593 真・女神
書籍版21巻が発売となりました!
21巻、凄い!
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是非ともよろしくお願いします!
五百九十三
三神と別れたミラ達は、ゲートを通ってアンドロメダの秘密基地にまで戻って来た。
「大収穫だったね!」
神域から帰るや否や安堵したような、それでいて嬉しそうに笑うアンドロメダ。実験のつもりで行ったが、結果としては大成功である。
神域でならば魔物を統べる神の骸を安全に、そして秘密裏に処理出来る事がわかった。これはとんでもない成果だと言う彼女の目には希望が宿っていた。
「うむ、こうなればもう一つも直ぐに持ってきて処理したいところじゃな」
「確か、三神教の中心地に保管されているんだっけ」
消滅させる事が出来るとわかった今、封印しておいたままにする必要などない。
アルカイト王国で発見された分については、紆余曲折あって今はロア・ロガスティア大聖堂にて管理されている。これについても準備が終わり次第に処置してしまうのが一番だと二人の意見も一致する。
「まずは三神国に赴き神器をチャージしてから大聖堂じゃな。問題は何事もなく渡してくれるかどうかじゃが……」
次の流れを整理していくミラとアンドロメダ。神器のチャージ自体も、ミラが頻繁に顔を出していたら色々と噂になってしまいそうだ。場合によっては、それが原因でよからぬ存在が何かを察してしまう恐れもある。
ゆえにその点については、リーズレインの力で強引に突破する予定だ。
神器をチャージする場所については、もう把握済みであるため直接転移してしまうのだ。ルール違反感は否めないもののリスクを考えれば、ミラの存在を把握する者は少ないに越した事はない。
だが、ロア・ロガスティア大聖堂にて厳重に封印されている『魔物を統べる神』の骸を持ち出す事は相当に難しいだろう。
「当然、それなりの交渉材料が必要だろうね。でも君なら、どうにかなるでしょ」
相手側を大いに納得させられる証拠を用意する必要があるとアンドロメダも頷く。とはいえ、既にある程度は揃っているといっても過言ではないとも続けた。
それこそ、精霊女王として赴き思う存分に精霊王の威を借りていけば話は通せるだろうと。
「ふむ、少々使い過ぎ感もあるが、それが一番かのぅ」
来るたびに精霊王の威光をちらつかせていたら若干煙たがられそうな気もするが状況も状況である。教会関係者であれば無下には出来まい。
どのような手段を用いようとも作戦が成功すれば、分割された六つの骸の内の二つを完全消滅させられる。
その優位性は、是が非でも得ておきたいところだ。
「ともあれ善は急げじゃな」
「そうだね。まずは皆に、この素晴らしい成果を届けないとだ」
きっとどうにかなる。大きな希望を胸に、ミラとアンドロメダは日之本委員会の研究所に戻った。
「あ、全然大丈夫そうですね。それで結果はどうでしたか?」
やはり気になっていたのだろう。ヴァレンティンは、ずっとゲート近くで待っていたようだ。駆け寄ってきた彼は、ミラの身体に問題がなさそうだと確認し安堵したところで直ぐ期待を顔に浮かべた。
「見事、大成功じゃったよ」
そんな彼の期待通り、ミラは堂々と胸を張って答える。
実験は大成功。この方法を利用すれば決戦時に敵を大幅に弱体化させられるだろうと、それはもう得意げに笑った。
「おお、やりましたね!」
対するヴァレンティンは、そんなミラの勇ましいまでの立ち居振る舞いから、未来への希望を感じ取ったのだろう。実に素晴らしい事だと大いに喜びの声を上げる。
と、次の瞬間だった──。
いったい、どうしたというのか。何が起きたというのか。それこそ唐突にミラの着ている衣が、破裂するかのように破れ飛んでしまったのだ。
「おおっと!?」
身体には、これといって影響はなかった。けれど突然の事とあってミラは驚き声を上げる。
「ちょっ、まっ……え!? いやいや、なんで!?」
そんな本人よりも驚いていたのはヴァレンティンだ。何といっても神域から戻ったままのミラは今、その衣のみしか着ていなかった。つまりそれが破れてしまった今、残るのは下着すら未着用の素っ裸になったミラだけである。
しかも突然の事とあってか咄嗟に視線を逸らすような余裕はなかった。そのため正面にいたヴァレンティンはミラの全てを余すところなくその目に収めてしまうに至る。それはもう何もかもだ。
だからこそ衝撃は強く、一気に彼の頭の処理能力を超えてしまっていた。もはや、どうしたらいいのかわからないと混乱一歩手前の状態に陥っている。
しかも、不幸とは重なるものだ。
「戻って来たー? どうだったー?」
ハンターの勘か、それともトラブルハンターの勘か。何かしらを察知したのか。この場にはいなかったハミィだが、そう遠くないところにいた彼女は、そんな言葉と共にやってきた。
そしてひょいと顔を覗かせたところで、その現場を目撃する事となる。
そう、素っ裸になったミラと、それを前に慌てるヴァレンティンをだ。
「……え? なになにどういう感じー!?」
経緯は不明だが、面白い場面である事は間違いない。そう確信したハミィは、不敵な笑みを浮かべながら駆け寄ってくる。
ただ今回は、ハミィだけでは済まなかった。それ以上の問題が彼女に続いていたのだ。
「おっふ……」
直後、そんな奇声を上げたのはハイドボーガだった。
先ほどまで、ハミィに色々なお願い事をしていたようだ。なかなかに際どい衣装ばかりを手にしている。
しかし今の彼が目にしているのは、衣装がどうのといった先の領域に存在している、もう一つの神域であった。
「……これが、女神か」
どんなお願い事も引き受けてくれるハミィに女神性を覚え始めていたところだったが、もはやそれを見せられてしまっては祈らずにはいられない。
ハイドボーガは、その神々しさを前に膝を屈すると女神へ感謝を捧げるが如く両手を合わせ、有難くその御姿を目と心に刻みつけていった。
「清楚華憐な少女の曲線。素晴らしい。だからこそ、よりセーラーが映えるというものだ」
ハミィのお世話になっていた者は、もう一人いたようだ。そう、オペミトランである。
ただ、少女の裸体そのものを神聖視するハイドボーガに比べると、彼の反応は少々違う。なぜならオペミトランにとっての一番は、セーラー服であるからだ。
とはいえセーラー服を最大限に活かすには、やはりそれを纏う素体のクオリティがあってこそ。という事で彼もまた、やはりセーラー服にとって理想的であると検めるようにミラの裸体を見据えていた。
「これは、どういう事じゃろうか……」
幾つもの視線に晒されたミラであったが、それよりも衣が突然破れた現象の方が気になっていた。千切れた衣の一部を拾い上げ、何がどうしたらこうなるのかと疑問を浮かべる。
「これは多分だけど圧の調整が間に合わなかった、とかじゃないかな」
ミラの疑問に一つの可能性を提示したのはアンドロメダだ。
「圧の調整……とな?」
いったいそれは、どういう意味なのか。振り向いてみればアンドロメダは既に衣の一部を手にしており、しかも状態の確認までも済ませたようだ。
そしてそこから読み解けた情報をもとに、一つの仮説を組み上げていた。
「そう。状態をみたところ、精霊の加護を通して精霊力を展開する事で神気を遮る防護層を作り出していたわけだよね。でもその切り替えというか、解除の方の反応がちょっと鈍いみたいだ。ちょっとした誤差で防護層が消えないようにしたのかな。ただその猶予が長過ぎたんだと思う。神域から出ても直ぐには切り替わらず防護層の圧を広げ続けた結果、衣の方が強度の限界を超えてしまった、という感じかな」
アンドロメダは布切れの一部から、そこまでの情報を読み取っていた。それらを踏まえた上で出した推察が、圧力調整の不備である。
「あー、なんかあれじゃな。水圧とかの神気版みたいな感じか。ふむ、なるほどのぅ」
神域から戻ってくるという事は、深海から一気に地上へ戻るのに似ている。
なんとなくではあるものの状態としては水圧に似たものだと把握したミラは、だから衣が破れてしまったのかと納得する。
『思えば、防ぐ事ばかりを徹底してしまっていたな』
『ごめんね、ミラさん。神域内での事しか考えていなかったわ!』
精霊王とマーテルもまた、状況を把握したようだ。そのような欠陥があったかと反省した様子である。
『いやいや、こちらこそすまんかった。そもそも神域を出たところで着替えておればよかっただけじゃからな。ちょいと実験が上手くいったからか浮かれてしまっておった』
破れはしたものの、神域を出てからここまでに時間はあった。十分に着替える事も出来たはずだ。
そうしていれば自然と防護層も消えていただろう。むしろ頑張って作ってくれた衣を駄目にしてしまったと、ミラは申し訳なく返す。
『なに、問題はない』
『ええ、もう次を作っていますからね』
そんなミラの気持ちを慰めるため、というわけでもなく精霊王とマーテルは張り切ったようにそう言った。
何でも先ほどまでミラが着ていたのは、プロトタイプのようなものだったらしい。どうやらここ、日之本委員会の技術者達に触発されてマーテル達の職人魂に火が点いたそうだ。次は、もっと完成度を上げてみせるとやる気満々だ。
しかも、いったい何がどうしてそうなったのか。精霊仲間に声を掛け、制作チームまで結成したらしい。
アナスタシアも含め、多くがマーテルの元に集結。プロトタイプとは比べ物にならないクオリティで仕上げてみせると息巻いている。
リーズレインが加わったお陰か、それとも加わってしまったせいか、精霊王とマーテルを取り巻く精霊達のフットワークは驚くほどに軽くなったようだ。
「──というわけで、もう次を作っておるらしい。二、三日ほどで仕上げてくれるそうじゃ」
「なんというか、凄い事になっているね。でも、それなら安心か」
ミラが神域に入る事が出来なければ、これ以上の成果は上げられない。だが次の準備が万全に進んでいるのなら問題はなさそうだ。アンドロメダは作戦を継続出来そうだと安堵する。
「いえいえ、そんな落ち着いている場合じゃないでしょう!」
衣が破れても問題ない。そう締めくくったミラ達に対し声を上げたのはヴァレンティンだった。
あまりにも衝撃的過ぎる光景に驚き停止してから、いかほどか。どうにか再起動した彼は、あっけらかんとしたままのミラに慌てて駆け寄りコートを被せた。
直後、背後からブーイングのような声が二人分届いたのだが、ヴァレンティンはそれを完全に無視するのだった。
巫女の衣は破れてしまったが、それはそれ。神域での実験成功こそが一番の成果だ。
「では、またよろしく頼む」
「ああ、それじゃあ行こうか」
まずは神器のチャージ。それから、所在の判明している魔物を統べる神の骸の回収だ。
そして今回は、世界を守る為の決戦準備のためという事でリーズレインの協力も全面的に得る事が出来た。神器のチャージについては三神国を巡るという工程を大幅に短縮可能になった。
なお今回の転移にアナスタシアは同行してこなかった。今は、ミラ用の新しい巫女服を作るのに忙しいようだ。
随分と率先して本気に取り組んでいるようで意外だと驚きつつも、有難いと感じるミラ。
ただ、それには裏があった。アナスタシアにとって今の作業は、今度自分用に作る巫女服の手慣らしのようなものなのだ。
リーズレインが似合うと言ってくれた服を最高の品質で仕上げるために技術を磨いているわけである。けれどミラ達がその真実に気づく事はなさそうだ。
まずは神器をチャージするために転移するわけだが、リーズレインに詳細な座標の説明は要らなかった。
印象深い場所などについては一通り記録しているらしい。よって前回ミラが訪れた際に、それらの場所も把握しておいたそうだ。
「おお、完璧じゃな!」
早速転移を頼んだところ、次の瞬間にはオズシュタインの教会地下──神器をチャージ出来る場所に到着していた。
「このくらい当然だよ」
異空間の始祖精霊にとって、この程度は息をするようなものらしい。文句なしの仕事ぶりをミラが絶賛するも、さも当たり前とすまし顔だ。
「流石じゃのぅ」
頼もしい限りである。どんと構える彼の姿に始祖精霊としての貫禄すら感じたミラは、その有難みを実感しながら神器のチャージを行った。
「うむ、ばっちりじゃな」
まずは勇気の神の力が神器に宿った。これで残りは二柱分だと、次の場所に向かうべく頼むためリーズレインの方へと歩み寄っていくミラ。
と、そんなところで、ふとリーズレインがミラの後ろを指さした。
「さあ、次に到着だ」
どういうわけか、既にこの場所はグリムダートの教会地下であると言ったのだ。
「いやいや、流石にじゃな……」
何をそんな馬鹿な事を。いくら異空間の始祖精霊といえど、一切全く気付かせないように転移するなど出来るものなのか。そう疑ってかかるものの、リーズレインは早くチャージしてきたらどうだといった顔のまま崩れない。
その自信ありありな態度から、もしかしたらと振り返って試してみるミラ。
「なん、じゃと……」
なんと次の分、正義の神の力がチャージされ始めたではないか。
つまり本当に、チャージを終えて戻ったあの時に転移が完了していたわけだ。
とんでもない転移技術である。そう改めてリーズレインを見やったところ彼は少しだけ得意げに微笑んでいた。
という事でして……
予定していた通り始まりました!
そう、シャトレーゼ祭りです!!!
ただ今回は、商品ラインアップの確認も兼ねてのお祭りになりますので、前回よりは小規模となっております。
とはいえ、一日二日どころか一週間か、ギリギリ二週間くらいまでは楽しめるほどの量を買ってきました!
そして当然、どら焼きもばっちりです!
バターどら焼き、和栗どら焼き、大納言どら焼きの三種です!
ドラえもん映画を観ながらのどら焼き、至福の時間でしたね。
そして他にも色々あります!
これから暫く楽しみが続く喜び。ビバ、シャトレーゼ!




