表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
593/648

592 神器解放

五百九十二



 気になる事は多々あれど、まず初めにミラが三神に問うたのは、魔物を統べる神についてだ。

 それはいったいどういった存在なのか。精霊王から当時の戦いについて聞いているが、それ以上の情報はあるかどうか。強大な敵だからこそ、少しでも多く知っておきたいと望む。

 三神は、そんなミラの問いかけに対して、一冊の古めかしい本を示しながら答えた。


「あれは当時の魔物を統べる神との大戦後、ようやく落ち着いた頃だ。創造神より、この預言書が届けられた──」


 正義の神が言うには、遠い未来に迫る決戦とそのための備えについての全てが預言書に記してあったそうだ。

 そしてそこには来たるべき厄災──つまり魔物を統べる神についても、多くの情報が記載されていた。


「この預言書に書かれている通りならば、かの者は、全ての世界を喰らい尽くす者であるようだ」


 かの者の正体までは、預言書にも記されてはいなかった。けれど、現れた目的などについての詳細は判明しているという。

 魔物を統べる神の目的。それは、魔物達を従えるだけではない。世界を征服するというものでもない。むしろそこには、私利私欲の一切が存在していない。

 望むのは、ただ一つ。滅びのみであると、正義の神は語った。


「神……。預言書? 世界を喰らい尽くす者……」


 それは明確な答えというわけではなかった。何かが欲しいわけではなく、ただ滅びだけを求める存在などと言われても、それに該当する例でもなければ追求のしようもない。

 とはいえ三神にとっても魔物を統べる神とは何者なのかについては、それで全てのようだ。


「ただ、創造神は更に何かを知っている様子でしたね」


 正体というには遠い。そんなミラの心の内を察してか、慈愛の女神がそのような言葉を付け加えた。あくまでも印象だそうだが、魔物を統べる神が襲来する事まで予見していた節があるらしい。

 だからこそ、あれが何者なのかも知っているのではないかと、そう思ったそうだ。


(創造神……この世界を創った神という事じゃろうか? そういえば、確か前にも──)


 正義の神、そして慈愛の女神が口にした、創造神という存在。それについてはミラも聞き覚えがあった。

 以前にアンドロメダと話していた時だ。三神が、この世界に顕現するより前の時代。混沌の世界に秩序をもたらした太古の神々がいた時代。

 その神々をも創り出した『神様』がいたという。きっと、その存在こそが創造神なのだろう。簡単にいうならば、一番上の神様というわけだ。

 今は遥か次元の彼方に帰ってしまったというが、ミラは一つ予想を立てていた。もしかしたらその神様こそが『運営』なのではないかと。

 運営といえば、アーク・アース オンラインという世界がこうなった今、全ての秘密を握っているといっても過言ではない存在である。


「ところで、それには他にどんな事が書かれておるのじゃろうか」


 そんな創造神が記したという預言書だ。もしかするとそこには、ゲームが現実になった事も含め、他にも多くの秘密が記されているのではないか。そう考えたミラは、次にどんな事が書いてあるのかと、その内容について問うた。


「ふむ、これにあるのは──」


 預言書の内容について、正義の神は包み隠す事無く答えてくれた。

 いわく、預言書には、魔物を統べる神との決戦についてのみしか言及されていなかったという。

 つまり、他に気になる事については一切触れられていないわけだ。ただそれゆえに、決戦に関係する事柄については多くの詳細が明らかとなった。

 その中で最もミラが興味を抱いたのは、神器に関係する部分だ。

 魔物を統べる神を倒すためだけに作られたという専用の神器。預言書には、それを使うための方法のみならず使い手についても言及されていた。

 それによると神器を使うには、複数の特殊な条件が必要だそうだ。

 そしてその条件として特徴的だったのが、『星の力を秘めた者』という記述だった。


「星の力? とはなんじゃろうか。そのようなものを得た覚えがないのじゃが……」


 それはいったいどういった意味なのか。初めて聞く言葉とあって、それを自分が持っているかもわからないと困惑するミラ。


「覚えはなくとも間違いなく持ってはいる。その神器こそが何よりの証拠だ」


 不安を抱いたミラであったが、正義の神が言うに、そもそも神器を手にしている時点で条件は全てクリア出来ているとの事だった。

 星の力。それがどういった力なのかは、明言されていない。だがミラはそれを確実に持っているため気にする必要もないそうだ。


(何ともよくわからんが……つまりはあれじゃな。勇者の力的な何かじゃな!)


 きっと選ばれし者のみが秘めているという凄い何かなのだろう。ミラはそんな特別感を覚えながらも同時に生まれた重圧に緊張を浮かべる。

 ミラが手にする神器は、創造神が残していったもの。魔物を統べる神の魔の手から、世界を破滅より救うための力だ。

 もはや何度目になるかわからない責任感が、その背に圧し掛かってくる。

 世界の命運を背負うという重圧。幾度となく勇者という存在に憧れた事だが、皆このような気持ちだったのだろうかと実感するミラは、だからこそ余計に覚悟が決まったと笑った。





「ところで、その神がこの世界を創った理由とは何なのじゃろうか──」


 次にミラがした質問は、全ての根幹といってもいいものだった。

 ずっと未来の事までを預言していた創造神。これが想像通りに運営(・・)で間違いなかったとしたら、何を目的としてこのような世界を創ったというのか。

 ゲームの世界だったはずが、まさか現実になっていた世界。その時点でもはや奇跡的だが、これを意図的に行っていたとしたら、運営とは何者だったのか。それこそ本当に、創造神だとでもいうのか。

 ある意味、全ての謎の大本ともいえる部分だ。だからこそミラの質問には、そういった事情の全ても含まれていた。


「それは、我らの想像も及ばぬものだ」


「神のみぞ知る、というあれだな」


「明確な答えは持ち合わせていないの。ごめんなさいね」


 それが三神からの言葉だった。

 三神にとっては、この世界こそが全て。ゆえにミラが話す現実だゲームだ云々についても含め、それらは全てが管轄外。よって認識の及ばぬ範囲であり、現状は計りかねるとの事だ。


(つまり三神クラスですら、わしらのような元プレイヤーについては把握しておらんというわけか)


 随分と厳しい情報管理がなされているようだ。それならばやはり全てを知っているのは、創造神という存在のみであろう。

 そして状況から推察するに、少なくとも目的はこの世界を救う事で間違いはなさそうだ。

 つまり望み通りに魔物を統べる神を倒す事が出来れば、その目的を達成したならば、もしかすると再び現れる事もあるのではないか。そうしたら色々と聞けるチャンスもありそうだ。

 いったいこの世界は何なのか。まだまだ謎が残るが、それはそれ。今はとにかく、この世界を存続させるために頑張るしかない。

 そう考えたミラは、ここで三神への質問を切り上げて、やるべき事をやろうと気合を入れるのだった。





「こんな感じか」


「これでどうだろう」


「では、こうしましょう」


 明確な答えが得られたかどうかは半々だが、聞ける事を聞き終えたミラは今、ここにきた目的を果たそうとしていた。

 魔物を統べる神の骸の一部を、このまま消滅させる事が出来るかどうかを確かめるのだ。

 そのため三神と共にアンドロメダと合流した後、様々な準備を整えて、いざ本番に挑もうという時だ。


「いや、この状態はどうなのじゃろうか……」


「まあそれなら、何があっても護られそうだね」


 三神が用意してくれた台の上に骸を置き、それに向けて神器を構えるミラ。そんなミラに測定装置を取り付けていくアンドロメダ。

 三神にサポートしてもらう事で、安全装置を起動せずに神器の反動を抑えようという試みなのだが、ミラはこの時点で少々戸惑っていた。

 三神によるサポート。それは、何か凄い魔法か奇跡のような何かが全身に巡り、凄い超常的パワーで支えられる──というような感じになると勝手にイメージしていたわけだが実際は違った。

 左に勇気の神、右に慈愛の女神、そして背に正義の神が立ち、がっしりとミラの身体を物理的に支えているという状態なのだ。

 三神に囲まれるのみならず満員電車かというくらいに密着し、胸や腰、脚に至るまで三神の腕でがっしりと固定されている。何なら現行犯で取り押さえられた犯人の如き様相だ。


「さあ、いつでもいいぞ」


「やってくれ」


「大丈夫、任せて」


 これで完璧だと自信満々な三神。だがミラにとっては、ひたすらに動き辛いだけだった。

 とはいえ、相手は三神だ。色々と言いたい事もあるが、そこをぐっと呑み込んだミラは、もぞもぞと腕を動かして神器を振り上げた。


(ちょっと不安しかないのじゃが……もうなるようになるしかならんじゃろう)


 このようなサポートで、本当に神器の反動を抑える事が出来るのか。無事に帰る事が出来るのか。様々な不安が脳裏を過っていくが、ここまできたら引き返しようもない。

 遠くまで離れたアンドロメダが測定準備完了の合図を出すと、ミラはそれに頷き応えて骸を真っすぐに見据えた。


「ゆくぞ!」


 世界を救うため、愛する者を守るため、選ばれし勇者として。他にも渦巻く万感の想いを込めながら、ミラは神器を振り下ろした。

 その直後だ。神器に秘められた力が解き放たれる。するとどうだ、これまで静かに安定していたそれは、それこそ荒れ狂う嵐へと変じて空間を埋め尽くした。

 目も眩むほどの光の奔流。空を引き裂くような轟音。そして骨ごと押し潰されてしまいそうになるほどの強烈な圧力と衝撃。

 それは、死を直視するかのような光景と体感だった。もはや一寸先は人知の及ばぬ空間──ただ一つの事を成し遂げるための斎場と化していった。

 その光に呑み込まれたとしたら、存在どころか意味すらも消滅してしまうだろう。理解の及ばぬそれを前にしながら、不思議と結果は理解出来てしまう。

 これが三神の力というものか。あまりにも次元の違う事象を目の当たりにしたミラは、こんな力を秘めた神器を手にしていたのかと、今更ながらに震えあがる。


「……おお、そういえば何ともないのぅ」


 そして同時に気づいた。漠然としかわかっていなかった神器の反動が、どれほどとんでもないものだったのかと。そして、この距離では自分も消滅してしまいそうだが、そうはなっていない事にもだ。


「問題なしだ」


「いい感じだったな」


「神器も問題なさそうね」


 空間の半分を埋め尽くす崩壊の渦。三神はその様子を満足そうに観察していた。

 体勢はどうであれミラへのサポートについては、確かにこれで万全だったようだ。こんなとんでもない神器を使ったにもかかわらず、ミラの身体には一切の影響もない。

 それもこれも全ては、三神が防いでくれたからだ。


「──おお、もはや綺麗さっぱりといった感じじゃが、上手くいったのじゃろうか」


 消却の嵐が治まったところで、ミラはその中心部を確認した。目に見えるのは、ただ何もない空間だけ。先ほどまではそこに、『魔物を統べる神』の骸があったのだが、それは今、欠片一つすら見当たらない状態だ。


「さっきまであった気配は……しないな」


 一足先に駈け寄っていった勇気の神は、その近辺をじっくりと見据えてから満足そうに笑った。


「こっちでも完全消滅が確認出来たよ!」


 続き、各種測定装置を睨んでいたアンドロメダもまた、快活な笑みを浮かべながらそう告げる。

 魔物を統べる神の復活を目論む悪魔達に、こちらの手の内を知られる事なく、骸の一部を完全に消滅させて対象の力を削ぎ落す。今回はそのための実験だったわけだが、予想以上に上手くいったようだ。

 更にアンドロメダは、素晴らしいデータもとれたと続ける。神器や制御装置の調整に役立ちそうだという。これを活かせば神器の反動を、より効率的に防げるようになるとの事だ。


「ふむ、大成功じゃな!」


 魔物を統べる神との決戦では、今のような三神のサポート無しで神器を使う事になる。その真の力を目の当たりにした今、アンドロメダの言葉は、とても心強いものだった。






 実験は成功。神域でやるべき事は終えたため、これから今後の準備と帰り支度を始めようという際の事。


「ふーむ、また一から回らねばならんのか」


「すまないな」


 ミラは正義の神と神器のチャージについて話していた。

 ミラは、気軽に考えていたのだ。ここに三神が揃っているのだから、神器はこの場で直ぐにチャージ出来るものだと。

 よって今回、神器のチャージ分を使い切ってしまったが、次にまた骸の一部を持って来た時にチャージして使えばいいと思っていた。

 だが三神が言うに、それが難しいそうである。

 何でも三神国に設置してある部屋は、神器のチャージを極めて緻密に制御するための機能も備えているという。

 ただ単純に三神の力を充填すればいいというわけではなく、それこそ神がかり的なバランスで制御しなくてはいけなかった。

 そしてその制御というのが部屋の制御機能なしでは不可能な領域らしい。早い話が、神器のチャージには専用のアダプターが必要というわけだ。


「まあ、仕方がないのぅ」


 神器チャージのたびに三神国を訪問する事になりそうだ。

 とはいえ、この件に関していえば世界のためでもある。よって事情を話せばリーズレインの力も借りられるだろう。またアナスタシアも、きっと納得してくれるはずだ。

 転移という奇跡を思い切り堪能するチャンスだ。


「ところで、もう一人、試練を突破した者がいたよね──」


 あれこれと準備も整い、さて地上に戻ろうかという前に、ふと勇気の神がそんな事を言い出した。

 いわく、神器所有者の内の一人であるミラをその目で見て、もう一人の方──ソウルハウルもどんな人物か興味が湧いたそうだ。

 そしてそれは、勇気の神だけではなかった。


「──というわけで、その彼にこれを渡してくれる?」


 そんな言葉と共に、糸を張った輪のようなもの──ドリームキャッチャーに似たそれを慈愛の女神から手渡された。

 精霊王の加護を持たぬ彼では、ミラが着ている特別製の衣は使えず神域まで来る事が出来ない。だがこの輪があれば、夢枕に降臨する事が出来るというのだ。

 つまり、ソウルハウルの夢に三神が揃って現れるなんて事になるわけだ。


「しかと届けさせていただこう!」


 本物の三神が夢の中に降臨する。敬虔な三神教信者にとってみれば、これはもはや価値も付けられないほどの神器になる代物だ。

 だがそれを受け取ったミラは、その目に僅かな悪戯心を浮かべていた。突如として三神が夢の中に現れたとしたら、ソウルハウルはどんな反応を示すだろうかと、そればかりに興味がわいたからだ。

 だからこそミラは、帰ったら直ぐに届けようと力強く約束するのだった。











まだまだ暑い日が続いていますが、

秋です!


だからでしょうか、いよいよ鍋の素が並ぶようになってきましたね!

という事で早速、プチッと鍋の豆乳ごまを確保しました。


そして鍋には欠かせない白菜!

常に天気だなんだの影響を受ける野菜ゆえむらっけのある白菜ですが、


今回はまあまあ、いいかなくらいの感じでした。

ものによっては、ごくまれに中の方が茶色くなっていたりするのが怖いところ。


野菜のカットサービスとかあったら、こういう時も安心なんだろうなぁ……なんて思いながらそんなサービスが始まらないかと期待する日々。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あれ、ミラさん 三神様達に頼めば化粧箱入手可なのでは?? 抜けてるのか 骸討伐後の報酬にするつもりなのか 作者が戻すつもりがあるかないかによるけどね
むむ、まだこの世界とは? はヒントすら無しか。
どうせならアストラの十界陣についても聞けばよかったのに、ここまで来たら自力で解明したいとかそういうのなんかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ