604 三神の宝物庫
今月末にコミック版13巻が発売になります。
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六百四
ミラがあれこれと考えている間、他の皆もまたそれぞれに妄想を膨らませているようだ。その目には、宝物庫への期待がありありと浮かんでいた。
アンドロメダは、戦力強化のために宝物庫へ行こうと言った。つまりそこには、戦力を強化出来るだけの凄まじい武具があるというわけだ。
いったい、どんなものがあるというのか。言葉を交わせば交わすほど、その期待はより膨らんでいく。
「やあやあ、お待たせお待たせ」
そうこうしていたところで、アンドロメダが戻って来た。しかも何やら両手で大きなものを運んできたではないか。
それは、よく見れば扉であった。アンドロメダは、わざわざ大きな扉だけを持ってきたのだ。
「何でまた、そんなものを」
装飾だなんだが施された立派な扉である。だがそれだけでもある。ゆえにノインは、そんなものを持ってきてどうするのかと疑問顔だ。
「何じゃ、ノインや。夢がないのぅ。あの話の流れから、わざわざこれを持ってきたという事は、つまりそういう事じゃろうに」
「まあ、そうだな」
当然、ただの扉であるならば今ここで運んでくる意味などない。けれどこうして意味ありげに持ってきたとなれば、その理由は定番のアレに決まっている。そうミラが目を輝かせれば、ソウルハウルもまた面白いと笑う。
「そうよね、こうなったらもうアレね」
「さっすが! 行き方からもう特別感満載だー!」
カグラとハミィも、ミラが考えたそれと同じような答えに行き着いたようだ。流石は三神の宝物庫。そこに行くのもまた普通じゃなさそうだと、期待値を上げていく。
「これで違ったら、ちょっと意味がわかりませんね」
ヴァレンティンも、状況からしてそれしかないと確信した顔だ。
対してノインは、未だにピンときていない様子である。いったい皆の頭には何が浮かんでいるのかと、より疑問を深めている様子だ。
「え? あれ? 何か期待されてる? えっと、ちょっとそれに応えられるか不安なんだけど……」
そして当のアンドロメダはというと、どうやら今回の扉についてはこれといって驚かせるような要素に考えてはいなかったようだ。だからこそ、いつにない熱い眼差しに戸惑い気味だ。
「えーっと、ソウルハウル君。丁度これに合う門とか用意出来るかな」
ともあれ、こほんと一呼吸置いたアンドロメダは、ソウルハウルにそんな要望を出した。
「お安い御用だ」
扉を一瞥したソウルハウルは、当然そういう意味だろうと理解して、死霊術を使い丁度いいくらいの門を作り出す。
それは意図してか、はたまた彼の趣味というだけか。ゴーレム製のその門は、まるで冥界にでも繋がっているのではないかというような、おどろおどろしいものだった。
「お、なかなか面白いね。いいよ、いいよ!」
見た目はどうであれ大きさはぴったりだと感心するアンドロメダは、よいしょと扉を手に取って、その門にしっかりとはめ込んだ。
不気味な門と豪奢な扉は、実にちぐはぐである。だが、そこはかとない特別感も増したからか、準備完了というアンドロメダの声にミラ達もまたいよいよかと期待で目を輝かせる。
「それじゃあ、行こうか」
そう言ってアンドロメダが扉を開ける。
するとどうだ。予想通りでありながらも、やはり驚くべき光景がそこには広がっていた。
不思議な扉は、どこに繋がっているのか。それを垣間見る瞬間というのは、やはり感動的ですらある。しかも今回に限っては扉の先が三神の宝物庫だからこそ、扉を開けた時のワクワク感といったら、もはや筆舌に尽くしがたいほどだ。
「もうこの時点で別格じゃな!」
「お宝の匂いしかしないよね!」
直ぐに扉を覗き込んだミラとハミィは、その向こう側に広がる豪華絢爛な光景を前にして、ますます興奮していく。
またカグラ達も、これは心躍る光景だとその目を輝かせていた。
「なんだこれ、どうなっているんだ!?」
そして唯一、そんなミラ達とは違った反応を示すのはノインだ。
扉を開いたら、その先は別世界。ファンタジーにおける定番といってもいい場面なのだが、どうやら彼はそういったファンタジーのお約束的な展開に少し疎いようだ。
ただ、だからこそというべきか、彼の反応は新鮮そのものでもあった。
「裏に何か? って、何もない!? え? え? えー!?」
門を表から見たかと思えば、直ぐ裏側に回って確認してを繰り返す。そしてその顔に驚きを目一杯張り付けたまま扉をじっと見つめて「なんだこれ!?」と、更に驚きはしゃぐ。
「お、おお。うんうん、いいね、いいよ。いい反応だ。素晴らしい!」
扉が別の場所に繋がっている。これは異空間の始祖精霊であるリーズレインも得意とするものだ。ゆえに目新しさはないと思っていたアンドロメダだが、ノインのまさかの反応に随分と気をよくしたようだ。
これこそが、唯一三神の宝物庫に至る方法であると、特にノインに向けて大いに語る。
(はて、心躍る光景ではあるものの、あそこまで驚くほどではなくなったのは、いつ頃からだったかのぅ)
楽しそうなノインと嬉しそうなアンドロメダ。その様子を前にしながら、ふとそんな事を考えるミラ。
ワクワクする瞬間であったのは間違いない。けれど扉が開いた後はもう、宝物庫の事で頭がいっぱいになっていた。
ファンタジーの定番だという言葉で、驚きを片付けてしまったわけだ。
そんな今の自分を改めて振り返ったミラは、今のノインのような気持ちを失ったのは、いつだったかと考え少しだけ初心の頃に思いを馳せた。
「おお、これはとんでもない所じゃのぅ!」
不思議な扉を抜けた先にあったのは、見た目でいうならば宝物庫というよりは神殿に近い造りの場所だった。
「凄いな。もしかして、これも全部そうなのか」
いや、更に言うならば、神殿に近い造りの博物館とでもいったところだろうか。ソウルハウルは、そこに陳列されているものをじっくり観察してから周囲を見回した。
一見すると、第一印象で受けた神殿のように厳かな雰囲気が感じられる。だが見渡すと、不思議な光に満たされたここには理路整然としながらも沢山の物で溢れていた。
「さてさて、折角だからね。説明しよう!」
皆がそれぞれ興味深げに周囲を眺めていたところで、アンドロメダがここぞとばかりに語り始めた。
いわく、この場所は最初期に建造された三神教の神殿だそうだ。
けれど長い歴史の中で、大戦やら地殻変動やらの影響を受け、この神殿は地の底に埋もれてしまった。
だが三神にとっても、この『始まりの神殿』は特に思い出深い建造物だったそうだ。
ゆえに地上から消えてしまったこの神殿を、特別に創った異空間に移して保存したのが、ここというわけだ。
ちなみに先ほどの扉は、その神殿に据えられていた扉だったとの事だ。
『懐かしいな。いや、本当にあの時は大変だった。傷つけないように、傾けないようにと何度言われた事か』
途中、そんな愚痴めいたリーズレインの言葉が聞こえてきた。どうやら、この神殿の保存を担当したのは彼らしい。
移設のためにあれやこれやと、三神からかなり細かい注文を受けたそうで、実に面倒な仕事だったという。
『そんな事がのぅ。何とも不思議な感じじゃな』
ただその言葉から、どれだけ三神がこの『始まりの神殿』を大切にしているのかという事も伝わってきた。
神といえば、色々と超越しているイメージのある存在だ。けれどどうにも、三神には不思議な俗っぽさのようなものが垣間見える。
そしてそれは、なんとなく親しみ深く、嬉しくも感じられるものだった。
「なんか、凄い武具がいっぱいあると思ったら、そうでもないのもいっぱいだねぇ」
と、三神の想いに少しだけ感慨深く感じ入っていたところだ。足が早いというか手が早いというか。その間にもハミィが、あっちこっちと見て回っていた。
建物の造り自体は神殿のそれだが、博物館のようにも見えるというのも事実であり、ここには多くの棚が並べられている。そしてそれらを見てみれば、ハミィの言っている意味というのも理解出来た。
宝物庫と言われてやって来た事もあり、それはもうとんでもない財宝や、とんでもない武具などが山のように保管されているのかと想像していた。
けれど、ここに並んでいるのは違うものばかりだ。神殿内に所狭しと溢れるそれらは、むしろガラクタにすら見えるようなものまで含まれている。
「ああ、それは、まだここら辺が三神の思い出部屋みたいなところだからだね」
そんな疑問に対するアンドロメダの答えがそれだった。
アンドロメダが言うには、扉を抜けた最初の部屋となるこの場所にあるのは、三神にとっての宝物だけだそうだ。
そして彼女は更に続けた。これらのほとんどは、人間からの贈り物であると。
「なんというか、はしゃぎ過ぎて恥ずかしいんだけど……」
興味深げに棚を見て回っていたカグラは、アンドロメダの話の後に立ち止まり、そう呟いた。
類にもれず、どれほど凄いお宝がという気持ちを抱いていたからこそ、カグラは複雑そうに眼を泳がせながら苦笑する。
「あー、うん。そっかぁ……」
「確かに、それも宝物ですよね」
ハミィも少しばつが悪そうに笑うと、ヴァレンティンは納得したように頷き棚を見やった。
いうなれば、遺産に目が眩み親の金庫をこじ開けたら、自分達の思い出ばかりがそこにあったという類のあれに近い心境だ。
このようなものまでも大切にする三神という存在。ミラ達は、その人間臭いところに親近感を抱く。
「とにもかくにも、目的の場所に向かおうじゃないか」
とはいえだ。この宝物庫に来た目的は、戦力の強化である。ゆえに、この宝物庫にあるのは三神の思い出ばかりではない。
アンドロメダは、本命はこっちの方だと歩き出す。
「待ってました!」
一番に飛び出すハミィ。そしてミラ達もまた、再び一転。気を改めてその後に続く。
そうして向かった先は、宝物庫のずっと奥。幾つもの階段を上がったところに、それはあった。
これまでとは打って変わり、厳重に封鎖された扉が重々しく聳えていた。
明らかに扱いが違う様子を前にミラ達が息を呑む事暫く。アンドロメダは幾つもの鍵を使って、その厳重な封鎖を一つずつ解除していく。
それから数分後、いよいよ最深部の扉が開き、その中がお目見えとなった瞬間だ。
「うっわ!」
「えっ!?」
これまでとは比べ物にならない不思議な力を感じて、思わず声を上げるハミィとカグラ。また他の皆も何かが溢れ出してくるのを感じたようだ。何だ何だとざわめき出す。
「この感じ、とんでもなさそうじゃのぅ」
この先は、明らかに尋常ではないとわかる気配で満ちている。
けれど怖気立つような、そういった危険な何かとはまったくの別物だ。むしろ守られるかのような、何かに強く抱きしめられるかのような、そんな印象すら覚える何かが辺りを包んでいく。
その正体とは、いったい。ミラ達はアンドロメダに続き、全身を震わせるそれに引き寄せられるかのような足取りで扉の先へと踏み込んでいく。
するとそこにあったのは、ミラ達が思い描いていたお宝感をも超えるほどの光景だった。
「え、これってまさか……」
「おいおい、嘘だろ。とんでもないところだな」
大きな部屋に並べられた無数の棚。その一番近くにあった短剣を軽く見てみただけだ。けれどそれだけで、とんでもない事実が判明する。
ヴァレンティンとソウルハウルは、それから更に二つ三つと確認して、この部屋がどれほどの驚異に満ちているのかを理解した。
「いやはや、流石は三神の宝物庫というだけはあるのぅ」
ミラもまた、この部屋全体に満ちる力の気配から、やはりそうかと苦笑する。そして目の前にあった杖を手にして、これほどのものなのかと驚く。
ただ目の前にあっただけ。適当に手にしただけの杖だが、それはただのお宝どころではない。
なんと伝説級をも超えた秘宝。神造の遺物であるアーティファクトだったのだ。
いよいよ今年も残り半月。
クリスマスに大晦日という美味しいイベントまでもう少しです。
加えて忘年会的な集まりも!
チートデイがスペシャルチートデイに強制進化する時期ですね!
そういう感じになるのは自分だけではないはず……!!!
とはいえ特定の日以外は、ヘルシーに過ごすのできっと問題ないですよね。
という事で2月になるまで体重計には乗らないと決めた今日この頃でした。




