602 決戦に向けて
六百二
魔物を統べる神の気配を察知する能力を持つ存在。イーヴェロウが言うに、その者は魔王フォーセシアと名乗っていたそうだ。
「なんじゃと? その名前は確か……」
フォーセシア。その名にミラは聞き覚えがあった。
そう、かつて魔物を統べる王を見事に打ち倒したという、大英雄フォーセシアだ。
「な、あれだろ。フォーセシアっていえば、昔の人間の英雄の名前だ。わざわざそんな名前を引っ張り出してきて、しかも魔王なんて名乗るとか何の冗談だよって感じだろ。けどあれか。人間の英雄の名を騙るって事は、やっぱり人間だったりするのか? いや、それは流石にないか。だったら見ればわかりそうだしなぁ」
その名前は悪魔達の間でも、かなり有名だった。だからこそ誰もがそれを偽名であると判断し、決して正体を見せないその存在に対して幾らかの不信感を抱いていたらしい。
イーヴェロウもまたその名を聞いて、ただの冗談か何かだと思ったそうだ。だからこそここまで、そのわかりきった偽名を出さず、あの者だなんだという言い方をしていたわけだ。
なお、魔物を統べる神の骸に関連する事柄については、全てその魔王フォーセシアだと名乗る者が総指揮をとっているという。
『まったく、悪い冗談だ』
イーヴェロウの話を聞き終えた直後、そう反応を示したのは精霊王だった。
精霊王にとって、フォーセシアは親友ともいえる存在だ。だからこそ、その名を騙る不届き者に対する声には、かなりの憤りが見て取れる。
『ええ、本当にそうね』
これにはマーテルも思うところがあるのだろう。そう呟いた言葉の端々には、彼女にしては珍しいくらいの不機嫌さが込められていた。
あの精霊王とマーテルがここまでの苛立ちを表す事からして、フォーセシアという人物は、それだけ立派な人物だったのだろう。少なくとも、魔王などと名乗るような人物ではなさそうだ。
「ふざけておるのか何なのか。ともあれ、その魔王と名乗る者を放ってはおけんのぅ」
フォーセシアと名乗るだけではない。魔王とも名乗るその存在の企みには、魔物を統べる神が関係している。
魔物を統べる神の骸の気配を察知出来る力なんてものを持っているのも厄介だ。
完全に封印された状態ならばその力も及ばないそうだが、ひとたび封印が解かれたら、後はもう幾らでも追跡出来る状態となる。つまり、魔物を統べる神の骸を見つけ次第、こっそり消滅させてしまおうという作戦もまた全て相手に知られた事になる。
今回、二つも処理出来たのはイーヴェロウ達がいがみ合っていたお陰で、幸運だったと言っても過言ではない。
「とりあえず、研究所の防衛については今以上に力を入れる必要がありそうだね」
事態を鑑みたミケは、最初の優先事項を明確にする。
骸を二つ処理した事に加え、こうして五体の侯爵級にまで対処し切った。だからこそ研究所は間違いなく魔王の恨みを買ったに違いない。
そうとなればここから先、相手方の妨害が苛烈になっていくのは必然。更なる戦力や策略を引っ提げて、この研究所を狙ってくるだろう。それこそ、公爵級まで出張ってくるかもしれない。しかも数体揃ってこようものなら、流石の日之本委員会でもただでは済まない。
だからこそ、更に強固な改修が必要だ。
「うむ、そうじゃな。それと同時に根本を絶つ方法も探っていかねばいかんのぅ」
日之本委員会の安全のためにも、魔王と名乗る存在に対処する必要がある。そして何より世界の安全のために、魔物を統べる神に関係する案件を解決するべきだろう。
決戦に向けて本腰を入れる時が来たようだ。ミラがこれからの大きな目標を掲げれば、全員の目に更なる熱が宿っていく。
「ここは一度、皆で話し合っておくべきだね」
由々しき事態だと深刻そうに告げたミケは、研究所のみならず各国の意思もここで統一しておいた方がいいだろうと告げた。
侯爵級悪魔と魔物の群れ襲撃から、約二時間後。日之本委員会の緊急全体会議が開かれる事となった。
研究室の室長達が一堂に会する場であり、更に現場組としてミラやアンドロメダ、ハミィら将軍達に加え、専門家という形でヴァリー(ヴァレンティン)とイーヴェロウも同席している。
だが今回の緊急招集は、それだけではない。アトランティス王国のゼノドゥクスやニルヴァーナ皇国のアルマ、またアルカイト王国のソロモンも含め、日之本委員会に所属する全国家全組織の首脳陣が、通信装置を介して参加する最大規模の会議となっていた。
なおミラの隣には、しれっと教皇の姿もある。世界を危機から救うための会議なら三神教会も助力をいとわないと豪語しての列席だ。
(……うむ、やはり皆、ド緊張しておるな)
大陸全土に影響力を持つ三神教会。そのトップともなれば権力権限の全てにおいて、ここに揃う誰よりも上だ。
だからこそ教皇も参加していると告げられてからの雰囲気といったら、もう世界の危機にも匹敵するほどの緊張感をこの会議にもたらしていた。
ただ、ある程度親交もあり、教皇の人となりを幾らか見てきたミラは、そんな皆の様子を観察しては楽しんでいた。
「──というのが、つい数時間前の出来事です。そして今後は、敵からの更なる攻勢が予測されます。よって研究所は今後、決戦に向けて総力をつぎ込んでいく事になりました」
研究所所長のオリヒメは、今回の出来事についての経緯全てを説明する。そこから続けて、魔物を統べる神との決戦についても触れていった。
現在は、アンドロメダを中心に進められている決戦準備だが、この件が解決するまでの間は、これを研究所総出で進めていくつもりであると発信したのだ。
そしてこれについては現場に居合わせ、解決にもかかわったという事でミラ達が作戦概要諸々を説明していく。その内容には悪魔の浄化や魔王、そして魔物を統べる神の存在なども含まれている。
だが、もしもの盗聴に備えて、切り札の神器については一切を伏せての情報公開となった。
「そういうわけで、次にどうくるかわからないからな。出来る限りの準備をしておいた方がいいだろう」
色々と話した最後は、レイヴンがそのように締めくくった。内容全てを要約すると、日之本委員会一同で決戦準備を進めていこう、というようなものだ。
「いよいよか」
「好き勝手やれていたのも、平和だったからこそだもんな」
室長達の反応としては、むしろ遂にこの時がきたかといったものだった。アンドロメダとの出会いと日々もあって、決戦の気配は十分に感じていたようだ。そして既に覚悟の方も幾らか出来ていた様子である。
これから研究所全体で決戦に向けての準備をする事について概ねの同意を得られた。
『随分と急だが、仕方あるまい』
『わかった。そういう事なら幾らでも力を貸そう』
『ちょっと時間をくれるか。直ぐには無理だ』
対して首脳陣の反応は様々である。とはいえ、それも仕方がない。国の運営という一番の問題があるため、即断即決というわけにはいかないのだ。
魔物を統べる神との決戦ともなれば、大陸中の魔物がどのように動くか想像もつかない。だからこそ首脳陣が一番心配していたのは、民を守る方法だった。備えるにしても、シェルターなりなんなりを直ぐに用意出来るわけではないからだ。
「避難所については、我々がお役に立てると思います」
と、そんなところに手を差し伸べたのは、教皇であった。
彼女は言う。三神教会には、その創立から代々受け継がれてきた決まり事があると。
その一つは、三神教会を建造する際には特別な結界術式を基礎に刻む事。そしてもう一つは、地下に堅牢な部屋を用意しておく事。
つまり三神教会は創立時からずっと、大陸全土に教えを広めつつ決戦に備えてきたというわけだ。
「どうか皆様が憂いなく戦えるよう、協力させてください」
教皇は、今がその時と判断したようだ。非戦闘員の受け入れ先として教会を解放し、更には避難民の食糧や医薬品なども用意すると告げ、それを前提に準備してほしいと続けた。
『そこまでしていただけるのでしたら!』
『助かります。それなら軍部を拡充出来ますね』
『おお、ありがたい!』
一番の悩み事に解決の糸口が見えたとあって、首脳陣の反応も一気に前向きなものへと変わった。
国としては他にも色々な問題もあるが、それでもやはり教皇の申し出は非常に大きな一助となったようだ。
決戦への備えが大きく進む。そんな勢いが会議室全体に広がっていった。
決戦準備の件について一通りまとまった後は、目下直前の問題への対応について協議された。
一つは、魔王傘下の悪魔達が再び研究所を襲撃してくる恐れがある件についてだ。
「まず防衛力の強化については、以前から秘密裏に開発していた設備の配置で対応しようと思う。それと、既存の防衛装置は修理とメンテナンスのため内殻に移し、複数の技術者を専属で配備する──」
そのように、つらつらと説明していくミケ。
現在、日之本委員会の研究所を守っているのは、技術者達が好き勝手に構築した防衛システムが主だったところだ。
それが今日、本格的に日の目を見たとあって開発者連中は大喜びだったわけだが、本格的に運用する必要が出てきた今、趣味や実験も兼ねたそれらをそのまま使うわけにもいかない。
ゆえにミケは、これらのアップグレード版を正式に配備すると告げたのだが、そこでちょっとした問題が発生した。
「いや、待て待て。今、しれっとメインを持っていこうとしなかったか?」
「俺達のを内郭に移すって事は、つまりお前が作ったやつを外郭に据えるって事だよな?」
もう決定事項だというような流れで、さらりと告げられたミケの言葉。そこに含まれていた意味に直ぐ気づいたようだ。研究所を守る主役は自分だと、各開発者が騒ぎ出したのである。
「そうだけど?」
対するミケは、もう清々しいまでの肯定と、これを覆すつもりはないという自信で返した。
彼女もまた、防衛機構を好き勝手に構築していた一人。そして何より、今回の侵攻で最も活躍したシステムを手掛けていたのがミケだったのだ。
ミケは、その点を前面に押し出して新たな防衛システムの構築について語った。何より秘密裏に開発していた新たな装置に、今回の襲撃データを合わせれば、その防衛力は数倍にまで高まると。
「ぐぅ……」
「んんんんんー……!」
「ミケ……お前がナンバーワンだ……」
データが全てを物語る。それらを突きつけられた技術者連中は、ぐうの音も出ないほどに言い含められ、最前線の防衛網から身を引く事を承諾したのだった。
研究所全体を守る防衛システムについては、概ね算段がついた。
だが当然、守るだけではどうにもならない時だってある。ゆえに敵の侵攻に備えた戦力としてゼノドゥクスの判断により、今いる名も無き四十八将軍の内の十名が、このまま研究所の防衛隊として常駐すると決まった。
しかも、それだけではない。更にアルカイト王国より、九賢者のラストラーダとメイリン。ニルヴァーナからは、アルトヴィードと鳳翁が増援として加わる事になった。
「こちらからも、専門家を派遣させてもらおう」
またヴァレンティンが所属する組織からも、浄化された武闘派悪魔が三名ほど来られるそうだ。
複数の悪魔に襲撃される確率が高まっているからこそ、その援助の価値は計り知れないというものだ。
なお、その内の一人はダンタリオンらしい。
(なるべく会わないように……は、無理かもしれんのぅ)
研究所に来れば、きっと気配で察知されるだろう。ここにはただでさえ変態が多いのに加え、そこにダンタリオンまで加わったらどうなってしまうというのか。
想像したくない未来が脳裏を過ったミラは、もう何も考えない事にした。
そうこうして話し合いの結果、研究所の安全については幾らか目処が立った。
となれば次は、攻める方である。
まず最終的な標的となる魔物を統べる神については、攻略が進行中だ。
むしろ順調に進行していたからこそ、今回の襲撃に繋がったわけでもある。
「──そういう感じで、この分割して封印された骸をこちらで回収出来れば、勝率がぐっと高まるわけだよ」
ここまでの大まかな流れについては、アンドロメダが一通り説明した。とはいえ、神器や神域などの極めて重要な部分については伏せたままだ。
『つまり、その骸を先に見つければ勝ちみたいなものって事か?』
『それがどこにあるのか、見当はついているのだろうか』
状況は大陸全土の未来にかかわる。だからこそ、幾つもの質問がその場に飛び交った。
中でも多かったのは、やはり骸の捜索に関係するものだ。
先に見つけて処理してしまえば、一気に勝利へと近づける。ゆえに、その捜索状況が気になるところだろうが、これについて話せる事は厳しい部分しかなかった。
「場所については、それを知る者に教えて貰えたが、悪魔側もまた独自にそれを突き止めておる状態じゃ。今はまだ封印が強固なため悪戦苦闘しておるらしいが、それも時間の問題と言うておったな」
残る骸の四つのうちの三つは、こちらも場所を把握しているが、悪魔達も同じく把握しているという状態。つまり、これを狙うとなったら戦いは避けられないだろうとミラは告げる。
また、最後の一つについては特殊な場所に封印されているというだけで、詳細まで教えては貰えていない。また予想の範疇ではあるが、悪魔側もこれに気づいた様子はなさそうだとの事だ。
よってその一つについては、残る全ての骸を処理した時に、その場所を教えて貰える約束になっている。と、ミラはそこまで言ってから話を締めくくった。
大いなる決戦に向けて多くの事が議題に上がった。そして色々と決定したり保留になったりしながらも、一通りの話はまとまり会議が終了した。
また、ミラ達の今後の動きについても同時に方向性が定まった。
「責任重大じゃのぅ……」
何よりも決戦の中心人物として、これまでに多くとかかわってきた事から、ミラには重要な任務が託された。
これからミラは来たるべき作戦に備え、攻勢の要として動く事になったのだ。
しかも、この任務にはチームで当たる。
ミラに加えて、ヴァレンティンとハミィはそのまま。更にアルカイトからカグラとソウルハウル、ニルヴァーナからはノインがメンバーとして派遣される事が決定している。そしてここにアンドロメダをリーダーとして据えたのが、今回の特別チームだ。
そんなミラ達のチームがメインとする目標。それは、全ての骸の入手と処理。そして魔王の捜索となっている。
(しかし、本当に何者なのじゃろうな)
魔王。かの英雄フォーセシアの名を騙る謎の存在だ。研究所の襲撃を企てた事から、このまま無視するわけにもいかない。だが、相手もまた骸を目的としているのはわかっている。
だからこそ一番の優先目標は、骸が相手の手に渡らないようにする事だ。
そして、こちらも骸を目的に動いていれば、きっとどこかしらで魔王の手の者と遭遇するはずである。
しかも相手が悪魔であったなら、ヴァレンティンの出番だ。魔王に繋がる悪魔を浄化する事が出来れば、更に詳しい情報を得る事が出来るだろう。
ゆえに、ミラ達は骸の入手を最優先目標と定めた次第である。
これまでにいくつかの餃子を食べてきて何となくわかった事があります。
それは、
1個20グラムくらいなら、いい感じに具のある餃子
というものです!
(個人的な感想です)
昔買って、中身スカスカだなぁ、なんて感じたものはこれを満たしていなかったわけですね。
と、そうしてある程度の基準を理解したわけですが……
ここで新たな問題が発生しました!
つい先日、一回基本に戻ってみようと思い、定番のメーカーの冷凍餃子を買ってみたんです。
12個入りで、300グラム弱くらいの量という事で
1個20グラム以上を満たしていると判断したわけです!
ただそこで気になる点も浮かびました。
水も油も必要なし、という種類あるじゃないですか。
それで何やら見れば、一個一個にそのための加工的な何かが施されているわけです。
ただ焼くだけでいい感じになるような、油やら何やらの塊的なものがくっついているんですよ。
で、そこでふと思ったんです。
この加工分って、もしかして総重量に含まれているのでは? と。
表記されているのは餃子本体だけでなく、これも含まれてしまっているのでは? と。
パッケージを見ただけなら、余裕で1個20グラムを超えているからボリューミーに感じたのに、これはもしや……。
そんな疑念を抱いてしまったのです……。
はたして、真実は如何に……。




