事だ。ミラはその疑問を直ぐに放り捨て、まあいいかと操舵室に向かった。
と、その後ろだ。倉庫室にいたもう一人、用事の済んだゲートのスイッチを切ってからその場を後にするアラトは、その原因となる一部始終を目撃していた。
繋げた状態のゲートは、あちら側から、そしてこちら側からも双方が見える状態になる。
ゆえに、ノインは目撃してしまったのだ。そのゲートの向こう側で生着替えを始めたミラの無防備であられもない姿を。
何かと刺激の多い研究所暮らしが長いアラトにとって、それはただ着替える場所を選ばないせっかち人間に映るだけだった。
けれど同じ場所で待っていて、同じものを目にしたノインの反応は劇的なものだった。
容姿は、あんなに女ったらし全開でありながら、随分と純情そうな反応をしたノイン。だからこそ二人に続くアラトの目は、面白そうな関係だと不敵に輝いていた。
ミラ達が到着すると皆で操舵室中央のテーブルを囲うように並び、話し合いが始まった。
「とりあえず研究所の様子だけど──」
まず最初にミケから伝えられたのは、研究所をとりまく最新情報だ。
いわく、作戦がうまくいったらしい。この飛空船に移設したゲートを使った事によって、相手側にかなりの混乱を与える事に成功したようだ。
ミラが神域に向かってから暫くしたところで、研究所の包囲網は瓦解。代わりに一部がこちらに向かって大移動を始めたというのが現状との事だ。
「──やっぱり、こっちの動きを理解しての包囲だったようだよ。で、骸を運び込む前にどうにかしようという算段だったけど、今回はこっちの作戦勝ちってわけさ」
そこまで語ったミケは、続けて次の議題を挙げた。
これから考えるのは、この研究所から離れて向かってくる魔王の手先をどうするかというものだ。
「報告からして、かなりの大群みたいだ。戦うにしろ避けるにしろ、ゲートを守るためにも飛空船を巻き込む事は避けたいね」
対応における最低条件を、アンドロメダが提示する。
十分に再現出来るのであれば優先度は下がるが、現状だと神域に行くには今存在しているゲートだけが頼りだ。
ゆえに骸の入手に次いで、ゲートの防衛が重要な任務となる。
「とりあえず、ここからとれる選択肢は幾つかあるけど、皆はどうするのがいいと思う──?」
そう前置きしたミケは、次にどう動くのがベストだろうかと問うてきた。
選択肢の一つ目は、四つ目の骸がある場所に最速で向かうというものだ。
ただ今回の一件で、魔王側もこちらの狙いについては明確に把握したであろう。そして同時に、こちらもまた封印場所を知っているともわかったはずだ。
となれば、動きも予想されやすくなったわけである。ゆえに残る封印場所でミラ達を迎え撃つため、今までとは比べ物にならないくらいの戦力を揃えてくる事が予想出来る。
「このまま無視出来たら一番楽なんだけどなぁ。多分、そう簡単にはいかなさそうだよね」
大群の動きについて、ハミィが予想を口にする。
今すぐミラ達がこの場を離れた場合、ここに差し向けられた大群は次にどう動くのか。もしかしたら、次に予想出来る目的地に向かわせて現地の戦力に合流させようなんて考えないだろうかというのがハミィの考えだ。
「場合によっては、挟み撃ちに遭いそうですね」
目的地にいる敵との戦闘中に、背後から別の魔物の大群も到着しようものなら大変だ。流石に厳しい戦いになってしまうだろうと、ヴァレンティンが懸念する。
「それじゃあ、どうしようか──」
結果、選択肢は絞られていった。
まだ戦力が整っていないと見込んで最速で次の目的地に向かい、迅速に用事を済ませて立ち去るか。
それとも挟み撃ちを避けるために迂回しながら様子を窺い、敵の戦力をじっくり確認してから確実に仕掛けていくか。
いっそ、とりあえず先に、こちらに向かっているという大群を処理してしまうか。
そうアンドロメダは、大きくまとめて簡略化した三つの方法を提示した。
「合流しようがしまいが、敵は魔物の大群じゃからな。とっとと片付けてしまうに越した事はないじゃろう」
魔物が大群でいるとなったら、それだけで十分に危険だ。よってそれが面倒事を起こす前に始末しておいた方がいいというのがミラの考えだ。
「まあ、そうよね。そのままにするのは危ないものね」
これにカグラが同意すると、他の者達もまた同じような考えだったようで、同様に魔物の大群を先に対処するべきだという意見でまとまっていく。
「うんうん、それじゃあ次は迎え撃つための作戦会議を始めようか!」
納得の選択だと頷き答えたアンドロメダは、さあどう戦うべきかとテーブルの上の地図に目を向けた。
作戦開始から一時間と少々。ミラ達は、魔物の大群が真っすぐ向かってくる直線上に位置する小島にいた。
今は地図で見つけたこの島に、魔物の大群を迎え撃つための要塞を急ピッチで構築しているところだ。
「このままなら、あと一時間ほどで到着するかな。あと悪魔の姿はないみたいだけど、レイド級の魔獣が二体確認出来たって」
魔物の大群の位置や詳細については研究所側から逐一報告が入っており、その都度ミケが伝えてくれる。
以前の仕事の成果というべきか。中継基地に設置したレーダーによって、かなりの精度で捕捉出来るようになったという。もう少ししたら、魔物の種類まで判別出来るだろうとの事だ。
と、そのように敵側の情報を得つつ、対抗策も踏まえて準備を進めていく中、ミラは聳える城壁を前に眉根を顰める。
「少し多過ぎではないかのぅ」
「こっちの準備は、もう大体終わったからな。それでもまだ一時間もあって、しかも海のど真ん中だ。なら、このくらいしても問題はないだろう」
小島に聳え立つソウルハウルの巨城。その城門から覗く砲身は、先ほどまで十と少々だったのだが、まだ余裕があると聞くや否や、三十近くにまで増えていた。
どこの国からも目立たぬ海のど真ん中だからといって、これは流石に盛り過ぎではと苦笑するミラ。
対してソウルハウルは、面倒な事を考えず思い切りやれる今の状況を逃すつもりはないようだ。それはもう丁寧に砲弾の準備を進めていた。
「これ、ほんと便利だよね!」
城壁を巡り準備するミラは、次に小塔ではしゃぐハミィと出会った。
堅牢な造りの小塔は、全方位を監視するための小窓がある。ハミィは、小塔に守られながら小窓より安全に好き放題撃ち放題だと、それはもう嬉しそうだ。アーティファクトの大弓を手に、魔物の到着はまだかと張り切った様子だ。
「こんな感じでいっか」
城内のホールにて、道具の整理と準備を余念なく済ませているのはカグラだ。どのような敵が相手であろうと、油断せずに挑むのが彼女なりの心得である。
「いっそ翼でも生やそうかな。それとも、そう……ガルーダやペガサスの背をぴょんぴょんって──」
そんな念入りなカグラがじっと見つめるのは、大きな猫の式神だ。彼女の好みど真ん中なその姿は愛らしく、だからこそか適性は地上戦で力を発揮出来るもの。
しかし先ほどに続き今回の戦いも、空の魔物が大半を占める。ゆえに活躍させる場がないと嘆く彼女は、何やらぶつくさと呟き始めた。
ミラはカグラに気づかれぬよう、即座にその場を後にした。
さて、前回の続きになりますが。
目的としていたゲームが満足に動かない今、次の世代へと進もうかといった昨今。
PC界隈に詳しい方ならきっと耳にしているでしょう、あれが最近発表されましたよね。
そう、GeForceの50番代です!
その一番安価なモデルでも、現行のトップにすら届こうかというくらいの性能だとか。
それが発表されるまでは、4070Superを考えていましたが……なんとそれと同じくらいのお値段という!!!
そうなるとやはり思っちゃいますよね。だったらこの50番代が搭載されたやつを買った方がいいのでは、と。
幾らか大人しくなったとはいえ、今もブルースクリーンがちょくちょく発生する現PC。
しかも来月の末頃にはあのモンハンの新作まで待ち構えていますが、最低動作環境にちょっと届かない現PC。
50番代搭載型PCが出てくるのは、いったいいつ頃になるのか……。
なお宇宙ロマンを求める気持ちは今、ウィンターセールで
X4 Foundations
というゲームを買い発散しております。
大艦隊を組んで宇宙の覇者になるのだー!!!




