59 移動手段
五十九
「さーて、次は天上廃都だね。距離から考えても、今度は長くなるかなー」
役目を終えたスレイマンが解読の作業に戻ると同時に言葉使いを元に戻すソロモン。その何とも言えない違和感にミラは、
「気になっておったんじゃが、さっきまでの言葉使いは対外用に威厳を出す為じゃったな? スレイマンは昔から居る、云わば身内の様な者じゃろう。必要あるのかのぅ」
そう言うと、ミラは以前の事を思い出す。クレオスやマリアナがゲームの頃だった出来事を全て覚えているように、スレイマンもそうであれば、対外用の言葉使いなど不要のはずだ。そう考えたミラにソロモンは大きく溜息を吐くと、そうなんだけどと前置きしてから真相を語る。
「最初の頃は、余り気にもしてなかったんだけど、ルミナリアに言われたんだよね。威厳が無いって。本物になってしまった今、あの頃の気持ちのままでは何かと問題だろうってさ。それでまずは、それらしく外面から取り繕おうってなって、王様っぽい言葉使いをしようと考えたんだ。その事をスレイマンに相談してみたら……、なんかすごく喜ばれちゃってね。言葉や態度に不自然が無いか、私が確認しましょう! ってなって、スレイマンの前ではあの言葉使いじゃないと怒られちゃうんだ」
「なんとも、忠臣じゃのぅ」
やれやれと肩を竦めて苦笑するソロモン。ミラは楽しげにほくそ笑みながら、らしい理由に納得する。スレイマンはそういう男だと。
「しかし話は戻るが、天上廃都となると随分と遠いのぅ」
ミラは言いながら、これまでの空の旅を思い出す。景色は絶景で、毛皮のコートがあれば寒さも気にならない。そして馬車と比べ圧倒的に速く、遠ければ遠いほど、空の移動は時間を短縮する結果になる。だが、何時間もペガサスに乗ったままという事に、ミラとしては大分堪えていた。
「ワゴンの方はどうなっておる。そろそろ出来そうか?」
「うーん、特注品が多いからね。あの時は、盛り上がり過ぎてそこまで考えていなかったから、まだ掛かるかな」
「ぬぅ。そうか」
理想のワゴンが完成すれば万事解決するが、まだとなればもう暫くはペガサスに乗る事になるだろう。ペガサスの方はといえば、ミラと共に空を飛べる事に、毎回嬉しそうに翼を羽ばたかせている。ミラとしても、それは楽しい事ではあったが、如何せん疲労の蓄積はどうにもならない。先日は途中で疲れ、草原で昼寝してしまった程だ。
天を仰いだミラはソファーに仰向けに寝転がると、このソファーが空を飛んでくれればなと、夢物語を夢想する。
「随分と残念そうに見えるけど、何かあったのかい?」
ソロモンは、そんなミラの様子に何か感じ取ると、そう声を掛けた。ミラはそのままの姿勢で顔だけを向け、
「今はペガサスに乗って移動しておるんじゃがな。流石に長時間しがみ付いておると、ちと疲れるんじゃよ。今度は、天上廃都までじゃろう。随分としんどいと思ってのぅ。もう少し年寄りを労わって欲しいものじゃ」
「なるほど、そういう事ね。確かに早いとはいえ、ずっと乗りっぱなしじゃあ疲れちゃうか。というか、その年寄りネタ久し振りに聞いたね。今となっては、別の面白さがあるけど」
ミラのぼやきに納得したソロモンは「それじゃあさ」と言いながら、大き目の地図を机に広げる。ミラは自然と立ち上がり、机の傍まで寄ってそれを覗き込む。
「これは地図……のようじゃが、何か違うのぅ。この線はなんじゃ?」
机に広げられた地図は大陸の南東全域、アリスファリウス聖国を中心とした地域図だった。簡単な地名の他、とても目立つ曲線が横断する様に描かれている。その線上に点々と町の名前が記入されており、ソロモンはその点の一つ、アルカイト王国から北の山を越えた場所に位置する地点を指差す。
「これは大陸鉄道の路線図だよ。空の旅に疲れたなら、陸路で行けばいい。ここから一番近い駅街が、このシルバーサイド。ここから鉄道に乗ってアリスまで行き、そこからペガサスに乗り換えれば疲れも少ないんじゃないかな。アリスに到着するまで三、四日くらい掛かると思うけど、鉄道の通っている町には宿が多いから、十分に休息もとれると思うよ」
言いながらソロモンは線に沿って指を進め、アリスファリウス聖国の駅町から、ふわりと指を離すと天上廃都のある山脈に着地させる。
ミラは、その路線図を呆然と見つめながら線路上にある街の名前を追いかけ、やがて自我を取り戻したかのように顔を上げる。
「鉄道じゃと!?」
そのような移動手段など、当時は存在していなかった。プレイヤーは浮遊大陸で、現地人は馬車か船がせいぜいの移動手段だったのだ。一体どれだけ技術革新すれば気が済むのかとミラは呆れながらも、くつくつと笑い出し、やがて興奮したように机を叩く。
「良いのぅ、良いのぅ。傑作じゃ! よもや鉄道まであるとはな。いや、空飛ぶ船があるのじゃから、当然といえば当然じゃな!」
「あらら、飛空船の事はもう知ってたんだ。驚かせるネタが一個減っちゃったか」
はしゃぐミラの事は気にも留めず、ソロモンは新技術の結晶である飛空船をミラが知っていた事に対して、残念そうに声を漏らす。
それから一通りはしゃぎ終えたミラは、詳細を求めてソロモンへと熱い視線を送る。ソロモンは一つ頷いて、その期待に答えるべく簡潔に説明した。
大陸鉄道もまた魔導工学による賜物で、初期に配備された路線は三神国を繋ぐ様に敷かれた。その管理や出入国に関する一切は独自の権限を三神国から与えられた駅街が統括し、そこは特領地として認定されている。今では利用者も多く、鉄道付近の町村は大いに栄えているという話だ。
「随分と馴染んでおるんじゃのぅ。ならば、次は鉄道でアリスに赴くとしよう……、っとそういえばじゃな。もう一つ目的地があったわい」
鉄道旅行を心に決めたミラは、偶然出会った手掛かりを思い出すと、アイテムボックスから地図を取り出し路線図の上に広げる。
「これは……、なんだい? 四季の森に目印がついているけど」
今度はソロモンが質問する番だった。大陸の中央、山脈がぶつかる場所に赤い印がつけられている。皆目見当のつかないソロモンは、早々にミラへと視線を向けた。
「前に、キメラクローゼンについて話したじゃろう。先日、丁度その者に会ったんじゃよ」
そう言うと、ミラは天魔迷宮から出た後の事を詳細に話した。森の中を尾行した事、湖の幼精霊に男が襲い掛かった事、それを防ぐ為に陰陽術士の男が現れた事。そしてその男はキメラクローゼンに対抗している組織であり、似た様な存在であるニャン丸の術士と関わりがあるかと思い同行した事。そしてその者達の隊長と話し、本拠地の場所を教えてもらったと説明する。
「お主に貰った勲章のお陰で、どうにか身の証を立てられたわい。その結果、本拠地を教えて貰えたという訳じゃ!」
からからと笑うミラに、ソロモンは多少驚いた表情で赤い印を見つめる。それは、早々に勲章を利用した事にではない。むしろ勲章がミラの役に立ったのは嬉しい事だ。ソロモンが驚いたのはミラの説明の中にあった対抗組織の名称の方である。
「その人達は、本当に五十鈴連盟と名乗ってたのかい?」
改めて問うソロモン。対してミラは、何やら眉間に皺を寄せて難しそうな表情を浮かべるソロモンに、
「そうじゃが、何じゃ、何かあるのか?」
そう問い返す。ソロモンは小さく頷くと机の引き出しから冊子を取り出し、更に地図の上に重ねる。その冊子の表紙には『精霊の棲める環境を守ろう』と書かれていた。
「環境を守ろう、か。環境保護のパンフレットか何かかのぅ。これがどうしたと言うんじゃ?」
ミラはその冊子を手に取ると、ぱらぱらと捲る。内容は正に、環境保護団体の慈善活動に関しての詳細と呼びかけ、そして義援金の送り先が書いてあるだけだ。
しかし、ミラはその送り先の名称に注目した。三神国にそれぞれの送り先として挙げられている環境保護団体名が、五十鈴連盟となっていたのだ。
「これは……どういう事じゃ?」
「見ての通りだよ。五十鈴連盟といえば、自然環境を守る為に発足して、大陸中に広く知られている慈善団体なんだ。活動自体もしっかりしていて、この前言った精霊がほとんど攫われたグリムダート北の森も、この五十鈴連盟の手で守られているよ。いつでも精霊が帰ってこれるようにってね。精霊が居なくなった事で淀んだ負溜まりを散らしたり、精霊樹を植えたりしているんだ。他の場所もそう。確かな実績と慈しみの精神、組織力を持ってる。特派員として、この街にも何人か居るはずだよ。
これが公に知られている五十鈴連盟の姿。君が見た事と聞いた事が真実なら、その色の偽名を語る者達は、この組織の裏の存在だという事だろうね」
「ふむ……まさかその様な一面があったとはのぅ」
この情報交換によりソロモンは五十鈴連盟の裏の顔を知り、ミラは表の顔を知る。そして納得する。いくら保護に努めても、禍根を断たなければ結局は精霊が戻らず環境は安定しない。ミラが森で出会ったメンバーは、その為の実行部隊だという事だ。
「正確に調べたわけじゃないから絶対とは言えないけど、君の話からするとそうである確率は高そうだね。でも考えてみれば確かに、こんな大規模に環境保護を目的として活動している組織なんだから、キメラクローゼンは最も忌むべき存在ではあるよね。となると、武力で対抗する部署があっても不思議はないかな。ただ、慈善団体じゃなくて武装組織となると警戒する国も出てくるだろうし。そこを考慮すると、良い隠れ蓑だと思うよ」
五十鈴連盟は、環境保護を前面に押し出して大陸全土に活動範囲を広げている。ソロモンの言うように、たとえ精霊に仇成すキメラクローゼンを見張り駆逐する大義名分を掲げていても、武装組織という形では今ほど広域には展開できなかっただろう。ミラも、それに同意すると冊子を閉じて机の上に放る。
「一体、どっちが本当の姿なんだろうね。精霊の棲める環境を守るのか、キメラクローゼンを殲滅したいのか。まあ君の話からして害は無さそうだし、むしろそういう事なら、もう少し義援金の額を上げてみるのも一興かな」
「ほぅ、送っておったのか」
「もちろんだよ。環境を守るという事は精霊を守る事。精霊といえば術士の友だからね。アルカイト王国として、何も協力しない訳にはいかないでしょ」
「確かに、そうじゃな」
術士の国として名高いアルカイト王国。打算的ではあるが、その良き隣人である精霊の棲みかを守ると謳う五十鈴連盟を支援するのは、内外的にも印象が良くなる事は間違いない。むしろ、かような国ならばこそ、支援しないという訳にもいかないだろう。だが、その裏の活動が知れた今、いつかキメラクローゼンを五十鈴連盟が滅ぼす可能性も見えてくる。そうなれば支援者にとっても何かと実りのある状況になるだろう。
ソロモンはそう計算すると、月の経費を調整しようかと考える。そしてそれには、もう一つの思惑もあった。ミラが勲章を見せたのなら、相手はその裏にいる人物に気付いただろう。秘匿していた五十鈴連盟の武装組織の存在が伝わる事も。その上で本拠地を明かした。ソロモンは、これをメッセージとして受け取る。そして協力の同意として義援金を引き上げる。後は、向こうからの接触を待てばいい。
また大きな土産を持って帰ってきたなと、ソロモンは内心で笑い、五十鈴連盟の本拠地が記された地図を見下ろす。
「四季の森にはそれこそ沢山の精霊が居るし、戦力があるならそこを拠点にする事で精霊も同時に護れる。移動手段さえ整えられれば、理に適っているといえるね」
「うむ、本拠地がなければ、どう考えても四季の森はキメラにとって絶好の狩場になったじゃろう」
四季の森は精霊達の楽園であり聖地でもある。多くの精霊が生息しているので、精霊を狙うキメラクローゼンにも楽園といえるだろう。だが、今そこには五十鈴連盟が拠点を構えており、おいそれと手が出せない状況を作り出していた。この事を考えれば交通手段に難があるとはいえ、最適と思える一手だろう。
そこでミラは考え込んだ。目的地は二ヵ所、どちらもアルカイト王国より北であるが、大陸の東に中央と、その距離は大きく離れている。天魔迷宮の様についでで寄る事は出来ない。
「ところで、お主は天上廃都と四季の森、どちらから済ませた方が良いと思う?」
ミラ自身としては、ワゴンが完成するまで四季の森は後回しにしようと考えていたが、試しにそう聞いてみるとソロモンは軽く椅子を一回転させて、
「んー、天上廃都からでいいんじゃないかな。木屑を回収した後も年代の特定には時間が掛かるだろうしね。その時間を使って四季の森でいいんじゃないかな」
そう笑顔で提案する。ミラは確かにそれならば待っているだけの時間も少ないだろう、と考えてからソロモンを睨み付ける。
「わしをどこまで扱き使う気じゃ?」
ソロモンの案は、つまるところ休息ともなる時間を削るという事である。ミラが気付いて詰め寄ると、ソロモンはわざとらしく口角を上げほくそ笑む。
「どちらにしろ、じっとしていられるタイプじゃないでしょ。鉄道旅行と考えれば、悪くないんじゃない? 各駅毎に色々な特色があるし楽しめると思うよ。それぞれの趣向を凝らした駅弁とか種類も豊富だしさ」
「うむ、まあそうか……それはまた、なんとものぅ」
そう言われてミラは、その情景を思い浮かべる。車窓から望む風景を眺めながら絶品の駅弁をつつく。それは確かに悪くないと、ミラの気持ちが盛り上がり始めた。
「いいじゃろう。今回は、お主の案に乗ってやるとしよう」
「この世界の広がりを実感するといいよ。ああ、それとカラナックのレオニールにもさっきの件は伝えておくね。謎の陰陽術士探しに協力してくれていたのもあるけど、調べれば調べる程それらしい情報が出てきて収拾がつかないって嘆いていてさ。随分とダミーが流されているみたいだね。まあ、諜報を専門としていない君に先を越されたと知れば、きっと後々に深い情報を仕入れてくれるかもしれないよね」
ソロモンは言いながら、見た目らしからぬ悪巧んだ表情で目を細める。偶然とはいえ、諜報に関して一つ抜けた自信のあるレオニールの知らない五十鈴連盟の裏の顔を、冒険者成り立ての年端もいかぬ少女が先に掴んだのだ。威信に掛けても大きな情報を探り出してくれる事だろうと考え、どう突付いてやろうかとソロモンは楽しげに微笑む。
「そういえば、この件はなるべく秘密じゃと言われておった。大丈夫かのぅ?」
「その辺りは安心していいよ。ここまで活動していながら表に出ていない情報なんだ。随分と厳重だったんだろうけど、君には本拠地の場所まで教えた。勲章を見せたのなら、僕に伝わる事は承知の上のはずだよ。それでも何かあったらそれは僕の責任。君は気にしなくていい」
「なんじゃ、あの勲章にはお主の署名でもしてあったのか?」
「まあ、僕が叙勲したって事くらいはね」
そう言ったソロモンは「大切にしてね」と続け背もたれに身を預け大きく仰ぐと、ミラは地図を回収してソファーに身を投げる。
「一先ず、これで報告会は終了かな。時間も時間だし、一緒に昼食でもどうだい?」
「ふむ、もうそんな時間じゃったか。まあ、持ってきておるから問題ないがのぅ」
机の上を片付けながらソロモンが言うと、ミラはアイテムボックスからドヤ顔でバスケットを取り出した。
勝ち誇ったように胸を反らし、自慢気に見せびらかしながらソファー前のテーブルにバスケットを置くミラ。その姿にソロモンは目を見開きバスケットを凝視する。
「それはもしかして……愛妻弁当かい!?」
「そうじゃ!」
少しだけ恥ずかしがりながらも、きっぱりと答える。それは出掛けにマリアナに渡されたバスケットだ。まるで挑発するかのようにソロモンを一瞥すると、ミラはそのバスケットを開いた。
「随分と手が込んでるねぇ」
その内容にソロモンが感嘆する。バスケットの中は、バランスはもちろん彩りも豊かで、食べる者への愛で溢れていた。
「いいじゃろう。やらんぞ」
ミラは早々に愛情独り占め宣言をすると、ソロモンは少し残念そうに肩を竦めて侍女を呼びつけ、昼食は執務室で摂ると指示を出した。
少しして侍女が食事を運んで来ると、二人は談笑を交えながらその一時を緩慢に過ごすのだった。
昼食も終え、国王ご用達の高級茶葉での一杯を満喫していると、ちらりと現在時刻を確認したソロモンが思い出したかのように、
「そういえば、シルバーサイドのアリス方面への発着時間は昼だけだったはず」
そう口にする。それから立ち上がり何かを探すように棚を漁り始めた。ミラはそんなソロモンの姿を何気なく眺めながら、腕輪のメニューを開く。表示された時刻は午後の二時半。丁度その昼頃だ。先程の路線図で確認した限りでは、今から出てもシルバーサイドに到着するのは夕方を越えるだろう。当然、間に合うわけが無い。
「なんじゃ、日に一回しか来んのか。田舎のようじゃな」
「これでも、随分と多くなったんだよ。鉄道が通ったばかりの頃は一週間に一本とかだったしね」
「ふーむ。まあ、元は無かったものじゃし、そういうものかのぅ。しかし昼というが、それは何時になるんじゃ?」
「んー、分かんない。大まかな時間だけで正確には決まってないんだ。っと、あったあった」
ミラの問いに答えながら、棚から冊子を引っ張り出したソロモンは、それをミラへと放り渡す。狙い違わず膝上に落ちた冊子を広げると、ミラはそれが何なのか確認するように頁を捲る。
「これは……時刻表か?」
「まあ、そんなとこだね。目安程度の発着表だよ。それで確認してごらん」
そう言われてミラはシルバーサイドの発着時間を調べる。幾つか捲って見つけた表には、右循環線、朝八時。左循環線、正午~昼三時と書かれていた。
「随分と大雑把じゃのぅ」
「流石にまだ一分一秒まで正確には運行できないみたいだね。それでも、やっぱり有ると無いとじゃ雲泥の差だよ」
「どちらにせよ、これから向かっても今日は乗れそうにないのぅ」
ミラはメニューと冊子を閉じると、残りの高級茶をぐいっと飲み干してソファーに横たわる。
「なら、明日の便に乗ればいいよ。これから出れば夜には向こうに着けるでしょ。そこで一泊すればいいんじゃない? 言った通り、駅街は宿が豊富に揃ってるから、快適な一夜を過ごせるんじゃないかな」
ソロモンは言いながら、仰向けになったミラの胸元に金貨三枚を置く。
「これが今回の軍資金ね。君の活躍に期待してるよ」
「……ふむ、まあ最低限には応えるとしようかのぅ」
わざとらしくウィンクするソロモンを一睨みすると、ミラは胸元を探って金貨を受け取りウエストポーチへと放り込んだ。
「では、ぼちぼち行くか。どうせ間に合わないのならば、宿の一泊をじっくりと堪能したいからのぅ」
ミラは、ソファーから身を起こし軽く服を整える。今日は駅街で一泊する事は決まった。だが、このままゆっくりしていれば、駅町に到着して直ぐ眠り、次の日には鉄道に乗る等という時間に追われたスケジュールになってしまう。ならば、早めに目的地に到着して、宿でゆっくりと羽を伸ばし料理を味わう。ミラはそんな旅情というものを満喫しようと心に決める。
「それがいいかもしれないね。ここからシルバーサイドまででも、結構あるし。宿は駅周辺に並んでいるはずだから、着いたら駅を目指すと良いよ」
「ふむ、分かった。では、またな」
「うん、またね」
ミラは扉を開くと背中を向けたまま軽く手を振る。ソロモンは閉まる扉を眺めながら椅子に座ると、多様な書類を並べ王としての仕事を再開するのだった。
一刻でも早く寛ごうと、ミラはそそくさとアルカイト城を後にする。城門前の広場でペガサスを召喚し、そのままシルバーサイド目指して飛び立つ。
今度の目的地は随分と遠い場所にある。次に戻ってくるのは一週間以上は先になるだろう。ミラは五行機構を見回しながら、見学はまた今度かと、小さくなっていく街並みを名残惜しそうに見つめていた。
ゆぅちゅうぶで見つけたマンチカンの動画が可愛すぎて……。




